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胎児輸血

胎児輸血について

                            (小澤克典,室月 淳 2015年1月31日)

 はじめに

新生児の溶血性疾患はかつて周産期死亡率の高い病気のひとつであり,治療は分娩後の新生児に輸血をおこなうしかなかった.1963年にLileyは,X線ガイド下で母体経腹的に胎児の腹腔内に輸血することに成功し,1981年にRodeckは,胎児鏡下に臍帯動脈を穿刺することで血管内輸血をおこなう方法を報告した.1980年代半ばからは超音波ガイド下に臍帯静脈を穿刺して輸血することが一般的になった.

胎児輸血の目的は早産による合併症を減らし,帝王切開率を減らし,そして新生児予後を改善させることである.Van Kampらが2005年に発表したコホート研究では,254例の胎児貧血に計740回の胎児輸血をおこなわれ,生存率が89%,処置に関係した胎児死亡率は処置ごとに1.6%であった(1).

 

 胎児輸血の種類と特徴

胎児輸血には,臍帯静脈を穿刺する血管内輸血と,胎児腹腔内に穿刺しておこなう腹腔内輸血のふたつがあり,両方が併用される場合もある.血管内へ輸血するほうがより生理的でのぞましいが,血管の大きさによって穿刺の限界があり,はやくても妊娠18週〜20週以降でなければむずかしい.

血管内輸血の長所としては,

  • Rhマイナスなどの胎児の血液型が分かる
  • 胎児のヘマトクリットとヘモグロビンを直接評価することができる
  • 輸血前と輸血後のヘマトクリットの計測ができ,適切な輸血量を計算することができる
  • 血液が効率よく胎児循環に入るため、胎児水腫の際にはもっとも有効である
  • 胎児の腹腔内組織が損傷されにくい
  • 輸血後には日数ごとのヘマトクリットの下がり方がわかり,次の輸血のタイミングや最適な分娩時期を考えることができる

血管内輸血の短所は,

  • 穿刺が技術的にむずかしく熟練を要する
  • 輸血のあいだ針先を血管内に固定するのに努力がいる
  • 胎児徐脈や出血などの合併症がときに認められる

腹腔内輸血の利点は,

  • 血管内輸血が難しい妊娠18〜20週以下で,胎児貧血の治療が必要となったときに選択できる.妊娠15週〜16週以降で可能と考えられている
  • 胎位や胎盤の位置で臍帯静脈に技術的にアクセスできないときでも輸血可能である
  • 技術的には血管内輸血よりも簡単で安全である
  • 血管内輸血と組み合わせることで輸血の間隔を延ばすことができ,胎児循環に容量負荷をかけることなく輸血量を増やすことができる

腹腔内輸血の不利な点として,

  • 胎児に腹水があると赤血球の吸収が減弱するため,腹腔内輸血は胎児水腫例の貧血の治療には最適ではない
  • 胎児輸血前後の胎児血液の計測ができず,妊娠週数のみに基づいて輸血量を計算しなければならない
  • 胎児の腹腔内臓器を損傷する危険性があり,意図せず胎児の腸管,肝臓,腹壁内に輸血する可能性もある
  • 胎児の腹腔内圧が上昇することで心臓への静脈還流を障害し,胎児徐脈を引き起こすこともある

Harmanらのケースコントロール研究では,胎児水腫に対する胎児輸血で,血管内輸血で18/21(86%)が生存し,腹腔内輸血では10/21(48%)であった.しかし胎児水腫ではない場合の血管内輸血と腹腔内輸血の生存率はどちらも80-100%であり、どちらの方法が優れているか安易には言えない.

 

 胎児輸血の適応と病態

胎児輸血の適応は主に血液型不適合による胎児貧血だが,他の重症の胎児貧血をおこす病態にも適応がある.たとえばヒトパルボウィルスB19感染やfetomaternal hemorrhage,胎盤血管腫、twin anemia-polycythemia sequence(TAPS)などである.

