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進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)及び良性反復性肝内胆汁うっ滞症(BRIC)

<診断のポイント>新生児乳児胆汁うっ滞網羅的遺伝子解析

PFIC
  • 乳児期早期に遷延性黄疸、新生児肝炎症候群などと診断された症例で、生後6か月以降も黄疸が持続して、しだいに強い掻痒感をきたすようになります。
  • 1型と2型のPFICでは、閉塞性黄疸があるにもかかわらずγ-GTPが正常または僅かに高いといった範囲に留まるのが特徴です。3型では、γ-GTP高値を示します。
  • 肝病理所見では、1型では胆汁うっ滞、2型では巨細胞性肝炎が特徴的です。年齢が進めば、門脈域の拡大、小葉構造の改築傾向など胆汁うっ滞性肝硬変への進行が推測されます。また、2型のPFICでは、肝組織の病理標本で、BSEPが検出できないことが、確定診断に役立ちます。

BRIC
  • 1型、2型ともに同じ遺伝子の異常がありながら、肝硬変へ進行しない軽症の病型が知られています。これを良性反復性肝内胆汁うっ滞症と呼びます。
  • γ-GTPが高くならない胆汁うっ滞、掻痒感が強いといった臨床像はPFICと変わりません。数か月の経過で自然に胆汁うっ滞が軽快します。間欠期には、臨床所見、検査所見とも正常化します。
  • PFICとBRICの鑑別は臨床経過と肝組織像によります。具体的には、自然に胆汁うっ滞が改善するか?、肝組織像では肝線維化の進行がないか?で判定します。
  • 遺伝子検索では、1型と2型の区別がつきますが、PFICとBRICの区別は困難です。


<総論および病態>(図1、2)

乳児期に発症し胆汁うっ滞性肝硬変に進行する、常染色体劣性の慢性肝内胆汁うっ滞症です。近年の研究により、複数の遺伝子異常による一群の疾患群として理解されるようになりました。1型ではATP8B1 (familial intrahepatic cholestasis 1: FIC1)、2型ではABCB11 (bile salt export pump: BSEP)、3型ではABCB4 (multidrug resistance P-glycoprotein 3: MDR3)が原因遺伝子として同定され、いずれも細胆管レベルにおける胆汁成分の輸送を担うトランスポーターの異常によって胆汁うっ滞をきたします。


[図1] ※クリックで拡大できます


[図2] ※クリックで拡大できます



<診断の詳細>

図2
 [図3] ※クリックで拡大できます

◆診断手順を図3に示しました。臨床経過に病理所見を加味して診断します。乳児期から慢性胆汁うっ滞が継続し、肝外・肝内胆管には異常なく、胆汁中の胆汁酸量が低値の場合にPFICを疑います。PFIC1型と2型は高度の胆汁うっ滞にもかかわらず、γGTやコレステロールが低値を示すのが特徴的所見ですが、3型はγGT高値となります。PFICと類似した症候を示す先天性胆汁酸代謝異常症では、血清総胆汁酸低値に注意して鑑別します。

図2
 [図4] ※クリックで拡大できます
◆PFICの診断に際して考慮すべき点を図4に示しました。


◆PFICの1型と2型の鑑別点を図5,6に示しました。電子顕微鏡所見も役立つことがあります。肝生研を行う前に、久留米大学病理部に相談されると良いでしょう。


[図5] ※クリックで拡大できます


[図6] ※クリックで拡大できます



◆良性反復性肝内胆汁うっ滞症(benign recurrent intrahepatic cholestasis: BRIC)は、PFICの軽症型で、間欠的に肝内胆汁うっ滞をきたします。発作時には、まず血清胆汁酸が上昇し、次第に黄疸や掻痒感が出現しますが、数週から数か月のうちに自然に軽快します。進行性の肝病変をきたすことはありませんが、一部の症例では強い掻痒感によってQOLが障害されます。FIC1の変異によってBRIC1が、BSEPの変異によってBRIC2が発症します。いずれの場合も、胆汁うっ滞にもかかわらずγGTは上昇しません。同一遺伝子の異常によって病型が異なるのは、遺伝子変異の種類によってトランスポーター機能の障害の強さに差があるためとされていますが、詳細は不明です。また、PFICを起こす遺伝子のヘテロ接合変異によって、妊娠により肝内胆汁うっ滞をきたすことが報告されています(intrahepatic cholestasis of pregnancy)。

図2
 [図7] ※クリックで拡大できます

◆PFICとBRICの中間的な重症度の症例も報告されています(図7)

遺伝子検査はPFIC1型2型の鑑別に有用ですが、重症度の判定には役立ちません。


<治療と予後>医師主導治験のご案内

(1)内科的治療
一部の症例でウルソデオキシコール酸(UDCA)により、胆汁うっ滞が改善する場合があります。近年、PFICとBRICと中間的な経過を示す病型が報告されており、著効例はこのような症例と考えられます。具体的には、総胆汁酸値の急激な増加をきたさないか慎重に経過を観察しながらUDCAの投与量を漸増し、10mg/kg/日を分3で投与する。著しい副作用がなく、効果が乏しい場合にはさらに増量し、30〜45mg/kg/日の大量投与を行う場合もあります。

(2)外科的治療
[1] 部分的胆汁瘻(partial biliary diversion)

胆嚢皮膚瘻を造設し、胆汁を体外に排泄させて胆汁うっ滞を改善させる治療法です。原理的には、胆汁酸が部分的に胆道へ排泄されている必要があり、また高度の肝障害をきたす前に実施する必要があります。効果は患者ごとに大きく異なり、一部の症例では胆汁うっ滞や掻痒感の軽減に役立った症例が報告されています。

[2] 肝移植
一般的に肝病変の進行は2型が1型より早く、3型は症例によって大きく異なっています。しかしすべての病型で肝不全に陥る可能性があり、肝病変が進行性の場合は肝移植の適応を考えます。本邦では、肝不全に移行する前に、高度の掻痒感や成長障害の改善を目的に、幼児期に生体肝移植に踏み切る場合が多いようです。1型PFICは肝移植後も難治性の水溶性下痢、高度脂肪肝、膵炎などの合併症を起こし、予後は必ずしも良好ではない。一方、1型以外の病型に対する肝移植は根治的と考えられるので、QOLを改善するために肝移植を早期に実施する選択も考えられる。特にPFIC2型は小児期に成人型肝癌をきたすことがあります。したがって肝移植の時期を決めるためには、臨床所見から鑑別し難い1型と2型のPFICを区別することが賢明です。両者を鑑別する方法として、肝組織で2型PFICの原因であるBSEPを染色することと、遺伝子検索を行うことがあります。


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