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「不安」はなにからくるのか?

「不安」はなにからくるのか?

                                    (室月 淳 2015年3月1日)

 

NIPTを希望するかたはみな口々に「不安」を訴えます.なにが不安なのか? たとえば高齢のかたは生まれてくる子どもになにかしら病気がないか不安になります.たしかに母親の年齢とともに染色体疾患のリスクはすこしずつ上昇します.それをまわりからいつも聞かされるわけです.

ですから不安とは染色体疾患の子が産まれるかもしれないという心配です.NIPTを希望する動機としてもっとも多いのは高齢妊娠であり,一般に35歳以上とされます.しかし染色体疾患の児のリスクは年齢とともにすこしずつ高くなっていくのであり,もちろん35歳でとつぜん上昇するわけではありません.

このリスクをどう考えるかはむずかしい問題です.実際に不安をいだいているひとは,必ずしもそれを具体的に意識していないことも多い.染色体疾患のことも当然ですが,無事に出産をおえられるか、そのあとの子育て,職場復帰などさまざまな不安が積み重なった結果のこともあります.

このような不安にはたして根拠があるのかという問題はあります.しかし妊娠して漠とした不安をかかえているよりは,不安の内容をきちんと自覚して,具体的にはっきりしたその内容を心配に思うほうが数段ましです.なぜならばその心配事を解決しようとなんらかの行動を選ぶことが可能になるからです.

高齢妊娠として漠たる不安をかかえているのではなく,具体的になにが心配なのでしょうか.どのくらいのリスクならば心配か,あるいはどのくらいならば安心なのか? 何を基準として,どういう条件のときにリスクが高いと考えるか? その心配を解消するためにNIPTを受けるのか?

NIPTを受けるか受けないかの意思決定をするためには,それぞれの個人において,どのくらいのリスクならば心配であり,検査を受けるのかをはっきり自覚しなければなりません.しかしこのリスクの評価はかなりの主観的なものです.

高齢妊娠によってリスクが高まる染色体疾患は,自分に直接かかわることだけあって,世の中でもっとも重くてたいへんな疾患だと捉えがちです.ある意味これは当然なことでしょう.しかしリスクをどう考えるかにあたっては,客観的にほかと比較してみることが実はたいせつです.

それによってリスクの評価が真に人間性をもっておこなえるようになると思います.すなわち自分たちの状況や価値観で評価するのではなく,社会の一員としての自分の立場をいかに認識して考えられるかです.そうでなければそれは単なるエゴイズムに過ぎません.

実はここでもっともたいせつなのは,万が一染色体の病気とわかったとき,いったいどうするかをあらかじめはっきり決めておくことだと思います.逆にリスクを知らされても,どうするかの意思がはっきりしていなければ,検査を受けてその結果を知ってもあまり意味がないでしょう.

「いったいどうするか」とは産むか中絶するかのどちらかです.もし産むという選択ができているのであればもともと検査を受ける必要はないかもしれない.すなわちよくも悪くも産まないという選択ができているひとだけが,この検査を受けることに意味があるのだと思います.

逆にNIPTを受けないという「選択」も当然ここには存在します.いわゆる「選ばないことを選ぶ」という選択です.出生前検査を受けないと決めたひとたちは,「なんとなく」ではなくはっきりと受けないと決めたひとたちです.だからみずから心配から解放されることになります.

一度,検査を受けないと決めると,漠とした不安をつきぬけることになりますから,妊娠分娩にたいしてポジティブに向きあえるひとが多いような気がします.確かに染色体疾患についてのネガティブな情報は存在します.しかしいろいろなひとがいるし,いろいろ子どもがいていろいろ人生を送っています.

不安のまま妊娠分娩を迎えるひともいます.しかし不安から解放されて幸せな分娩を迎えるひともたくさんいます.そしていつだれにでも明るい未来は必ずあります.不安とか安心とか,あるいは幸せとか不幸せとは,それぞれのひとの「状況」を意味するのではなく,それぞれのひとの「選択」なのだというわけです.

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