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羊水検査の合併症管理

羊水検査の合併症管理

                               (2012年8月29日   室月 淳)

 はじめに

羊水穿刺が胎児診断に用いられ始めたのは1950年代であり,Rh不適合妊娠における胎児溶血性貧血の診断と胎児染色体分析がその適応でした.その後,羊水細胞を用いた先天代謝異常症の診断や遺伝子診断など,羊水穿刺の適応が広がってきました.近年わが国では高齢妊娠が増加してきており,また出生前診断に対する関心が高まってきたこともあり,検査実施症例数が増加してきています.

 羊水穿刺のノウハウ

通常の羊水穿刺ではフリーハンドで行います.超音波ガイド下臍帯穿刺(PUBS),経腹的CVS,ラジオ波焼灼術(RFA),子宮内シャント,胎児胸水腹水穿刺などといった精密な操作が必要ものでは,アタッチメントを装着した超音波プローブを使用して超音波ガイド下に行います.しかし,羊水検査や胎児鏡下胎盤吻合血管焼灼術(FLP)時のトロッカー挿入のときなど,「まと」が比較的大きい場合には,フリーハンドの方が安全で成功率が高いと個人的には考えています.

羊水穿刺やトロッカー挿入で失敗する原因は,その多くが羊膜と絨毛膜の剥離,すなわちいわゆる"tenting"と呼ばれる現象によるものです.20週未満の妊娠早期に起こりやすいのですが,この時期の穿刺というのが上に書いた羊水検査やFLPです.最初の穿刺でこれを起こしてしまうと,その後の再穿刺でも難渋し,結果として何度も穿刺を繰り返すことによってリスクを高めてしまうことになります.

ですから穿刺を行うときは,子宮壁すなわち卵膜に対してなるべく垂直に,スナップを利かして最初の一発で決めることがたいせつです.アタッチメントをつけて穿刺を行うと,穿刺方向がやや斜角になりますし,アタッチメントの軸の分だけ針の長さが必要になり,穿刺のときの自由度がかなり下がります.PUBSなどではガイドを使う方が安全ですが,羊水穿刺程度の手技はフリーハンドの方がトータルとして問題が少ないといえます.

 起こりえる合併症

起こりえる合併症としては,胎児死亡,流早産,破水,出血,感染などがあげられます.幸いなことに母体の出血,感染,敗血症などの合併症はきわめてまれです.子宮内感染が0.1%に生じたという報告(1)がありますが,母体に対して重大な障害をもたらした例はほとんどありません.

染色体分析を目的として行われる妊娠中期の羊水穿刺の安全性について,大規模な無作為化比較対照試験が過去にデンマークで行われました(2).4,606例のリスクのない妊婦を羊水検査群とコントロール群に分けて,その予後を比べたところ,それぞれ流産率が1.7%,0.7%となり,羊水穿刺による胎児死亡のリスク増加を認めました.流産と関係のあるリスク因子として,胎盤穿刺と羊水の色の異常が指摘されています.一方,National Institute of Child Health and Human Development (NICHD)の報告(3)は後方視的調査ですが,1,040例の羊水穿刺群と992例のコントロール群の流産率を比較して,それぞれ3.5%,3.2%と特に有意差を認めませんでした.

多胎に対する羊水穿刺では危険率が若干高くなることが知られています.Andersonら(4)の報告によると,多胎に対する羊水穿刺339例における自然流産率は3.57%であり,単胎の0.60%に比べてかなり高い頻度でした.ただし多胎は通常の場合でもその流死産率は単胎よりも高いので,一概に多胎における羊水穿刺がハイリスクとはいえないでしょう.

羊水穿刺のもっとも一般的な合併症として破水があげられます.羊水穿刺後の患者が水様性帯下を訴えるときは羊水漏出,破水が疑われます.NICHDの上記報告(3)では,羊水穿刺1,040例中12例(1.2%)に1週間以内の羊水漏出が認められました.またGoldら(5)も603例中7例(1.2%)に24時間以内の破水を認めましたが,いずれも入院により1週間以内に羊水漏出がとまったことを報告しています.いずれにしろ1%程度の羊水漏出のリスクがありますが,一般的な予後は悪くないようです.

羊水感染が一度おこるとほとんどは感染性流産となります.羊水感染の頻度は,NICHDの統計(3)では1,040例中1例(0.1%)と低いものでした.この症例は穿刺1週間後に感染徴候が現れましたが,穿刺の際に羊水採取不能となっており,すでにその時点で何らかの異常があったことが示唆されています.羊水穿刺後に感染性流産となる症例の多くは,もともと子宮内感染が潜在を契機に発症するのではないかとも推定されます.

