小尾佳嗣, MD, PhD, FJIM, FASN小尾クリニック 顧問
私は卒後16年目の腎臓内科専門医ですが、2014年から2018年の間カリフォルニア大学アーバイン校で様々な臨床研究や疫学研究を経験し、そこから論文やデータからは見えないアメリカでの実臨床に興味を持つようになりました。こればかりは自分の肌で触れないと分からないと感じたため、不惑の年を迎えながらアメリカで臨床医になる決意をして準備をしていたところ、ACP日本支部を通じてフロリダ大学腎臓内科で3週間のエクスターンシップの機会をいただきました。非常に多くのことを学びましたが、その中で特に印象に残っている経験を簡単に共有させていただきます。
写真1:South towerから望むNorth tower
フロリダ大学Shands病院単独で800を超える病床数があり、退役軍人病院も含めると4つの建物にまたがって診療が行われています。腎臓内科ではICUおよび一般病棟担当、救急と慢性期病棟担当、腎移植担当といったように複数のチームに分かれていて、Fellow達は定期的に各チームをローテートしていました。Shands病院では内科で入院となった患者の受け持ちはホスピタリストであり、腎臓内科は彼らや外科からのコンサルトを受け、治療方針に関して助言をしたり透析を行ったりするというのが主な業務内容です。合併症で入院した維持透析患者の血液透析や、入院患者のAKIや電解質異常を主に担当していて、フェロー達は朝のうちに担当患者を診察して方針を決め、Attendingと合流して一緒に電子カルテを見ながらプレゼンをした後で回診に移るというスタイルや診療内容は、日本で行われていることとあまり変わりません。
日本との大きな違いのひとつは、患者さんの社会的背景です。比較的若年でアルコール性肝硬変から肝腎症候群を発症している症例や、違法な静注麻薬の使用から感染性心内膜炎を来たし二次的にAKIを合併している症例が多く、また ERには金曜日の透析を種々の理由でスキップされ、溢水で運ばれて来る方も少なくありませんでした。また、長年オーランドの救急で定期的に透析を受けていた保険のない不法移民の方が、車を数時間運転して飛び込みでやってきて、ここで腎移植を受けさせてほしいと訴えてきたこともありました。確かにカリフォルニアやイリノイなどアメリカの一部の州では、こういった不法移民の患者にも腎移植を実施しているプログラムがあります(腎移植の方が透析よりコストが低いため)。しかし他の多くの病院と同様、Shands病院でもCKDや心不全など慢性疾患を抱えた保険のない不法移民患者へ十分なケアを提供するのは困難な状況でした。このように多様な社会的背景を持った患者さんを見ましたが、時に対応が難しい状況に対しても、Attendingはプロフェッショナリズムを保ちながら、常に患者さんに寄り添いつつ、個人として心から尊重して接していたのが非常に印象的でした。
写真2:Dr. Tantravahi(上)とDr. Ali(下)
実は、このExternshipを始める直前にECFMG certificateを取得し、いよいよアメリカで臨床医と働く準備ができたばかりでした。そのような中、自分が実際にフェローとして働く前に実際の現場をフロリダ大学Shands病院で垣間見る機会を得ることができたのは大変貴重な経験でした。学習機会に対する私の求めに柔軟に対応しつつ、様々なDiscussionを通じてアメリカの医療を教えていただいたAttendingのDr. TantravahiとDr. Ali、見ず知らずの日本人を快く受け入れていただいた腎臓内科のチーフであるDr. Mark Segal、およびKaylaを含めたスタッフの皆様、このような特別な場を提供していただき、現地での生活をサポートしてくださったDr. Gerald Steinに心より感謝申し上げます。ACP日本支部の会員であったからこそ得ることが出来た今回の経験を糧に、今後もアメリカでPhysician-Scientistになるという目標へ向けて邁進してまいります。