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NIPT受検動機の背景にあるもの

NIPT受検動機の背景にあるもの

                                   (室月 淳 2015年8月23日)

 

妊婦とそのパートナーはどのようにしてNIPTの情報を得て,それをどのように受けとめ,だれが,なにを基準に検査を受けることを決定していくのでしょうか? 検査を受ける受けないを決めるまでの経過はどうなっているのでしょうか? このことについてはまだ多くが語られていません.

当院を受診した妊婦さんのアンケートでは,動機としては高齢妊娠に不安を感じてというものが多く,全体の90%を占めています.ついで染色体疾患児の既往分娩歴が5.5%,超音波検査や母体血清マーカー検査でハイリスクを指摘されたためが4.2%となっています.いわゆる「高齢妊娠」によるものが圧倒的です.

妊娠前からNIPTの存在を知っていたのは妊婦が8割,夫が6割程度であり,メディアなどをとおして情報を得る機会が多く,一般における関心の高さが窺われます.しかし皮肉なことに,メディアの多くがNIPTにたいして慎重な姿勢で報道をしているにもかかわらず,その報道そのものが検査の宣伝として大きな効果をあげていること,また「高齢妊娠」という単語が独り歩きしていて,「35歳以上で妊娠したらNIPTを受けるべき」というメッセージとして捉えた女性が多いようです.

ここでのキーワードは「不安」であり,検査を受け異常のないことを確認して安心したいと述べるカップルが多くいます.しかしこれはもともと不安があるからNIPTを選択したというよりも,メディアなどでNIPTについて知ったためにはじめて自分の妊娠に不安が生じたという側面もありそうです.

NIPTには倫理的に問題があると感じているカップルもある一定の割合で存在しています.ここで出生前診断と切り離して考えられないのが選択的中絶の是非の問題です.これに対するこたえは以前にも述べたように「自己決定の尊重」ですが,それは具体的には「検査はいかなる形においても強制的ではなく自発的におこなわれ,検査をうけたカップルの自己決定により以後のことが決められる.検査の前後にはじゅうぶんな説明とカウンセリングがおこなわれ,そのカウンセリングには一切の指示的要素がはいってはならない」ということになります.

NIPT外来に予約受診したカップルのうち,検査前の遺伝カウンセリングにより最終的に検査を受けなかったのは6.8%で,それ以外の93.2%は検査を受けていました.しかしくわしく聴取すると,1/3近くの女性が実家の母親と相談していて,なかには検査費用の援助をしてもらっでいるカップルも少なくないという事実がでてきました.NIPTは高額(20万円程度)な費用がかかることが,受検にたいするひとつの障壁として作用していることはまちがいありません.このきわめて日本的ともいえる現象は,検査を受けるにあたっての自己決定に影響するファクターとなっていそうです.

このように検査を受けることの意志決定過程には,メディアによってつくりあげられ啓蒙された「不安」といったものや,他者でありながら大きな影響力をもつ「実家」の存在といったさまざまな因子の存在が推測されます.出生前診断の医療技術の急速の進展とともに,現代社会の状況も大きく変化しつつあります.NIPTについての情報は主としてメディアをとおして伝えられており,その内容が適切であるかは不明なところがあります.勧奨あるいは干渉とは絶対にならない形での,医療側からの情報提供がやはり必要でしょう.

NIPTをはじめとした出生前診断について,プライマリの主治医から適切な情報提供と遺伝専門医による必要十分な遺伝カウンセリング,そしてカップルの主体性をもった自己決定が望まれます.そのためには社会的に広く遺伝リテラシーを共有する必要があると考えられます.

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