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骨系統疾患が疑われる児が出生したときの対応マニュアルの変更点

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!!!8. 骨系統疾患が疑われる児が出生したときの対応マニュアル

骨系統疾患が疑われる児の出生時に,産科医としてどのようなことをしておけばいいのかをまとめたものである.多くの場合では出生児を小児科主治医にお願いすることになるが,もし子宮内胎児死亡や死産であったり,出生直後に死亡ということであれば,産科医自身が系統的な検索を行って診断をつけたり,必要な検体を採取して保存しておかなければならない.その後の遺伝カウンセリングや次子の出生前診断に必要となることがあり,きちんとした確定診断を行うことが重要と考えられる.

 
!!1. 出生児の肉眼写真とX線写真を撮る

肉眼写真は正面と背面からの2枚で,所見に応じて顔面や四肢の写真も残しておく.X線写真に関しては正面像,側面像は必須.手の正面(brachydactylyのパターンの確認),足の側面(stippled epiphysisがここで起こりやすい)があれば理想的である(出産の慌ただしいときでたいへんですが,1枚のX線写真が教科書を書き換えるような大発見に繋がることがありますby Dr.池川).

死児の場合,X線撮影の費用の負担に関して問題が生じ,特に公的病院では簡単に撮れない場合がある.臨床的に重要であることを強調し,事前に話し合いによる取り決めを行っておくことが望ましい.

 
!!2. 遺伝子診断のための検体採取と保存を行う

もっとも望ましいのは血液である.臍帯血をEDTA採取しそのまま-20度で凍結保存する(DNAは基本的に安定な物質で,EDTAはDNA分解酵素を阻害するため,2-3日室温で放置していても実際は大丈夫である).最低0.5-1ml,5ml程度あると十分である.へパリン採血でも可(PCRの実験にはEDTA採血の方がベターだが,cell lineの作成を考慮する場合にはヘパリンが必須).

理想的にはDNAを抽出してから保存する.DNAは安定で,かつその方が場所も取らず,4度の冷蔵庫保存でいいので長期間の保存が可能である.DNAの抽出kitを用いれば簡単であり,SRLやBMLなどでも受託でDNA抽出をしてくれる(1サンプル5,000円くらい).

問題は妊娠22週までの早産などであり,臍帯が細く胎児血がほとんど採れない場合が多い.胎盤表面の血管からツベルクリン注射器を使ってなんとか採取するか,それも難しければ心臓穿刺という方法もある.分娩前から遺伝子検査をすることを決めて両親から同意を取っておく必要がある.

基本的に血液が最も望ましい(慣れている,収量,簡易性など)が,皮膚,毛髪,爪など児の組織であれば何でも可能である.胎盤は,胎児面の卵膜を剥離し,その下の絨毛を広く浅く採取するとほとんど胎児組織と考えていいので,胎盤の凍結保存でも可能である.通常では胎盤はただ捨てる臓器であり,それをそのまま凍結保存するのは容易でかつ有用といえる.

Cell line (株化リンパ球)があると,恒常的に安定してDNAが採取でき,かつRNAの実験にも使えるため有用である.Cell lineとしては、皮膚の繊維芽細胞もよく使われます。遺伝子発現はリンパ球よりも骨軟骨に近いことが多いため有用なresourceといえる.株化リンパ球と違って特に技術不要である.

検体は確定診断や研究のためにすぐに使う場合もあるし,数年後に次子を妊娠し出生前診断を希望したときに改めて検査するということも想定されるので,保存の方法に留意する.

 
!!3. 可能であれば剖検を行う

もし子宮内胎児死亡や死産であったり,出生直後に死亡ということであれば,できる限り剖検を行う.剖検から得られる情報は大きい.DNAに関しても病理標本/プレパラートからでも抽出可能である.10年程度たったパラフィンブロックからのDNA抽出も可能である.組織サンプルは貴重であり,特に軟骨の病理が非常に大切なデータとなる.通常,遠位大腿骨の骨端軟骨を用いるが,難しければ肋軟骨などどこの軟骨でも可能である.

RNAやタンパクの解析をするにも軟骨のサンプルがあると非常に情報が増す.この場合はできるだけ早く液体窒素などで凍結し超低温冷蔵庫で保存する.最近ではRNA用にはRNA laterという液体の試薬を使って,室温で処理することが可能である.

 
!!4. 記録をきちんと残しておく

出生前の臨床経過,超音波写真,CT,生化学検査所見,出生児の計測記録,外表所見,肉眼写真,X線写真などは散逸しないようにきちんと保管する.将来,胎児骨系統疾患の登録制度が開始されたときは,統一された記録フォームを作成することになる.家族歴は特に重要である.近親婚(の可能性)の有無などは,研究にも,遺伝カウンセリングにも重要である.

近年,近親婚の患者を使ったhomozygosity mappingという方法が簡単に施行できるようになった.連鎖解析の一種であるが,通常の連鎖解析(家系内の遠い親戚まで10-20人の検体を集める必要がある)と違って,検体が少数(患者と同胞くらいでもよい)で済む.遺伝子同定の大きな出発点となる.近親婚疑いの(遺伝子未知の)骨系統疾患に遭遇したらご相談いただけると幸いです.

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