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見る前に産め

見る前に産め!!

                                 (2016年4月11日 室月 淳)

もともとテレビは見ませんし、最近は新聞を読むこともすくなくなりました。ネット上をさがしても責任をもってきちんと書かれた文章は少ないようです。世は情報化社会といわれながら、まわりにあふれている情報は、それではいったい何のためにあるのでしょうか。

わたしたちの豊かな生活のためでしょうか。それでは情報があるといまより豊かな生活が実現される? それならば情報がない生活は貧しいのでしょうか。情報から取り残されると貧しくなるのでしょうか。しかし情報がないと豊かでなくなるというならば、それはもともとの生活そのものが空疎なのではないでしょうか。空疎な生活にいくら情報を充たしたところで、空疎な生の本質はかわらないような気がします。

それはなぜかというと、情報でわかることはせいぜい損得の問題にすぎないからだと思います。もちろん損得も人生ではたいせつなことでしょう。しかしひとはパンのみにて生くるにあらず、それだけで豊かな、というよりは空疎でない人生を生きられるかは疑問です。情報によって得をしたり豊かになるのはビジネスとか戦争といった世界だろうと思います。

人生は選択の繰りかえしです。自ら決めて前に進むことが生きることそのものです。なにかを選ぶためにはたしかに情報がいります。ある選択をおこなったことでなにが生じるのか、それを事前に知ることができれば、「正しい」選択をおこなうことができるかもしれません。しかしはたしてほんとうにそうなのか?

わたしたちは未来を確実に知ることはできません。情報化社会における「情報」は多様であり相対的なものです。すくなくともそんな情報をいくら集めたとしても、未来を見とおすことなどとてもできそうにもないでしょう。まずは選択し行動する。選択の根拠などは存在しません。最良の選択とはとにかく早い決断による選択です。そしてその行動によって生まれた結果にきちんと向かいあうこと、逃げないこと。

そのことをわたしたちは、先年の東日本大震災とそれに引きつづく福島原発事故の経験によって痛いほど思いしらされました。震災直後の極限状態において、現場では情報はまったくないか、あっても矛盾した情報が錯綜していました。そんななかでわたしたちはなんらかの行動をせまられたのです。とにかく前に進まなければならない。

根拠があろうとなかろうと自分自身で決めることができれば、たとえそれがつらく苦しい状況をまねいても、おそらく後悔することは少ないことでしょう。ほかのだれでもない自分自身できめること、すなわち自己決定は、その選択の正しさを保証するわけではもちろんありません。しかし自分の生を生きること、それだけはまちがいなく保証してくれるでしょう。

選択の本質は生の投企にあります。「見る前に跳べ」。もちろんその先になにがまちかまえているかは予測できません。しかしいくら情報を集めてもわからないものはわからない。情報がなければなにも決断できない人生とはもともと空虚な生だったのです。充実した生を生きるのか、それが空虚な生にすぎないのかは、情報や知識の有無とはまったく関係なく、そのひとの人間性そのものというべきかもしれません。

実はわたしがここで考えているのは出生前診断のことです。ようやく望んでいた妊娠が実現できた。現在の医療で可能な出生前診断のオプションにはなにがあるか、それはどこで受けられるか、費用はどの程度か、、、、といった「情報」を、必死になって集めるひとたちがいます。これは偏見かもしれませんが、不妊治療をうけて妊娠したひとたちに多いような気がします。

出生前診断の本質は選択的中絶にあるでしょう。異常がみつかれば中絶する。なぜ? 豊かな生活のため。充実した生活のため。だれの? 畢竟、それは自分のためです。自分だけのためです。そのための出生前診断についての情報さがしに狂奔するわけですが、情報の本質は損得にあることは前に述べたとおりです。

しかしこういった「情報」をいくら集めたところで、人生の正しい選択をすることはできっこありません。正しい選択、後悔のしない選択などというものは本質的にはありえず、そこにあるのは自分で決めて前に進むこと、そしていかに空疎でない充実した生を生きるかということだけでしょう。出生前診断をなりわいとするわたしがこんなことを書くのもまあなんですが(苦笑)、望むべき選択とは下のようなものかもしれません。

見る前に産め!!」

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