K
いつまで経ってもがん1年生
「29年生きてきて、色んな事があったなぁ…。でもやっとここからスタートライン。」
そんな風に背筋を伸ばして空を見上げた2012年初旬。これから生きていく決意に心震えながら目に焼き付けた空の突き抜けるような青さは、一生忘れられない光景になった。
その日、わたしはがん患者になったのだ。
無知な私は、家族を呼んで本人に病気を知らせるか知らせないか…という、ドラマのような世界しか知らなかった。それが、一人で単刀直入にがんを告げられたのだ。
頭が真っ白になる…なんてことはなく、急に全てが強く色彩を帯びて、あれこれ考えてみたものの、自分の置かれている状況が全く信じられなかった。
がんという病気への知識はゼロ。病気を告げた女医さんが私より先に涙ぐんでいることで、嘘じゃないことだけは分かった。20代でがんになって生死と隣り合わせになること自体があまりにも想定外。ショックは現実のものになって大波のように心に押し寄せてきたけれど、知識がなさすぎて動けず、そんな私の代わりに、先輩や家族が病院の情報を集めてくれたりした。
本当に感謝の気持ちでいっぱいで、前を向きたい気持ちはあったけれど、気付けば心は分厚い殻に閉じこもってしまっていた。ある日突然、日常生活から切り離され、自分一人では動けなくなって、世界はこんなにも狭くなってしまったのかとベッドの枠を握りしめて涙した。
病院では同世代の患者さんに出逢えない。年配のお子さんのいらっしゃる方々に「若いんだから大丈夫よ~」と励ましていただいても、余計辛くなってしまう。
分からない事も困っている事も山程あるのに、痛みの伝え方さえ分からずに我慢をしてしまった。心まで病気になってしまった。仕事、恋愛、結婚、身体と心の事、家族との付き合い方…治療だけにとどまらず、日常生活に戻っていく中で次から次に突き当たる壁を前に、4年半経った今も試行錯誤している。トンネルの先に光を求めて。