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ハンドブック−超音波による胎児骨の観察

3.超音波による胎児骨の観察

 (1)超音波の特性

超音波検査はリアルタイムに観察できるという利点をもち,非侵襲的でかつ被曝の問題もないので胎児の精査にきわめて有用であるが,こと骨の観察に関してはいろいろと限界がある.超音波画像では骨は空気と同じようにその存在は確認できるが,その先の深部の情報が得ることが難しい.骨の超音波像は非常に輝度が高いことが特徴である.音響特性インピーダンスが大きく異なる軟部組織と骨の境界面,すなわち骨組織の表面で入射した超音波のパワーの半分以上が反射される.また骨内部では超音波の減衰が大きく,それより深い部位へは到達し難いため音響陰影acoustic shadowが現れることになる.

映し出されるのは皮膚から骨の表層までであり,骨の輪郭のみが描写されることになる.骨表面エコーといっても画像上では奥行きがあって,一見して骨(骨幹)自体の厚みを描出しているようにみえるが,実はこれは単なるアーチファクトに過ぎない.超音波の振動がすぐに終了しないことによるいわゆる尾引きと,骨直上の軟部組織との間で生じる多重反射の結果と考えられる.これらの現象を理解して骨画像を解釈していかなければならない.

すなわち胎児四肢において超音波が強く反射する組織は骨であり,その表面の輪郭が高い輝度で描出される.一部透過,一部反射する組織は軟部組織や線維軟骨であり,具体的には骨膜,筋膜,関節包などがあげられる.反射しない組織,すなわち無エコーとなる部分は硝子軟骨であり,骨頭軟骨や大腿骨転子部軟骨などに当たる.

 

 (2)超音波とX線画像の違い

骨の形態学的診断をみるためにはX線画像が圧倒的に優れている.骨化や石灰化のパターンに関してもX線が適しており,ときには空間分解能の優れたCT画像が有用になる.成人では骨化や石灰化を伴わない軟部病巣や骨腫瘍の診断などにMRIが頻用されるが,胎児においてはあまり役に立たない.胎児骨系統疾患に対しては,肢位,頭と体幹のバランス,胸郭低形成といった評価にMRIがわずかに用いられる程度である.

X線写真は,X線の透過度(吸収率)の差によって画像をつくる一種の「透過画像」である.骨は透過度が低いためフィルムに白く写る.それに対して超音波写真は,組織からの反射超音波によって二次元画像を取得する「反射画像」であり,骨の垂直方向の断層画像を取得することになるため,X線のような透過画像に似た画像を得ることは原理的に難しい.

乳幼児の先天性股関節脱臼に対する超音波検査に関するGrafの報告(8)によると,未骨化(骨化遅延)にもかかわらず正常形態の臼蓋軟骨は,X線上は臼蓋形成不全みえるが,超音波では正常と判断される.すなわちX線上の骨化より,超音波上の「骨化」が約4〜6週間早く生じることが知られている.発達途上の胎児におけるX線上と超音波上の骨化の違いの存在についての報告はまだないが,十分に考えられる話である.X線上で認められる骨化を,組織学的骨化に比して「X線学的骨化」と呼びならわされているが,それに倣って「超音波学的骨化」という概念が新しく定義可能かも知れない.

また超音波の特徴として,X線像では撮像されない関節包を描出することができる.水腫,膿の貯留,骨膜の肥厚などが捉えられるというが,ただし胎児期でこういった病態を示すことはまれである.

 

 (3)長管骨の観察と計測

エコーゲインは大腿骨頭軟骨がほぼ無エコーになるように調節するのがよい.骨をできるだけ詳細に観察するためにはズーム機能を使ってモニター上に大きく描出されるようにする.最初は長管骨骨幹diaphysisが超音波ビームに垂直,すなわち画面に水平になるように描出して詳細に観察する.ビーム方向により輝度が影響を受けることがあり,この現象を異方性anisotropyと呼ぶ.骨幹すべてをていねいに観察するためにはビーム方向と可能な限り垂直になるようプローブを走査する必要がある.それが終わったら次は骨幹端metaphysisの観察に移る.骨幹端の部分に超音波が入射するように,逆に超音波ビームに対して骨幹が角度をとるように画面に斜めに描出する.

