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臍帯穿刺の合併症管理

臍帯穿刺の合併症管理

                         (2012年9月2日  室月 淳)

 はじめに

臍帯穿刺は今日では通常,超音波ガイド下に行う経皮的臍帯穿刺による胎児採血(Percutaneous Umbilical Blood Sampling; PUBS)を意味します.超音波ガイド下の胎児採血は1983年のDaffosら(1)の報告を嚆矢とします.それまでの胎児鏡などを用いた採血に比べて侵襲度が低くなり,格段に安全に施行できるようになりました.しかし頻度は高くありませんが,まれに合併症が存在します.胎児診断に際しては検査手技の選択とそのリスクについて正しく理解し,さらに患者に正しく理解してもらうためのカウンセリングが必要となるでしょう.

 起こりえる合併症

臍帯穿刺に起こりえる合併症は,羊水穿刺と同様の胎児死亡,破水,流早産,感染などに加え,穿刺部位からの出血や血腫形成,胎児徐脈などがあげられます.臍帯穿刺による胎児死亡の頻度は報告によって大きく異なります.スクリーニングを目的とする羊水穿刺と異なり,胎児採血は胎児異常や母体疾患など明確な適応があって初めてなされるため,穿刺のリスク自体は対象となる胎児集団の背景因子に大きく依存することになります.先天感染や血液疾患の胎児診断を目的とする場合よりも,多発奇形の染色体診断や発育遅延児のwell-being評価の臍帯穿刺のほうが何倍も胎児リスクが高いことはよく知られています.

Daffos(2)の1,320回の臍帯穿刺の経験では胎児死亡が21例(1.6%),Weinerら(3)の594例の報告では5例(0.8%)に認められています.North American PUBS registry(4)が16の施設から集めたデータによれば,6,023妊婦に7,462回の臍帯穿刺がなされ,穿刺後14日以内に認められた胎児死亡の頻度は1.12%でした.胎児死亡の主な原因としては,絨毛羊膜炎,破水,穿刺部位からの出血,高度徐脈,塞栓があげられています.東北大学病院では,2001年4月までの701回のPUBS施行で6例の胎児死亡を経験しました(0.9%).臍帯穿刺の危険性は穿刺適応と術者の技量の両方に関連するところが大きいのですが,胎児死亡のリスクはおおよそ1%前後と考えられます.

一般的な胎児徐脈はしばしば認められる合併症です.頻度としては7%(3)から8%(4)と報告されています.対象がFGR児の場合,胎児徐脈のリスクは15%まで上昇します(4).PUBSによる徐脈の発生機序には刺激反射による一時的な血管攣縮と,血腫形成による臍帯血管圧迫のふたとおりの場合があると考えられます.反射によるものでは,たいていが数秒から数分以内で回復します.もし15分をこえて徐脈が持続するようなときは児の予後に決定的な影響があるとされます(5).

穿刺部位からの出血は合併症としてもっともよく認められます.臍帯穿刺例の41%に出血が認められますが,その80%が90秒以内に自然にとまると報告されています(6).臍帯穿刺後の出血が胎児の出血傾向に関係する場合,すなわち胎児の血小板無力症や自己免疫性血小板減少症などについての報告があります(6).母体胎児間輸血についていえば,特に胎盤が前壁にあるとき微量の輸血はかなりの頻度で起きていると考えられますが,実際に胎児が病的な状態に陥ることはまれです.しかし母児間に血液型不適合がある場合は注意が必要でしょう.

PUBSによる感染の合併はかなりまれですが,子宮内感染を一度おこすと早産や胎児死亡,新生児敗血症など重大な結果をもたらすので注意が必要です.母体の敗血症はさらにまれになりますが,PUBS後に敗血症からARDSとなった症例が報告されています(7).PUBSにともなって一時的に子宮収縮が生じることはめずらしくありませんが,そのために破水が生じたり早産となることはめったにありません.Daffos(2)の報告では1,320例中に3.8%の早産がおきていますが,これは一般的な早産率とおおきな違いはありません.

