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胎児心拍制御機構

胎児心拍制御機構

                                  (室月淳 2017年7月8日)

この文章は2002年に書かれた総説です.

 はじめに

胎児管理の臨床に胎児心拍数モニタリングが導入されて以来,心拍変動と健康状態の評価の関係に多大な関心が払われてきた.成人における心拍数の調節機備についてはよく知られている.簡単にいうと,心拍数を増加させる交感神経刺激と心拍数を減少させる副交感神経刺激との綱引き(push and pull)により調節されており,胎児においてもほぼ同様のシステムが働いていると推定される.胎児の心拍変動とは,生理学的にはすなわち胎児心の変時活動である.

心の変時活動は,正常では洞房結節におけるインパルスの産生速度により規定されている.この心のペースメーカー活動は主に自律神経活動により調節されているが,その他いくつかのホルモンによっても調節を受けている.またペースメーカー組織の温度と代謝活性(たとえば温度と代謝の上昇によって心拍数が増加)や,血中イオンおよび pH の変化によっても大きな影響を受ける.

成人と同様に胎児心の洞結節にも固有調律があり,それを修飾する多くの因子が存在する.妊娠後期のヒツジ胎仔において,神経因子は交感神経系,副交感神経系をとおして直接洞結節に作用(1)するか,副腎髄質からのカテコールアミン分泌により間接的に働く(2)ことが知られている.これらの神経系の影響は妊娠中期ではまだ強くなく,胎齢に伴う発達を示す.

生体の刻一刻の変化に対して,各臓器に必要な血液を送り出すために,いくつかの反射調節機構によって心臓の働きを変化させ,生体の恒常性を保とうとする.その調節機構の中心が自律神経系である.自律神経系は心拍数だけではなく,心収縮力の増強や心拍数に影響するいくつかの反射に関係する.心拍数は1回拍出量に影響を与えるが,基本的にそれは別個に調節された変数である.ヒトにおいては,成人,胎児を問わず,心拍数のほうが1回拍出量よりもはるかに心拍出量の一時的調節をするのに重要である.すなわち,心拍数の調節が生体の外界への適応をつかさどるのに大きな働きをしているといえる.

本稿では,胎児の心的制御機構に関する自律神経系の成長発達の面から主に記述し,あわせて胎児心拍数モニタリングにみられる心拍変動の由来を明らかにする.自律神経系の発達については,〜反コ愿,免疫生化学的にとらえた自律神経組織,機能的あるいは薬理学的にみた自律神経系機構,リズム発生モデルとしてとらえた自律神経調節機構の3 つの観点からみていく.

 

 1. 自律神経系の成長発達

a. 自律神経系の心拍コントロール

自律神経系の交感神経と副交感神経は,常に相反する作用をもつ.すなわち交感神経系は 心的数を増加させ,副交感神経系は減少させる刺激を心臓に送り,心拍のバランスをとりあっている.正常な状態では,心拍はこのふたつの微妙な調節を受けて絶えず変動している.この変動が胎児心拍数モニタリング上では心拍再変動として表現される.

交感神経系による心拍数の上昇は,延髄に存在する心拍数上昇中枢によって支配される.ここに発したニューロンは交感神経幹を下行し,心臓神経となって洞房結節に至る.洞房結節では神経伝達物質であるノルエピネフリンが分泌され,心拍数上昇刺激となる.一方,心拍数下降作用を有する迷走神経も,節前線維は脳幹の神経核のニューロンからおこり,迷走神経を介して脳幹をでていく.節後ニューロンは心に存在する神経叢内に認められる.洞房結節ではアセチルコリンが分泌され,心拍数の下降を起こす.

自律神経系の活動は,洞房結節のペースメーカー信号の発生間隔や房室伝導速度に大きな影響をおよぼす.発達によるアクションポテンシャル特性,イオンチャネル機能,心伝達系の組織学的構造の変化に加え,自律神経系機能の発達成熟が,この場合心拍調節に重要な役割をはたす.また頸動脈や大動脈弓にある圧受容体,化学受容体に刺激が加わると,心拍数調節に影響を与えるさまざまな反射が生じる.血圧の変化や酸素分圧,二酸化炭素分圧,水素イオン濃度などがその刺激となる.