骨短縮があるか,どの程度の短縮かを評価するためには,四肢長管骨のすべてを計測する必要がある.実際の胎児骨系統疾患の診断では大腿骨長femur length(以下FL)の短縮によって最初にスクリーニングされる場合がほとんどであろう.過去の報告(9)(10)では長管骨の長さが-2SD以下のときに胎児骨系統疾患のリスクがあるとされている.しかし臨床的にはFL -2SD以下でスクリーニングしていたら精査対象が多くなりすぎるので,-4SD程度以下とするのが実際的である.

四肢長管骨のすべて,すなわち上肢の上腕骨humerus,尺骨ulna,撓骨radius,下肢の大腿骨femur,脛骨tibia,腓骨fibulaを計測する.尺骨と撓骨,脛骨と腓骨は超音波上区別が難しいことがあるが,体幹により近位の方をそれぞれulna,tibiaとするのがよい.胎児骨系統疾患の鑑別診断の第一歩は,胎児の全身の長管骨のすべてを,できれば左右とも計測して記録することである.胎児の長管骨の正常発達曲線がいくつか発表されている(11)(12).ただし体幹と四肢の長さのバランスには人種的な差があると考えられる.日本人の胎児の四肢長管骨のノルモグラムはいまだ報告されておらず,胎児骨系統疾患の正確な診断のためにも新たな基準値が望まれる.

 

 (4)それ以外の骨の観察

頭部の形と骨化の程度をみていく.クローバー葉頭蓋cloverleaf skullはTDやCDなどで認められる.頭蓋骨の骨化不全があると母体腹壁からの超音波プローブの圧迫によって胎児頭蓋は容易に変形し,このようなときはOI type IIやHPなどを疑う.軟骨内骨化が選択的に侵され膜性骨化に異常がない一連の疾患では,頭蓋冠,下顎骨の発達は正常である一方,頭蓋底,顔面骨は低形成となるため,大きな頭蓋,前頭部突出frontal bossing,鼻根部陥凹,下顎突出などの特徴的な所見を示す.ACH,TDなどの一連の疾患である.

胸郭低形成は多くの骨系統疾患で認められ,児の予後と密接に関係する重要な所見である.一般に四腔断面が描出される胸郭周囲長thoracic circumference(以下TC)によって胸郭の形成が判断される.胸郭の形態としては極端に小さい場合(TD),長くて狭い場合(ATD),肋骨が極端に短い場合(短肋骨多指症候群short rib polydactyly syndrome,以下SRPS),肋骨に多数の骨折と変形を認める場合(OI type II)などがある.

 

 (5)長管骨の異常所見

々折fracture

胎内で骨折を来す疾患としてはOIが代表的である.図1はOI type IIの3例の大腿骨と肋骨の超音波像を示したものであるが,胎内で骨折と治癒を繰り返すことによって長管骨が著明な短縮と変形を起こしている.妊娠中をとおして胎児の長管骨の形態が経時的に変化していくのが観察される.肋骨の骨折所見も見てとることができる(図1D).OIのII型以外では胎内骨折はそれほど頻繁には生じない.単発の骨折のとき(図3B)は彎曲による変形と区別が難しい場合がある(後述).

彎曲bowing, angulation

長管骨の彎曲を認める疾患としては,TD,CD,SRPS,HPなどがある.骨系統疾患でX線学的に大腿骨の彎曲(骨折による彎曲も含む)を認める場合,CDが24.4%,TDが23.9%,OIが18.1%,SRPSが10.2%,HPが3.5%と報告されている(13).

TDの特にI型では長管骨が著しく彎曲している.正面X線像で大腿骨が電話の受話器のようにみえるため「受話器様変形」とよばれる.しかしこの診断的所見を超音波像で表すのは実は簡単ではない.先に述べたように超音波像は反射画像であるから,著明に変形した大腿骨のどの方向から超音波が入射するかによって見かけ上の像は大きく変化する.疾患固有の彎曲は立体的にみると曲がっているが,通常の超音波断層法による二次元画像だと彎曲がみえないことが多い.ドーナツを横から見たら棍棒状にみえるようなものである.

図2の4枚の超音波写真はすべて同一の胎児の大腿骨像である.図2Aのように彎曲の大きい大腿骨の内側からの超音波像は受話器様にみえるが,外側から超音波が入射すると,彎曲は小さく短縮のみが強調された像(図2B)となる.また斜めから超音波が入射すると骨幹端のcuppingの所見がはっきりと表れてくる(図2C,D).超音波でみる方向から大腿骨の所見がまったく異なるため診断にあたっては注意が必要である.実際,超音波で胎児大腿骨に「受話器様変形」を認めたとされて紹介されてきた症例の半数以上はTDではなかったという話がある(14).

