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ハンドブック−胎児骨系統疾患の診断アルゴリズム

4.胎児骨系統疾患の診断アルゴリズム

多くの種類がある骨系統疾患を鑑別していくためには,診断のためのアルゴリズムを考えそれに沿って系統的にみていく方法と,疾患の頻度が高い順にひとつひとつの疾患の特徴をあてはめて診断していく方法の二つが考えられる.実際の胎児診断にはこの両方を併用していく必要があるが,本章では過去の報告17,18を参考にしながら,長管骨の短縮をmesomelic,rhizomelic,micromelicに3分類する系統的な診断アルゴリズムを解説する.

胎児の長管骨の計測と,骨化の程度,彎曲・骨折の有無などの評価,そして頭部,胸腹部,羊水量などの所見に着目して骨系統疾患の診断の個別化を図った.いわゆる「致死性」と呼ばれる骨系統疾患群に関しても,ひとつひとつの疾患の予後は少しずつ異なっているため,その鑑別が可能となることを目標としている.

 

 (1)骨系統疾患を疑って超音波精査を行う場合(ステップ1)

胎児の骨系統疾患を疑って超音波精査を行う状況としては,スクリーニングで胎児大腿骨長(FL)の短縮を認めたときと,骨系統疾患の家族歴があるときの2つがある(図7).

前述のとおりFLのカットオフ値としては-4SDとすべきだが,ただし-4SD以下とすると一部の疾患が洩れる可能性があることには注意する.また骨系統疾患の多くは妊娠20〜24週までに超音波所見で明らかになるが,一部には24週以降にならなければはっきりしないものもある.胎児の骨の直接的な所見ではなく,羊水過多,子宮内胎児発育遅延などがきっかけとなって骨系統疾患がみつかる場合もある.

FLが-4SD以下のときは,すべての長管骨の計測(できれば左右とも)と彎曲・骨折の有無,骨化の程度.頭部・胸郭の形と大きさ,肢位や指趾,羊水量,そのほかの合併奇形などについて評価を行う.児の生命予後と関係する所見としては,長管骨や身長の短縮の程度のほかに胸郭や羊水量が上げられる.胸部の上部が下部に比べて不釣合いに小さいいわゆるベル型胸郭を呈する場合や,体幹の形を描出すると腹部に比べて極端に小さい胸部がみてとれる場合などが胸郭低形成のパターンである.

出生前から骨系統疾患を疑われ,出生後に臨床所見,X線所見,剖検所見などから診断された症例の内訳をみると2,10,最終的に何らかの骨系統疾患の確定診断がなされたものが70%,分類不能の骨系統疾患とされたものが7%であった.また8〜16%が染色体異常を含む奇形症候群であり,3〜7%は結局正常という最終診断であった.当然のことであるが骨短縮を示す症例のすべてが骨系統疾患というわけではなく,IUGRや染色体異常,奇形症候群などが含まれることには注意を要する.発育遅延が重度になると,超音波上の長管骨短縮所見が骨系統疾患ときわめて似る場合があることが知られている19.またそれぞれの染色体異常症候群には,特徴的な骨格の異常を示す場合と,症候性の骨系統疾患を起こす場合の両方がある.たとえば21トリソミーでは関節弛緩性,骨盤骨の低形成,第5指中節骨の短縮と変形といった特有な所見を認める一方で,ときに軟骨に点状石灰化を示し,一種の症候性のCDPを発症することがある20.

骨系統疾患の家族歴があるときは,その特徴に焦点を絞って超音波精査を行えば妊娠22週未満に診断可能なことが多い.ただしACHにおいては Kurtzらの報告21によると,大腿骨長が-3SDないしは1パーセンタイルを下回った時期は妊娠21週から27週の間で,超音波診で確実に判断できるのは妊娠28週以降とされており,その時点で再度きちんと評価することが重要である.

 

 (2)長管骨短縮の3類型(ステップ2)

骨系統疾患は長管骨のどの部分が相対的に短縮しているかに着目するかによって3つのグループに分けられる.Mesomelic type(中間肢節短縮型)は,四肢の中節,すなわち上肢では前腕,下肢では下腿が短縮する疾患群である.Rhizomelic type(近位肢節短縮型)は,四肢の短縮の中で近位肢節(上腕と大腿)の短縮が目立つものをいう.多くの場合では上肢においてそれが著明に現れる.Acromelic type(遠位肢節短縮型)は手足の短縮が目立つものをいう.

ただしこれらはX線上,あるいは臨床的な認識により分類されたものであり,超音波診断によって明確にできない場合も多い.胎児骨系統疾患を超音波でみると,四肢のすべての部位が短縮しているmicromelic type(全肢節短縮型)として認識されるものがむしろ多い.

骨系統疾患の鑑別診断の第一歩は,胎児の全身の長管骨(上腕骨,撓骨,尺骨,大腿骨,脛骨,腓骨)のすべてを,できれば左右とも計測して記録することである.胎児の長管骨の発育のノルモグラム11,12を参考にして,3つの骨短縮パターンのいずれかに当てはまるかを調べる(図8).

 

 (3)Mesomelicおよびrhizomelic typeの診断(ステップ3)

頻度的にはそれほど多くはないが,超音波所見でmesomelic typeまたはrhizomelic typeとして認識できる疾患がある.