発生学的には,胎児心臓がその拍動を開始するのは胎齢22から23日のころとされている.在胎7週ころに心臓が2心房2心室に分離し,10週ころに基本的な構造がほぼできあがる.刺激伝導系にかんしては,在胎6週前後に洞結節の発生がおこり,10週には房室結節が完成し,おそくとも16週までには刺激伝導系がその機能を完成するとされる(3).胎児心における自律神経系の発生やホルモンにたいする反応の開始などについて図18にまとめた.

b. 自律神経系の組織学的発達

1) 副交感神経系

組織学的,生化学的な視点からは,胎児心のかなり早期の段階から副交感神経の存在が間接的に確かめられている.もちろん胎生早期の心のなかに自律神経が見つかったからといって,その存在が神経学的な機能を直接意味するわけではない(4).副交感神経はコリン作動性(cholinergic)で,その神経伝達物質はアセチルコリンである.アセチルコリンは受容体中に存在するコリンエステラーゼによって分解される.

ニワトリの心において,アセチルコリンの合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼ(choline acetyltransferase)の免疫染色により,コリン作動性神経の存在が受精の3日目くらいより示唆される.胎齢が進むとコリンアセチルトランスフェラーゼの増加とともに,副交感神経伝達物質の前駆体であるコリンの取り込みが徐々に増加する.コリンの取り込みは神経節伝達が完成する直前の胎齢10日でピークに達する(5).受容体に関しては,哺乳類の心ではムスカリン受容体が心の神経支配が実際に完成する以前に存在している.ラット,ウサギ,ヒトの胎児心で,神経支配ができる前にアセチルコリンエステラーゼの存在もまた確認されている(6).ラットの心房でアセチルコリン合成の急速な増大が認められる.心のコリン作動性神経支配は,洞房結節と房室結節の領域にきわめて豊富である.ムスカリン受容体はラットやヒツジ胎仔の心筋で,成獣に比べて豊富である.ムスカリン受容体のセカンドメッセンジャーであるホスホイノシトール(phosphoinosilol)産生は,未熟心においてムスカリン受容体発現後に増大することが報告されている(7).

2) 交感神経系

ヒト,ラット,イヌを含む多くの哺乳類の出生時では,交感神経系は副交感神経系ほどの発達を認めないが,出生後最初の1か月で交感神経は急速な成熟を示すことが知られている.ヒト新生児の心伝達系の免疫組織学的研究によると,洞結節と房室結節のほとんどにドーパミンβーヒドロキシラーゼ(交感神経の推定)を認める(8).イヌ胎仔心の詳細な免疫組織学的研究においても同様の結果がでている.心房,洞房結節,房室結節,心内膜における交感神経の存在は,妊娠中期に最初に確認され,その後徐々に増加し,生後2か月で最大に達する.Lebowitzらの妊娠ヒツジを用いた古典的研究(9)においても,胎齢75~85 日(満期150 日)では胎仔心に交感神経線維が存在しなかったが, ドーパミン含有細胞は心筋にびまん性に存在していた.胎齢100〜110日までには交感神経が冠動脈,心筋へ分布し,出生前後にかけて心全体のネットワークを作り上げていた.

このように組織学的,免疫生化学的にみた場合,心の副交感神経系は胎生早期より発生し妊娠中に徐々に発達するのに対し,交感神経系は妊娠中期に遅れて発生し,出生前後に急速にそのネットワークを発達完成させることが示されている.

c. 機能的あるいは薬理学的にみた自律神経系機構

1) 副交感神経系

心の副交感神経支配の発達は,動物胎仔のムスカリン遮断,迷走神経切断,迷走神経刺激実験験の結果により示されている.Schifferliら(10)のヒト母体へのアトロピン投与実験では,胎児心拍の増加が胎齢により直線的に大きくなり,また投与後の心拍数は160bpmに一致することを示した.この研究からは,在胎15週の段階ですでに胎児心の迷走神経支配は存在していること,妊娠週数とともに胎児の基準心拍数が低下するのは主に副交感神経系の緊張が強くなるためであることが示唆される.

