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低フォスファターゼ症

低フォスファターゼ症の酵素補充療法−画期的な新薬の開発

                                   (室月 淳 2015年7月18日)

 

ここで新薬の紹介をするのは場違いな気もしますし,本意でもないのですが,わたし個人の思いいれが多分に投影されているニュースなので,具体的に紹介させていただくことをご容赦ください.

低フォスファターぜ症(HPP)というまれな骨系統疾患があります.先天的にアルカリフォスファターゼという酵素が欠乏欠損しているため,骨化不全や筋力低下,呼吸障害,痙攣などの症状をきたします.とくに胎児期に発症する周産期型,乳児期に発症する乳児型では,生命予後がきわめて悪い疾患です(生存期間の中間値が4ヶ月以下).

ところが7月2日,遺伝子組み換えによる酵素補充製剤であるアスフォターゼアルファ(商品名:ストレンジック)がとうとう薬事承認されました.欠損している酵素を補うわけですから,これはHPPの患者さんの症状を驚くほど改善させます.とくに生まれて数日ないしは数週間のうちに死をまつしかなかった周産期型HPPの赤ちゃんにたいしても劇的に奏功し,救命が可能となるのはもちろん,その後の正常発達すら期待できます.

実際にある母子医療センターで,最重症のHPPの赤ちゃんに出生直後からこの薬を投与開始して,最初の2-3週間の呼吸不全を集中治療で乗りきったあとからの劇的な効果を,写真や動画などで見せてもらったわたしたちはショックを受け,そして感動すら覚えました.HPPの赤ちゃんというのは出生直後の看取りの対象とすら捉えていたのが,これまでのわたしたちの常識だったからです.そんな子が10ヶ月でNICUを退院し,2歳半となるいまでは,つかまり立ちで元気に歩きまわっているのです(下の朝日新聞記事参照).

これはぜひ,この事実をひとりでと多くの産科,小児科の医師に知ってもらいたいとも思いました.HPPの子の命を助けるためには,生まれてから対応するのではおそいのです。妊娠中にみつけて確定診断し,インフォームドコンセントをとったあと,出生直後から治療できるように妊娠中から準備しなければなりません.そのために産科医の役割が絶対的に重要で,このことを周知徹底させる必要があります.

胎児骨系統疾患はわたしの専門(?)のひとつでもあります.いまだから言えることですが,胎児骨系統疾患フォーラムをつくったときは,出生前に骨系統疾患を診断してなにをするつもりだ(中絶を目的としているのではないか)と,一部から心ない批判もうけたりしました.しかしそんなことはない.ひとりでも多くの胎児新生児の命を救い,そしてQOLをあげていきたい,そのためのこその取り組みのつもりでしたし,いまもそうです.

フォーラム設立から8年,臨床現場からの取り組みにすぎませんが,すこしずつの知見の集積と成果をみせています.そして今回,企業治験と医師主導治験にささやかながら協力した成果が,アスフォターゼアルファの薬事承認という形になりました.

一般のひとからみると,非常にせまく特殊な分野での,非常にまれな疾患にたいする治療薬の導入という,ちいさなニュースにすぎないのかもしれません.しかしこれまで確実に失われていた年間数十人の新生児や乳児を,これからは助けてあげることができるようになるということです.わたしにとっては,医学の発達と医療の未来を確信できる,おおきな事実をこの手につかんだという気持です.

 

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カウンタ 3348(2015年7月18日より)