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産婦人科医の遺伝カウンセリングへの関わり

産婦人科医の遺伝カウンセリングのかかわり

                            (室月 淳  2012年5月25日)

 

 産婦人科で行う遺伝カウンセリング

われわれ産婦人科医が,先天性疾患の児の出生を取扱い,その両親から次子の出生を関する相談を受けたりすることは,日常の医療の中でしばしば経験することである. 日常の医療に遺伝カウンセリングが関わってくる頻度は,小児科と産婦人科で最も高いかも知れない.産婦人科で行う遺伝カウンセリングの内容は,基本的には他科と大きく変わることはないが,児の出生を直接に取り扱う診療科であることから以下の3つの特徴がある.

 

 奇形や先天異常児両親への援助

ひとつは,奇形や先天異常児をもった両親,あるいはその結果として流死産や新生児死亡を起こした両親への援助である.胎児新生児死亡となれば,その原因を調べ,両親に説明あるいは精神的ケアを行い,また次回妊娠についての助言をするのは産婦人科医の役割である.新生児が小児科医によって治療される場合でも,出生直後に本人や家族に正確に状況を説明する必要がある.遺伝相談を行う時期についてはケースバイケースであるが,臨床遺伝学的な知識が当然必要となる.

 

 胎児診断との関わり

もうひとつは,高齢,遺伝病や染色体転座保因者,ウイルス感染など胎児診断がかかわってくる場合である.特に近年では高齢妊娠に関する相談が多くなってきている.遺伝カウンセリングの内容としては,疾患の原因,自然歴,妊娠出産への影響,治療,責任遺伝子,遺伝形式,再発率(次世代に受け継がれる可能性),遺伝学的検査が可能かどうかなどをクライエントの状況や求め訴に応じて適宜行うことになる.

遺伝カウンセリングにおいて胎児診断のもつ意義は非常に重要である.あくまで通常の遺伝カウンセリングでは事前に確率を推定するにとどまるが,胎児診断では胎児そのものに異常があるかを診断するという大きな特徴がある.しかし遺伝学的な立場からみた胎児診断には,いくつか問題が残されていることは事実である.胎児診断によって多くの異常が診断可能であるが,妊娠してから検査し,異常があれば対処すればよいとは単純にいえない.胎児診断遺伝カウンセリングに先行すべきではないし,また遺伝カウンセリングそのものでもないことも明らかである.

 

 生殖遺伝カウンセリングについて

生殖医療は,配偶子の形成から受精着床,胎児へという生命の形成の過程を取り扱うことから,本質的に遺伝医療とは密接な関係を有している.特に技術的に受精着床現象そのものを扱う生殖補助技術(Assisted Reproductive Technology; ART)の導入により遺伝カウンセリングは重要な役割を持つようになった.

実際に,不妊治療前においては不妊症・習慣流産・不育症の原因としての染色体構造異常やY染色体微細欠失,ARTの妊娠一般についてのリスクの説明など,治療においては着床前診断など,妊娠後にはARTの遺伝的リスク,高齢妊娠のリスクに伴って母体血清マーカー検査,絨毛羊水検査といった出生前診断など,多くの面で遺伝カウンセリングが必要とされる.そのためには生殖そのものと不妊治療についてはもちろん,染色体や遺伝子に関する正確な知識が必要であるし,ご夫婦に対してかなり細心の注意と配慮をもって遺伝カウンセリングに臨むためのカウンセリングマインドが必要とされる.

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カウンタ 3507 (2012年5月26日より)