ヒツジ胎仔では,迷走神経刺激による心拍数低下は胎齢に依存して大きくなった(11).副交感神経反射の持続的な成熟は,多くの種で出生後も引き続き認められる.副交感神経刺激に対する成熟した反応が認められるのは,生後1~2か月になってからである(12).

2) 交感神経系

胎児期の交感神経系の活動は血中カテコールアミン濃度に反映される.ヒト胎児においてはカテコールアミンのレベルがきわめて低いことが知られている(13).βブロッカーであるプロプラノロールを胎児に投与すると,心拍数が10%低下する(14).一方,交感神経遮断薬であるグアネチジンを投与しても,胎児心拍にほとんど影響を与えない.すなわち,いずれにしろ交感神経系が胎児期の心拍に与える影響はかなり小さいと考えられる.

交感神経系は胎児が低酸素下に陥ったとき重要な役割をすると考えられる.たとえば,ヒツジ胎児に低酸素負荷をかけさらにプロプラノロールを投与すると,心拍と血圧の低下がおこり循環動態が急速に破綻する(14).同様にα受容体遮断薬であるフェノキシベンザミンの投与により,低酸素下のラット新生仔の死亡率が大きく上昇したという報告もあり,胎内で交感神経系の機能はいまだ未熟であるにもかかわらず,胎児の循環系のホメオスターシス維持のため重要な役割を果たしていると考えられる.

3) 圧受容体反射

動脈圧受容体(arterial baroreceptor)は,血圧,特に平均動脈庄の上昇を刺激として受けとめ,その刺激が延髄の心臓抑制中枢に達して心拍数を減少させる.この反射は副交感神経系を介して,心拍数と心拍出量を減少させることで血圧を下げようとする調節機構である.また逆に,血圧が下降したときは交感神経が優位となって,心拍数増加と末梢血管収縮により血圧上昇をおこす.

ヒトにおいては在胎週数とともに基準心拍数が低下し,それは1週でほぼ0.8bpmの割合となることが知られている.この胎齢の増加にともなう心拍数の低下は,ヒツジ胎仔を用いたBodyら(15)の実験でも確かめられている.すなわち,胎齢の進行とともに上昇する平均血圧が,圧受容体を介して平均心拍数を低下させていることが示唆されている.同様にヒツジ胎仔にたいして,継続的な胎盤塞栓により慢性の低酸素血症と血圧上昇の負荷をかけると,コントロール群にたいして基準心拍数の低下がおこるが,2週間程度でコントロール群とおなじ水準に戻ることが報告された(図19)(16).持続的な血圧刺激によりリセッティングしたと考えられる圧受容体により,一時的に低下した心拍数がもとの水準に復帰したと考えられる.

d. 数学的解析による自律神経系調節機構

1) 心拍制御の動的モデル解析

一般に,外部から観察するひとまとめの対象,すなわちある機能をもった観察の対象物を系(system)と呼ぶ.系のその時どきの挙動を表すための変数が状態(state)である.この状態が時間とともに変動する場合,系は動的システム(dynamic system)と呼ばれ,状態の変動の法則は数学的モデルで記述されることになる.

われわれが日常観察している胎児の心拍変動という現象も,動的システムの状態の時間的変化として認識される.こういった生体のリズムは時間的経過とともに状態が刻一刻と変化する.このような現象から,状態の変化の法則を見いだし,それを記述する数学的モデルを構成することにより,生体の動的機能を明らかにすることができる.

動的システムの解析は本来非線形解析によらねばならないのだが,自律神経系の心拍数制御機構の実際の解析には周波数分析が有用である.具体的には心拍R-R間隔のパワースペクトル解析により自律神経活動を予測することが試みられている.これは洞房結節への自律神経入力のゆらぎが心拍変動を起こしていることに着目し,心拍変動に含まれている周期的変動を周波数の違いによる成分に分け,スペクトル上のピークとして表す方法である(図20).各ピークの周波数軸上の位置とピーク下の面積からその成分の周波数とパワー(その成分によって説明される分散)が得られる.成人と同様に胎児においても,低周波(LF)成分や高周波(HF)成分がスペクトル上で独立したピークとして現れることがわかっている.