 チェックポイントと予防に必要な処置

検査の目的と合併症に関して本人とパートナーにじゅうぶんに説明し,インフォームドコンセントを文書で得ておくのは羊水穿刺と同様です.もし穿刺によって胎児が危険な状況になったとき,緊急帝王切開をおこなうかどうかを事前に患者と相談して決めておく必要があります.

PUBS施行直線に超音波検査によって胎位や臍帯穿刺部位の確認を行うほか,胎児心拍数モニタリングやドプラ法による胎児状態の評価は必ず必要です.染色体異常児や高度のFGR児では,PUBSを契機として徐脈,さらにはIUFDに陥ることがあり,モニターや血流波形でそのリスクが予想できることが多いといえます.PUBSの施行は適応とリスクの双方を考慮して決定することになります.

胎児徐脈と出血は穿刺自体の侵襲によって生じるので,穿刺を失敗して繰り返すことによりそのリスクは確実に高まります.一度の穿刺で確実に胎児血を採取できるように心がける必要があります.PUBSの成否は適切な穿刺部位の選択にかかっているので,超音波断層法による事前の観察にはじゅうぶんな時間をかけることがコツです.

穿刺前から子宮収縮抑制剤の点滴を開始します.穿刺後は出血が止まるまで観察し,そのご最低2時間は安静として注意深く胎児モニタリングを行います.抗生剤の予防的投与の効果についてはエビデンスがありませんが,経口抗生剤の処方をルーティンとする場合もあります.

 合併症に対する処置

胎児徐脈はほとんどが数分以内で自然に回復します.徐脈が認められたらまず母体を側臥位とし,マスクで酸素投与を行います.胎児が胎外生活可能な妊娠週数であれば緊急帝王切開の準備を開始します.もし徐脈が10分以上続く場合,あるいは臍帯血腫が原因で徐脈となっている場合はは緊急帝王切開を考慮しなければなりません.胎児徐脈のときは超音波断層法で臍帯穿刺部位をよく観察します.PUBSにより臍帯血腫をつくることはまれですが,もしechogenicな領域が観察されれば血腫形成の可能性が高くなります.

穿刺部位から多量の失血が認められれば胎児の急速遂娩の適当となりますが,それができないときは胎児輸血が唯一の救命手段となります.再度の臍帯穿刺あるいは心臓穿刺によって輸血ルートを確保します.血液型をマッチさせるのが理想的ですが,実際にはO型血を使うことがほとんどです.

 文 献

1. Daffos F, Capella-Pavlovsky M, et al: Fetal blood sampling via the umbilical blood cord using a needle guided by ultrasound. Prenat Diagn 1983;3:271

2. Daffos F: Fetal blood sampling. In: The Unborn Patient, 2nd ed (Harrison MR, Golbus MS, Filly RA, eds). Philadelphia, WB Saunders, pp75-81, 1990

3. Weiner CP, Wenstrom KD, et al: Risk factors for cordocentesis and fetal intraventricular transfusion. Am J Obstet Gynecol 1991;165:1020-1025

4. Ludomirsky A: Intrauterine fetal blood sampling - a multicenter registry, evaluation of 7462 procedures between 1987-1991. Am J Obstet Gynecol 1993;168:318

5. Manning FA: Cordocentesis - clinical considerations. In: Invasive fetal testing and treatment (Harman CR eds). pp67, Blackwell Scientific Publications, 1995

6. Daffos F, Capella-Pavlovsky M, et al: Prenatal diagnosis and management of bleeding disorders with fetal blood sampling. Am J Obstete Gynecol 1988;158:939-946

7. Wilkins I, Mezrow G, et al: Amnionitis and life-threatening respiratory distress after percutaneous umbilical blood sampling. Am J Obstete Gynecol 1989;160:427-428

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