中期中絶について
妊娠中期中絶について
(室月 淳 2013年4月24日)
医療機関として中期中絶をおこなわないというのは明確なポリシーの表れであり,それは医療者なり医療機関なりのひとつの見識と考えられます.設立母体が宗教法人の医療機関ではとうぜんそういった方針がでてくるのは当然ですが,それ以外にも生命倫理的な問題意識にもとづく場合などもあるでしょう.しかし専門的な周産期医療をおこないながらその原則をつらぬくのはなかなかたいへんなことです.ここに出生前診断のひとつの問題があると思います.
われわれのポリシーは,もし出生前診断をして,その結果中期中絶ということになったとすれば,その責任をもつためにできる限り自施設をおこなうというものです.しかしそのために,院内ではだいぶ軋轢をきたすことになります.もちろんこれは本人,夫の選択が第一となりますが.
医師もたいへんですが,もっとも負担がおおきいのは病棟スタッフです.死産,中絶にかかわらず,退院するときは本人,家族,児のためのお見送りの会を開いていますが,それが週に2回,3回となってくると,病棟にはあきらかに疲労の色が濃くなってくるのがわかります.若いスタッフがおおいのでパワーもあると同時に,感受性も豊かで,なかなかたいへんなようです.場合によっては,バーンアウト寸前まで追い詰められることになります.
なぜ自分で中期中絶をおこなうか.理由はふたつあります.
カウンセリングの原則として,現実的で前向きの選択肢を提示し,本人が自己決定するのをそっと後押しするというものです.当然どちらを選択しても,できる限りのケアをしていくという姿勢が要求されます.中期中絶を選択してもかまわない,ただしそのときはここではできません,という突き放す態度は,カウンセリング正審とは相反するもので,カウンセラーが決してとってはいけないものではないかと思います.
もうひとつの理由は,自らの診断,自らの説明に責任をもつためです.ひとつの生命の行方を決定するわけですから,適当な評価でお茶を濁すことはできないと思っています.もし中絶を選択したときは,自らの目で出生前診断が正しかったかどうかを確認しようと思います.
ですから中期中絶の児のほとんどは当院で剖検をおこなっています.診断の確認ということもありますが,詳細不明の奇形症候群ということもおおいので,なるべく診断確定して,次回妊娠のための遺伝カウンセリングをしっかりするということもあります.このことをきちんと説明すると,たいていのかたは剖検にすすんで同意してくれます.
NIPTにも同じ構造の問題が存在します.実は全国15か所の認定施設のなかで,自施設で中期中絶までできる施設は数えるほどです.大学病院などは中絶自体ができないところがほとんどでしょう.もしNIPTの結果,残念ながら妊娠の断念を選択した場合,紹介施設にかえす必要がでてきます.
21トリソミーとわかって中期中絶が認められるかはむずかしい問題です.そしてわたしのみるところ,NIPTの問題はすべてそこに収斂します.どのような姿勢をとるかはそれぞれが決めなければならないことですが,どちらを選択しても目の前の川を飛びこえる必要がでてきます.これは頭のなかだけの問題ではなく,現にめのまえにいるクライアントとの対話のなかで,クライアントのために可能な選択をあとおしするなかで直面してくる問題です.
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カウンタ 4190 (2013年4月24日より)