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地域社会再生への遥かなる道

コミュニティ再生への遥かなる道

                                  (2012年8月20日)

先日,南相馬市立病院のカウンセリング外来のお手伝いが午後からあったので,朝早めに仙台を出て,午前中の時間を使って車でぶらぶら走りまわっていました.ちょうどいまは出穂・開花という稲にとってはもっともだいじな時期にあたります.毎年お盆で親族が集まると今年の穂の出ぐあいはどうだという話題になるため,小さいころからの習慣でわたしもこの暑い時期は自然に稲の穂に目がいきます.

国道6号線を南下し相馬市を過ぎて南相馬に入ったあたりから,道路の左右の田が雑草で荒れ果てているのに気がつきました.津波の冠水のため米の作付けができないのかと最初は思ったのですが,山側のどの田も同じような光景なので,ああ,これが例の「一律作付け禁止」かと思いつきました.確か去年は福島第一原発から半径30キロの地域はすべて米の作付けを禁止されたはずでした.今年もほぼ同面積の作付けが禁止されたとのことですので同じような状況なのでしょう.

南相馬市の,それも海側のほうの放射能空間線量はかなり低く,たとえば今回,市立病院の玄関前でわたしが測ったところでは0.24uSv/hという値でした.もしかするとこれは福島市や伊達市,二本松市といった中通りよりも低いレベルかもしれません.土壌中のセシウム量も同じ傾向にあるはずです.本当に地域の農業の復興を目指すならば一律禁止などという行政処置ではなく,地域ごとの田んぼのセシウムを調べ,そのレベルに合わせた通常の作付け,土の入れかえや除染,休耕などといった個別の対応が必要ではないでしょうか.

外来でお話を聞いていると,仮設住宅で表面上いまは落ち着いて暮らしているひとでも,とにかく自宅に戻って米作りを再開したい,あのおいしいお米をもういちど食べたいという強い願いに圧倒されることがあります.そういうひとたちは,「意外にたいしたことがない」と「もう絶望的だ」の両極端に心情が振り子のように行き来しています.あまりにお気の毒で,かけてあげることばを探すのに苦労します.

はっきりいえることは,放射能による直接的な健康被害よりも,ひとびとをとりかこんでいる状況やそこから生まれてくるさまざまなことがらが「絶望的」といえることです.国や行政に翻弄され,福島のひとたち同士で対立し,さらには復興をビジネスの視点でみる央の意識.そういった軋轢や思惑といったものをのりこえて,福島の水と土をとりもどし,帰還したひとたちによってコミュニティが再建されるためには,これからどのようにしたらいいのでしょうか?

夕方には相馬市の仮設住宅の集会所で健康懇談会があり,南相馬市立病院副院長の及川友好先生がお話をされるというので,一緒についていって見学をさせていただきました.「メタボリックシンドローム そのなかでもっとも怖い高血圧」という講演でした.市の内外に避難して仮設住宅に住んでいる南相馬市民を対象に,血圧と体重をすべて経時的にデータベース化して健康管理をしていく「KDDI健康システム」というプロジェクトを進めているとのことでした.震災後,病院の枠をこえて市民の健康管理に取り組む姿勢はすばらしいものだと感じました.

地域社会の再生はこういうところから少しずつ始まっていくのかもしれません.及川先生の講演のあとは,わたしも4-5人のかたがたと車座になって懇談しました.みな子どもをもつ女性であり,今後の子育てについての不安を抱えています.カウンセリング外来で説明するような一般的な内容をお話しましたが,そのメッセージがうまく伝わったかどうか........

妊娠出産,授乳,育児といったことに関する情報提供とカウンセリングを通じて,よけいな不安感を少しでも和らげることにより,南相馬の地に若いひとたちが戻ってきてくれることを願っています.その結果,赤ちゃんの出産が少しずつでも増えてくるならば,それは地域の再生の象徴になりえると思います.われわれがお手伝いできるのはそういったことなのでしょうか.

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カウンタ 1465(2012年8月20日より)