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胎児奇形の診断を受けた両親のためのケア

胎児奇形の診断を受けた両親のためのケア - 遺伝カウンセリングと出生前診断

                                              (室月 淳)

超音波診断の進歩と普及により,妊娠中に予期せぬ胎児の異常が見つかることが増えてきた.胎児の病気に対しては,状況に応じていくつかの対応が考えられる.それぞれのケースでの両親の決断と,その後の経過を取り上げて考える.大事なことは,まず第一に正確な事実を直接に,明確に,率直に伝えることである.その上でご両親の選択を尊重しそれに沿った支援を行なう.ご両親の児の受容を目指していくが,たとえどのような選択をしようともその選択を支援していくことになるだろう.

 はじめに

1970年代に羊水検査と超音波診断が導入されて以来,胎児診断は周産期ケアとは切っても切り離されない関係となった.胎児診断はその後より正確に,より詳細に,より早期にと進歩してきた.しかし胎児奇形と診断されその告知を受けることは,それが重度のものであれ軽度のものであれ,両親にとっては大きな衝撃となる.胎児異常の診断では,両親は妊娠継続や分娩方法・分娩時期などで困難な選択を迫られることが多い.告知から出産に至るまで両親がどのような心理状態でいたのか,われわれ医療者が知る機会は今までほとんどなかった.

実際のところ超音波検査によって胎児奇形を診断する目的にはいくつかある.本稿では胎児奇形をどのように告知し,その後の妊娠分娩をどのようにケアしていけばいいのかを,それぞれの場合において実際の症例を提示しながら考えていきたい.

 胎児超音波検査

胎児超音波検査には,胎児の発育や胎盤,羊水量をみる一般検査,nuchal translucency(NT)などにより病気のリスクを評価するスクリーニング検査,頭部や心などの病気を調べる精密検査という3つのレベルがある.図1は妊娠12週の胎児の経腹超音波像であるが,通常の検査(一般検査)では心拍,胎動の有無や,胎齢確認のための頭臀長(CRL)を計測することが主な目的である.同時にまったく同じこの画像から,胎児の後頚部の浮腫(NT)を計測して染色体異常のリスクを推定するスクリーニング検査を行うこともできる.さらに胎児の腹部には臍帯ヘルニアを思わせる膨らみが観察されている.肝が脱出する臍帯ヘルニアでは妊娠10週という早期に診断されたまれな例が報告されているが,通常は生理的臍帯ヘルニアと鑑別するために妊娠12週以降でなければ診断できないといったやや専門的な知識があって,初めて胎児奇形の精密検査が可能になる.このように目的と性格の違う3つの検査がごっちゃになって一連のものとして行われているところに胎児超音波検査の問題があると思われる.

図1.妊娠12週の胎児

胎児異常を診断する目的には以下の3つがある.ひとつめは胎児に直接治療を行い,胎児を救命したり重篤な障害が残らないようにするためである.現在行われているのは双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー手術(FLP)や無心体双胎に対する超音波ガイド下ラジオ波焼灼術などが上げられるが,実際の頻度としては高くない.ふたつめとしては分娩の方法を決めたり,児の出生後に治療の準備をするためである.上であげた臍帯ヘルニアなど多くの胎児奇形が対象となる.みっつめは妊娠を継続するか否かの決断を行うための情報を両親に提供するためである.ただしこの場合は妊娠22週未満であることが最低限の条件となる.

そこで見つかってしまった胎児の病気に対して,それぞれの状況での両親の決断と,その後の経過を以下に具体的に取り上げて検討する.

 胎児に治療を行う

症例は26歳の初産婦.前医で双胎妊娠,一児の心拍を認めず胎児死亡として管理されていた.しかし妊娠の進行とともに死亡胎児も増大してきて,妊娠18週で「無心体双胎」の診断となった.「どうされますか? 中絶される方も多いのですよ......」との説明があったが,本人の希望もあって妊娠19週で当院紹介となった.

当院では無心体双胎の病気について,そして胎児治療について説明を行った.無心体双胎は約35,000分娩に1例,一絨毛膜性双胎の約1%に発症するといわれるまれな胎児奇形であること,双胎の生児の方は高心拍出量性心不全が次第に進行し,50〜75%が生命予後不良とされていること,超音波ガイド下に無心体内にラジオ波電極針を刺入し,血管を凝固焼灼して血流を遮断する胎児治療があること,ただし本邦で初めての施行例となることなどである.

