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Fetal dysmorphologyの試み

Fetal dysmorphologyの試み−胎児超音波による出生前診断

                                   (室月 淳 2012年7月5日)

 はじめに

Dysmorphologyはもともと1960年代にDavid Smithによって提唱された臨床遺伝学の一分野であり,発生学,臨床遺伝学,小児医学などの概念や知見,スキルを結合させた生まれた学際領域の学問である.先天異常の成因を発生学的・分子遺伝学的に理解し,臨床所見を客観的に把握,記載して診断を行い,臨床の場に役立たせることを目的とした.「異形学」や「形態異常診断学」といった日本語が当てられることもあるが,一般的には「ディスモルフォロジー」とそのまま使われている.先天異常症候群や多発奇形を認めたときは,複数の特徴的な体つき(外表および内臓奇形)に基づいたdysmorphology的診断アプローチをもとにして,生化学的,遺伝学的諸検査を組み合わせながら正確な診断を目指すことになる.

表1 Dysmorphologyの訳語
訳語 出典
異形学 英辞郎(電子辞書)
異常形態学 日本先天異常学会編 先天異常用語集 1991
形態異常診断学 臨床医に必要な遺伝医学 B.遺伝医学的診断法 1999
先天奇形診断学 女性医学体系28 遺伝の基礎と臨床 2000

 Dysmorphologyではもちろん出生後の診断を扱うため,肉眼でみた外表性の形態異常を議論することが一般的であるが,もし出生前であれば外表の観察は超音波やMRIやCTなどを駆使して形態診断を行うということになる.たとえば4D超音波によって描出された顔貌の特徴的所見によって何らかの疾患を同定できるとすれば,まさにそれはfetal dysmorphologyといってもいいかもしれない(図1).本稿では,dysmorphologyによって蓄えられた知見が主に超音波診断においてどのように生かされるのか,あるいは肉眼所見と超音波所見との本質的な違いは何かを,胎児の四肢異常を示す疾患を例として取り上げて検討する.

図1.Thanatophoric dysplasia.前頭部突出,鼻根部の陥凹といった特徴的な所見が4D超音波によっても比較的よく捉えられているのがわかる

 胎児の四肢異常

先天性の形態異常は,発生機序からみると奇形(malformation),破壊(disruption),変形(deformation),異形成(dysplasia)などに区別され,それは四肢異常でも同様である.特に骨の異常に着目する場合は,軟骨や骨の成長や分化をつかさどる遺伝子の変異の結果,全身の骨格系がおかされる骨系統疾患osteochodrodyplasiaと,特定の骨のみがおかされる異骨症dysostosisに大きく分類される.

Dysmorphologyをとおして得られる知識と経験は出生前診断にも応用可能であるし,むしろ積極的に応用すべきと考えられる.特に胎児超音波診断ではdysmorphologyの専門的知識はきわめて有用である.細かな形態異常のサインが診断には重要であり,そのためには丹念に局所の手がかりを探していかなければならない.たとえば「胎児の四肢短縮」という評価だけでは明らかに不十分であり,頭部や胸郭,口唇や内臓の所見などをていねいにみていかなければならない.仮に鼻根部の陥凹や胸郭低形成,膨隆した腹部といった特徴的所見があれば致死性骨異形成症(図1)を疑うべきだろう.また腎異形成の存在があればasphyxiating thoracic dysplasiaの可能性が出てくる.

それでは実際に肉眼で観察される外表性の形態異常の所見を,超音波画像ではどの程度捉えることができるだろうか.結論からいうと超音波に内在するさまざまな原理的制約からいろいろと難しい問題がある.

たとえば頭蓋縫合の早期癒合が胎児期に起こり頭蓋の形態異常が生じる頭蓋骨癒合症craniosynostosisは,これまでに100種類以上の疾患が記載され,その多くが遺伝子レベルで関連づけられている.頭蓋骨癒合症の鑑別診断についてdysmorphologyは指趾の所見に着目する.たとえばPfeiffer症候群では幅広い親指と大きなつま先,Apert症候群では手袋様手,Saethre-Chotzen症候群では合指症,Lackson-Weiss症候群では親指は正常だがつま先が大きい,Crouson症候群では指趾は正常というように結びつけて捉える.しかし胎児超音波診断ではこういったサインを明確に捉えることが難しい.

図2.胎児の足底の像.母趾と4本の足指が観察できる

 超音波診断では画像条件がよければ,club foot,rocker-bottom foot,sandal gapといった足の大まかな形態,特に輪郭に関する所見を描出できる.Polydactyly,oligodactylyといった評価は可能である.しかしdysmorphologyの精密な観察に比べれば超音波で得られる所見はあまりに大雑把であり,再現性が低いことが特に決定的な弱点となっている.同時に超音波の特性として,肉眼では観察不可能である体の内部の所見,すなわち脳,心臓を含めた内臓奇形の所見を容易に同定できるのも事実である.当たり前のことであるが,dysmorphologyにおける外表所見のみでの評価をこえたレベルでの検討が可能である.すなわち「四つの目」における「肉眼の目」と「透視の目」の違いであり,みている対象の実体そのものが異なっているわけである.

 Fetal dysmorphologyの可能性

Dysmorphologyにおける検査の主眼は小奇形の正確な把握に向けられるが,この小奇形の同定において超音波診断は肉眼よりもだいぶ劣る.これに対して,一般に治療の対象とされる大奇形の診断はむしろ超音波診断が優れるところである.すなわち出生前の主に超音波診断の利点を生かしたオリジナルのdysmorphology,すなわちfetal morphologyが構想されるのは自然であろう.今日,小奇形や大奇形の組み合わせで原因疾患を検索するためにコンピューターを用いた診断支援システムが用意されているが,出生前診断のためにそういったデータベースの構築を目指すことも意義があると考えられる.

Fetal dysmorphologyが目指すものは,何よりもclinical dysmorphologyがこれまで積み重ねてきた知見を充分に生かし,超音波によって微細な所見を注意深く同定し,それらの所見の組み合わせや付随的な異常を関係づけることによって,多発奇形や先天異常症候群の正確な診断を目指すことである.その意義は,第一に正確な診断によって児の予想される状態を明らかにし,出生後の対応を相談し,家族がじゅうぶんな準備の上で出産に臨めること,第二にある程度対象となる疾患候補を絞ることにより各種遺伝学的検査へとつなげること,第三に二次的原因で生じる異常では介入によって奇形の進行を留めることができるということ,すなわち胎児治療の可能性である.

 まとめ

胎児超音波検査においては,胎児の正確な評価を行うこと,その先天疾患を両親にきちんと説明しカウンセリングを行うことの両方が重要であり,そのために産科医が臨床遺伝学,特にdysmorphologyの知識をもつことは非常に意義があると考えられる.診断から予後についての説明,胎児治療も含めた治療に関しての相談,出生後のケアにいたるまで,妊婦とその配偶者への継続的なケアが必要とされているのである.

また「出生後診断」,すなわち出生後のきちんとした評価も重要である.不幸にも死産や新生児死亡だった場合も剖検や遺伝学的検査を含めたきちんとした評価を行い,それを記載し記録に残す.次回妊娠において胎児診断が可能かどうかの検討を行う.多くの奇形症候群の再発率は高くないが,ときにメンデル遺伝をおこす疾患があってこの鑑別は重要である.安心させるためのみに誤ったアドバイスをしてしまわないよう注意する.

 参考文献

1. Jones KL: Smith's Recognizable Patterns of Human Malformation 6th ed. Elsevier Saunders, 2006, Philadelphia

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