胎児貧血は心拍出量を増やし,血液の粘性を低下させ,そのため胎児のさまざまな血流の速度を増加させる.中大脳動脈の最大血流速度(MCA-PSV)の上昇は,胎児貧血の予知において高い感度と特異度があることが証明されている.他にも心拡大や腹水,心嚢水の出現などが胎児貧血の初期症状である.皮下浮腫や羊水過多は比較的遅れて出現する.

貧血の胎児は組織の酸素化が減っており,血液再分配による代償機構によって重要な臓器以外の酸素供給を落とし,正常の30%(妊娠週数によるが4〜6g/dl)までは血液の酸塩基平衡を正常に保つ.胎児輸血によって胎児循環に成人ヘモグロビンが入ると,胎児の臍帯動脈血は代謝性アシドーシスになる.胎児輸血によって胎児のアシドーシスを悪化させる可能性も指摘されている.さらに成人ヘモグロビンは,低酸素状態で胎児ヘモグロビンよりも酸素解離が少ない.重症の胎児貧血に成人赤血球を輸血すると,2〜3回の輸血後に胎児の赤血球産生は抑制され,胎児循環の赤血球は完全に成人赤血球に置き換わる(2).

 

 胎児輸血の実際

準備

輸血する血液は成人のO型Rhマイナス血を用いる.採取されてから4日以内,照射されてから24時間以内の血液が望ましく,母体血とクロスマッチしておく.HBV,HCV, HIV,サイトメガロウィルスはスクリーニングされるべきで,胎児のGVHDを避けるために白血球を取り除く処理もおこなわれるべきである.血液のヘマトクリットを75〜85%に調整することにより,輸血する量を最小限にできるようにすることもある.37℃に保温してから輸血するよう注意する.

図1.ニードルガイドを使用することで,ねらった部位に正確に穿刺しやすくなる

18G〜21GのPTC針をエコーガイド下に穿刺する.超音波を見ながらフリーハンドで穿刺する施設もあるが,ニードルガイドを使用することによって,臍帯や胎児の定めた部位に穿刺しやすくなる(図1).また,PTC針に接続する三方活栓とエクステンションチューブを準備する(図2).PTC針と1mlシリンジは,あらかじめヘパリン処理を施しておく.

図2.穿刺針に接続するエクステンションチューブには三方活栓を接続しておく

理想的には3人の訓練されたスタッフが必要とされる.経験のある術者が超音波をみながら針を進め,針先を固定したら動かないように注意を払い,超音波を通して輸血をモニターする.アシスタントは血液を採取し,また輸血の際に血液を投与する(図3).そしてさらに別のスタッフが採取した胎児血液を検査し,輸血量などを計算する.

図3.術者が超音波をみながら針を進め,針先を固定したら動かないように注意を払い,超音波を通して輸血をモニターする.アシスタントは血液を採取し,また輸血の際に血液を投与する

穿刺部位の決定

輸血する方法は血管内輸血と腹腔内輸血があるが,前述のとおり,可能であれば血管内輸血が望ましいと考える.血管内輸血に際して,穿刺する部位の選択肢は,フリーループの臍帯静脈,胎盤付着部の臍帯静脈(図4),胎児の肝内臍静脈(図5)がある.海外の施設では胎盤付着部の臍帯静脈,または肝内臍静脈を好むようである.臍帯静脈は動脈よりも径が広いため穿刺しやすく,また輸血のフローを超音波で見ながら正しい位置に針を固定することができる.そのため血管の損傷や,針がスリップして血腫をつくるなどの合併症の可能性が下がる.もし胎位や胎盤の位置などで臍帯静脈に安全に穿刺ができないようなら,次のアプローチとして肝内臍静脈がある.針がずれる可能性があるため海外ではフリーループは好まれないが,日本ではフリーループが用いられることが多い.胎盤付着部の臍帯静脈から採取した血液は,母体血が混入することもあるので注意が必要である.心臓への穿刺は心タンポナーゼ,心外膜血腫,心停止を含む不整脈などの危険性があるため通常はおこなわれない.

