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仏像を礼拝することと美術品を鑑賞すること

仏像を礼拝することと美術品を鑑賞することのあいだの件

                                 (室月 淳  2013年4月7日)

いわき市・白水阿弥陀堂.背後の山が借景となりみごとな眺めとなっています

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先日インターネットの相談コーナーで,「京都の神社仏閣の拝観料はなぜあんなに高いのですか? 1日何カ所か拝観して一人で何千円にもなってました」という質問がのっていました.そりゃあ寺社仏閣にかぎらず,美術館でも博物館でも一日に何カ所もまわれば何千円にもなるでしょうけど. ただたしかに京都の寺院の拝観料は一般に高めで,1,000円というところもいくつかあってびっくりした経験があります.京都をのぞいた全国一般の拝観料はだいたい400-600円が相場といったところでしょうか.

ちくま文庫に中島孝信「お寺の経済学」という本があります.お寺や住職の行動を経済学的見地から実証的に分析することによって,現在のお寺がかかえる問題点をくっきりとうかびあがらせたとても興味深い本です.それによると,日本のお寺には檀家寺,信者寺,観光寺のみっつの種類があるそうです.もちろん多くの寺は檀家寺であり,檀家の葬式や法事を中心に生計をたてている寺です.信者寺は信仰心をもつ信者がお参りにおとずれる寺であり,観光寺とは信仰心とは無関係に観光客が物見遊山でおとずれる寺となります.

すぐれた仏像を所有している寺は,拝観料をとって拝ませて,それをたつきとすることもありえるでしょう.その収入は実際は仏像の管理や修復にもちいられることがおおいようです.現世のわれわれは食べて生きていかなければなりませんから,信者からの布施がたっとく観光客からの拝観料はいやしいなどということはまったくありません.われわれ医療者だって同じです.日本の医療を維持するためには赤ひげ的「仁」よりも,「医療経済学」的視点が重要となります.それと同じように仏教の信仰を社会に保ち生かしていくためにも,上記の本のような「宗教経済学」といった分野があり,拝観料というものの本質をまじめに考えることも必要なんでしょう.

ところで拝観料の高い低いについては,わたし自身ではあまり問題となることはありません.野こえ山こえ谷こえてはるかな町までぼくたちの,めざす寺までたどりついた仏像マニアにとっては,500円が1,000円でも,2,000円であってもけっして高くはないのです.「5,000円? それは高いから拝観はやめて,花だけみてかえろうか」といった市場価格の費用便益の比較の問題にはけっしてなりません(いや経済学の用語はよくしらないので,てきとうな文章なのですが).こういうときのマニアの心情ってけっこう信仰心にちかいところまできてるんじゃないかな.

ひとびとを現世の苦しみから救う菩薩行を実践するのが僧侶の役割です.その救いの手への感謝のきもちがお布施です.大乗仏教のおしえには信者の実践項目としてお布施があります.信者にお布施をさせてあげることが僧侶やお寺の仕事となります.受付で表示をみて拝観料を払っているとサービスへの対価をはらう一種の市場取引に思えますが,玄関から訪いをいれて仏像を拝ませていただくとき,それはお仏様の救いにたいする感謝の気持ちとしてのお布施となります.「お布施をさせていただく」というわけです.

むかしから「仏像は美術品じゃない.信仰の対象だ」といういい方がよくされて,わたしも拝観していてしょっちゅうそのように怒られることがあるのですが,そもそも仏像っていったいなんなのでしょうか? もちろん礼拝の対象という要素は大きいのですが,仏教ではほかにも観仏による修行や瞑想の手段としてもつかわれてきました.また曼荼羅のように密教の真理の象徴化であることもあります.仏像によっておよぼされる力は個々人によってさまざまな形がありえ,そのなかには造形された「美術品」として向き合いかたも「あり」ではないかとわたしは思うのです.

だれに強制されたわけではなくて,波濤万里をこえてたどりつき,いま,ここで,仏像と相正対して向きあっている.それはいったいなにを意味するのか.いったいなにがわたしをこれほどまでにひきつけるのか.すぐれた仏像が放射するある種の霊性が,わたしをいざなうその場所は,もしかすると「信仰」ではないとしても,それは一枚の紙の表裏なのかもしれません.

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カウンタ 2169 (2013年4月7日より)