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双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー手術

双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー手術

 要 約

双胎間輸血症候群(TTTS)の病態の原因である胎盤吻合血管を胎児鏡下にレーザー凝固する治療法が胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)である(図1).これまでの治療法と比べ,児の生存率や生存児における脳神経障害率が有意に良好であり,今やTTTSに対する第一選択の治療となった.一方,手術にともなう合併症も明らかになっている.当院はFLPを実施している全国7医療機関の中のひとつである.TTTSの病態と管理およびFLPの適応や方法などについて以下にまとめた.

 はじめに

双胎間輸血症候群(Twin-to-Twin Transfusion Syndrome; TTTS)は,胎盤吻合血管の存在により双胎間に血流不均衡が生じ,供血児,受血児それぞれに循環不全や容量負荷からくる病的変化をきたす疾患である.この血流不均衡の原因となる胎盤吻合血管を胎児鏡下でレーザーを用いて凝固遮断していく治療法が,胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(Fetoscopic Laser Photocoagulation of Placental Communicating Vessels; FLP)である.

連続的羊水除去や羊膜穿破術といったこれまでの治療法と比べ,FLPは児の生存率や生存児における脳神経障害率が有意に良好とされており,今やTTTSに対する第一選択の治療となっている.本邦においても2002年にFLPが導入され,2010年現在までに500例以上が施行されている.本稿ではFLPの適応と方法,および成績と術後の合併症ついて主に解説する.

 双胎間輸血症候群とは

TTTSは胎盤での吻合血管をとおして両児間の循環動態に不均衡が起こる病態で,一絨毛膜二羊膜(Monochorionic Diamniotic; MD)双胎の10〜20%に発症するといわれている.過去にはMD双胎が突然胎児死亡を起こしたり,急に破水して多量の羊水が流出しそのまま流死産となることをときに経験することがあったが,近年の超音波診断,特にドプラ法の進歩により胎児期の循環動態などが明らかになるにつれ,こういった症例の中に重症のTTTSが多く存在していることがわかってきた.

双胎間に起こる血流移動が,短期間(1週間以内)で起こると羊水過多による流早産や循環虚脱/負荷による胎児抑制となり,時間をかけて(数週間程度)に慢性的に生じると両児の発育大小や多血/貧血が起きてくる.かつては出生後の両児の体重差や血中ヘモグロビン濃度差によって,TTTSをレトロスペクティブに診断してきたが,現在ではTTTSとは「多尿による羊水過多と乏尿による羊水過少を同時に示すもの」と理解されるようになった.TTTSの診断基準として,一児(受血児)の羊水過多(最大羊水深度が8cm以上)と他児(供血児)の羊水過少(最大羊水深度が2cm未満)を示すものに統一されている.

TTTSを一度発症すると,受血児は供血児からのシャント血流が増加して多尿や心拡大を起こし,進行すると心不全,胎児水腫から胎児死亡にいたる.供血児の方は循環血液量の減少から胎盤機能不全,低酸素,乏尿,発育遅延を起こし,これも最終的には死にいたる.無治療での周産期死亡率は80%をこえ,特に妊娠22週未満に発症した場合はほぼ100%と考えられる(1).1990年代になって連続的な羊水除去による積極的管理が試みられるようになったが,それでも37〜78%の生存率と10〜25%の神経学的後遺症が報告され(2),(3),依然として予後不良の疾患のままであった.

 胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)

双胎間輸血症候群のスタンダードの治療法は上記の連続的な羊水除去術であったが,近年,新しい胎児鏡下レーザー手術が欧米と日本において普及しつつある.

これまで行われてきた治療法である連続的羊水除去術は,羊水過多を起こしている受血児側の羊水腔に針を刺し,羊水を1-2L吸引除去するものである.羊水過多の改善により陣痛発来や前期破水を予防し,胎児が胎外生活可能な時期(妊娠24-26週以降)まで妊娠の延長を目指すものである.受血児側の羊水過多の軽減が一時的に得られても,数日で再貯留することが多く,通常1週間に1-2回の繰り返す羊水除去が必要となる.

