肝硬変症の定義と病態:
肝硬変とは、種々の原因による慢性の肝細胞障害により肝組織が破壊と再生を繰り返し、同時に創傷治癒としての線維化が進展した結果、肝全体にびまん性に偽小葉が形成される慢性肝疾患の終末像である。
肝小葉構築が破壊され、線維性結合組織に囲まれた結節状の再生肝細胞集団(偽小葉結節)が形成されるため、肝の微小循環が阻害され、栄養素や酸素、代謝産物の運搬に不均衡が生じ、最終的に慢性肝不全状態に陥る。
肝硬変診断のアルゴリズム(肝硬変診療ガイドライン2015より引用、一部改変)
肝硬変症を診断するためには、上記のアルゴリズムに準じて生化学的検査、画像診断、組織学的評価を総合的に判断する。
小児期での特徴について:
・生化学検査では「APRI*」が有用であるとする報告が多い。
・Transient elastgraphyはある程度参考になるが、炎症・うっ血で肝硬度数値が上昇することに注意が必要である。
・生化学的検査だけでは肝硬変の予測が難しい場合もあり、確実な診断のためには肝生検での肝組織学的診断が重要であるが、その適応判断と実施については肝臓専門医にコンサルテーションすることが望ましい。
* APRI=(AST測定値/施設の基準値)× 100 /血小板数(103/μL)
APRI>2で肝硬変症の診断能は感度57%、特異度93%
肝硬変症の原因疾患の同定にはそれぞれの疾患特異的な各種検査が必要であり、小児では胆汁うっ滞による慢性疾患が肝硬変症の主な原因であるため、その鑑別診断を進めることが肝要である。小児期の胆汁うっ滞の原因には鑑別すべき疾患が数多く存在し、確定診断が難しい場合がしばしばあり、予後の予測と正しい治療のためには正確な診断が必要となる。診断の一助として新生児乳児胆汁うっ滞網羅的遺伝子解析(http://www.jspghan.org/icterus/02/2-2-2-3.html)の研究も進められている。(2. 「小児期の肝硬変症の主な原因」の表に対象となる疾患の一部を記載)
1)構造異常
・胆道閉鎖症
・先天性胆道拡張症
・カロリ病
2)遺伝・先天代謝異常症
・アラジール症候群
・進行性家族性肝内胆汁うっ滞症
・シトリン欠損症
・チロジン血症I型
・ガラクトース血症I型
・肝型糖原病
・先天性胆汁酸代謝異常症
・ミトコンドリア病
・ニーマンピック病C型
・ウォルマン病
・α1-アンチトロンビン欠損症
・嚢胞性線維症
・ウィルソン病
3)自己免疫性疾患
・自己免疫性肝炎
・原発性硬化性胆管炎
4)感染症
・B型肝炎ウイルス
・サイトメガロウイルス
・Epstein-Barr (EB)ウイルス
5) 薬剤性肝障害
6)その他
・新生児肝炎症候群
・腸管不全合併肝障害(IFALD)
・うっ血性肝障害(Fontan associated liver disease:FALDを含む)
・Budd-Chiari奇形
※ 下線は「乳児黄疸ネット」に各論が掲載された疾患/緑字は「胆汁うっ滞疾患に対する網羅的遺伝子解析」に含まれる疾患
小児期に肝硬変症を来たしうる胆汁うっ滞性疾患をきたす疾患は、解剖学的な構造異常によるもの、遺伝性疾患や先天代謝異常症、自己免疫疾患など多岐に渡る。頻度としては新生児肝炎症候群、胆道閉鎖症が多い。
構造異常によるものや大部分の遺伝性疾患、先天代謝異常症などは新生児期〜乳児期に胆汁うっ滞が生じてくるものが多く、一方、ウィルソン病や自己免疫性疾患は発症時期としては幼児期以降が主体であり、疾患により好発年齢が異なっている。
黄疸の乳児に対する鑑別診断の進め方は、「乳児黄疸ネット」を参照されたい。
(http://www.jspghan.org/icterus/01/1-1.html)
小児期の肝硬変症を来たしうる胆汁うっ滞性疾患を鑑別する上で重要なポイントを下記にのべる。
家族歴 | |
---|---|
血族結婚 | 常染色体優性遺伝疾患が増加 |
両親や同胞の新生児胆汁うっ滞 | 遺伝性疾患、先天代謝異常症の可能性を示唆 |
出生前歴 | |
胎児超音波検査所見 | 先天性胆道拡張症、胆石症、腸の異常の存在または症候群を示唆する所見の有無を確認 |
妊娠中の母体の胆汁うっ滞 | PFIC遺伝子突然変異のヘテロ接合体やミトコンドリア病の可能性を示唆 |
母体感染症 | 母子感染を起こしうる肝炎ウイルスやその他のウイルス感染症の有無を確認 |
新生児歴 | |
在胎週数 | 早産児は新生児肝炎の危険因子 |
Small for Gestational Age | 新生児胆汁うっ滞や先天感染の増大リスク |
新生児感染症 | 母子感染を起こしうる肝炎ウイルスやその他のウイルス感染症の有無を確認 |
新生児マススクリーニング | 先天代謝異常症のスクリーニング(シトリン欠損症、チロシン血症、ガラクトース血症) |
栄養源:人工乳、母乳、経静脈栄養腹部の手術歴 | 腸管不全合併肝障害(IFALD) |
体重増加の評価 | 遺伝性および代謝性疾患 |
全身状態の評価 | 病的外観は感染症、代謝性疾患を示唆する |
---|---|
一般的な外観 | 顔貌異常:新生児のアラジール症候群は、特徴的な顔貌(広い鼻橋、三角形の顔、彫りの深い目)を示すことは稀 |
心臓所見:心雑音、心不全徴候 | 先天性心疾患:アラジール症候群、脾臓の異常を伴う胆道閉鎖症うっ血性肝障害 |
腹部所見 | 腹水の存在を示唆する所見:腹壁の静脈、肝臓の大きさと変化、脾臓の大きさと変化(または欠損)、腹部腫瘤、臍ヘルニア |
神経学的所見 | 全体的な活気、筋緊張に注目 |
項目 | 1点 | 2点 | 3点 |
---|---|---|---|
脳症 | ない | 軽度 | 時々昏睡 |
腹水 | ない | 少量 | 中等量 |
血清ビリルビン値(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0-3.0 | 3.0超 |
血清アルブミン値(g/dL) | 3.5超 | 2.8-3.5 | 2.8未満 |
プロトロンビン活性値(%) | 70超 | 40-70 | 40未満 |
構造異常 | |
---|---|
胆道閉鎖症 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-1.html (胆道閉鎖症診療ガイドラインも参考に) |
