絨毛生検における合併症と問題点
絨毛生検における合併症と問題点
(室月 淳 2014年2月15日)
本稿では絨毛生検(chorionic villous sampling; CVS)における合併症と,診断における問題点をまとめます.
絨毛生検の合併症
起こりえる合併症としては,出血,感染,流産,Rh不適合妊娠における母体感作,児の四肢奇形などがあるとされています.
出血
経腟的採取では約30%に性器出血を認める.ただしこの出血は一時的なもので,流産のリスクとは関係しません.これに対し経腹的採取では,子宮内に血腫形成を認めることがありますが,性器出血はかなりまれです.
感染
感染のリスクも経腟的採取で問題となってくる.子宮内感染をおこすとほとんどが感染性流産となる.また母体の敗血症をおこした症例報告があるので,CVSのときはじゅうぶんな消毒などの前処置と,操作後の予防的抗生剤投与をおこなうことが勧められます.
流産
CVS後の流産率は1-2%とする報告がおおい.検査施行時期,採取方法,術者や施設の熟練度によってかわってくるので注意が必要となります.流産兆候をしめす例,出血や感染をみとめる例などではCVSはひかえることが望ましいでしょう.
CVSのメリットのひとつは,羊水検査にくらべてより妊娠の早い時期におこなえることです.しかしCVSがおこなわれる妊娠10-12週では,羊水検査のおこなわれる16-18週にくらべ,自然流産率がかなり高いという事実があります.またCVS,羊水検査の対象となる高齢妊婦ではもともとの自然流産率が高いことを考えると,絨毛生検の1-2%という流産率はけっしておどろくべき数字ではないかもしれません.
Rh不適合妊娠における母体感作
Rh不適合妊娠における母体感作は,CVS時に胎児血が母体血中に流入することによって生じると考えられています.Rh不適合妊娠では検査後にかならず抗Dガンマグロブリンを予防的に投与すべきです.またおなじ理由で,HIV陽性妊婦,HBe抗原陽性妊婦,HTLV-1陽性妊婦などではCVSをさけるべきと考えられています.
児の四肢奇形
CVSのあとに出産した児に,四肢末端の奇形(LRD: limb reduction defects)がふえることが報告されています(Firth 1991).これは妊娠早期におこなうほどリスクがあるとされている.CVSは妊娠9週から可能とされているが,われわれは妊娠11週以降におこなうことを原則としています.
絨毛診断の精度について
母体組織の混入
CVSによる採取検体には母体由来の脱落膜が混入することがあり注意が必要です.採取直後に実体顕微鏡下に脱落膜をとりのぞき,検査検体への混入を最小限とするようにします.それでも少量の母体組織の混入の可能性がありえるため,染色体分析や生化学的検査,遺伝子検査の実施や結果の解釈にあたっては配慮が必要となります.
胎盤モザイクの問題
胎盤に限局する染色体モザイク(confined placental mosaicism; CPM)が1%くらいに存在するといわれています.この場合には当然ですが,CVSでの染色体分析だけでなく遺伝子解析結果も胎児の状態を反映しない可能性があります.
胎盤モザイクをしめした場合には,妊娠中の胎児死亡や胎児発育遅延の頻度が高くなるという報告もありますが,すべてが異常にむすびつくわけではなく,胎盤モザイクを理由とした妊娠中絶はおこなうべきではないと考えられます.
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カウンタ 6582(2014年2月15日より)