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ヒツジ胎仔実験モデル総論

ヒツジ胎仔実験モデル総論

                                 (室月淳 2017年7月27日)

ヒト胎児の生理および病態生理をあきらかにする目的で妊娠動物をもちいた実験がおこなわれる.そのなかで大型獣である妊娠ヒツジを用いた胎仔実験がしばしばおこなわれてきた.1946年のBarcroftや1952年にDawesらの報告を嚆矢とし,70年代,80年代に研究のピークを迎えたが,生理学分野においても遺伝子研究が主流になるつれて,00年代にはいってからはかなり限定されたテーマでのみおこなわれるようになった.ヒツジ胎仔実験モデルの総論について,だいぶ以前につくったメモ(98年8月20日付)があったので,それをもとにここにまとめた.

 ヒツジ胎仔モデルの利点と欠点

1. 経済的にみて他の妊娠動物をつかうよりも安価.「他の動物」とはここではサルやウシといった大型の哺乳類を意味している.Peter Nathanielszなどはこのようにまとめているが,日本では妊娠ヒツジの入手にはだいぶ費用がかかる.実験のためには正確な胎齢がわかっている必要があるが,そのような妊娠ヒツジは国内では30万円と北米の10倍前後かかるのが現状である.

2. ヒツジでは人口排卵や受精が可能で,1年中ほとんどで実験可能.哺乳動物は通常,繁殖期が決まっていて,ヒツジでは年に1回,冬から春の時期である.それにあわせてヒツジ胎仔実験は冬場に集中しておこなわれることが多い.しかし獣医によって排卵誘発といった人為的な操作をおこなえば,1年中いつでも実験は可能となる.

3. ヒツジ母獣では個体識別がなされており妊娠出産歴がわかる.

4. 動物のサイズが生理学実験に適している.ヒツジ新生仔の出生体重は2-5kgくらいとヒト新生児に近い.これはまた以下のような利点をもつ.

  • (1)血液サンプルの充分量をくりかえし採取可能である
  • (2)内分泌臓器の摘出や血管へのカニュレーションといった微細な操作が可能である
  • (3)心電図,脳波,眼電位図,子宮筋電図といった電気信号の記録が可能である.
  • (4) 尿や羊水など体液の採取可能である.流量計なども装着できる.
  • (5) 双胎仔の両方に実験のための操作が可能なサイズであり,一方をコントロールとすることができる(ただしまれに胎盤葉に血管吻合があるため,ホルモンやアイソトープ投与実験では注意が必要)
  • 6. 欠点としては,内分泌的,代謝的にみてヒトと異なることがあること.また準備や手術,実験などの経過をとおして人手と手間がかかることである
  • (6) 生理的諸数値(血液学的検査や生化学検査など)がヒトに近い
  • (7) 性質がおとなしく,とりあつかいおよび飼育が容易である
  • (8) 単胎妊娠が比較的多く,また妊娠期間も適切である
  • (9) これまでの研究によって基礎的なデータの蓄積がある
  • (10) 子宮収縮をおこしにくく,子宮内での手術や胎児操作が容易である
  • (11) タンパクのアミノ酸配列や塩基配列でヒトとの類似性が高い
  • (12) 欠点としてヒトと生理学的,解剖学的に異なる部分がある(たとえば胎盤構造がちがうため,ヒトで観察されるlate decelerationを実験的におこすのはむずかしい)
  • (13) 動物のサイズが大きく飼育場所や実験場所の確保に難渋することがある

 

 ヒツジの特徴

1. 妊娠期間は145〜150日で,ヒトのちょうど半分くらいである.たとえば21日間のヒツジ胎仔低酸素モデルは,ヒトではおおよそ約6週間に相当する

2. 胎仔の出生体重は3〜4kgとヒトとほぼ同じである.ただし種によって異なり,また出産の季節によっても影響される

3. ヒトと解剖学的に異なるところがある.たとえば双角子宮であることや胎盤の形態が異なる.ヒツジ胎盤はcotyledon typeに分類され,子宮角の全長にわたり4列に子宮小丘が配列し,cotyledonは全部で80〜90個くらいあるとされる

4. 子宮腔内に膜がある.尿膜絨毛膜と尿膜腔が存在する

5. 解剖学的に血管の走行や分岐が細かく異なる

 

 実験の報告にあたって明記しなければならないこと

1. 母獣にたいする術前処置(絶食期間やプロゲステロンの投与の産む)

2. 手術時のヒツジ胎仔の胎齢.胎齢の確認には四肢のX線写真が有用なことがある(Aust J Zoo 1959;7:79-86).

3. 手術や麻酔法の詳細.投与した薬剤や抗生剤の内容.

4. 手術日から実験開始までの期間.慢性実験では母獣および胎仔が手術ストレスから回復し,通常の状態でいることが必要だが,通常3-4日が求められる.

5. pH,血液ガス,血糖値,体重など胎仔の状態を評価する指標

6. 分娩発来にかんする実験においては,子宮内圧や子宮筋電図など子宮活動を評価する指標.

7. 胎仔の最終運命,すなわち生死について明示.

8. とくに最近では倫理的なコメントが求められる.動物実験が各施設のAnimal committeeの審議を経ていることを明記する

9. ヒツジの安楽死の方法

 

 胎仔低酸素モデルと胎仔発育遅延モデル

1. 胎仔低酸素モデル

  • (1) 母体低酸素による胎仔低酸素(ボックスやカニュラによる母獣低酸素,高地飼育,低圧化での飼育)
  • (2) 母獣の内腸骨動脈の結紮
  • (3) 胎盤の人工的塞栓(母体側,胎仔側)
  • (4) 臍帯血管の結紮

2. 胎仔発育遅延モデル

  • (1) 母獣の栄養摂取制限
  • (2) 子宮の外科的処置(子宮小丘の切除)
  • (3) 胎盤塞栓による胎仔の長期低酸素,低栄養
  • (4) 高温下環境での飼育
  • (5) 母獣にたいする薬物投与

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カウンタ 1159(2017年7月27日より)