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仏像半島

仏像半島−房総の美しき仏たち」展

                                   (2013年6月14日 室月 淳)

千葉市美術館の渾身の企画展.千葉県内の主だった仏像のおおくを一堂に展示した今回の準備にはかなりの労力と時間が必要だったことが容易に想像できます.関係者の労にこころより謝したいと思います.しかしその努力が実をむすんでみごとな企画展ができあがりました.

千葉県,すなわち下総,上総,安房の国々における仏教美術をまさに総覧する企画です.関東地方の仏教の曙ともいえる白鳳仏から,江戸時代の彫物彫刻まで網羅しています.地方仏師の手によると思われる野趣あふれる仏像はとても魅力的です.鎌倉時代になって慶派の様式が広まり,房総の文化と結びついてもっとも豊かで多様な展開をみせています.貴族から武士へ,西から東へ政治の主導権が移動しつつある時代に,仏像彫刻に代表される芸術のあふれんばかりの創造性も関東の地で花ひらいたことがわかります.

ある特定の地域の仏像を1か所にあつめた今回の企画展は,わたしのような愛好家にとってはほんとうにありがたいものです.みずから房総半島の寺々をまわって拝観しようとすれば,とてつもない時間と労力がかかります.このようなあかるい照明のもとで,ゆっくりみることなど望むべくもありません.そもそも秘仏がおおいので,個人でたずねてもみせていただけないことがしばしばです.

平安時代末期とおもわれるみごとな薬師如来像がありました.保存状態も良好であり,重要文化財としてまったく遜色のない仏像と考えられますが,国どころか県や市の文化財にも指定されていません.おもしろいのは所蔵が「某寺」とされていることです.これはもともと秘仏として伝えられていたものが,今回の企画展のために特別に公開されたものであり,そのために特に寺の名前を秘したのだと想像されました.解説目録にはまさに「印旛沼にほど近い古寺の秘仏本尊である」とありました.

こういった企画展というのは何十年に一度レベルの開催だろうと思います.地元の人間にとっては一生に一度経験するかどうかです.何十年に一度の秘仏開帳というのが全国あちこちの寺でおこなわれますが,博物館で開催される「仏像展」も実はおなじようなものかもしれません.

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カウンタ 1794 (2013年6月14日より)