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周産期管理とカウンセリング

7. 周産期管理とカウンセリング

 

 出生前診断と予後の評価

骨系統疾患の出生前診断が必要とされるのは,以前に罹患児の出産の既往があり今回の妊娠で出生前診断を望む場合と,妊娠中の超音波診で胎児の大腿骨の短縮や変形が見つかった場合のふたつが考えられる.骨系統疾患の中には周産期予後のよくない一群があり,また出生後の発達遅滞と関係する疾患もあるため,出生前診断には大きな意義がある.正しい診断は出生前カウンセリングの前提条件となる.

疑われる疾患の表現型や自然経過がすでにわかっているときには出生前診断は容易であるが,de novoで発症した場合は,超音波断層法だけでは正確な診断には限界がある.近年の遺伝子診断の進歩にも関わらず,すべての種類の骨系統疾患に対して包括的に調べるようなことはまだできない.実際,骨系統疾患の中で原因遺伝子が明らかになっているのは現段階では3分の1程度といわれている.胎児骨系統疾患の超音波診断の役割は,確定診断のための胎児CT検査や遺伝子検索ができるように鑑別診断を行うこと,予後をある程度推測すること,妊娠中期にスクリーニングを行うことなどであろう.

周産期管理は児の生命予後の見込みによって変わり得る.超音波計測でTC/AC (abdominal circumference)比が0.89以下では生命予後が不良とされる32.またFL(femur length)/AC比が0.16以下は致死性の骨系統疾患を示唆すると報告されている(33).こういった指標を用いると90%以上の正確さで致死性か非致死性かが鑑別できるとされるが,致死性のものを非致死性と診断して想定外の新生児死亡を招いたり,非致死性のものを致死性として事前に説明した結果,生まれてからの両親の児の受け入れができなかったりすることはぜひとも避けなければならない.こういった指標による予後推定はあくまでも参考にとどめ,基本的には個々の症例に対して診断の個別化をきちんと行うことが基本となる.

 

 妊娠女性にとっての胎児異常

どんな女性であっても「正常」な子どもを産むということを願わずにはいられない.妊婦の多くは自分の「赤ちゃん」が異常でないか,また自分の妊娠中の行いが子どもに何か影響していないか不安を抱くものである.だからこそなお一層,「イメージの赤ちゃん」は理想化されて完璧なものに近づいていく.現実の人間ではない胎児に対する愛着もその上に形成されていく.

だからこそ骨系統疾患という胎児の異常の具体的な指摘は残酷な行為である.「イメージの赤ちゃん」像は跡形もなく崩れてしまう.外表奇形とはかけ離れた手足が短い,胸が小さいという特徴ですら,イメージの中ではとんでもない姿に化けてしまうである.それまで抱いていた「イメージの赤ちゃん」が理想的な姿であればあるほど,一度それが崩壊してしまうと,胎児は恐ろしい姿をとって目の前に現れてくる.いわゆる「モンスターイメージ」と呼ばれるものである.そして自己嫌悪,自己否定の強い念と,「おなかの中に入れておきたくない」という妊娠継続意欲の喪失の果てしない悪循環に陥ることになる.

そういった状況の中で母親がいまの周産期医療の中で何に苦しみ,何に救いを見出しているのか,そういった体験集が出版されている(34).「生まれてくる子に『おめでとう』と言ってほしい」「わたしはたった一言でいい,『大丈夫だよ』の言葉がほしかっただけなのに,でも医療関係者にそんな無責任な言葉を期待するのは筋違いでした」など,医療関係者に対する辛辣な批判も含む率直な告白を集めたものである.個人的にも読みとおすにはある意味つらい本である.19人の体験は限りなく重く,この壮絶な体験の中にわれわれは謙虚に身を寄せるほかないだろうと思う.