図4.胎盤付着部の臍帯静脈への胎児輸血

図5.胎児の肝内臍静脈への胎児輸血

麻酔

麻酔は穿刺部位への局所麻酔のみであることが多い.母体の不安はたいてい適切なカウンセリングによって和らぐが,鎮静を目的とした前投薬が必要なこともある.

胎児の麻酔については,胎児輸血の最中に胎児が動くと針がずれたり,出血したり,胎児を損傷したりする可能性がある.もし胎動が激しく穿刺が安全にできないようなら,パンクロニウム0.2mg/kg(胎児推定体重)などの筋弛緩薬を胎児の筋肉(三角筋や大臀筋)や臍帯静脈内に投与したほうがよいかもしれない.しかし臍帯静脈に輸血する場合は,通常麻酔が必要ない.胎児に穿刺する場合,海外では胎児のストレスや痛みを軽減させるためにフェンタニルの投与をおこなう施設もある.

穿刺の実際

血管内輸血においては,まず超音波で穿刺する臍帯静脈を描出する.超音波画像上は臍帯静脈に針が入っているように見えても実際ははずれているということを防ぐために,プローブを何度か横に振って超音波ビームの中心に穿刺部位を描出する(3).穿刺の過程で針先はカットされた面と反対の方向に曲がりやすく,とくにフリーループをねらうときには臍帯が針先から逃げやすいため,超音波でできるだけ長く臍帯を描出し,臍帯静脈に対してなるべく直角に穿刺できるように穿刺部位を定めるとよい(図6).

図6.フリーループをねらうときには臍帯が針先から逃げやすいため,超音波でできるだけ長く臍帯を描出し,臍帯静脈に対してなるべく直角に穿刺できるように穿刺部位を定める

穿刺針の先端が臍帯の目的部位の手前に到達したら,針先が臍帯にあたっていることを超音波で確認する.そして手首のスナップをきかせるようにして一気に針を進め,臍帯静脈を貫く.ゆっくり針をすすめると,臍帯が横に逃げたりして失敗する.超音波で針が臍帯静脈を貫いたことを確認したら,助手は内筒針を抜き,ヘパリン処理した1mlシリンジを接続して軽く陰圧をかける.術者は外筒針を少しずつ引き抜き,血液がひけてくるところで針先を固定する.肝内臍静脈に穿刺するときにも臍静脈を長く描出し,胎児の皮膚を貫くときに針先がずれないように,なるべく胎児に直角になるように穿刺する(図7).

図7.肝内臍静脈への穿刺.針先が少しずれても刺入できるように,臍静脈を長く描出する.そして胎児の皮膚を貫くときに抵抗で針先がずれないように,なるべく胎児に直角になるように穿刺する

血液がひけたら助手はシリンジを新しく交換して,必要量の胎児血を採取する.通常1〜2mlである.アシスタントはシリンジを交換するときに針先が動かないように注意しておこなう.そして3人目のスタッフが採取した胎児血液のヘマトクリット値などをただちに検査し,輸血量を計算する.

腹腔内輸血について

準備は血管内輸血と同様であり,超音波ガイド下にPTC針を胎児の腹腔内に刺入する(図8).穿刺部位の理想は胎児の腹部前面で,肝臓の損傷を避けるため,臍帯静脈より下で膀胱より上の位置がよいとされている.針先が正しい位置にあることを確認したら,腹水がある場合はまず吸引する.腹水がなければ生理食塩水を腹腔内に注入し,針先を超音波で観察する.胎児が動いて針の位置がずれるかもしれない場合は,パンクロニウムを胎児の腹腔内に投与することもできる.

