医学的な文章のライティングで難所と言える物の一つが、臨床試験のタイトルである。対象被験者のeligibility、比較する治療内容(期間や投与量)、評価方法や目的といった多くの情報が一つの文章の中に盛り込まれる。これは、適切に解釈したうえで日本語にしないと、単語を単語に、句を句に置き換えてそのまま並べた様な翻訳では解りにくいことが多い。 (PRC委員長 大島康雄)
例示1) ITC001から
- まず、この翻訳はそんなに悪い例ではない。その上で、改善する例題として採用した。
- この文章の問題点を挙げるとすると、読み手は「○○スタディは」…「○○患者において」…それぞれの着地点はどこかを宙で覚えつつ意味のある疾患名や医薬品名等の意味を拾っていくことを強要される。
- 改善するには「スタディは」「行われた」という主語と述語が遠い。近づけられるならば近づけたい。
- 「において」「における」は常に使用不可。この場合は内容から試験のeligibility, inclusion criteriaを示しているので、「対象として」という文言を挟む。
これだけ修飾関係が多いと、意図するところを表現するのが難しいのは原文でも同じことだが、うまくまとまっている。
注目してほしいのは、試験結果を評価したのは試験を実施した先生のはずなのに、study evaluatedとなっている。これを日本語で「試験が評価した」とすると違和感が出るので、試験実施者という意味上の主語を書かずに、【受動態】にするか、「○○を評価することが本試験の目的である」「本試験によって○○を評価した」のような構文を用いるかであろう。後2者でいろいろ試みたが、この例ではどうも後2者をきちんとした文章に組み立てるとしっくりこない。一般的には推奨されないが【受動態】を用いることにした。
元の訳文と読み比べてみて、頭に情報が入りやすくなったと感じるだろうか?
例示2)Medical Writingのセミナーから
なんとなくわかったようなわからないような。このタイトルでは納得しないセンスを身に着けていただきたい。この表題の問題点は修飾語と被修飾語の関係が曖昧である点。すべて、「ランダム化比較試験」に直接かかるのか?
- ?
- 糖尿病ハイリスク集団における
- 生活習慣指導についての
- 効果検証に関する
- 多施設共同による
- ランダム化比較試験
唯一の正解というつもりではないが、次を提案したい。
このタイトルなら、どいった試験をおなったか、おおむね想像がつくのではないだろうか。
元の英文にない単語を追加するような行為に、戸惑いを覚える人もいるかもしれないが、訳の解らない「単語だけ日本語に置き換わった」ような文章モドキを読ませるのと、意味を成す日本語を提供するのとどちらを目指すかである。試験デザインや対象被験者の基準とう重要な情報については、単語を補って意味が変わらないかを原著で確認する必要が出てくる場合がある。