スペクトル分析法には,高速Fourier変換(fast Fourier transformation: FFT)や自己回帰(auto-regressive: AR)モデル,最大エントロピー(maximum entropy method: MEM)などがある.

2) 心拍変動の各成分の発生機序

心拍変動の各成分の発生機序については,成人についての研究が進んでいる.成人の心拍変動では,0.1 H z 以下と0.2〜0.3Hzの2つの周波数領域にスペクトルの大きなピークが存在することがわかっており,これらの波はそれぞれ交感神経系,副交感神経系の活動を密接に反映していることが実験的に示されている(17)(18).

生理学的にみると副交感神経はコリン作動性であり,アセチルコリンは受容体に存在するコリンエステラーゼによって速やかに分解されるため,副交感神経系の作用は速やかに出現し速やかに消失する特徴がある.一方,交感神経系はアドレナリン作動性(adrenergic)で,神経伝達物質はノルエビネフリンである.ノルエピネフリンは受容体に作用したあと再吸収され,血流に運ばれて肝や胎盤で処理されるので,その効果の出現や消失はより緩徐である.そのため副交感神経系による心拍調節の変動周期は短く,交感神経系のそれは周期が長くなる.基準心拍数を維持するためのそれぞれの神経の伝達特性の差が,心拍変動のスペクトルのピークとなって現れると考えられる.

3) スベクトル解析による胎児心拍変動

Feraziら(19)は,母体腹壁誘導お電図から得られた胎児心拍R-R間隔時系列データをスベクトル解析することにより,成人と同様にLF (0.1 Hz) とHF(0.6〜0.9 Hz) の2つのスペクトルピークが存在することを報告した.胎児呼吸様運動がなくなるとHF成分は消失し,成人と同様にHF成分は副交感神経系由来,LF成分は交感神経系由来であることが推定された.ヒツジ胎仔を用いた実験においても2つの周波数成分のピークが明瞭に同定されたが,βブロッカー,アトロビン投与による変化により,HF成分は副交感神経系由来であるのに対し,LF成分は交感神経系と副交感神経系の両方の影響を受けていることが示された(20).

ヒト胎児の心拍スペクトル解析によると,交感神経系由来と考えられるLF領域のスペクトルピークは在胎18週ごろには認められ,23週,28週と週数が進むにつれパワースペクトルも増大する(21).これは胎児の成熟に伴う交感神経系の発達を反映していると考えられる.臍帯動脈のドプラ血流波形を用いて心拍の同定を行ったより妊娠早期の検討(22)によると,在胎16週以前では心拍変動がランダムに現れているが,17週以降になるとスベクトル分布がパターン化するようになり,この時期に自律神経系の調節機構が機能しはじめることが示唆されている.

4) パワースベクトル解析による自律神経系評価の限界

心拍数のパワースベクトル解析は非侵襲的かつ簡便に行うことのできる検査であり,自律神経機能の鋭敏な指標となるが,方法自体体に内在する限界も存在する.自律神経活動と心拍数応答のあいだにはS字状の関係があることが知られており,あまり大きな変動範囲でなければ線形システムで近似することができる.線形システムでは同定した動特性を用いて出力から入力を求めることが可能だが,自律神経による心拍数調節では交感神経と迷走神経の双方が心拍数を調節しているので,一般には出力から入力を直接推定することはできない.ただし高周波成分領域において,交感神経による心拍数応答のゲインが,迷走神経による心拍数応答のゲインに比べて無視できるほど小さいと考えると,高周波成分の心拍変動は迷走神経の同じ阿波数での変動を反映しているとはいえる.

このように,副交感神経活動の高周波成分がある程度推定されるが,これが副交感神経活動の平均値を反映しているとはすぐにはいえない.また交感神経と副交感神経には心拍数応答に相互作用が存在しており,心拍数変動のパワースペクトルの解釈にも影響を与える可能性がある.これらの諸問題は,もともと生体リズムの本質が非線形性にあるところに,線形解析であるパワースペクトルによって近似的に解釈しようとする原理的な限界から生じていると考えられている.