前腕および下腿といった中間肢節骨の短縮を示すいわゆるmesomelic typeの疾患としては,mesomelic dysplasia(中間肢異形成症)や異骨症であるacrofacial dysostosis(四肢顔面骨形成不全症)に分類される疾患の一部などが含まれるMesomelic dysplasiaでは,遠位肢節と近位肢節は正常か比較的軽い異常を示し,頭蓋,体幹も正常である疾患が多く,系統疾患というより骨格異常が局所に起こる異骨症(dysostosis)に近い疾患もある.このとき前腕は撓骨遠位が異常に掌側に傾斜し,手全体が階段状,フォーク状となるいわゆるMadelung様変形(銃剣状変形)を呈するが,その実際の形はmesomelic dysplasiaのそれぞれのタイプにより特徴的な形を示す22ため,超音波診断の参考になると思われる.機能や外観面では問題が多いが,少数の例外を除いて生命予後は一般に良好である.中間肢節短縮を示す異骨症としては,acrofacial dysostosis syndrome type Rodriguez23(図8のX線写真参照)などが上げられる.この疾患の生命予後は一般に不良である.四肢の中で近位肢節(上腕と大腿)の短縮が目立つものをrhizomeliaと呼ぶ.

RCDPの極端なrhizomelic shorteningは出生前超音波で認識できる所見である.全身X線像(図8の写真参照)ではrhizomelic typeの著しい長管骨短縮のほか,骨端核あるいは骨端核周囲の軟部組織の点状軟骨が非常に特徴的であるが,この特徴も超音波で充分に描出可能である(図9の写真参照).ほとんどの例は乳児期をこえて生存しないといわれる.

生命予後が良好な骨系統疾患の代表であるACHは中程度の四肢短縮を示す.Rhizomelicな四肢短縮が目立ち,特に大腿骨に著しい.しかし先に述べたように,超音波診で確実に判断できるのは妊娠28週以降であると考えられる.大きな頭蓋と前頭部突出が特徴的であるが,羊水量は正常である(図9).

 

 (4)Micromelic typeの診断(ステップ4,ステップ5)

Micromeliaはその短縮の程度からmild,moderate (shortened and bowed),severeの3型に分けられる(図10).

軽度の骨短縮を認める例(mild micromelia)としては,短肋骨異形成症グループshort rib dysplasia (SRP) (with or without polydactyly) group と捻曲性骨異形成症diastrophic dysplasiaの2つが代表的である.SRP groupは,ATDやSRPS,EvCDなどを含む胸郭の低形成や多指趾を特徴とする一群の疾患である.表現型の幅が大きく,非典型例も多いが,胸郭低形成のために予後不良例を多く含む.超音波診では,四肢長管骨の軽度の短縮と著明な胸郭低形成(図10の写真参照),多指趾などで疑われるが,グループ内の各疾患の鑑別は難しいことが多い.Diastrophic dysplasiaも症例による表現型の差が大きい疾患であるが,一般的には長管骨の短縮と変形は軽度で,撓骨の彎曲や関節拘縮の他,hitchhiker thumbと呼ばれる特有な親指変形が特徴的である.

長管骨の短縮に加えて彎曲を認める疾患(moderate micromelia)にはCDや分節異常骨異形成症dyssegmental dysplasiaがある.CDの長管骨短縮は比較的軽度でありながら,局所的に著明な彎曲を認める(図10の写真参照).特に下腿に著明に現れ,脛骨は太く,短く,腓骨は著しく低形成である.呼吸障害のため乳幼児期に死亡する例も多いが,最近は長期生存例も増えてきている.Dyssegmental dysplasiaは管状骨のダンベル変形をX線的特徴とする生命予後不良の疾患である24.超音波所見では超音波の入射する部分の骨表面の形が像としてみえるため骨幹端の横径の増大はわかりづらく,ダンベル状変形は大きな彎曲として描出される.胸腰椎体の大小不同も超音波で確認可能である25.

Severe micromeliaはいずれも-6から-8SD以下の著明な長管骨短縮と胸郭の低形成,羊水過多を示し,予後が一般に不良な骨系統疾患である.骨化の程度と骨折の有無によって3グループに分類される(図11).骨化が正常で骨折がないものには先に出たTDがある.TDは胎児骨系統疾患の中で最も頻度が高い疾患で,生命予後は一般に不良である.大腿骨の短縮と著しい彎曲,骨幹端の拡大は特徴的な所見であり,その形状から受話器(telephone receiver)様変形(図11の写真参照)と呼ばれる.大きな頭部と腹部,ベル型に変形した小さな胸郭が認められる.

エコー輝度の低下は骨化の不良を表しており,さらに子宮内で骨折所見を認める場合はOIを考えなければならない.4型に分類されており,特にII型は胎児期から多発骨折と変形を発症して一般に周産期予後が不良であるが,最近では長期生存例も増えているので注意が必要である.四肢や肋骨の多発骨折による短縮や変形は超音波で同定しやすい所見である.また膜様頭蓋は超音波探触子の重みで容易に変形する特徴がある.

ACGはもっとも重症の骨系統疾患であり,四肢,体幹とも著しく短縮し,脊椎,骨盤とも骨化不良を呈する.相対的に大きな頭部と短い体幹,膨隆した腹部により診断は比較的に容易であり,羊水過多は必発である.周産期予後は絶対的に不良である.HPの最重症型もほぼ同様の超音波所見を示し,予後不良の疾患である.

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カウンタ 19865 2011年7月30日より