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臍帯穿刺のテクニック

臍帯穿刺のテクニック

本稿内容は2001年に越後湯沢で行われた第3回イアン・ドナルド超音波講座での講演内容をまとめたものです.もともと某社から当講座での発表をまとめた本が出版される企画があり,そのために書いて投稿した原稿でしたが,諸々の事情により出版が中止となり没となったものです.論文の質としては高くありませんが,これまであまり書かれることのなかった臍帯穿刺の具体的なテクニックをまとめたものとして愛着があり,このまま埋もれさせるのは少々もったいないかとも思い,この場で公開することにいたしました.

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 はじめに

超音波検査は産科領域でもっとも一般的な診断方法となっている.同様に侵襲的検査や治療の多くも,超音波断層法を用いることによってより安全に施行できるようになった.胎児から血液や組織を直接採取する方法は,出生前診断可能な胎児疾患の範囲を大きく拡大できるため,今後ますます重要になっていくだろう.

産科領域でおこなう超音波ガイド下での操作は羊水穿刺がもっとも一般的であるが,そのほかにさまざまな手技が存在する.胎児採血(percutaneous umbilical blood sampling; PUBS)においては,一般に超音波ガイド下に羊水腔の臍帯を穿刺することにより胎児血を採取する.PUBSの普及によって胎児循環への直接的なアプローチが可能となり,胎児疾患に対する診断と治療の両面において多くの新しい試みがなされている.胎児疾患の出生前診断のみならず,胎児に直接アクセスすることによりある種の胎児疾患の胎内治療が可能であったり,胎児のアシデミアの評価を正確に行うこともできる.

 PUBSの適応

超音波断層法で何らかの異常を認めた胎児に対する染色体分析が一般にPUBSのもっとも多い適応となる.PUBSでは羊水分析と違い,胎児血中のリンパ球を用いたrapid karyotypingにより数日以内に染色体の結果を得ることができる.また羊水や絨毛などによる染色体分析で結果が出なかったときや,モザイクなど結果の解釈に問題があるときの確定診断としてPUBSが選択される場合もある.染色体分析を目的としたPUBSにおいて,出生前の超音波診で何らかの異常を認めた胎児の18%に染色体異常を認めた(1).胎児奇形では単一よりも複合奇形の方が染色体異常の比率が高く(8%対67%,p<0.001),また奇形単独よりも子宮内発育遅延を合併した場合には染色体異常率が圧倒的に高くなる(7%対82%,p<0.001)ので注意が必要である.

胎児のwell-being評価のための血液ガスおよび酸塩基平衡測定がPUBSの適応となる場合がある.たとえば子宮内胎児発育遅延(intrauterine growth restriction; IUGR)において,子宮内で慢性的に低酸素血症やアシドーシスを呈する胎児が存在することはよく知られている.胎児の予後が臍帯静脈ガス値と密接に関連していることが知られている(2).

胎児の血液疾患はPUBSのよい適応である.胎児血のヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板数は妊娠週数とともに直線的に増大することが知られている(3).血液型不適合妊娠における胎児溶血性貧血の診断治療(4),免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)や同種免疫性血小板減少症などによる胎児血小板減少症の評価に用いられることがある.また胎児血を直接検索することにより先天性の血液凝固障害,免疫不全(5)や酵素欠損などの出生前診断が可能である.遺伝子診断を導入することにより対象疾患はさらに拡大する.

【図1】 東北大学産婦人科では1986年より2000年までの15年間に645例の妊婦にのべ702件のPUBSを施行してきた.92年の107例115件をピークにその後はやや減少し,この数年は40件前後となっている.胎児採血の適応としては,胎児染色体分析が全体の半数強を占めていちばん多く,その他胎児血液疾患,遺伝性疾患の出生前診断,胎児のwell-being評価,ウイルス胎内感染の診断などが続く.

 

 臍帯穿刺のテクニック

以下に超音波ガイド下穿刺の基本について解説する.

超音波装置はリアルタイムBモード装置でなるべく画質のよいものを用いる.穿刺用探触子にはいろいろな種類のものがある.また穿刺用のアダプターを用いずにフリーハンドで穿刺する人もいる.フリーハンドの方がより自由な穿刺角度と穿刺部位を選べる利点がある.ただこれにはある程度の経験による習熟と器用さが必要であり,誰にでも簡単にできるわけではない.なお穿刺用アダプターを用いた方がフリーハンドより胎児死亡率が低くなり安全であることが示唆されている(6).