羊水穿刺を受けた母体から出生後の新生児に呼吸窮迫症候群(RDS)と先天性肺炎の頻度が増加したという報告がふたつあります(2)(6).そのひとつの英国での研究(6)では出生児の先天股脱の増加が報告されていますが,これについてはほかのいくつかの調査では否定的です.羊水穿刺時にあやまって胎児を直接穿刺する頻度は0.1%(7)あるいは3.0%(2)といわれています.羊水穿刺による損傷が原因と考えられる胎児異常の報告としては,exanguination(8),小腸閉鎖(9),小腸皮膚瘻(10),片側盲(11),孔脳症(12)などがあります.

 チェックポイントと予防に必要な処置

羊水穿刺は決して危険な検査手技ではありませんが,母児に対して侵襲的ですので,検査の目的と合併症に関しては本人と夫にじゅうぶん説明しておくことがたいせつです.発熱,感冒様症状がある妊婦や切迫流産徴候がある妊婦は避けたほうがいいと考えられます.Rhマイナスの妊婦に対して羊水穿刺を行ったあとは,抗D免疫グロブリンを注射することにより抗体産生を抑制する必要があります.

感染予防のために穿刺部位の清潔保持につとめます.腹部はイソジンなどで消毒を行い,術者はガウンテクニックと滅菌手袋を必要とします.滅菌された超音波プローブを腹壁にあて,超音波ガイド下に穿刺を行います.胎盤付着部の位置によっては経胎盤的な穿刺とならざるを得ないときもありますが,できれば避けた位置とします.

羊水漏出に関しては針の太さや穿刺の回数とは相関がないようですが(3),母体の苦痛の軽減もふくめ,なるべく細い針が望ましいといえます.穿刺後は2時間のベッド上の安静を保ちます.羊水穿刺は通常外来で行っていますが,帰宅時に2日分の抗生剤を処方し,もし羊水流出や子宮収縮の自覚症状があるときは病院にすぐに連絡させるようにしています.

 合併症に対する処置

羊水穿刺後に水様性帯下があるときはただちに来院させ,チェックプロムなどで確認します.羊水流出が確認されれば入院安静とし,抗生剤や必要に応じて子宮収縮抑制剤を投与します.多くの場合では1週間程度で羊水漏出がなくなり,その後の妊娠継続に問題が生じることはありません.

しかしCRPの持続的上昇例など,もともと感染が内在しているような例の予後は不良です.これはおそらく卵膜の炎症によるもので,穿刺当日ではなく翌日以降に破水症状を示すことはまれですが,一度発症すればその後感染性流産に進むことが多く,なかなか有効な対策はありません.敗血症やDICに進展しないように注意する必要があります.

 参考文献

(1) Turnbull AC, MacKenzie? IZ: Second-trimester amniocentesis and termination of pregnancy. Br Med Bull 1983;39:315

(2) Tabor A, Philip J, et al: Randomized controlled trial of genetic amniocentesis in 4606 low-risk women. Lancet 1986;1:1287

(3) NICHD Amniocentesis Registry: Midtrimester amniocentesis for prenatal diagnosis: safety and accuracy. JAMA 1976;236:1471

(4) Anderson RL, Goldberg JD, et al: Prenatal diagnosis in multiple gestation: 20 years' experience with amniocentesis. Prenat Diagn 1991;11:263

(5) Gold RB, et al: Conservative management of second-trimester post-amniocentesis fluid leakage. Obstet Gynecol 1989;74:745

(6) Working Party on Amniocentesis: An assessment of hazards of amniocentesis. Br J Obstet Gynaecol 1977;129:21

(7) Karp JE, Hayden PW: Fetal puncture during midtrimester amniocentesis. Obstet Gynecol 1977;49:115

(8) Young PE, Matson MR, et al: Fetal exanguination and other vascular injuries from mid-trimester genetic amniocentesis. Am J Obstet Gynecol 1977;129:21

(9) Swift PG, Driscoll IB, et al:Neonatal small bowel obstruction associated with amniocentesis. J Pediatr 1979;1:720

(10) Rickwood AM: A case of ileal atresia and ileocutaneous fistula caused by amniocentesis. J Pediatr 1977;91:312

(11) Merin MD, Beyth Y: Uniocular congenital blindness as a complication of midtrimester amniocentesis. Am J Opthalmol 1980;89:299

(12) Youroukos S, Papadelis F, et al: Porencephalic cysts after amniocentesis. Arch Dis Child 1980;55:814

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カウンタ 11473(2012年8月29日より)