FLPの胎児循環への影響
胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術の胎児循環への影響
宮下 進
はじめに
胎児鏡下胎盤吻合血管凝固術(FLP: fetoscopoic laser photocoagulation)は双胎間輸血症候群(TTTS: twin-to-twin transfusion syndrome)の胎児治療法として確立している。FLPの効果は、胎盤の血管吻合(動脈-動脈吻合、動脈-静脈吻合、静脈-静脈吻合)の状況、供血児、受血児それぞれの心機能に影響される。胎児循環については、FLP直後から一週間程度の短期的影響と、それ以降での中長期的影響を分けて考える必要がある。
I. 胎児心機能
胎児心機能は心拍数、心室前負荷、心室収縮能、心室後負荷、心室拡張能の5要素にわけると理解しやすい。胎児では心臓カテーテル検査による圧情報が得られず非侵襲的計測のみ可能であり、FLPの現在の主な対象である26週未満では心臓のサイズが小さいため、超音波断層法やドプラ法など従来の手法では計測精度に問題が生じることがある。
心拍数
超音波断層法、M-モード法、ドプラ法により計測する。分娩監視装置を用いた胎児心拍数モニタリングでは、基線心拍数、基線細変動、一過性頻脈、一過性徐脈などの評価が可能であるが、26週未満の胎児では判断できない場合も多い。
前負荷
ドプラ法で計測された静脈管血流速度波形の途絶・逆流や下大静脈 PLI(preload index)の上昇、臍帯静脈速度波形の pulsation、胸腹水、浮腫の出現・増強が前負荷の上昇と関係するとされる。
収縮能
M-モード法で計測されたFS(fractional shortening)、EF(Ejection fraction)やFSを心拍数と駆出時間で補整したmVcfc(mean velocity of circumferential fiber shortening)などの指標がある
後負荷
胎児では血圧を測定できないため、ESWS(end-systolic wall stress)などの指標は利用できない。ドプラ法による大動脈血流速度、房室弁逆流の出現・増強は参考になる。
拡張能
ドプラ法で計測された二相性の心室流入速度波形で、左室急速流入血流速度(E波)と心房収縮期流入血流速度(A波)の比(E/A)が用いられるが、胎児では小児・成人とは異なりA波が高く絶対的評価が難しい。一相性の心室流入波形は、拡張能も含んだ心機能の低下を示す。
II. 胎児心機能の評価
胎児超音波検査の指標として次のものがよく用いられる。
心胸郭面積比(CTAR:cardiotrachic area ratio)
心四腔断面レベルでの胎児心と胸隔の面積比であり出生後の心胸郭比に相当する。うっ血性心不全ではCTARは増大し、hypovolemiaでは縮小する。CTARは心室腔の拡大でも心筋肥厚による心肥大でも増加する。
三尖弁逆流、僧帽弁逆流, 肺動脈弁逆流、大動脈弁逆流
逆流の有無と程度、逆流最大速度を評価する。
心拍出量(CO:cardiac output)
主肺動脈、上行大動脈の血管径計測と血流速度計測により、右室、左室それぞれの一回拍出量(SV:stroke volume)と、それに心拍数を乗じたCOを求めることができる(1)(2).
動脈系の血流速度計測
臍帯動脈、中大脳動脈、大動脈峡部、下行大動脈、胎盤表面の吻合血管など。
静脈系の血流速度計測
静脈管、上大静脈、下大静脈、臍静脈、臍帯静脈など。
III. 複合指標による循環評価
TTTSの循環評価のための複合指標として次のものが報告されている。
MPI(mocardial performance index)(もしくはTei index)
心室機能全体の指標であり、胎児でもパルスドプラを用いた計測値により以下のように算出される(3)(4).
MPI=(ICT(等容量収縮時間)+IRT(等容量拡張時間))/ET(駆出時間)
MPIは心室収縮能と心室拡張能の両方を反映する指標である。MPIの上昇は包括的な心室機能の低下を示すとされるが、MPI単独では病態の理解が困難な場合が多い。供血児では両心室ともMPIは正常の場合がほとんどであるが、受血児では特に右室でMPI上昇が上昇する。Rychikらの検討では、受血児では房室弁閉鎖-開放時間の延長がみられるが駆出時間は変化していないことから、MPIの上昇は拡張能の障害にもとづくと推定している(5).
表1.Cardiovascular profile score (Huhta 2004)
CVPS(Cardiovascular profile score)(2)
Huhta(2004)らにより提唱されたスコアリングシステムである(表1).胎児水腫、心サイズ(CTAR)、動脈系ドプラ、静脈系ドプラ、心機能の5項目からスコアを算出する。CVPSは受血児の短期予後と関連し、9点未満のCVPSでは69%が30日以内に胎内死亡となるとされる(6).