 

【図2】 リニア型の真中より穿刺するプローブは以前にかなり普及したが,穿刺針が超音波ビームに平行に近い角度で進むため,穿刺針自体の視認性が悪くPUBSには適さない.またリニア型は妊婦の腹部には当て難いという欠点もある.セクタ型プローブでは刺入の角度が自由に選べ,穿刺針の全長がしっかり描出されるので,経皮的穿刺に適している.コンベックス型プローブは,視野を広くとれるリニア型と穿刺針の全長を描出できるセクタ型の両方の利点をもち,もっともPUBSに適しているといえる.通常のコンベックス型に穿刺用アダプターを装着するタイプもあるが,10〜15Rのマイクロコンベックス型プローブが小さくて使いやすい.

 

【図3】 具体的には事前に患者の情報を充分に検討し,自分で超音波検査を何回か行って胎児所見と穿刺部位の確認を行っておく.事前にPUBSの難易度を予想して,それなりの準備と心構えをしておくことが大切である.PUBSのすべてが多かれ少なかれ出血の可能性を有するため,プロトロンビン時間,トロンボプラスチン時間,血小板数など母体の出血傾向のチェックは必要である.同様にアスピリンなどの服用の有無にも注意する.患者にPUBSについてのくわしい説明を行う.また予測される結果と合併症についても自信をもって説明し,最善をつくす旨を述べ,患者の同意を得る.PUBS専用の同意書をあらかじめ用意し,患者から署名をもらう方が望ましい.

前処置や前投薬などは特に必要としない.胎児が著明な発育遅延などで穿刺による仮死のリスクが高いと判断されるときを除けば,患者の絶飲食もルーティンには指示していない.PUBS施行前に血管確保を行い,子宮収縮予防のための塩酸リトドリンの持続点滴を行う.さらに胎児心拍モニタリングを行い,胎児状態の評価を行う.基本的なことであるが,ここでdecelerationなどが出現しているトリソミー胎児などは,穿刺の刺激により胎児死亡となる可能性が高いので注意が必要である.

 

【図4】 PUBSが成功できるかのキーポイントは臍帯の穿刺部位の選定にかかかっているといっても過言ではないので,事前の超音波検査で充分に検討しておく.臍帯のフリーループを穿刺する場合と胎盤の臍帯付着部を穿刺する場合のふたとおりがあるが,われわれは通常臍帯フリーループを目標とすることが多い.胎盤が子宮前壁に付着し,臍帯の胎盤付着部が明瞭な場合は,経胎盤的に臍帯静脈穿刺を行うこともある.この場合穿刺は比較的容易であるが,採取した血液が母体血であったり,胎児血であっても母体血が一部混入することが予想以上に多いので注意が必要である.

穿刺部位を決めたら,皮膚から臍帯までの距離とその部位の静脈径を測定し,PUBSの難易度を評価しておく.もちろん臍帯までの距離が短く,かつそこの血管径が大きいほど穿刺は容易である.血管が細くても超音波の画像は機械的に拡大することができるのだが,その分だけ穿刺針の微妙な操作が必要になる.臍帯静脈径の絶対値を事前に頭にいれておいて,穿刺針の操作感覚をつかんでおくことが大事である.ちなみにわれわれの経験では,臍帯起始部で4mm,臍帯中間部で3mmがPUBSの物理的限界であった.いずれにしろ,症例により羊水注入や胎動抑制を併用すれば,妊娠20週以降では臍帯の付着部位にかかわらず,ほぼ100%の胎児からの採血が可能と考えられる.

 

【図5】 マイクロコンベックス型の探触子では穿刺針の全長が描出されるため操作が容易であるが,一方でその画像上の特徴のため死角ができる短所がある.穿刺する前に,描出されない死角に子宮筋腫などの障害物や母体血管などがないことをよく確認しておく.

フリーループの臍帯中間部で穿刺部位を決めるときは,画像上に臍帯静脈ができるだけ横に長く描出され,かつ穿刺針の臍帯静脈への刺入角度がなるべく直角に近くなるような部位を選ぶ.穿刺針が屈曲し前後にぶれても臍帯静脈に到達できること,穿刺針が当たったときの臍帯の逃げが小さいことがその理由である.

