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6-2.心理的な変化に寄り添う

身体が衰弱して、今までできていたことが次第にできなくなってくると、ご本人は、最期が近づいていることを強く意識することがあるかもしれません。そのためにふさぎ込み、感情が不安定になることもあります。一方で、周囲が驚くほど穏やかな気持ちで過ごす人もいます。心のなかにどのような変化が起こるのかは人それぞれで、体調や気分の変化で揺れ動くことも自然なことです。

6-2-1.起こりうる心理的な変化

患者Sさん妻夫は自分の力だけで立ち上がるのがつらくなってきており、時々介助が必要になってきました。こうなるまで本当にあっという間でした。あらかじめ聞いておかなければ、私も娘もかなり動揺していたと思います。ただ、本人は自分の身体の変化をまだ自分のこととして受けとめられないようです。最近はふさぎ込む日が多く、私たちが話しかけても生返事しか返してくれません……。

相談員Nさん最期を意識した方の気持ちを知ることは、一緒に暮らすご家族であっても難しいものです。ご本人の心には、恐れや不安、いら立ちや怒り、悲しみなどが代わる代わる押し寄せて混乱し、ご自身でも整理がつかないのかもしれません。

患者Sさん妻「何もできなくなってしまった」と言って落ち込むかと思えば、介助に手間取るといら立ちをあらわにするなど、どう接してよいかわからなくなるときもあります。

相談員Nさん「できることができなくなってしまった」というご本人の喪失感は、おそらく周りが想像する以上に、精神的なダメージが大きいと思われます。こまごまとしたことにも人の手を借りなければならなくなり、ご家族の重荷になっていると感じておられるのかも……。一方で、こちらがどんなに気を使って介助しても、ご本人が自分で行っていたようにはいきませんから、そのストレスと強い無力感などが混ざり合い、いら立った言葉や態度がつい出てしまうときもあります。実際に、元気な頃と性格が変わってしまったと、戸惑うご家族は多いです。

患者Sさん妻今後、ほかにどのような変化が現れてくる可能性がありますか?


相談員Nさんそうですね。たとえば、日常生活のすべてに意欲を失って引きこもりがちになったり、衰弱して容姿が変わってしまうと、人に見られることを避けたいと思うこともあります。

患者Sさん妻どうやって元気づければよいのでしょうか……。


相談員Nさん悲しんでいる方を無理に元気づけようとすると、さらに不安や孤独を感じることになる場合もありますので、普段と同じように見守り、これまでのがんばりをねぎらったり、声をかけて寄り添ってあげるのがよいと思います。また、次のような場合は、治療やなんらかの処置が必要となる危険な状況かもしれませんので、在宅支援チームに連絡するようにしましょう。

こんなときは、在宅支援チームに相談しましょう

  • 強い恐れや不安、悲しみを何日も訴え続けたとき
  • 自殺したい、またはそれをほのめかすようなことを話したとき
  • 食べることを拒んだり、不眠に陥ったり、日常の活動に無関心になったとき(病状による影響もあり得ますが、急に変化する場合は注意が必要です)
  • 今までになく、自らを卑下ひげしたり、罪悪感を訴えたりしたとき
  • 絶望感が強く、憔悴しょうすいしきっているとき
  • 精神的に不安定な状態が続くなかで、発汗や息苦しさを訴えたり、落ち着きがなかったりしたとき
  • あなた(ご家族)が介助に疲れてしまい、休みたい、助けてほしいと思ったとき

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死を前にした人の気持ちを正確に知ることは誰にもできません。大切なのは、どのような精神状態であってもそれを否定することなく、温かく受けとめてくれる人が周りにいることです。たとえば、「もう駄目なんだ」「早く死にたい」と言うときは、どうしても「そんなことはない。大丈夫」「がんばりましょう」と励ましてしまいますが、改善しない症状のつらさや、死期が迫っていることを自覚され、「これ以上よくならない」という諦めなどの気持ちを吐露されていることが多いので、否定はせず「そうだね」「そう思うくらいつらいよね」と一度言葉を受けとめてあげることでも、ご本人のつらさに共感し寄り添うことができます。ご家族は、ご本人の態度や言葉遣いなどの変化に危険な兆候がないかどうかを観察し、不安に思ったら、家族の誰かあるいは在宅支援チームに助けを求めましょう。

ご本人の体験談

千葉県 30歳代/女性もっとあるがままでいいんじゃない?

千葉県 30歳代/女性

がんが発覚した頃はとにかくショックでした。「まだ中学生の娘がいるのに」「来年にはこの世にいないの?」と、食事ものどを通らない日々。家族や友人に伝えたときの反応に「どうせわかってくれない。いいよね、がん患者じゃないからなんとでも言えて」と内心いら立ってしまったこともありました。
治療が始まった頃は死について自分なりの考え方ができるようになりました。「人はいつか死ぬ。絶対に。生きる時間が違うだけのこと。なら生きている間はとことん楽しもう!」と自然と思えるようになりました。のちに、がんの宣告をされてからの心理的な変化は、みな同じような変化であることを知りました。とことんショックを受けても、それでよかったんだ、無理に明るくふるまおうとしなくても、ただ心の変化を自然に受け入れればよかったんだと知り、ホッとしました。がんと言っても年齢、性別、家族構成、がん種、治療法により千差万別です。みんなもっとわがままに、ネガティブに、ポジティブに、心のあるがままになっていいんだと思います。ちなみに私は、私の存在が誰かの希望になれればいいなと前向きになれています。

ご家族の体験談

東京都 60歳代/女性納得して旅立ちたい気持ちに寄り添って

東京都 60歳代/女性

緊急入院からわずか数日で、娘の残り少ない余命を聞かされました。娘が現実を受け入れるにはあまりにも残酷でした。それでも生きることに貪欲でした。わかっていながらもある程度納得したうえで逝く決心をつけたかったのでしょう。その気持ちを理解して、ソーシャルワーカーさんと連携してセカンドオピニオンを受けるなど、娘の納得できることをしました。
私はその間をぬって在宅の準備、訪問診療の医師・看護師の手配をしました。
その頃の雰囲気を感じ取っていただきたく、亡くなる数日前の会話の一部を抜粋しました。

  「こんなに早く逝くなら、もっと母さんに孝行しとくんだった」
  「そう? この数年はすごくお母さん孝行してくれたじゃない。お母さんこそいつも考えを押しつけて、駄目な母親だったね。あ~あ、あなたと一緒に逝けたらお母さんの人生パーフェクトなんだけどなあ」
  「あはは、母さんが一緒ならあの世も楽しいね。猪突猛進していく母さんを笑って見てられるのに」
  「ねっ! ホントそう思ってくれる? でも人生ままならないんだな」

その後も二人でケラケラ笑いながら話しました……。
翌日、娘の大好きだったテーマパークに二人で行き、その数日後に

  「じゃあ、またね」
  「うん、またね。体に気をつけるのよ」
  「クスクス(笑)」
と、家族みんなの笑いのなか、娘は穏やかに旅立ちました。

テーマパーク
掲載日:2024年06月20日
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