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胎児骨系統疾患各論

5. 胎児骨系統疾患各論

前章で示したように胎児超音波所見を系統的にみていくことによってある程度の疑診をつけることができるが,確定診断のためには個々の疾患がもつ特徴的所見が当てはまるかどうかをチェックしていく必要がある.骨系統疾患のそれぞれを頻度の高い順に取り上げて以下に検討する.

 

 (1)タナトフォリック骨異形成症(Thanatophoric dysplasia; TD)

出生時に鑑別可能な骨系統疾患としてはもっとも一般的なもので,6,000から17,000分娩に1例の頻度とされている.生命予後は不良であり,ほとんどの場合呼吸不全によって生後数時間で死亡するが,最近は数週間から数ヶ月間の生存例が報告されている.著明な四肢短縮,体幹に比べて大きな頭部,狭く小さい胸部と膨満した腹部などの外見を有する(図12A).四肢は常に伸展位をとり,いわゆる「あやつり人形」型の肢位をとる.四肢の過剰な皮膚による皺壁が特徴的である.

成長因子受容体であるFGFR3(fibroblast growth factor receptor 3)遺伝子のヘテロ接合変異が原因の疾患群である.親の性腺モザイクによる例外例を除けば,殆ど全ての例が突然変異で発症しその代で終息するため次回妊娠影響することはない.FGFR3の機能亢進は軟骨内骨化を強く抑制する一方で,膜内骨化は正常に保たれるため,軟骨内骨化で成長する部分が障害される.X線所見として長管骨の短縮と彎曲,骨幹端の盃状変形metaphyseal cupping,腸骨低形成を認める.椎骨は扁平化し,逆U字またはH字状を示す.大腿骨の所見は重要な鑑別点で,「受話器」様変形と呼ばれる(図12B).

出生前の超音波所見では,大腿骨長,上腕骨長humerus lengthともに著明な短縮を認めるが,児頭大横径biparietal diameter(以下BPD)は胎齢に比べ逆に大きめである.大腿骨の「受話器」様変形はX線像では診断的な所見であるが,超音波上ではいつも観察可能であるとは限らない(図12C).X線像は必ず大腿骨の正面像を撮るので内側に彎曲した変形像が映し出されるが,超音波診では大腿骨のどの部分にビームが入射されるかによって描出像が変わってくる.骨はその表面の輪郭像だけが描出されるため,大腿骨をいろいろな方向から描出して注意深く彎曲を確かめる必要がある.超音波診によりTDを診断するためには長管骨の変形だけでなく,頭部,顔貌,胸郭と腹部の比,四肢の位置などの所見を捉え,TDの特徴を備えているか総合的に判断する必要がある.

その中では特にクローバー様頭蓋と皮膚の皺壁の所見が特徴的である.クローバー様頭蓋は頭蓋縫合の早期閉鎖により側頭部が膨隆するために生じる.著明なクローバー様の変形を認める場合をII型と定義するが,ていねいに観察するとI型でも軽度に変形していることが多い.四肢の皮膚の皺壁は骨の短縮と過剰な皮膚の発達により生じるもので,超音波でもその所見は捉えやすい(図12D).羊水過多はほぼ必発であるが,発育遅延はあまり認めない.

図12. Thanatophoric dysplasia(タナトフォリック骨異形成症). A: 妊娠31週,1692g男児.四肢短縮と大きな頭蓋,前額部突出,鞍鼻,ちいさな胸郭,膨隆した腹部などを示す. B: 全身X線像.頭蓋冠はおおきく,椎骨は扁平化し,逆U字またはH字状にみえる.長管骨は短縮し,いちじるしく彎曲しているため,大腿骨は正面像で「受話器」様変形の特徴的所見を認める. C: 胎児超音波像.大腿骨の著明な短縮と彎曲,骨幹端の拡大を認め,「受話器」様変形を示す. D: 両下肢の輪郭.特徴的な「あやつり人形」型の肢位と皮膚の皺壁を認める.つまさきが外側を向いている

 

 (2)軟骨無形成症(Achondroplasia; ACH)

1万人に1人程度で発症し,予後良好な四肢短縮型小人症の代表的疾患である.前述のTDと同じFGFR3遺伝子の異常によって発症し,常染色体優性の遺伝形式をとる.ACH罹患者同士からの児は1/4の確率でホモ接合のhomozygous achondroplasiaとなり,TDによく似た表現型をとって生命予後は不良である.