 

【図6】 PUBSにおける穿刺針は,子宮胎盤への侵襲,抜去後の出血などを考慮して,通常23GのPTC針を用いている.この程度の細めの穿刺針であると,皮膚や子宮筋層,胎盤を通過するときに針が屈曲し,超音波画像下で針先を見失うことがある.あらかじめ穿刺針の曲がる方向を予測して,超音波断層面から穿刺針が逸脱しないような工夫が必要である.

PTC針の先端には斜めにカットが入っている.穿刺針が組織中をとおるときは針先のカットされた面(bevel)に抵抗が加わるため,カット面の反対方向に穿刺針が屈曲しやすい.超音波断層面と穿刺針のbevelが直行する方向で針を刺入すれば,穿刺針が屈曲しても超音波断層面から針先が外れることはない.慣れてくればbevelの向きを自由に回して穿刺針を進めることにより,針先の微妙なコントロールができるようになる.

 

【図7】 超音波断層法では,超音波ビームの厚み方向に含まれる範囲のすべての対象を1枚の2次元画像に表示する.超音波ビームの中心軸と臍帯静脈がずれていると,針先が血管からはずれていても,画像上は針先が血管内にあるようにみえることがある.このとき吸引しても何も引けなかったり,羊水が吸引されたりすることがよく起こる.臍帯静脈の中心に超音波ビームを合わせるためには,プローブを何度か横に振って(tilting),臍帯静脈が描出され得る角度の範囲を求め,その角度の中心でプローブを固定することが大切である.

 

【図8】 皮膚に対する穿刺針の刺入角度が直角に近いほど穿刺針の屈曲は小さくなる.逆にプローブを腹壁に対してあまり寝かせたり,強い力で腹壁に押しつけて皮膚をへこませたりすると,穿刺角度は結果的に鋭角に近くなり,穿刺針は大きく曲がりやすくなる.プローブは腹壁に対して垂直になるべく軽く当てて固定する.

 

【図9】 われわれがPUBSで用いているのは,マイクロコンベックス型プローブと穿刺用アダプターおよび23G PTC針である.術者,助手,超音波診断装置操作の3名で行うのがふつうである.PUBSの際は穿刺部局所麻酔で行うのがふつうであるが,まれに母体の緊張や動揺が強いときはジアゼパムの静注で沈静をはかる場合もある.胎動が激しく穿刺が難しい場合はパンクロニウム0.2mg/kg(児推定体重)を胎児に直接筋注して胎動抑制をはかるが,必要となるのは実際にはまれである.

 

【図10】 皮膚から目的部位の臍帯までの距離を事前に考慮に入れておく.画像上のガイドラインに沿ってPTC針を刺入する.刺入はゆっくりでかまわないが,均一の力で針先を進め一度に臍帯の近くまでもっていく.小刻みに力を入れたり,針をもつ手によけいな力が入ると,結果的に穿刺針が曲がりやすくなる.穿刺針の先端が目的部位の臍帯まで到達したら一度止め,針先が臍帯に当たることを超音波画像上で確認した後,今度はとりわけ勢いよく針を進め臍帯静脈を貫く.この操作では手首のワンスナップで一気に臍帯を貫くのが要点である.穿刺針をゆっくり進めると,羊水腔中の臍帯が横に逃げてしまったり,針の圧迫で臍帯静脈の前壁と後壁がくっついて両者を同時に貫くような形になり,針を引き戻すと今度は前後壁から一気に抜けてしまい採血に失敗することになる.したがって穿刺針も切れ味のよいディスポーザブルのものを使用するのがよい.

 

【図11】PTC針などの超音波用穿刺針は視認性を高めるために外筒針の先端に傷がつけられており,超音波画像上では白く光って見える.

 

【図12左】 超音波画像上でPTC針が臍帯を貫通したことが確認できたら,助手は内筒針を抜去し,あらかじめヘパリン処理した1ccシリンジを接続して軽く陰圧をかける.内筒針の抜去やシリンジの接続時に,針の先端が動かないように助手は注意して行う.このとき通常は羊水が引けるはずである.