 

 予期せぬ結果をどう伝えるか

予期せぬ結果を,すなわち「健康な赤ちゃんを産みたい」という妊婦の期待に反した結果を伝えるのは,それを伝える医療者の側もつらい.医療者の資質や人間性も厳しく試される状況である.そういった中でのとりあえずの方針は,すなわち正確な事実をなるべく早い時期に,率直にかつ直接に伝えること,その上で自分たちで考え自分たちで決めてもらうこと,両親がどのような選択をしようともその意思を尊重し支援していく,といったいわば当たり前のことしかないだろう.妊娠中に胎児に異常が見つかったときは,両親がたとえどんな選択をしようとも,それは苦しい中からの選択にならざるを得ない.医療者もともに苦渋の中で支えていくことになる.

告知に際しては大きなジレンマが存在する.胎児の異常に対して,一方では医学的になすすべがないことを両親に伝えなければならず,その一方ではそれを抱えて妊娠をつづけることの意欲をもちつづけてもらわなければならないからである.両親をある意味で絶望の淵においやる一方で,希望を失わせてはいけない.多くの母親の体験では,否定的な説明に大きな衝撃を受けたという34.児が否定されるような説明は絶望感と育児意欲の喪失を来たすだろう.医療にたずさわる人間としては,疾患などの異常の面に焦点をあててみることで治療を考えていく職業であるが,ややもすればそれ以外の多くの部分,すなわち「健常」な姿を見逃してしまう傾向をもつ.どのように話をすれば,両親が病気だけにとらわれることなく,胎児をわが子として,ひとりの人間としてみることができるようになるかが問題である.

「いかに“深刻な診断”を伝えるか」35という臨床コミュニケーション技術についての本がある.臨床のさまざまな場における医療者の患者・家族とのコミュニケーションについての留意点が,それぞれの状況をふまえつつ解説されており,周産期においても示唆的な本である.そこには,仮に絶望的な状況にあったとしても真実を伝えなければならないこと,そして大切なのは,それにもかかわらずその中にいかにしてポジティブなメッセージを込めるかの重要性が強調されている.

出生前診断の告知にあたってのポジティブなメッセージにはいくつかのポイントがある.まず「胎児」ではなく「赤ちゃん」と表現すること.赤ちゃんがその場に一緒にいるかのように話すのは有益だろう.赤ちゃんは必ず母親とともに「そこ」にいる.母親本人は,赤ちゃんの重みと動きをその場所で感じているに違いないからである.ふたつめに,超音波などの画像を積極的に用い,赤ちゃんを両親に示すこと.多くの場合,両親は実際よりもずっと恐ろしい病気を想像している.おなかの中にいるのは「モンスター」などではなくその赤ちゃんであること,そしてその子は病気に罹っているいることを理解してもらうのである.みっつめに,仮にその病気が予後不良であっても,考えられる予後や障害の「幅」を説明するということである.医療者は病気について常にどうしても最悪の結果を説明しがちである.そうではなく最悪の結果と,期待される最善の結果の両方について話をする.また出生前診断では不確定の要素が入ることが多いので,あえて憶測を語るよりも,わからないことについてはわからないと述べる方がいいだろう.

それ以外にいかにしてポジティブなメッセージを伝えるか.たとえば赤ちゃんの脳の可塑性を強調することがある.わが子に備わった「可能性」という概念の強調である.上で述べた「幅」という考えも両親に楽観的な見方の余地を残し,目指すべき目標と希望を与えるだろう.さらには小児科など関連各科と出生前からの密接な関わりをもち,病気とその経過,児の可能性,手術などの治療について説明すること,何らかの早期の治療およびその理論的根拠を示すこと,援助を与えてくれる専門家や公的サービス,家族会について情報提供することも大切と考えられる.そして最後に,「医療の面ではわたしたちが責任をもってサポートしていくから,困難なことも多いとは思うけれど,安心してお産してください」と声をかけたい.

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カウンタ 3423 (2013年5月7日より)