一方FLPは,麻酔下に超音波ガイド下に母体腹壁をとおして子宮内にスコープを挿入し,胎盤上にある両児間の複数の吻合血管を観察同定後に,Nd:YAGレーザーを用いて凝固焼灼して両児の循環を完全に独立させる手術である.手術が成功すれば術後1〜2週間でTTTSは改善していく.手技に熟練を要すること,母体と胎児にそれぞれリスクが存在すること,侵襲的な治療法で治療可能な施設が限られていることなどいくつかの問題点があるが,手術に成功すれば病態自体を改善することになる.ヨーロッパでの無作為割り付けによるFLPと連続的羊水除去術の比較試験の報告(4)によると,「児生存率」は57%41%,「少なくとも一児が生存する率」は76%対56%,「生存児の神経学的後遺症を残す率」は7%対20%というように,すべての点でFLPの方が有意にすぐれていた.

 FLP手術の実際

FLPは,経母体腹壁的に直接子宮内までトロッカーを穿刺し,挿入した胎児鏡により胎盤の吻合血管を観察同定したのちに,Nd-YAGレーザーにより血管を凝固していく手術である(図2).FLPの手術適応は妊娠26週未満のTTTSであるが,いくつかの禁忌事項があるので留意が必要である(表1).

麻酔方法は全身麻酔,硬膜外麻酔,静脈麻酔などが報告されており,当院では全身麻酔を採用している.術中の子宮筋弛緩や胎動の抑制が充分に得られること,まれに手術が長時間に及ぶときも本人の心理的負担がないことが長所であるが,最大の問題は挿管に伴うトラブルや抜管後の肺浮腫などのリスクといえる.

トロッカーの母体腹壁穿刺は超音波ガイド下に行い,術中も胎児鏡観察部位の確認や胎児心拍のモニタリングに用いる.手術の前半は胎盤の詳細な観察を行いすべての動静脈吻合,動脈動脈吻合,静脈静脈吻合を同定する.細いものから太いものまでおよそ10-15本くらいあることが多い.すべての吻合血管を明らかにしたのち,胎児鏡のチャンネルに550umのレーザーファイバーを挿入しNd-YAGレーザーで凝固遮断していく.すべての吻合血管を凝固したあとに,もう一度焼き残しがないかどうかを確認して終了とする.胎児鏡を抜去したあとの皮膚は一針だけ縫合することが多い.

麻酔覚醒後は子宮収縮が起こってくることが多いので,予防として硫酸マグネシウム製剤の持続点滴を開始する.術後は詳細な超音波検査が繰り返されるが,胎児の循環動態の改善には個人差が大きい.術後経過が良好であれば,2週間程度で前医にお返しすることが一般的である.

 わが国でのFLPの治療成績

わが国でのFLPは1992年に慶応大学の名取らにより第1例が報告された(5)が,その後10年間のブランクを経て2002年に聖隷浜松病院(浜松)にて本格的に開始された(6).現在,国内の数施設において施行されるようになった.国内でのFLP件数を図2に示した.施行件数は年々増加して2007年には年間100件を超し,全体ではすでに500件以上の施行実績となった(図3).

国内で2002年7月1日から2006年12月31日までにFLPを施行したTTTS症例で,生後6か月時の児の予後を把握できた181例の治療成績を検討したところ,生後28日の段階で0児生存が18例(9.9%),1児生存が51例(28.2%),2児生存が112例(61.9%)であった(7).「少なくとも1児生存」率は90.1%であり,これはQuinteroら(8)の78%(89例中70例),Eurofetus group4の76%(72例中55例)という報告と比べても遜色のない成績であった.

一方FLPの合併症(9)としては,流産が3%,28週未満の早産は15%,28週以降の分娩は148/181(82%)であったが,36週をこえたものは20%であった.手術時では,子宮壁からの出血6例(3.3%),胎盤表面からの出血,一時的高血圧,肺水腫,破水,絨毛膜下血腫などが一例ずつ認められた.