 

 2. 胎児心拍数モニタリングにみる心拍変動

a.心拍数細変動(variability)

心拍数細変動にはいわゆる長期細変動(long-term variability: LTV)と短期細変動(short-term variability: STV)の2つが存在する.胎児心の自律神経支配が進むと,心拍数細変動が最初にSTV,次にLTVとして現れる.ヒト胎児においては,在胎20週くらいまでに心拍数細変動の発生メカニズムができあがり,24週までにはっきりと目で確認できるようになる.Dawesら(23)の報告によると,LTVの指標となるmean minute rangeは,在胎28週から40週にかけて連続的に増加するという.また同時に在胎28週以降になると,細変動の大きい時期(active phase)と細変動の小さな時期(resting phase)にわかれるようになる.

上に述べたように,基本的に細変動は交感神経と副交感神経の綱引きによって生じる.この調節機構はおそくとも在胎20週までには出現するといわれる.ヒツジ胎仔にプロプラノロールとアトロピンの両方を投与した実験によると,心拍数細変動の60〜65%が消失した(24).細変動のなかの2/3は自律神経系の拮抗作用によるもので,残りの1/3は心自体の内因性リズムや液性調節因子の存在が考えられる.またTeraoら(25)による無脳症胎児における心拍数モニタリングの解析によると,細変動に関する心拍数制御の中枢は延髄および間脳に存在し,さらに上位の大脳皮質の制御も受けていることが明らかになっている.

b. 一過性頻脈(acceleration)

一過性頻脈は在胎20週から26週の問に現れ,妊娠週数が進むと一過性上昇の程度が大きくなる.ほとんどは胎動によって生じる.胎動がおきて1秒から5秒のあいだに一過性頻脈が開始するといわれている.

胎動より生じる信号は,ふたとおりの道筋を通って心拍制御中枢へ向かうと考えられる.ひとつは末梢の筋固有受容体から心拍制御中枢に送られる場合と,もうひとつは運動皮質の興奮が心拍制御中枢に直接波及する場合である.この一過性頻脈はアシドーシスの進行によって消失する(26)が,それは中枢神経系の制御によるものと考えられている.

c. 一過性徐脈(deceleration)

胎児心拍数の一過性の減少を子宮収縮との関係より,遅発一過性徐脈(late deceleration),早発一過性徐脈(early deceleration),変動一過性徐脈(variable deceleration)の3つに分類するのは周知のとおりである.

遅発一過性徐脈は,胎児の低酸素血症が化学受容体を刺激して反射的に生じる場合と,さらにそれに低酸素血症とアシドーシスの心筋抑制作用が加わる場合とがある.後者の場合ではアシドーシスの進行のため,基線細変動も消失することが多い.早発一過性徐脈については,以前より児頭圧迫による頭蓋内圧の亢進による迷走神経反射によって生じると考えられてきたが,近年ではこれを遅発一過性徐脈の仲間としてとらえ,低酸素血症が化学受容体を経由して迷走神経中枢を刺激して生じると考えることが多い.

変動一過性徐脈は分娩第2期に発生する徐脈のほとんどを占めるが,陣痛による一過性の臍帯圧迫により生じた高血圧が,圧受容体を介した迷走神経反射ををおこして一過性の徐脈になると考えられる.臍帯圧迫の時間と程度によって一過性徐脈はさまざまなかたちを取りうる.同時に胎児の低酸素血症は心筋そのものを抑制し,子宮収縮におくれて胎児心拍を減少させると考えられる.

 

 おわりに

妊娠の進行にともなう胎児心拍制御機構について,主に自律神経系の発達の観点から解説した.さまざまな外乱に対して心拍数を調節することによって,脳血流を中心とした生体の恒常性を維持する働きを行っていると考えられる.胎児の心拍調節機構について知ることは,臨床上で胎児心拍数モニタリングの所見を読みとるのに役立つだけではなく,背後に存在する胎児の生理的状態にたいするより包括的な理解に結びつくものと思われる.

 

 文 献

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