図8.腹腔内輸血.穿刺部位の理想は胎児の腹部前面で,肝臓の損傷を避けるため,臍帯静脈より下で膀胱より上の位置がよい.針先が正しい位置にあることを確認したら,腹水がある場合はまず吸引する.腹水がなければ生理食塩水を腹腔内に注入し,針先を超音波で観察する

 

 輸血量の計算方法

血管内輸血の場合

サンプリングした胎児血から胎児のヘマトクリット値を求めているあいだ,針は胎児循環の血管に入れたままにしておくが多い.結果が速く得られるため,血液の分析装置は処置と同じ部屋でおこなうことが望ましい.胎児のヘマトクリット値やヘモグロビン値は妊娠週数と共に変化する.もし胎児のヘマトクリット値が週数の平均値の2SDよりも低下していたら,続いて胎児輸血をおこなう.針はコネクションに3方活栓をつけたエクステンションチューブにつなげ,術中に針先がずれないように最大限に注意して輸血する(図9).

図9.胎児輸血の全体像。針はコネクションに3方活栓をつけたエクステンションチューブにつなげる.助手が輸血する血液をシリンジで注入する.輸血中に針先がずれないように最大限に注意して輸血する

ヘマトクリット値が正常で胎児輸血の必要性がなかったら,針を抜いて非侵襲的なモニターを行い保存的なマネージメントをおこなう.

輸血の量は3つの因子で決定される.輸血前の胎児ヘマトクリット値,計算された胎児胎盤血液量,輸血する血液のヘマトクリット値である.Nicolidesらは胎児ヘマトクリットを40%まで上げるために必要な輸血量を計算できるように表を作成した(図10)(4).

図10.Nicolidesらが作成した、胎児ヘマトクリットを40%まで上げるために必要な輸血量を計算できるようにした表4)。左の表から得られた胎児胎盤血液量と、胎児ヘマトクリット値から右の表で得られた値(F)を掛け合わせる

実際の輸血量を計算する式は以下のようになる.

輸血量(ml) = (目標のヘマトクリット値−治療前のヘマトクリット値)/(輸血する血液のヘマトクリット値−目標のヘマトクリット値)×胎児胎盤血液量(ml)

輸血量(ml) = (目標のヘマトクリット値−治療前のヘマトクリット値)/ 輸血する血液のヘマトクリット値 × 胎児の推定体重(kg) × 150

目的としては,胎児のヘマトクリットを生理学的なレベルまで上げることである.例えば2nd trimesterの初期なら35-40%,後期なら45-55%にする.ときどき輸血の途中に胎児血をサンプリングして,胎児のヘマトクリットをチェックし,さらなる輸血の量を確定することもある.最後に胎児血をサンプリングして輸血後の胎児ヘマトクリットを調べる.Kleihauer-Betke試験をおこなって胎児循環の中の成人赤血球の比率を決定している施設もある(2).血液は5〜10ml/min.の速さで輸血する.術中に超音波で血液の流れを確認し,針の位置が正しいかどうか確認する.また定期的に胎児不整脈がないか,特に徐脈がないかチェックする.

Top-up法と交換輸血

胎児血液を取り除かずに輸血だけする方法をTop-up法という.これは容量負荷のため心臓の機能不全をおこす可能性がある(5).いくつかの施設では交換輸血をおこなっており,輸血中に胎児の血液を少量ずつ吸引することで,すでに心筋に負荷がかかっている胎児の容量負荷を防ぐ試みをしている.また臍帯静脈圧をルーチンにモニターし,10mmHgを超えたら胎児血液を取り除き,同量の生理食塩水を注入している施設もある.そのような圧の変化が胎児死亡と関係しているという報告があるためである.実際,臍帯静脈圧は輸血の最中に上昇するが,胎児は胎児胎盤血液量の100-150%のtop-up法の輸血に耐えるようだ.臍帯静脈圧が12mmHgに上がっても輸血後に合併症がないことも知られている.Top-up法による輸血は交換輸血よりも速いという利点があり,針の位置がずれたり,細菌感染をおこしたり、子宮筋の刺激や臍帯静脈血栓症などのリスクを減らすことができる.