表2.Cardiovascular score (CHOP CV score 2007を一部改変).心筋肥大の評価は文献(22)による
CV Score(Cardiovascular score)(5)
フィラデルフィア小児病院(CHOP)のRychik(2007)らにより記述されたTTTSの重症度評価に特化したスコアであり、表2に示した12項目を評価する。Cardiovascular gradeはこのスコアに基づいた重症度分類である。(表3) CV Scoreの前提とする病態は、供血児での胎盤血管抵抗の上昇、受血児での循環血液量増加、容量負荷による心室拡大と房室弁逆流、心室肥大による心室コンプライアンス低下による収縮能と拡張能の低下である。左室よりも右室の変化が大きいとされるが、特徴的なのは右室拍出量低下による右室流出路、肺動脈の発育不全、二次的な肺動脈狭窄への移行を加味している点である。
表3.Cardiovascular grade (CHOP 2007)
IV. FLP前後での指標の変化
心拍出量の変化
Suetersらの報告では一絨毛膜性双胎では体重当たりの循環血液量、胎盤血流量ともに正常(単胎)児よりもともと多く、TTTSのFLP後でも供血児、受血児とも正常(単胎)児を上回っている(供血児 696, 受血児 756, 正常単胎児 548 ml/min/kg)ことが示されている(7). FLP後には両児とも後負荷低下による心拍出量の増加があることが推定される。FLP後には、特に受血児右室の収縮能および拡張能の改善による拍出量の増加と、それによる右室流出路・肺動脈弁狭窄の改善が期待できるとされている(8).
MPIの変化
MieghemらによるTTTS 39例の検討によると、FLP前のMPIは右室、左室とも受血児のほうが供血児より高値であるが、FLP施行48時間以内に供血児では左室MPI(Z score)の低下(-0.29±1.15 → -0.73±1.89)傾向がみられ、受血児ではMPIは右室(2.72±1.71 → 2.02±1.89)、左室(2.38±2.52 → 1.84±1.98)とも低下した(9).また、静脈管の血流速度異常は供血児では6%(2/33)から24%(8/33)に増加し、受血児の三尖弁逆流は37%(13/35)から26%(9/35)に減少した。2週間後および4週間後では、供血児で右室MPI(Z score)は上昇(-0.34±1.3 → 0.99±1.2 → 0.59±1.4)し、受血児では右室MPI(3.07±1.63 → 1.58±1.63 → 0.80±1.39)、左室MPI(2.98±3.6 → 1.77±2.23 → 0.68±1.69)ともに低下していた。FLP後の短期では、供血児では左室機能は改善、受血児では両室機能とも改善しているが、供血児では右室前負荷の上昇、受血児では右室前負荷の軽減を伴っていると考えられる。中長期には、供血児では左室機能は相対的に悪化し、特に2週間後でMPIは高値を示している。受血児では両室機能は経時的に改善している。
CV Scoreの変化
Rychikらによる報告(10)では、FLP術前との比較で、術後1日ではスコアには変化がない(術前 6.6±4.0, 術後1日 6.0±3.8)が、術後1週間では(4.2±4.1, p<0.001)と改善を示した。術後1日では心室収縮能、心室拡張能のパラメータには変化が無かったが、房室弁逆流は悪化し、右室流出路狭窄、両室のMPIは改善した。術後1週間では、心拡大、心筋肥厚、心室拡張能は改善し、右室流出路狭窄、両室のMPIはさらに改善したが、心室収縮能と房室弁逆流には改善がみられなかったという。
V. FLPの胎児循環への影響
FLPによる吻合血管の遮断後には、短期の影響と中長期の影響が考えられる。Gratacosらによる検討では、FLP前と一日後で臍帯静脈血流は供血児では151から232ml/min/kgへと有意に増加し、静脈管血流のPI(pulsatility index)が上昇する(11).供血児ではFLP後に一過性の胎児水腫様の変化を認めることがときおり経験され、前負荷の急激な上昇がおこるものと推定される(12).FLP前と一週間後で、CTARは供血児では増加するが受血児では変化しないという報告があるが(13),おそらくは受血児での心筋肥厚は急速には正常化しないことによる(14).FLP後の胎児死亡の予測因子として、供血児では推定体重と臍帯動脈拡張期逆流が、受血児では静脈管逆流が挙げられている(15). 供血児では心室前負荷および特に動脈-動脈吻合の遮断による後負荷の上昇、受血児では前負荷低下(正常化)による収縮能および心拍出量の正常化に適応できない場合があり得ることが推定される。
TTTSの病態確立には、供血児の腎でレニン産生が活性化する一方、シャント血流により高レニン血症となる受血児の腎ではdown regulationがおこり、このレニンーアンギオテンシン系のparadoxical activationによる心血管系のリモデリングが関与しているという報告がある(16)(17). 受血児ではこのリモデリングされた心臓が、FLPによるシャント血流遮断後短期に、あるいは未治療の場合は出生後短期に適応できることが生存に必要であると推定される。本稿執筆時に得られているエビデンスは不十分であるが、諸指標の変化から推定されるFLP後の短期(FLP直後から1週間程度)および中長期(FLP後1-2週間以降)における循環系への影響(仮説)を表4に示した。
表4.FLP後の短期(FLP直後から1週間程度)および中長期(FLP後1-2週間以降)における循環系への影響(仮説)
おわりに
現在、胎児心機能評価のゴールドスタンダードである胎児心臓超音波検査は、非侵襲的ではあるが得られる情報には限度があり万能ではない。また、TTTSでは胎盤の状況や吻合血管の種類や数、重症度により循環系の病態も一様ではなく、複合的指標を用いても統一的な評価や児の予後の推定が困難であり(18)(19), FLPによる循環系への影響も完全に理解されているわけではない。このため、血流速度計測以外の循環系のよりプリミティブな指標での評価が求められる。新しいモダリティとして、独立成分分析法を用いた経母体腹壁胎児心電図(20),位相差トラッキング法を用いた微小変位計測21)が開発されつつあり、これらの臨床応用による電気生理学的評価、心筋機能評価、脈波解析や血圧の推定が将来期待される。
参考文献
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カウンタ 13726(2013年5月12日より)