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妊婦の9割以上が中絶?

妊婦の9割以上が中絶?

                                 (室月 淳 2014年3月17日)

去年の11月の記事の各社の見出しです.

  • 毎日「陽性53人が中絶 3500人解析羊水検査後 新出生前診断」
  • 読売「新出生前検査53人中絶 3500人受診 陽性確定の98%」
  • 朝日「新型出生前診断陽性の9割中絶 3500人が受診、確定の56人中」
  • 共同「6カ月で3500人受診 確定後に53人が中絶 新出生前診断」

あれから数カ月たったので書きますが,以上の内容はどこからかリークされた数字のようです.しかしNIPTについてのリーク合戦はもういいのではないでしょうか.

NIPTコンソーシアムは,日本医学会,人類遺伝学会の関係者との話し合いによって,人類遺伝学会での公表データから中絶数や臨床研究からの脱落例は除くことになっていました.理由は,日本医学会のデータとの齟齬があること,研究途中のデータであり確認をしっかり行った後に公表することになったそうです.だから実際には,コンソーシアムとしてはデータ公表はしておらず,マスコミ報道については肯定も否定もしていないと思います.

遺伝カウンセリングの過程で,確定診断の羊水検査でもし仮に染色体異常であったときにどうするか,までつきつめて話をしますので,そこで,それでもなんとか育てていきたいという意向を親がもっているときは,NIPTを受けること自体の意味が薄れてきます.そのときわたしは,それでは検査を受けないことを勧めます.わたしの外来では,それで10-20%くらいのひとはNIPTを受けないことを選択して,採血はキャンセルになります.

逆にいえば,検査をうけて,最終的に染色体異常となったときには,ほとんどのひとが中絶を選択するのは,むしろ当然のことになります.そういったことへの想像力が欠けたまま,リークされた数字のみを特ダネとして報道することに,どういった意味があるのかは疑問です.

3月16日の朝日新聞「ニュースの本棚」で,ノンフィクションライターの最相葉月氏が『誰も知らないわたしたちのこと』をとりあげてくださいました.わたしはこの文章はとてもいいと思いました.正直,このかたをすこし見直しました.

ただひとつ誤解があるとすれば,NIPTで染色体疾患をみつかった例でのほとんどで中絶が選択されている事実について,「究極の選択に苦しんでいる」と批判しているところです.もちろん苦しむのですが,ただしそれは論理が逆です.検査前の遺伝カウンセリングで,もし染色体疾患とわかればそういった深刻な決断をせまられる,それについてはいまからきちんとした答えを考えておかなければならない,ということはきちんと伝え,ご夫婦に真正面から考えていただきます.もしそれでも産むときめているならば,そもそもこの検査を受ける意味はすくないだろう,ということもお話しします.

それにもかかわらず,ではなく,だからこそ染色体疾患とわかったかたは,ほとんどが中絶を選ぶことになります.それでも産むと選択するひとたちのおおくは,あえてこの検査をうけないと「選択」します.胎児の染色体疾患がわかって9割のひとが中絶を選択するのは,NIPTが中絶のための検査だからというわけではなく,むしろ検査前の遺伝カウンセリングがきちんとなされている結果だというのが事実にちかいのです.

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カウンタ 3401(2014年3月17日より)