インフォームド・コンセントを得たのち,妊娠19週で超音波ガイド下ラジオ波焼灼術を行った.術後の経過は良好で,妊娠41週で自然陣痛が発来したが,最終的に児頭骨盤不適合のため帝王切開となり,女児3708gを出産した.児には特に異常などを認めなかった.

6年後にご本人から手紙をいただいた.その中から引用する.「もうすぐ6歳になります」「胎児治療はとても辛かったです」「治療前の決断から治療のときは忘れたくても忘れられません」「でも今,娘が元気に生活が送れて.....」「選択を迫られ悩んでいらっしゃる方に治せるという方法があることを伝えたい」「私自身,中絶を考えていたひとりでもあるので,1人でも多くの人に知って出産をしていただきたいと願っています」.

 分娩の方法を決めたり,出生後の治療の準備をする

29歳初産婦.妊娠初期は米国の病院で管理され,血清マーカー試験でAFP高値を指摘,超音波精査の結果「臍帯ヘルニア」の診断を受けた.帰国して妊娠21週のときに当院に紹介され受診した.米国の病院では妊娠中絶を勧められていたが,当院での超音波診断では「腹壁破裂」の可能性が高く,妊娠の継続と出生後に児の治療を行うことを勧めた.腹壁破裂は臍帯ヘルニアと異なり染色体異常や合併奇形の頻度は低く,出生後の手術で治癒が期待できると説明した.本人および米国人の夫と何回か面談の後に妊娠継続を決意され,そのまま外来管理を行った.

その後順調に経過していたが,妊娠30週ころになって羊水が増加したため入院管理となった.妊娠33週で陣痛発来したため緊急帝王切開を行い1807g男児を娩出した.児の状態は良好で,腹壁破裂に対して出生当日に腹壁閉鎖術が行われた.ところがその後先天性胆道閉鎖が合併していることが明らかになり葛西手術(肝門部空腸吻合術)がなされた.手術の方は一応成功し児の状態は良好であったが,現在は米国在住で将来的に肝移植を考えているとのことである.

腹壁破裂と先天性胆道閉鎖の合併はきわめてまれであるが何例かの報告がある(1).腹壁破裂であれば完治の可能性が高いとお話しして妊娠継続の道を選択したのだったが,結果的に先天性胆道閉鎖というまれな合併症が存在し,今後とも継続的な治療が必要な状況となった.妊娠継続にはあれほど迷った両親も,しかし元気に出生して泣いている我が子を一度抱いた後は,産んでよかったと何度も言ってくださった.受容は非常に良好といえた.

 妊娠を続けるか否かの情報を両親に提供する

妊娠11週にNuchal translucency(NT) 4mmのため当院に紹介される.NTの意味について説明したところ羊水検査を希望したため,妊娠16週で羊水穿刺を施行した.19週のときに21トリソミーという結果が得られ,夫婦にお話をしたところ妊娠中絶を希望,妊娠20週流産となった.

NTの超音波計測は血清マーカー試験と同様に染色体異常のスクリーニング検査としての意味をもち,本来の年齢特異的リスクがどのように変わるかを表す.検査の性格として,最終的な確定診断である羊水検査とは異なることを明確にさせなければならない.また本来はきちんとしたインフォームド・コンセントの後に計測しなければならないといえる.

羊水検査に対する姿勢には医師によって差があることはよく知られている.医師により説明の内容と量が異なり,また肯定的あるいは否定的な態度によっても妊婦の意思決定に影響すると考えられる.羊水による染色体検査は場合によっては胎児の生命を操作するという意味合いがあり,夫婦にはその現実を直視する必要がある.夫婦にきちんとした認識をもってもらうためには,ある程度検査に対する慎重な姿勢を保つのがいいかも知れない.

夫婦自身はダウン症候群のことは知らないといいながら,「ダウン症の子どもはいらない」と検査を受けることを決めていることがある.ダウン症候群に関する知識が不十分だと認識しながらも,あえて自らそういった情報を求めず,完璧な子ども,いわゆる「パーフェクトベビー」を望む夫婦も多い.ダウン症候群に対するイメージは人によってさまざまである.今日では平均寿命は50歳をこえ,障害には個人差が大きく,大学を卒業している人もいる.意思決定にはどういう情報が必要なのかを慎重に考えなければならないだろう.