頭蓋が大きく,前頭部が突出し鼻根部が陥凹した特徴的な顔貌を示し,四肢,特に近位肢節の短縮が認められる.ただし出生時にこれらの特徴が見逃され,乳児検診時に初めてACHを指摘されることも多い.X線像では四肢の管状骨は太くて短く骨幹端のcuppingは著しい(図13A).診断的所見は大腿骨頚部のU字型の透亮像で,これは転子部のcuppingを正面からみたものである.腸骨翼は低形成により方形となる.

ACHの超音波診では,四肢の短縮は早ければ妊娠21週頃から,遅くても妊娠27週までには短縮を認めるようになる21.近位長管骨優位の短縮rhizomelic shorteningを認めるが,骨化は正常で骨折,彎曲などを認めない(図13B).頭囲はやや拡大するが,胸郭低形成は明らかでなく,羊水量には異常はない.四肢の短縮のほかに超音波検査で目立つ所見があまりなく、またACHの80-90%が突然変異による発症とされるため,胎児期には発症が見逃されていることも多いと考えられる.超音波で認めた三尖手trident handが診断の手がかりになったという報告がある(25).

図13. Achondroplasia(軟骨無形成症). A: 妊娠37週,2384g男児の全身X線像.四肢の管状骨は太く,多少彎曲する.骨幹端のcuppingが著しい.大腿骨近位に楕円形の透亮像を認めるが,これは転子部のcuppingを正面からみたもので,achondroplasiaの診断的所見である.腸骨翼は低形成により方形となる. B: 近位長管骨優位の短縮を認めるが,骨化は正常で骨折,彎曲などを認めない. C: 頭囲はやや拡大する.

 

 (3)軟骨無発生症(Achondrogenesis; ACG)

強度に短縮した四肢と,不均衡に大きな頭部,短い頚部と体幹,腹部膨満などの特徴的な外見を呈する(図14A(26), 図15A).X線所見では,椎体,坐骨,恥骨の骨化欠如を認める.胸郭は樽状で肋骨は水平に走り,その前方端は拡大する.四肢は著しく短縮し,骨幹端部は鋸歯状に変形する.肋骨骨折を伴う場合もある.ACGの分類には変遷があるが,現在では腸骨,長管骨の変形が強度なtype I(図14B)と,変形が中等度のtype II(図15B)に分けられる.いずれもまれな疾患で,両方をあわせても75,000分娩に1例程度とされる.骨系統疾患の中で最も不良であり,すべてが死産ないしは出生直後に死亡する.遺伝形式からみるとIAは常染色体劣性と考えられており,IBは常染色体劣性,IIは常染色体優性と考えられている.

超音波診断では極端に短い四肢を認め,場合により大腿骨をほとんど描出できないこともある(図14C).頭部は極端に大きく,頭蓋骨は軽度の骨化不全を示す.脊椎や腸骨の描出も不良である.著明な発育遅延と羊水過多を示し,胎児水腫となっていることも多い.超音波診上ACG IIと TDとの鑑別に迷うときがあるが,椎体の骨化の有無と下肢の肢位に違いがある.ACG IIでは下腿から下の発達が悪く,つま先が内側を向いて位置している(図15C)のに対し,TDの肢位はあやつり人形様と表現され,つま先は通常のように外側を向いている(図12D).

図14.Achondrogenesis type IB(軟骨無発生症IB型). A: 妊娠34週,1220g男児.死産直後の全身写真.強度に短縮した四肢と不均衡に大きな頭部,短い頚部と体幹,腹部膨満などの特徴的な外見を呈する. B: 全身X線写真.大きな頭蓋と,長幹骨の著しい短縮と変形を認める.椎体の骨化はわずかである.胸郭は樽状で肋骨は水平に走り,その前方端は拡大する. C: 大腿骨は超音波での同定に苦労するほど極端に短縮,変形している

図15.Achondrogenesis type II(軟骨無発生症II型). A: 妊娠22週,466g女児.身体所見はI型と似るが,四肢短縮はやや軽い傾向がある.TDと同じように四肢は伸展しているが,つま先が内側を向いている. B: 全身X線像.長管骨の短縮と,骨幹端の盃状変形と末広がりが著しい.大きな頭蓋骨,椎体の骨化欠如を認め,胸郭は樽状で水平に走る肋骨所見などはI型と共通する. C: II型はTDとの鑑別が難しいことがあるが,両下肢の形に注目すると明らかであり,下腿から下の発達が悪くつま先が内側を向いて位置している

 

 (4)骨形成不全症II型,III型(Osteogenesis imperfecta; OI) type II, type III

易骨折性,青色強膜,難聴を三主徴とする全身結合織の遺伝性疾患群を骨形成不全症という.臨床症状によりいくつかのタイプに分類されるが,胎児期に発症し出生時にすでに多発骨折と変形を認めるII型はもっとも症状が重い.新生児期から乳児期にかけて死亡することが多く周産期管理には特に留意が必要となる.III型は子宮内での多発性骨折と膜様頭蓋を示しII型に類似することがあるが,形態は長管骨の形を留めておりやや軽症といえる.しかし生後も骨折を繰り返すことによって重度の四肢変形を示すようになる.本項ではII型とIII型をまとめて解説し,次項においてI型とIV型を取り上げることにする.