出生後の児に認められた事象(10)としては,中枢神経系では脳室内出血12例(4.1%),脳室周囲白質軟化症7例(2.4%),脳室拡大7例(2.4%)など,心では肺動脈狭窄・三尖弁逆流7例(2.4%),大動脈縮窄・閉鎖3例(1.0%)など,消化管系では消化管閉鎖・穿孔8例(2.7%),消化管出血4例(1.4%)などを認めた.

III度およびIV度の脳室内出血(IVH),脳室周囲白質軟化症(PVL),脳室拡大・水頭症といった重篤な異常画像上の異常を,供血児では12例(8.7%),受血児では7例(4.5%)に認め,供血児に有意に多かった(p=0.159).これは過去に報告された数字とほぼ同じレベルか,それより若干いい成績といえる.Senatら(4)はFLP術後の生後6か月の生存児81例中10例(12%)に脳異常所見を認めている.中枢神経系の異常では供血児にはIVHが,受血児にはPVLの合併が多い.いずれにしろFLPは生存率を上げるだけでなく神経学的予後も改善するが,ある一定の割合で神経学的後遺症が起きていることに留意が必要である.

心の合併症として,受血児のみ7例に肺動脈狭窄と三尖弁逆流,供血児のみ3例に大動脈縮窄・閉鎖を認めたのが特徴的であり,特に前者は統計学的にも有意であった.文献的にもFLP後の受血児の心合併症として肺動脈狭窄を来すことが知られている(11).大動脈縮窄・閉鎖に関してもTTTSの供血児との関連が示唆されている.

 一絨毛膜双胎の管理の注意点

TTTSの早期の徴候としてnuchal translucency (NT)が知られている.妊娠11-13週くらいのMD双胎の一児にNTが認められれば,染色体異常よりもTTTS発症のリスクを考える.TTTS自体は早ければ妊娠16週以前から発症することがあり,この時期以降は少なくとも2週間ごとの超音波チェックが推奨される.

母体の臨床症状としては羊水過多による腹囲や子宮底の急激な増大が認められ,同時に腹緊などが頻発するようになる.また母体循環から水分が羊水腔に急速に移行するため,母体は軽度脱水となって口渇などを呈する.羊水貯留により体重も急に増加する.こういった自覚症状に注意し,もし出てきたら早めに受診するように指導しておくことが大切である.

TTTSの診断は羊水量を基準としており,受血児の羊水腔の最大の深さが8cm以上,供血児の羊水腔の最大の深さが2cm未満のときとなっている.妊娠経過中も羊水量の差に注目して評価していくことになる.ただし供血児では羊水過少のために羊膜腔が小さくなり,場合によっては体幹に張りついて見えないことあり,一羊膜双胎(MM双胎)と勘違いされることもよくある.MD双胎でかつ羊水過多を示しているときの多くはTTTSと考えられる.妊娠26週未満で羊水過多と羊水過少を認めるときがFLPの適応となる.

TTTSの治療として過去に報告のある羊膜穿破術amnioseptostomyが行われると,羊水中の隔膜のために胎盤表面の血管の観察が難しくFLPの施行が困難になるため,FLPの適応外とされる.また前治療として羊水除去を行うと,意図せずに隔膜を穿通して羊膜穿破となってしまうことがあるので注意が必要である.もしFLPによる治療を考慮するならば羊水除去は避けた方が無難である.

羊水量の差を認めるもののTTTS の診断基準を満たさない例も,ハイリスクMD 双胎として慎重な管理が必要となる(Twin amniotic fluid discordance: TAFD).その後の経過でTTTS に進行する例や,TTTS とはならないものの一児の循環不全や心負荷状態が著明となるものも少なからず存在しており,その中では一児の血流異常を認めたものに予後不良例が多いとされている.また最近のMD双胎の新しい病態概念として,一児の発育不全に臍帯血流異常を合併した”selective IUGR”が注目されている.このグループでは胎盤における動脈動脈吻合の合併が多いという特徴があり,吻合に起因する両児の血圧変動によって特に大きい方の児の神経学的予後が悪いことが知られている.

