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週刊文春「あぶない高齢妊娠」前編

週刊文春「あぶない高齢妊娠」前編の感想

                               (2012年11月10日 室月 淳)

週刊文春平成24年11月15日号

ようやく今週号の週刊文春を手に入れて,いわゆる「新型出生前診断」に関する話題の記事をよむことができました.一読,批判の主旨がわかりづらい内容でした.

「拙速」な導入のかげで議論が未熟なことを批判しているのか,遺伝カウンセリングの体制がいまだ不十分なことを批判しているのか,選択的中絶そのものを否定しているのか,あるいは優生思想と商業主義にまみれた外国系某企業をつよく警戒しているのか,なにに力点をおいて主張しようとしたいのかよくわからないのです.

実は次元のだいぶ異なるこれらの論点をすべてただならべただけのために,結果として全体があいまいでぼやけた文章になったのだと思います.ライター自身にこれまでなにか考えぬかれた思想や信念があるわけではなく,複数人に取材してでてきた問題点とりあえずならべたということのなのでしょう.最終的な評価は来週の後編をまちたいと思います.

いまは一点だけ指摘しておきます.以下の部分です.「だが本来,この問題の先頭に立つべき厚労省の危機意識は,まったくもって低いと言わざるを得ない.前厚労大臣の小宮山洋子氏は,読売の一報を受けて,八月三十一日の記者会見でこう話している………つまり,厚労省は議論を日産婦学会に丸投げしたのである.」

厚労省あるいは国がイニシアチブをとって規制すべきだ,あるいは法律をつくるべきだというのもしばしばきく意見です.おそらくこのライターも「医療関係者」とやらにそういった意見をきいたのでしょう.しかしわたしは小宮山前大臣の発言はきちんとしたひとつの見識にもとづいたものとして評価します.

こういった生殖あるいは遺伝検査問題においては,仮にそれにあきらかに道徳的根拠があったとしても,個々の人間の決定を法的に規定することには疑問があります.こういった選択にはもともと心理的にも経済的にもさまざまな圧力があるのですから,そこに法的規制をくわえても意味がありません.あるいはなにが生きるにあたいするかといった問題に法律が絶対にたちいるべきではありません.

たとえむずかしくても,くるしくても,面倒でも,時間がかかってもじぶんたちの手でコンセンサスをつくりあげていくほかないと思います.

 (追記 2012年11月23日)

週刊文春11月22日号の「あぶない高齢出産」後編は,「不妊治療大国ニッポン 出生率は先進国最低」というもので,NIPTとはまったく関係のない内容でした.とりあえずのご報告し,前編に関する感想を改めて書かせていただきます.

出版社系週刊誌の記者のさがだと思いますが,社会的に注目されている事件や事象の裏にはなんらかの「真実」,有り体にいえば「陰謀」が存在しているという信念があります.今回のNIPTに関する記事でも,「秘密裏に接触している」,「内情を知る医療関係者が真実を明かす」,「それをスッパ抜いたのが冒頭の記事だったのだ」,「緘口令が敷かれているという」といった週刊誌特有のおどろおどろしい表現がならんでいますが,内容はだいたいがみな共通認識としてもっていたものばかりで,特に目新しい事実はありませんでした.

この記事を書いたIライターが,この1〜2か月,複数のコンソーシアム関係者のプライベートを含めた身辺を取材し回っていたのは,われわれのあいだではうわさになっていました.想像するに,なにか利益供与があるのではないか,功名心や自己の業績とするために動いているのではないか,あるいはかたよった優生思想や信条をもっているのではないか,そういったところを調査して記事ネタにしようとしていたのだと思います.

個人的にはどんなネタがみつかってどんな記事に仕上がったのか,興味半分で期待して待っていた(笑)のでしたが,残念ながら?そういったことはなにも見つからなかったようです.逆に,いかにみなが危機感をもって真正面から議論し,真剣に取り組んでいるかにライターは意外の感をもったのではないでしょうか? 文面からはそういった印象が感じられます.

NIPTには確かに深刻な問題をはらんでいるだろうことは事実です.しかしそれは単純にだれかを悪役にしたてて批判すれば解決するような単純な問題では決してありません.われわれ人間存在の本質的なところに降りていかなければ見えてこないものだろうと思います.

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カウンタ 3868(2012年11月10日より)