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妊婦の自己決定支えて

 妊婦の自己決定支えて(高知新聞2013年3月29日)

                                            (室月 淳)

 NIPTにたいするいちばんおおきな誤解は,希望すればだれでも検査をうけられる,お金をだせばだれでも受検できるというものです.もちろん「指針」には検査の適応がしめされています.それはたとえば高齢妊娠であること,前児が染色体の病気であること,NTなどの所見をみとめるときなどといったものです.しかしこれらのいずれかをみたせばあとは無条件に検査をおこなう,かといえばけっしてそんなことはありません.

遺伝カウンセリング」が検査前,検査後に必須とされています.遺伝カウンセリングは「医療カウンセリング」のひとつですので,専門的知識にもとづいた医学的な説明は当然必要です.このばあい,染色体の病気の説明,個々人のリスクの評価,検査のメリットや限界,デメリットなどのわかりやすい説明は前提条件です.しかし「説明」はカウンセリングではありません.それでは「カウンセリング」とはいったいなにか?

たとえをあげてみます.45歳で妊娠したかたがいるとします.これまでながく不妊であったのが,あるとき妊娠していることに気がついた.45歳で自然妊娠することはもちろんめずらしいことですが,それでもそういうかたにはときどき遭遇します.もちろんご本人は天からのめぐみとしてこころからよろこんでいます.しかし45歳であれば流産の頻度もたかく,またうまれてきたこどもが染色体の病気をもつ頻度は30分の1をこえるハイリスクです.こどもはぜひほしい.しかしもし染色体の病気をもつとすれば,自分たちがどこまでめんどうをみていけるか自信がない.そういう不安や逡巡をかかえて遺伝カウンセリングにくることになります.

実はここには,安心して染色体の病気のこをうむことができないという日本社会の問題もふくまれています.しかしカウンセリングでいくら社会問題を告発しても,現実にめのまえにいるクライアントが直面している不安を解消することにはなりません.カウンセラーとクライアントのやりとりのなかで,現実的でもっとも妥当なみちすじをなんとかみつけていくことになります.

このときに出生前診断がひとつの選択肢としてあげられるかもしれません.従来ならば羊水検査となりますが,羊水検査にはひくいとはいえ流産のリスクをともないます.こんかいの妊娠自体が僥倖であり,そういったリスクにさらされること自体が心理的にたえがたい,そういうことはよくあります.そんなときにNIPTが有力な選択肢としてでてくるかもしれません.

NIPTはさまざまな問題をかかえています.あるひとたちにとっては倫理的に許容できない検査であるかもしれませんし,またべつのひとたちにとっては一種の福音であり,希望するひとたちにはできるかぎり提供しなければならないものと考えられています.しかしわれわれ遺伝カウンセラーは,この検査が本質的に是であるとか非であるという考え方はしません.NIPTをひろく普及させよう,あるいは逆に情報提供しないようにしよう,禁止しようとする態度はとらないのです.

われわれのめのまえにあるのはさまざまな状況におかれているクライアントの不安であり躊躇といった具体的な事情です.そんななかからすこしでも前向きな選択肢をかんがえ,それを提示し,そしてクライアントが自分たちで決断し選択していくのを,背中からそっとあとおしすること,それが遺伝カウンセリングの役割といえるかもしれません.

3月23日(土)に高知市・高知医療センターに招かれ,高知県周産期セミナーでお話をしてきました.タイトルは「無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)とはなにか? そしてどこにいくのか?」でした.そこでの講演内容を高知新聞に紹介していただきました.

4月からの検査施設認定,検査開始を直前にひかえた時期で,多くのかたがたが強い関心をいただいているのをはだで感じました.

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カウンタ 2305(2013年3月29日より)