II型とIII型を合わせると25,000分娩に1例の割合で発症する.骨,軟部組織基質の主要成分であるI型コラーゲン遺伝子(COL1A1, COL1A2)の変異によるとされてきた.ほとんどは常染色体優性遺伝であるが,性腺モザイクによる同胞再発が7%程度にあると従来されてきた.最近,1型コラーゲン分子のアミノ酸残基の水酸化に関わる新たなOIの原因遺伝子が2つ(CRTAP27, Prolyl 3-hydroxylase 128)報告され,常染色体劣性遺伝のOIがあることが証明された.

子宮内多発骨折による著しい四肢の変形とベル型の胸郭低形成を認める(図16A).頭蓋骨は骨化不全のため軟らかく,青色強膜をしばしば伴う.X線所見では,四肢,肋骨などの長幹骨に多発性の骨折があり,リボン様,アコーディオン様と呼ばれる変形,短縮を認める(図16B).超音波所見では,大腿骨,上腕骨に明瞭に認められる骨折,屈曲,短縮,二次的な肥厚などが特徴的である(図16C).頭蓋骨は骨化不良のため膜様で軟らかく,超音波探触子の圧迫により容易に変形するのが見てとれる(図16D).肋骨の多発骨折と変形により胸郭はベル状に変形する.軽度の子宮内発育遅延を認めるが,羊水過多は一般に来さない.

図16.Osteogenesis imperfecta type II (骨形成不全症II型). A: 妊娠37週,2364g男児.四肢に短縮,変形が認められる.右上腕骨に出生直後の骨折があった. B: 全身X線像.無数の子宮内骨折のために四肢長管骨がアコーディオン様の変形を来たしている.肋骨も骨折のあとが念珠様となっている. C: 胎児の大腿部の超音波像.大腿骨はしわが寄ったように不整で短縮しており,子宮内多発性骨折を表す.エコー輝度も低下しており,骨化不全も示唆する. D: 胎児頭蓋の超音波像.超音波探触子で母体腹壁を圧迫すると頭蓋が変形するのが観察される.頭蓋冠の膜様骨化不全による

 

 (5)骨形成不全症I型,IV型(Osteogenesis imperfecta; OI) type I, type IV

OIは骨系統疾患の中では頻度の高いもののひとつであるが,上記のII型,III型を除いたI,IV型の頻度は合わせて2万5000人に1人程度とされる.現在の分類は臨床像と遺伝学的観点に基づいたSillence29の報告による.I型は青色強膜と比較的軽い骨変化を示し,乳幼児期に易骨折性のため診断されること多い.長管骨はovermodelingのために細く,骨折のために彎曲している.IV型は白色強膜を呈し,一般に軽症であるが症状の幅は広く,子宮内骨折を認める例もある(図17A).

I型では出生前に診断されることはまれであるが,骨化の遅れのために骨のエコー輝度の低下が認められることがある.IV型もI型とほぼ同じで出生後に発見されることが多いが,胎児期に単発性の骨折や長管骨の軽度の彎曲で気がつかれることがある(図17B).正常胎児が子宮内で自然に骨折を起こすことはきわめてまれ30といえるので,単発性の骨折所見を認める場合にはOIをまず疑うべきであろう.

図17.Osteogenesis imperfecta type IV(骨形成不全症IV型). A: 妊娠37週2892g女児の下肢のX線像.子宮内骨折と治癒の痕跡をもつ右大腿骨と,軽度に彎曲した左大腿骨を認める. B: 胎児右大腿骨の超音波像.骨折と一部化骨化している所見が認められる

 

 (6)窒息性胸郭異形成症(Asphyxiating thoracic dysplasia; ATD)

Jeune症候群ともいわれ,10-13万に1人の頻度で生じる常染色体劣性遺伝の疾患である.胸郭の低形成が特徴的(図18A)であるが,新生児期に重度の呼吸不全を起こすものから,ほとんど無症状のものまで症状の幅は広い.X線像では,肋骨の著しい短縮のためにベル型を示す狭小な胸郭と短指趾が特徴的である(図18B).

超音波では胸郭低形成と羊水過多が目立つ(図18C).長管骨の短縮は軽度である.多指趾を認める場合は近縁疾患のSRPSやEvCDを疑うが,これらはひとつの臨床表現(疾患)ファミリーを形成している一連の疾患である.

