K
中身は変わらないのに…
手術と抗がん剤治療から半年後、私は電車で海へ向かった。ゆっくり何も気にしないで自然に身をゆだねてみたかったから。心が疲れ切っていた。浜辺を散歩して貝殻を拾い、砂浜に寝転んで空を仰いだ。すると、とたんに熱い涙が頬を伝って止まらなくなった。「中身は何も変わらないのに…でも身体は変わってしまった。堪らなく寂しいよ、悲しいよ、痛いよ…なんでなんで…」。
私は子宮と卵巣の全てを命と引き換えに失った。藁にもすがる想いで全国7ヶ所の病院を回ったけれど、他に選択肢はなくて。その現実は過酷すぎた。一人の女性として、これから結婚や出産を考え、あたたかい家庭を築きたいという夢があった。命を育む臓器を失うことがこんなにも寂しいことだとは…。家族への申し訳なさもある。
お腹の大きな傷…、ホルモンを作れない身体…、性に関しても全く自信がなくなったし、恋愛も怖くなった。
でも、生きる可能性にかける決断をしたのは、「わたしの子宮を移植できればいいのに…あなたのいない人生は考えられない。生きてほしい。」と涙してくれた母の一言があったから。
「生きてさえいれば…。」そう自分に言い聞かせた。
だけど、性の喪失を受け入れるのがこんなに苦しいとは…。
周りの仲の良い友達は結婚と出産ラッシュ。ママ友での集まりや、結婚祝いなどの場には呼ばれなくなった。誰が悪いわけでもない。病気を知る友人も、わたしとどう接していいか分からないんだ。
「特別扱いされたくない。子宮も卵巣もないけど、わたしはわたし。中身は変わらないのに…」そんな想いで胸がキリキリ痛む。そうして気づく。自分を特別視している自分がいることに。
「なんでこの歳で…あんまりだ…」って、嘆く自分がいつもどこかにいる。
だけど、それでも不器用なりに今日まで歩いてきた。
命ある奇跡を胸に、いつかまた心から笑って力強く一歩を踏み出したいから…。