また胎児血の粘性は,特に早い妊娠週数で輸血量よりも重視されるべきという意見がある.輸血後の胎児血の粘性は,輸血を受けた胎児の週数の95%tileを上回る.19例の重症貧血の胎児が胎児水腫の状態で2nd trimesterに最初の輸血を受けた報告では,7例(36.8%)が輸血後24〜72時間に死亡したが胎児ジストレスがなく,処置に関連していると考えられた.妊娠週数,輸血した血液量,胎児胎盤血液量などを比較したが,明らかな違いはなかった.しかし増加したヘマトクリットの数値に違いがあり,死亡した群は5.5倍であり,生存した群は3.5倍であった.急激なヘマトクリットの上昇は胎児血の粘性の増加を意味しているため,容量負荷よりも粘性の増加が胎児死亡と関連するという意見もある.

腹腔内輸血の場合

血管内輸血と同様に,PTC針をエクステンションチューブにつないで三方活栓に接続し,約10ml/min.の速度で輸血する血液を注入する.輸血の間は針先を超音波で確認し,血流が腹腔内に入っていることを観察する.胎児徐脈が持続したら,輸血は中止されるべきである.

投与する血液量は胎児貧血の程度ではなく妊娠週数によって決定され,次の計算式を使用する(2).

輸血量(ml) = (妊娠週数−20)×10ml

血管内輸血と腹腔内輸血の組み合わせ:

血管内輸血と腹腔内輸血のそれぞれの処置に関連したリスクがあるが,輸血の間隔を長くできるという利点がある.腹腔内に輸血した血液は数日以上かかって吸収されるため,胎児循環に容量負荷を与えずにより多くの輸血をおこなうこともできる.まず血管内輸血によって胎児ヘマトクリットを40%まで上げるために必要な量の輸血をおこない,輸血後にヘマトクリットを測定して確認する.同じ針を腹腔内輸血にも用いるため,肝内臍静脈を使用すると簡単である.そして胎児ヘマトクリットを60%まで上げるために血管内投与する血液量と同量の血液を胎児の腹腔内に投与する.

 

 次の胎児輸血の時期

原疾患によってさまざまだが,血液型不適合による胎児貧血の2回目の輸血のタイミングは,初回の輸血より2週間以上遅くなるべきではない.貧血が重症であったり初回の輸血量が少なかったときは,1週間で次の輸血が必要かもしれない.輸血後のヘマトクリットの低下の1日あたりの平均は約1%だが,胎児によって差がある.それは胎児循環に残った胎児赤血球の割合や最初の輸血後の胎児赤血球産生の抑制の程度がさまざまであるためであり,そのため2回目の輸血のタイミングが予測しづらくなっている.最初の輸血後に活発な赤血球産生をおこすこともあるが,通常は2回目,3回目の輸血の後に胎児の赤血球はほぼ輸血された成人赤血球に置き換えられ,また胎児の赤血球産生は抑制されるため,ヘマトクリットの低下が一定となり通常は1日あたり1%である。すると次の輸血のタイミングも予測しやすくなる.

胎児水腫を防ぐための輸血の間隔は,胎児のヘマトクリットを妊娠週数による正常値の1/3(ヘマトクリット20-25%)より上に維持するように計画する.つまり2回目の輸血以降は,輸血後のヘマトクリットを少なくとも45%にすれば,次の輸血まで3週間以上あけることができる.次の輸血までの間隔を長くすることによって穿刺回数を減らすことができ,穿刺に関連した胎児死亡の危険性を減らすことができる.分娩となるとき(理想的に妊娠37週〜38週)に胎児のヘマトクリットが20-25%以下になっていないように,最後の輸血がおこなわれるべきである.

ヒトパルボウィルスB19感染による胎児貧血における胎児輸血は,1回だけで十分であることも多い.