図18.Asphyxiating thoracic dysplasia(窒息性胸郭異形成症). A: 妊娠33週1498g女児.きわめて狭い胸郭と膨隆した腹部が目立つ.四肢短縮はあるが,多指趾症はなかった. B: きわめて短く,水平に走る肋骨により胸郭が低形成を示す. C: 胸郭は腹部と比べるときわめて小さい.長くて狭小な形をしている.妊娠後半にはほとんどが羊水過多を示す

 

 (7)点状軟骨異形成症(Chondrodysplasia punctata; CDP)

骨端あるいは骨端周囲の軟部組織の点状石灰化を特徴とする遺伝的に異質な疾患群である.近位肢節優位の著明な長管骨短縮を示す近位肢節型点状軟骨異形成症(RCDP)は8万4000人に1人の発症率である.多くの例は乳児期に死亡するといわれている.ペルオキシゾーム酵素欠損が原因で,遺伝形式は常染色体劣性である.

臨床像は近位肢節の著しい四肢短縮が特徴である(図19A).短縮は特に上腕で目立つ.顔面中央部の平坦化やリンパ浮腫などの顔貌異常がある.X線像では,管状骨骨端部とその周囲に特徴的な点状石灰化stippled epiphysisが認められる(図19B).近位肢節である上腕骨と大腿骨は著しい短縮と骨幹端の横径発育(末広がり)を示す.

点状石灰化は超音波でも観察可能であり(図19C),診断的所見といえる.近位肢節長管骨の短縮は上腕骨で特に著明に観察できる.羊水過多を合併することが多い

図19.Rhizomelic chondrodysplasia punctata(近位肢節型点状軟骨異形成症). A: 妊娠38週2618g女児.近位肢節の著しい四肢短縮が特徴である.短縮は特に上腕で目立つ.顔面中央部の平坦化とリンパ浮腫などの顔貌異常がある. B: X線像では,管状骨骨端部とその周囲に特徴的な点状石灰化stippled epiphysisが認められる.近位肢節である上腕骨と大腿骨は著しい短縮と骨幹端のsplayingを示す. C: 上腕骨は極度に短縮し,骨幹端が不規則に拡大している.診断的所見である点状石灰化は超音波でも観察可能である(矢印).近位肢節長管骨の短縮は上腕骨で特に著明に観察される

 

 (8)低フォスファターゼ症(Hypophosphatasia; HP)

組織非特異的アルカリフォスファターゼ(tissue non-specific alkaline phosphatase: TNSALP)遺伝子の変異によるもので,臨床的,遺伝的に異質性が多いが,胎児超音波診断で問題となるのは周産期致死型perinatal lethal formと呼ばれるものである.このタイプでは骨化がほとんど認められず,わずかにみられる骨化部分の変形も著しい.出生後は血清ALPの低値により診断されるが,妊娠中の初発例ではACGやOI IIと所見が類似するために診断が難しい.

長管骨は骨化不良のため超音波でほとんど描出できない(図20)か,変形が著しい.腸骨は小さく,頭蓋の骨化も悪く膜様である.羊水過多は必発である.常染色体劣性遺伝形式で通常両親は保因者である.保因者の血清ALP値は通常,正常下限値を示すので胎児診断の補助となるが,妊娠中は胎盤由来のALPがあるため検査値の解釈には注意が必要である.また超音波ガイド下胎児採血による罹患胎児の血中ALP値はほぼ0であった(未発表データ).

図20.Hypophosphatasia(低フォスファターゼ血症).妊娠19週.胎児の両上肢の超音波像.短縮し,ほとんど骨化を認めない

 

 (9)彎曲肢異形成症(Campomelic dysplasia; CD)

性決定遺伝子であるSOX9のヘテロ接合変異が原因で,性逆転(染色体XYで女性型の外性器)を示す例がある.ほとんどが突然変異によるといわれる.乳児期に呼吸不全で死亡することが多いが,非典型例では長期生存することもある.長管骨の軽度短縮と屈曲が特徴である.細長い腸骨と肩甲骨翼や腓骨の低形成がある.超音波診では,大腿骨や脛骨に局所的屈曲を認める(図21).大腿骨や脛骨の短縮は軽度であるのに対して腓骨はかなり短縮するのが特徴である.胸郭や肩甲骨も形成が悪く,口蓋裂を認めることがある.

図21.Campomelic dysplasia(屈曲肢骨異形成症). 妊娠33週.超音波診で,大腿骨の短縮は軽度でありながら,中ほどのところで局所的屈曲を認める

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カウンタ 18107 (2011年8月8日より)