もし羊水検査でダウン症候群が明らかになった場合でも,「ダウン症児の誕生は障害児の望まれない誕生」と一方的に位置づけたような対応はしない.基本的にすべての生命の誕生はこれを祝福をもって迎える.しかし他方で,胎児診断の結果が妊娠22週未満で明らかになって,母体の健康を損なうなどの理由で中絶がやむをえないとみなされる場合,それも選択肢として認める.もちろん妊娠22週以降であればそれは一切あり得ないだろう.

 胎児奇形の告知にあたって

胎児は「イメージの赤ちゃん」と言われることがある.父親はおろか母親にとってもおなかの中にいるわが子はまだ現実のものではなく,心の中でさまざまな空想を膨らましてイメージしている存在である.そのような状態で,突然予想もしていなかった胎児の異常の指摘がなされると,イメージは容易に暗転して胎児はおそろしい化け物のように感じてしまうことがある.これを「モンスター・イメージ」と呼ぶことがあり,医師から最初に受けた説明や態度などに大きく影響を受けるといわれる.そのイメージは一種の自己否定,自己嫌悪の裏返しなのであるが,「おなかに入れておきたくない」という妊娠継続意欲の喪失を引き起こす.

最初の面談告知のときに受けた両親の感じ方次第によって,その児をどう受け止めるか,児の障害に長期的に受容できるかどうかが大きく左右される.そのために何が伝えられるかだけでなく,いかに伝えられるかが重要である.できる限り両親そろって告知に臨んでいることが望ましい.問題が特定された時点でできるだけ早く,親身になって,明確かつ率直に説明を行うべきである(2).

大切なのは説明(カウンセリング)の時間を十分にとって両親の理解が得られるようにすると同時に,質問の機会と質問しやすい雰囲気をつくることである.説明の後に患者さんの理解の程度を確認し,次回の説明にフィードバックするよう心がける.しかし初回の告知では両親は動転しているのが通常の姿であり,ほとんど理解できなかったと多くの人間が回想している.また胎児奇形によっては告知は早急なものではなく段階を踏んだ方が望ましい場合もある.初回の面談は長時間となり過ぎないようにして,改めてお話しする機会を設けるようにすべきだろう.

そしてもっとも重要なのは,両親に対する気づかい,思いやりのみならず,子どもに対して肯定的な捉え方をもって告知することかも知れない.明確に,率直に告知することが最も大事であるが,さらにその説明の中にいかに支持的な,あるいはポジティブなメッセージをこめて伝えることができるかを考える.そしてどんなに重い障害を抱えていても,生まれてくる命を祝福する準備があることをきちんと伝える必要がある.

 いかにポジティブなメッセージを伝えるか

両親は実際よりもずっと恐ろしい奇形をそうぞうしている.だから「赤ちゃん」と表現し,超音波画像などを積極的に使って児の姿を両親に示し,肯定的なイメージが形成されることを期待する.また障害に関しては考えられる予後の「幅」,すなわち期待される最善と最悪の結果について説明する.疾患の告知においては通常もっとも最悪の結果を説明することに医療者は慣れているが,まだ生まれてこない児に関しては細心の配慮が必要である.出生前の不確実な段階では,児の予測される機能について明確に説明できないこともあるかも知れない.「幅」という概念は,両親に楽観的な希望の余地を残し,また目指すべき目標を与えることになる.さらにその場合,新生児の脳の可塑性,わが子に備わった「可能性」という概念は両親にとって大きな希望になる.

小児科など関連各科医の出生前から関わりも重要な意味をもってくるので,出生前のある時期に両親に紹介しておく.その段階で病気とその経過,可能性,外科手術などについて簡単に説明してもらってもいいだろう.また入手可能な参考資料,援助を与えてくれる専門家や公的サービス,サポートグループなどの情報提供も大切である.

 おわりに

われわれのとり得るとりあえずの方針としては,まず第一に正確な事実を直接に,明確に,率直に伝えることである.その上で両親に意思決定していただく.患者さんの自己決定を尊重しそれに沿った支援を行なう.両親の児の受容を目指すが,たとえ両親がどのような選択をしようともその決定を支援していく.ときには苦渋の中からの選択を医療者もともに苦しみつつ支えていくことになるかも知れない.

(プライパシーの保識のため,ケースの事実関係を大きく変更したことをお断りいたします.)

 参考文献

(1)Lee TC, Barshes NR, Nguyen L, et al: Gastroschisis and biliary atresia in a neonate: uncommon presentation or common precipitant. Eur J Pediatr Surg 2005;15:434-436

(2)Krahn GL, Hallum A, Kime C: Are there good ways to give ‘bad news’? Pediatrics 1993;91:578-582

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