 

 胎児輸血の合併症

胎児輸血後は少なくとも1時間の胎児心拍モニタリングが推奨されている.もし処置の最中に胎児麻酔としてパンクロニウムなどが投与されていたら,CTGのvariabilityはしばしば減少する.また超音波検査による定期的な胎児モニタリングをおこない,次の輸血まで臍帯動脈のドプラ波形などを評価するべきである.

1回の胎児輸血ごとの胎児死亡率は0.6〜4.0%である.妊娠20週以前はリスクの1つであり、処置に関連した胎児死亡率は14%に及ぶ.最も多い合併症は一過性の胎児徐脈で処置の約8%に生じるが,分娩が必要となるケースはまれである.他の合併症に臍帯関連のアクシデントがあり,血腫による臍帯タンポナーゼ,胎児血管の損傷,臍帯動脈の攣縮,穿刺部位からの出血,血栓塞栓症などがある.また胎児循環の容量負荷や,絨毛羊膜炎,前期破水や早産などの合併症もある.胎盤を穿通するとfetomaternal hemorrhageの原因となる可能性がある.1988年〜2001年の胎児輸血においてVan Kampらの施設が報告した処置に関連した合併症の頻度は,破水0.1%,子宮内感染0.3%,緊急帝王切開2.0%,胎児死亡0.9%,新生児死亡0.7%であった.処置に関連した合併症をすべて合わせると,胎児水腫のない例で2.9%,胎児水腫例で3.9%であった(1).

 

 胎児輸血の予後

University College Hospital Londonで,2年間で46例の胎児に169回の胎児輸血がおこなわれた(2).そのうち8例(17%)は最初に輸血するときには胎児水腫であった.胎児輸血ごとの胎児死亡率は2.4%であり,全体的な生存率は91%(胎児水腫がない胎児で92%,胎児水腫例で88%)であった.最初の胎児輸血を受けた妊娠週数が20週以前だと生存率が80%であり,24週以降だと胎児死亡がなかった.長期予後に関しては6か月〜6年でいくつかの報告があり,胎児水腫であった場合を含めて神経学的発達にコントロールとの差を認めていない.

ヒトパルボウィルスB19感染による胎児貧血の予後に関しては,von Kaisenbergらが705例の報告をしていて,胎児輸血を受けた230例で82%の生存率であったのに対し,胎児輸血を受けなかった435例では55%の生存率であった.ヒトパルボウィルスB19感染で胎児輸血を受けた児の長期予後に関する比較的大きな研究は2つある.Dembinskiらの20例の報告では予後良好という結果が出ているが,35%がフォローアップから外れているという弱点がある.Nagelらの16例の報告では5例に様々な程度の神経学的後遺症があるが,胎児貧血の重症度とは関係がなく,ウィルス自体が中枢神経障害を起こしているのかもしれないとの見方がある.

 

 まとめ

胎児輸血は合併症もときどき経験するが,胎児貧血を起こす病態にたいしてはきわめて有効な治療法である.正しい適応疾患にたいして,安全な手技で行われることが望まれる.

 

 参考文献

  • (1) Van Kamp IL, Klumper FJ, Bakkum RS, et al: Complications of intrauterine intravascular transfusion for fetal anemia due to maternal red-cell alloimmunization. Am J Obstet Gynecol 2005; 192: 171-7.
  • (2) Charles H Rodeck, Martin J Whittle: Red cell alloimmunization. Fetal Medicine second edition, ELSEVIER, 2009, 567-577.
  • (3) 室月淳: 周産期医が習得したい専門的手技−産科編「胎児採血」. 周産期医学 2012; 42: 1377-1380.
  • (4) Nicolaides KH, Soothill PW, Clewell WH, Rodeck CH, Mibashan RS, Campbell S: Fetal haemoglobin measurement in the assessment of red cell isoimmunisation. Lancet 1988; i: 1073-1075.
  • (5) Dick Oepkes, Phebe Adama van Scheltema: Intrauterine fetal transfusions in the management of fetal anemia and fetal thrombocytopenia. Seminars in Fetal and Neonatal Medicine 2007; 12: 432-438.

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