CDでは両側大腿骨の対称性の彎曲が超音波で描出できる診断的所見である(図3A).しかし長管骨の彎曲は,骨形成不全症でときに認められる単発性の骨折(図3B)との鑑別が難しいことがある.CDやTDなどの疾患自体の特徴としての彎曲と,骨折後の変形のX線学的な鑑別点としては,骨折像と再生像,ずなわち骨折しただけでなく治癒再生過程でその部分だけ太くなる所見(図3D)があげられる.そのX線所見をイメージしながら超音波で局所をていねいに評価することが大切である.彎曲像と骨折像の違いとして,曲がり方が骨折だと「く」の字型になり,再生像があれば曲がった部分がすこし盛り上がっている(図3B).疾患固有の彎曲だと「(」の字型のわりと緩やかなカーブを来すといえる(図3A).

ただ骨折に必ず再生像が伴うわけではないHPの重症型のような例外もある.さらにCDの長管骨彎曲は軟骨原基の異形成によると推定されている(15)が,しかし一次的な異常ではなく子宮内骨折によるリモデリングの結果との考えもある.そうであればCDとOIの屈曲には本質的な違いがないのかもしれない.

9化不良hypomineralization

骨化不良を示す疾患にはOI,HP,ACGがある.X線検査と違い,超音波検査は術者依存性という特質もあって骨化の評価はどうしても主観的なものになることが多い.前述のようにエコーゲインは大腿骨頭軟骨がほぼ無エコーになるように調節して,骨のエコー輝度を確かめる.

客観的な所見としてはpressure test,すなわち超音波プローブで胎児の頭蓋を圧迫すると変形する所見(図4A)が知られている.骨化不良を示す一連の疾患で陽性になる.ただし正常児でも単なる未熟性のために陽性になることがあるので注意が必要である.

図4BはHPの周産期型の胎児大腿骨の像であるが,骨幹diaphysisの両端のところ,および骨幹端metaphysisの部分が,超音波輝度がやや低くかなりの厚みを帯びてみえる(16).すなわち骨幹端では音響陰影を示さない.この特異的な超音波パターンは大腿骨の骨化が悪いことを反映していると考えられる.骨幹の中心周辺ではある程度骨化しており高輝度にみえるが,端の方にいくと骨化が悪く骨表面で超音波があまり反射せず骨の中まで到達しているので,骨基質や軟骨まじりの部分がやわらかく厚みを帯びた像にみえるのだろう.非常に興味深い所見である.

す幹端の変化

骨幹端の盃状変形cupping,末広がりsplaying or flaringなどを指すが,こういった所見を呈する骨系統疾患は数多い.ACH,TD,ACG,Kniest骨異形成症Kniest dysplasia,変容性骨異形成症metatropic dysplasia,先天性脊椎骨端異形成症spondyloepiphyseal dysplasia congenital(以下SEDC)およびそれらの関連疾患などが上げられる.

胎児の長管骨をていねいに観察するためには,通常はビーム方向と可能な限り垂直になるように描出するが,骨幹端,すなわち骨の厚み方向を観察するためには,わざと超音波ビームに対して骨幹が角度をとるように画面に斜めに出す必要がある.たとえば図2を例にとると,画像Bの状態から超音波プローブを少し倒して左骨幹端に超音波ビームが入射するようにすると,画像Cのような超音波像が得られ,骨幹端が盃状に拡大していることが初めてわかる.図5はSEDCの大腿骨の超音波像と出生後のX線像を比較したものである.軽く斜めに描出することにより,短縮だけではなく,骨幹端のsplaying様変化が明らかになる.

ヅ西石灰化stippled epiphysis

X線写真上,骨端核あるいは骨端核周囲の軟部組織に点状石灰化を認める一群の疾患があり,点状軟骨異形成症chondrodysplasia punctata(以下CDP)と総称される.比較的頻度の高いConradi-Hunermann型や,近位肢節の著しい短縮を示す近位肢節型点状軟骨異形成症(rhizomelic chondrodysplasia punctata; 以下RCDP)などが知られている.

X線的には診断が容易である点状石灰化も,超音波診で描出可能かというとケースバイケースである.砂粒腫様の微細な石灰化は超音波解像度以下の大きさで描出不可能であるが,大きな石灰化は明瞭に描出することができる(図6).ふだんはあまり注意を払わない骨端epiphysisの所見にも留意する必要がある.

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カウンタ 15774 (2011年7月30日より)