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8年目の東北

8年目の東北

                                (2018年3月15日 室月淳)

震災後7年がたちましたが,現地では「復興」を実感することはできません.インフラの整備は進み,ひともすこしずつもどってきましたが,しかし直接の被災地であった沿岸のにぎわいはかってとくらべるとさびしいものです.地元のひとたちに復興したかと聞いたら,多くの人は首をかしげることでしょう.

もともとの過疎化,高齢化が震災によって加速している状況のなかで,若干にしてもにぎわいをとりもどしつつあるのは,それなりに健闘しているといえるのでしょうか.しかしきびしいことをいうようですが,いまの状況から判断するかぎり,国や自治体は政策を誤った,すなわち失政だったと断言せざるをえません.

‪震災直後は被災地の復興をすべて放棄するという選択肢もあったかもしれません.被災地域での総生産は国内のGDPの1-2%を占めるにすぎず,多額の費用をかけてまで復興させるより,被災者にじゅうぶんな補償をして,他地域への移住を促進したほうがよほど経済的には効率的であったことはまちがいないからです.‬

‪もちろんそうすべきであったといっているわけではありませんし,実際に政府はそうしなかった.復興と地方創生を旗印に,土木工事によってインフラを再建し,汚染された土地は除染し,震災以前の暮らしができるようにめざしていったことは,被災者や国民の心情をくんだものとして評価できるといっていいでしょう.それはそれですばらしいものです.‬

‪しかし政治とは結果です.巨大な防潮堤を建設しても,盛り土をして高台に住居をつくっても,結局そこにひとはもどってはきませんでした.土木事業がつづいているかぎり,そこにおちる金で地元経済はまわるでしょうが,それもいつかは終わる日がきます.地元の産業を再建しなければ日々のたつきも立たなくなります.‬

東京オリンピックだって東北の人間は冷めてみています.「復興五輪」をキャッチフレーズに掲げてはいるものの,東北の被災地とはなんの関係もない,むしろひとの不幸を食いものにされているような気さえします.東京に誘致活動をはじめたときは想定外だったのに,震災と原発事故が起きたからといってそれを誘致に利用されるのは,正直あまり愉快な気持にはなれないのです.

震災と原発事故からまる7年.7年間よそに住みつづければ,ふつうはそこに生活基盤ができますから,故郷にもどるということはすでにむずかしくなっているでしょう.若ければ若いほどますますそうです.すなわち被災地の復興にとってもっともたいせつだったは「時間」はすでにつきてしまったのです.このことは当初はまったく気がつかれなかったことです.

‪地元のひとがみなもどってきて,昔のように平和でおだやかな日常をとりもどすことは,事実上もう無理なのかもしれません.死んだひとは帰ってこないし,汚染された大地ももとには返らない.それではこれまでの復興事業が失敗だったと総括した場合,これからわれわれはいったいどうしていけばいいのでしょうか?‬

資本主義社会の前提,すなわち‪経済成長をすこしずつでもでも持続させことによって,はじめて個人の幸福も実現されることを認めるかぎり,地域の復興そのものを自己目的化とはできません.東北があたらしい生産拠点となることが望まれますが,そのためには資金だけではなく,創造的アイデアとかベンチャー的な挑戦の精神といったものが必要です.‬

被災地は以前とは変貌し,住んでいるひともまったくかわってしまうかもしれません.復興というよりそれはあらたな再生です.もとの姿にもどすことが重要なのではありません.土地が生命力をとりもどすこと,そこでひとが生きていくこと,そして働くことであらたな実りを生みだすことがたいせつなのです.‬

震災復興について根本から考えなおすとしたらいましかありません.そしてこれは東北だけの問題ではないのです.つぎの震災は東北以外の場所でおこるでしょうし,そのときは日本経済の余力はさらに失われていて,税金を土木事業に湯水のように使って経済をまわすという今回のやりかたはもうむずかしいかもしれません.

そ‪れではなにがたいせつなのか? 被災地の昔のすがたにもどす復興ではなく,あらたに生きていくための再生をめざすこと.そのためにはひとが生きるための生産性をつくりだすこと.このように考えていくと,実はこの課題は被災地にかぎらない,「失われた20年」からの再生をめざす日本そのものの縮図であることに気がつくのです.

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カウンタ 2164 (2018年3月19日より)