妊娠初期超音波と新出生前診断
「妊娠初期超音波と新出生前診断」 序文より
室月淳・原田文・Kypros Nicolaides共著,メジカルビュー社,7,875円
序文からの引用
NT(nuchal tranlucency)という超音波サインの概念が日本に輸入されたのは1990年代の後半だったでしょうか.胎児の染色体異常に関係するということで,産科臨床の現場ではNTにたいする対応で多少の混乱をきたしてきました.近年では鼻骨の骨化やいくつかの血流異常などもくわえられ,さらにはPAPP-Aといった妊娠初期血清マーカーも組み合わされて胎児のリスク算定もなされるようになりました.また無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)ないしはセルフリーDNAテストが,2013年4月から国内の日本医学会認定15施設でいっせいに開始されました.社会的におおきな話題となり,検査開始についてさまざまな議論がなされてきたのは記憶にあたらしいところです.
妊娠初期の超音波スクリーニング,妊娠初期母体血清マーカー,そしてNIPTなどといった出生前診断の新しい流れをまのあたりにしてきながら,実はこれまでこれらのことをとりあげた専門書がなかったことに気がついていまさらながら驚いています.妊娠初期のスクリーニングや診断を積極的にとりあげるにせよ,逆につよく批判していくにせよ,診断技術の体系をきちんと理解する必要があることはまちがいありません.
周知のとおりこれらは遺伝学的検査といわれるものです.WHOやその他のガイドラインは,遺伝学的検査を一般の臨床検査と区別し,その実施には必ず専門的な遺伝カウンセリングを行うことを指示しています.これからの産婦人科医は臨床遺伝学と遺伝カウンセリングの基礎知識が要求されています.さらには学会研究会やメディア,あるいは検査会社の宣伝などをとおして,遺伝および遺伝学的検査についてさまざまな情報がながれるなかで,われわれはそれをうのみにせず,また目先の患者のニーズや利益のみにとらわれず,遺伝子医療の本質を理解し,その社会的,倫理的影響までを見抜く新しい能力が必要です.それがいまいちばん重要視されている「遺伝リテラシー」というものです.
この本のおもな内容は,共著者の原田文先生がKing’s College Hospitalに留学し,Prof. Nicolaidesのもとで学んだFetal Medicine Foundation(FMF)の妊娠初期スクリーニングプログラムの具体的な内容を紹介したものです.その後半にわたしが国内におけるNIPTの現況と問題,将来のみとおしについてまとめた文章をつけくわえました.この本が上記の「遺伝リテラシー」を身につける一助となってくれれば幸いです.
最後に,むずかしい問題もはらむテーマの専門書を出版という形で世に現わしていただいた編集部の浅見直博氏の労にたいしてこころより感謝しお礼もうしあげたいと思います.
室月 淳
東北大学大学院医学系研究科先進成育医学講座胎児医学分野/宮城県立こども病院産科
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カウンタ 2899 (2014年3月30日より)