 おわりに

これまで予後不良であった妊娠26週未満発症のTTTSの予後は,FLPの導入によって劇的に改善した.多くの人間の努力によってFLPは有効な胎児治療として定着し,またFLPによって胎児治療の概念もようやく医療の中に認知されるようになったともいえる.「双胎間輸血症候群に対する内視鏡的胎盤吻合血管レーザー焼灼術」は厚労省から先進医療として認められており,現在国内では4施設が認定されている.

一方,治療にともなう合併症も明らかになっている.TTTSのFLP治療後に出生した児では,中枢神経系に多彩な症状を呈することがあるが,心,消化管などでは供血児,受血児にそれぞれ特徴的な病態を呈することが明らかになった.受血児に認められる肺動脈閉鎖や三尖弁逆流,消化管閉鎖や穿孔,供血児に認められる大動脈縮窄や閉鎖などはFLPによって起きた合併症というよりは,双胎間輸血症候群の受血児,供血児における特徴的な循環動態によって生じる病的所見の可能性が高い.いずれにしろ術後の胎児新生児管理ではこれらの合併症の発症に留意すべきと考えられる.

最近ではTTTSに対するFLPによる介入の結果,MD双胎に発症するTAFDやselective IUGRといったTTTSの類縁疾患の存在も次第に明らかになってきており,今後とも新たな疾患概念と治療法の確立が求められている.

 文 献

1. Brennan JN, Diwan RV, Rosen MG, et al: Fetofetal transfusion syndrome: prenatal ultrasonographic diagnosis. Radiology 1982;143:535-536

2. Mari G, Roberts A, Detti L, et al: Perinatal morbidity and mortality rates in severe twin-twin transfusion syndrome appearing in the second trimester of pregnancy. Am J Obstet Gynecol 1992;166:820-824

3. Saade GR, Belfort MA, Berry DL, et al: Amniotic septostomy for the treatment of twin oligohydramnios-polyhydramnios sequence. Fetal Diagn Ther 1998;13:86-93

4. Senat MV, Deprest J, Boulvain B, et al: Endoscopic laser surgery versus serial amnioreduction for severe twin-to-twin transfusion syndrome. N Engl J Med 2004;351:136-144

5. 名取道也,田中守,河野八朗:YAGレーザーを用いた胎盤血管凝固術を施行した双胎間輸血症候群の1例.日本産科婦人科学会雑誌1992;44:117-120

6. 村越毅,松本美奈子,渋谷伸一,他:双胎間輸血症候群における内視鏡下胎盤吻合血管レーザー焼灼術−米国での実情と当院での取り組み.聖隷浜松病院医学雑誌2002;2:3-12

7. 左合治彦,林聡,加藤有美,他:双胎間輸血症候群に対するレーザー治療の治療効果.日本周産期・新生児医学会誌2009;45:1226-1228

8. Quintero RA, Dickinson JE, Morales WJ, et al: Stage-based treatment of twin-to-twin transfusion syndrome. Am J Obstet Gynecol 2003;188:1333-1340

9. 高橋雄一郎,左合治彦,村越毅,他:双胎児間輸血症候群に対する胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術による母体合併症の検討−多施設共同,後方視的調査研究.日本周産期・新生児医学会誌2009;45:1229-1230

10. 室月淳,左合治彦,林聡,他:双胎間輸血症候群に対するレーザー手術における新生児合併症−多施設共同調査研究.日本周産期・新生児医学会誌2010;46:14-16

11. Herberg U, Gross W, Bartmann C, et al: Long term cardiac follow up of severe twin to twin transfusion syndrome after intrauterine laser coagulation. Heart 2006;92:95-100

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