【図12右】術者は外筒針を少しずつ引き抜き,血液が逆流してくるところで針先を固定するが,このとき術者は超音波画像上から目を離すことができないので,血液の逆流は助手が確認して術者に声をかけて合図する.血液の逆流が確認されたら,すぐにシリンジを新しいものに交換して,必要量の採血を行う.胎児体重によって1〜2mlの胎児血を採取する.

 

【図13】超音波ガイド下の操作の最中に穿刺針の針先を見失ったときは,ブラインド操作は危険なので穿刺針の刺入を一時中止し,針をゆっくりと回転させたり,上下に小刻みに動かして,針先を位置を画面上で確認する.もし針先を視認できない場合は一度引き抜いて再度穿刺を行うほうが安全である.モニター画像上,針先が臍帯内にあるのに血液が吸引されないときは,あせらずに臍帯静脈の前後どちらにずれているかを確認し,内筒を再挿入してもう一度臍帯穿刺を行えばよい.

採血が終了したら外筒針を抜去し,超音波断層法で胎児心拍を確認し,その後臍帯抜去部と胎盤胎児面からの出血の有無を観察する.出血はあってもほとんどが3分以内で止血する.

穿刺直後の一時的な胎児徐脈はしばしば認められる副作用である。頻度としては7〜8%程度であるが,対象がIUGR児の場合,胎児徐脈のリスクは15%まで上昇する(7). まれに胎児徐脈が遷延することがあるが,そのときは母体への酸素投与,体位変換を行い,しばらく観察を続ける.ほとんどは数分以内に回復するが,10分をこえて徐脈が遷延するときは帝王切開を考慮する.もし15分をこえて徐脈が持続するようなときは児の予後に何らかの影響があるとされる(8).

 

【図14】採取した血液が胎児由来であることを確認する必要がある.特に臍帯付着部から採血した場合は母体血であることがしばしばある.胎児血と母体血を鑑別するには,赤血球や白血球の粒度分布の比較,ビリルビン濃度,一酸化ヘモグロビンを測定するなどいくつかの方法があり,その場で簡便に測定できる方法を選択すべきであろう.

われわれは赤血球の粒度分布を測定し,平均赤血球容積が100以上の単一のピークを示すことを確認して胎児血と判定している.その場でヘマトクリット管を遠心し,吸光度を測定しビリルビン値の簡易測定をしてもいい.通常,母体血では1mg/m未満下,胎児血では1mg/ml以上の値を示す.

 おわりに

“Fetus as a patient”という理念のもと,ひとりの患者として子宮内の胎児を扱うとして始まった胎児医療において,超音波画像下での操作は診断治療の中心といえる.近年では遺伝子診断が普及してきており,出生前診断としてのPUBSの適応も変わりつつあるが,今後はこの方法が遺伝子治療も含めた胎内治療,胎児管理の一手段として応用される可能性が考えられている.

 文献

1. Murotsuki J, Uehara S, et al: Sonographic findings and fetal chromosomal studies undertaken prenatally by fetal blood sampling using cordocentesis. Ultrasound Obstet Gynecol 1993;3:334-337.

2. Okamura K, Murotsuki J, et al: Relation between fetal blood gas levels and the outcome of babies in severe preeclampsia. Tohoku J Exp Med 1992;167:279-285.

3. 室月淳,岡村州博,他:超音波ガイド下胎児採血による胎児の血液学的所見.日産婦誌1992;44:638-642.

4. 谷川原真吾,岡村州博,他:超音波ガイド下臍帯内輸血により生児を得たRh不適合妊娠の一例.日産婦誌1989;41:621-624.

5. 室月淳,上原茂樹,他:胎児採血による慢性肉芽腫症の出生前診断の経験.日産婦誌1993;45:1353-1355.

6. Weiner CP, Okamura K: Diagnostic fetal blood sampling-technique related losses. Fetal Diagn Ther 1996;11:169-175.

7. Ludomirsky A: Intrauterine fetal blood sampling-a multicenter registry, evaluation of 7462 procedures between 1987-1991. Am J Obstet Gynecol 1993;168:318.

8. Manning FA: Cordocentesis: clinical considerations. Invasive fetal testing and treatment (Harman CR eds.), pp67, Blackwell Scientific Publications, 1995.

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