先天性胆道拡張症 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-2.html (先天性胆道拡張症診断・治療ガイドラインも参考に) |
遺伝・先天代謝異常症 | |
アラジール症候群 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-3.html |
進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC) | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-5.html |
シトリン欠損症 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-7.html |
チロジン血症ガラクトース血症 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-10.html |
先天性胆汁酸代謝異常症 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-6.html |
ミトコンドリア病 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-8.html (ミトコンドリア病診療マニュアル2017も参考に) |
ニーマンピック病C型 | 線維芽細胞フィリピン染色、遺伝子検査、オキシステロール↑ |
ウィルソン病 | 血清セルロプラスミン↓、尿中銅↑、肝銅含量↑、遺伝子検査 (Wilson病診療ガイドライン2015も参考に) |
自己免疫疾患 | |
自己免疫性肝炎 | 他の疾患を除外、抗核抗体陽性or抗平滑筋抗体陽性、IgG↑、肝組織学的所見(重要)、副腎皮質ステロイドが著効(自己免疫性肝炎診療ガイドライン2013も参考に) |
原発性硬化性胆管炎 | 血清トランスアミナーゼ値and/or γ-GTP↑、他の疾患を除外、ERCP、肝生検 |
感染症 | |
B型肝炎ウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス | PCR、抗体価、眼科検査(サイトメガロウイルス) |
その他 | |
薬剤性肝障害 | 民間薬や健康食品を含めたあらゆる薬物服用歴の確認、被疑薬は発症までの期間、経過、過去の肝障害の報告、DLSTから推定 (DDW-J2004ワークショップの診断基準も参考に) |
新生児肝炎症候群 | http://www.jspghan.org/icterus/01/1-2-4.html |
うっ血性肝障害 | 心エコー、BNP、CK、LDH |
1.フローチャート1: 肝硬変診断のアルゴリズム. 肝硬変診療ガイドライン2015. 日本消化器病学会編, 南江堂. xvii, 2015. 2.Flores-Calderón J, et al. Non-invasive markers of liver fibrosis in chronic liver disease in a group of Mexican children. A multicenter study. Ann Hepatol 11: 364-8, 2012. 3.Voutilainen S, et al. A Prospective Comparison of Noninvasive Methods in the Assessment of Liver Fibrosis and Esophageal Varices in Pediatric Chronic Liver Diseases. J Clin Gastroenterol 50: 658-63, 2016. 4.Hukkinen M, et al. Transient elastography and aspartate aminotransferase to platelet ratio predict liver injury in paediatric intestinal failure. Liver Int 36: 361-9, 2016. 5.村上潤. 肝硬変. 小児内科 50増刊号: 438-9, 2018 6. Fawaz R, et al. Guideline for the Evaluation of Cholestatic Jaundice in Infants: Joint Recommendations of the North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition and the European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition.J Pediatr Gastroenterol Nutr 64: 154-68, 2017 7.Götze T, et al. Neonatal Cholestasis - Differential Diagnoses, Current Diagnostic Procedures, and Treatment. Front Pediatr 3: 43, 2015 8.胆道閉鎖症診療ガイドライン. 日本胆道閉鎖症研究会. へるす出版. 2018 9.先天性胆道拡張症診断・治療ガイドライン. https://www.jspbm.jp/pdf/CBD-GL.pdf 10.ミトコンドリア病診療マニュアル2017. 日本ミトコンドリア学会編. 診断と治療社. 2017 11.Wilson病診療ガイドライン2015. http://jsimd.net/pdf/guideline/DW/01_150508_WD-GL.pdf 12.自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン2013 http://www.nanbyou.or.jp/upload_files/AIH-Guideline.pdf 13.滝川一, 他. DDW-J2004ワークショップ薬物性肝障害診断基準の提案. 肝臓 46: 85-90, 2005
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