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新生児肝炎

<診断のポイント>

  • 胆汁うっ滞性黄疸がある。
  • 肝外性の病因あるいは症候性肝内胆管減少症(Alagille症候群)が否定できる。
  • 遺伝性・代謝性疾患、内分泌・染色体異常、感染症及び薬剤性などの病因が否定できる

【Clinical Pearls】
* 胆汁うっ滞性黄疸とは、直接型高ビリルビン血症及び高胆汁酸血症が併存していることを意味している。
* 特発性新生児肝炎(米国)や新生児肝炎症候群(英国)は、本邦で使用される「新生児肝炎」とほぼ同義語である。



<総論・病態>

新生児肝炎は、1)新生児期に発症したと考えられるもので、多くは生後2か月以内に発見される肝内胆汁うっ滞で、顕性黄疸は1か月以上持続し、多くは6か月以内に消褪する、灰白色便(または淡黄色便)および濃黄色尿を伴う、2)組織学的には巨細胞性肝炎の像を見ることが多い、3)尿路感染症、敗血症、梅毒、その他の全身性感染症あるいは全身性代謝性疾患などに伴った二次性のものを除くと定義されている(厚生省特定疾患「難治性肝炎」「肝内胆汁うっ滞」調査研究班、昭和50年)。
 新生児肝炎の病因は不明であるとされてきたが、「肝炎」が意味する感染あるいは炎症の結果ではなく、現在は、以下の複合要因によるものと考えられている

・ 胆汁分泌の未熟性(生理的胆汁うっ滞)
周産期の低酸素及び再潅流傷害(子宮内発育不全、仮死ほか)
細菌感染症(敗血症)
経口栄養開始の遅延(新生児壊死性腸炎、経静脈栄養など)。

【Clinical Pearls】
* 新生児肝炎の肝組織像は「巨細胞性肝炎」と言われてきたが、日本の症例では、典型的巨細胞性肝炎の像を示す症例は全体の約 1/3に過ぎなかった。 非巨細胞性肝炎群の大部分の組織像は胆汁うっ滞あるいは肝炎の所見を示すが、脂肪肝の組織像を示す症例が約10% に認められた。この脂肪肝を示す症例の多くは、シトリン欠損による新生児肝内胆汁うっ滞 (NICCD) であることが明らかにされた。
* 欧米からの報告では、新生児肝炎の約90%の症例で急性及び慢性の周産期異常が認められ、これらの症例の約90% で肝細胞の巨細胞性変化(約25%の症例では脂肪肝)が観察されている。



<診断へのプロセス:臨床像・検査所見>

臨床像: 黄疸 灰白色便 濃黄色尿
     肝腫 脾腫
     脂溶性ビタミン欠乏症(ビタミンD、ビタミンK)
     体重増加不良

*明らかに病的な肝腫大及び脾腫大は各々 79%、37% に認められるにすぎない。

検査所見:血中直接型ビリルビン (高値)
     血中総胆汁酸 (高値)
     血清トランスアミラ−ゼ  (正常〜高値)
     血清 γGTP (軽中等度の上昇)
     血清リポプロテイン−X  (陽性または陰性)
     十二指腸液検査  (黄色胆汁色〜無胆汁色)
     腹部超音波検査*
     肝生検*

【Clinical Pearls】
* γGTPは回復期に上昇する現象が観察される。約80%の症例では血中ビリルビンの減少(月齢 1-2)と共に血清γGTPの増加(月齢 2-3)と以降の漸減及び正常化が観察される。
* 血清ALP値は上昇するが、一部の症例では低値を示すことがある(体重増加不良など栄養障害がある)。
* 十二指腸液検査(経口ゾンデ法)では、胆汁(黄色胆汁色素:ビリルビン)の流出が確認できるが、高度の肝内胆汁うっ滞を示す症例では胆汁は観察できない。
* 胆道閉鎖では極めて淡い黄色の十二指腸液が採取されることがあり誤診の原因となる。胆汁酸とアミラーゼを同時に測定すると良い。
* 腹部超音波検査では、通常、胆嚢や肝外胆管が観察されるが、胆汁うっ滞が高度な場合には、胆嚢や肝外胆管が観察されないことがある。
* 胆汁うっ滞で診断が確定出来ない場合には肝生検を行う。新生児肝炎の肝生検組織像は、胆汁うっ滞像、巨細胞性変性、門脈域を中心とした細胞浸潤を認める。脂肪肝を認める場合には、代謝性疾患(特にシトリン欠損による肝内胆汁うっ滞:NICCD)、感染、門脈の血流異常(門脈/体循環短絡)などを考える。胆道閉鎖では、門脈域の線維化、小葉間胆管の増生、胆汁栓が観察される。
* 軽症の新生児肝炎と考えられる症例がある。病勢の峠を越えたような症例で、軽度の直接型高ビリルビン血症、高胆汁酸血症、高トランスアミラーゼ血症、血中γGTPの高値を示す。
* 乳児期一過性高トランスアミラーゼ血症の症例も稀ではない。高トランスアミラーゼ血症のほかは異常がなく、1歳頃までに正常化する。大部分は100 IU/L 程度で、生理的である可能性がある(身体的成長と共に、肝臓は毎日のようにつくりかえられている年齢である)。

 


<合併症・治療・経過・予後>

合併症
 脂肪便(体重増加不良)、脂溶性ビタミン欠乏症(くる病、出血傾向)、低血糖がある。低血糖は非徴候性の場合がほとんどであるが、低出生体重児で高頻度に認められる。稀ではあるが(壊死後性)肝硬変、肝がんの合併もある。

治 療
 利胆・減黄を計る。近年では、フェノバルビタールの投与は推奨されていない。現在では、ウルソデオキシコ−ル酸 (10 mg/kg/day) の投与が選択されている。脂溶性ビタミン欠乏症(V.A、V.D、V.E、V.K)、特にビタミンD及びビタミンK欠乏症に注意する。体重増加不良、高アミノ酸血症(チロシン、メチオニン)、高ガラクト−ス血症があれば、補液、特殊ミルク(中鎖脂肪酸含有ミルク、乳糖除去ミルク、蛋白質・アミノ酸代謝異常症用ミルクほか)を選択する。予後不良例(肝硬変、肝不全)では肝移植が適応となる。

* フェノバルビタールの投与で減黄はえられるが利胆に効果がない。

経過・予後
 新生児肝炎の多くは、生後3-6か月以内に黄疸は消失し、1歳前には肝機能の正常化が得られる。しかし一部では胆汁うっ滞性黄疸が遷延する、あるいは黄疸は消失しても肝機能異常が残る症例がある。

* 本邦例(100例)の検討では、12か月時、94例の患児で肝機能正常化が得られている。 2例は乳児早期に肝不全で死亡、2例は黄疸が消失したが肝機能異常が持続した(慢性肝炎)。2例では黄疸が持続、その中の1例では胆汁性肝硬変及び肝癌を合併して死亡(1歳6か月)している。

* 新生児肝炎の発症数は、胆道閉鎖と同程度(1/10,000出生)であったが、近年、減少傾向にある。医療技術の進歩、環境の改善、母乳保育の推進等がその因子として考えられている。


<参考文献>

田澤雄作. 新生児胆汁うっ滞―新生児肝炎及びシトリン欠損による新生児肝内胆汁うっ滞の臨床を中心として. 日本小児科学会雑誌 2007;111:1493-1514.

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