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5.排便ケア

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以下に示すのは利用者と家族に対する自分自身の日頃の看護活動を振り返るチェック項目です。各項目について普段行っている看護活動内容に照らし合わせて次の4つのうち1つを選んで回答してください。(必ずできている:4, おおむねできている:3, あまりできていない:2,全くできていない:1)

排便ケア質指標

アセスメント

1 訪問看護開始時には全ての利用者に対して排便障害の可能性を念頭に置いたアセスメントを行い、その有無について確認できた場合には、看護記録に記載する。
  • 便の量については、排便ケアにかかわる看護師間、サービス担当者間で共通認識をもてるよう、拇指頭大、手掌大などの表現を用いて記載する。便の性状については、ブリストル便形状スケールなどを用いて記載する
  
2 排便障害がみられる利用者には、その原因を明確にするために、必要に応じ以下の13項目の情報を収集する。
  • 排便パターン(便の量性状色におい、排便回数[1日単位、1週間単位]、排便時間、便失禁の有無)
  • 排便障害に関連する症状の観察(便意、排便困難、腹部膨満感、残便感、肛門出血、排便時ショック状態、しぶり腹、発熱、嘔気嘔吐、脱水など)
  • 食事内容と量(栄養補助食品や経腸栄養剤を含む)、咀嚼嚥下障害の有無、水分摂取量、運動習慣
  • 現病歴既往歴:脳血管系疾患、直腸がん、パーキンソン病、強皮症、脊髄損傷、脳性麻痺、痔、婦人科疾患腹部肛門の手術歴、甲状腺機能低下症亢進症、糖尿病、出産歴など
  • 排便に影響する薬剤の使用状況:下剤、止痢剤、抗コリン薬、抗うつ薬、血圧降下薬、鎮痛剤、麻薬、抗生物質など
  • ストレス、うつ状態など精神的な問題とその原因
  • 運動機能障害の有無とADL:麻痺や拘縮の有無、座位姿勢の保持能力、移動能力、脱衣動作など
  • 排便環境:排便場所、和式トイレか洋式トイレか、トイレへの距離、排便用具(オムツ、ポータブルトイレなど)、衣服、排便時にプライバシーが保たれるか、など
  • 認知機能
  • 本人家族の排便に対する意識や考え方:排便パターン、下剤の使用、家族への気兼ね、などについて
  • 本人家族の生活パターン
  • 介護状況:介護者との関係、介護技術
  • 経済状況
  
3 本人、家族、ヘルパーから排便状況を直接聴き取ることが難しい場合(訪問時に家族が不在である、など)には、家族やヘルパーにカレンダーや連絡ノートに排便の有無・性状・量などを記載しておくように依頼する。排便状態を把握するために、本人・家族の能力・負担に応じて、一定期間の排便日誌(便の量・性状・色、排便回数、排便時間、下剤の種類・量、便失禁の量、食事内容などを記載)の記入を依頼する。
4 排便障害のアセスメントの際には、以下の点に留意する。
  • 普段の排便パターンは正常な範囲内であるか
  • 現在の排便は普段のパターンからどの程度逸脱しているか
  
5 排便障害のアセスメントの際には、本人、家族、ヘルパーなどから排便状況を聴取るだけでなく、必要に応じて身体的アセスメント(腸蠕動音の聴取、腹部触診、腹部打診、直腸内指診[便塊の有無、腫瘤・結節・狭窄の有無、肛門の弛緩と収縮の程度の把握]、肛門部の視診(外痔核や結節の有無、骨盤底臓器脱の有無、皮膚障害の有無)を行う
6 2~5における情報収集の結果、排便障害のおおよその原因とメカニズムを判断し、必要であれば医師の診察、検査などを考慮・提案する。
7 本人、家族などから下痢であるとの訴えがある場合でも、溢流性便失禁である可能性を考慮する。
8 排便障害のタイプと原因、今後のケア方針について、主治医と相談する。
9 排便ケアの介入計画を立てるために、必要に応じて以下のような点を考慮する。
  • 排便に関する本人家族の希望(排便方法回数時間量性状場所、オムツの使用、薬剤の使用、介入の希望、サービス利用頻度 など)
  • 排便ケアに関する本人家族の気持ち
  • これまでの排便習慣(トイレの様式、ウオッシュレット使用の有無、オムツの使用の有無種類当て方 など)
  • 排便障害による生活への影響(夜間の排便による睡眠不足、外出困難 など)
  • 本人のセルフケア能力家族介護力社会資源の利用状況
  • 臀部陰部の清潔保持状況や皮膚の状態
  • 排便について訪問看護師にどのような援助をしてほしいのか
  • 介護保険利用限度額や経済状況   など
  

一般的ケア

10 本人・家族の理解状況に合わせて、現在利用者に生じている排便障害の原因とメカニズムを説明する。
11 本人・家族の意向を調整し、その状況での最善の排便コントロール方法について本人・家族、およびサービス担当者間で合意を得る。
12 排便コントロール方法の決定にあたっては、さまざまな方法の中から本人と家族とが折り合えるものを探し出すよう努める。
13 排便ケアを実施する際には、本人の羞恥心に配慮して、以下のことを検討し、適切であれば実施する。
  • 排便時は可能な限り退室する/家族、ヘルパー等に退室を求める
  • 不必要な露出を避ける
  • 排便用具等の置き場所への配慮
  • 消臭剤の使用、十分な換気
  
14 排便障害をもつ本人の苦痛、排便ケアを行っている本人・家族の労をねぎらい、精神的支援を行う。
15 最善の排便コントロールが得られるように、排便障害とその日常生活への影響について医師に報告し、薬剤の調整等の対応策を相談する。
16 血圧が不安定など全身状態に問題のみられる利用者に坐薬挿入、浣腸、摘便などを実施する際には、その実施条件について前もって主治医に相談する。また、実施前には利用者の全身状態をアセスメントしたうえで実施方法を吟味する。
17 下剤を使用している場合には、以下のような点に配慮し、下剤の使用方法について本人・家族に助言したり、下剤の変更について医師や薬剤師と調整したりする。
18 必要であれば、利用者の排便状態に合わせた訪問頻度・訪問時間の調整について、他のサービスの利用状況を加味したり、介護支援専門員と連携したりしながら、本人・家族に提案する。

緊急時の対応

19 脱水やイレウスなど緊急事態の可能性を予測してそれらの徴候について本人・家族に説明する。また、それらの徴候がみとめられた場合には訪問看護師に相談、あるいは早期に医療機関を受診するように、本人・家族に話しておく。
20 感染性下痢であると診断された場合には、状況に応じて感染防止のための消毒や隔離の方法について本人・家族に説明する。
  • 手指の消毒方法
  • 食器の洗浄方法
  • 衣類寝具の洗濯方法
  • オムツ汚物の取り扱い方法
  • 小さい子ども等からの隔離   など
  

生活習慣の調整・予防的ケア

21 本人の全身状態・排便障害の状況に応じた、水分管理に関する助言を行う。
  • 便秘の場合には、飲水制限がなく可能であればできる限り飲水する(一日1リットル程度といわれている)、牛乳果汁冷たい飲み物を摂取する、起床時に冷たい飲み物を摂取する、嚥下機能に問題がある場合、嚥下補助食品、水分補給用ゼリーなどを利用する
  • 下痢の場合には、脱水予防のため水分と電解質を補給する、牛乳やカフェインを控える   など
  
22 本人の全身状態・排便障害の状況に応じた、食事内容や摂取方法に関する助言を行う。
  • 直腸に便が停滞しているときや腸管狭窄があるときは腸閉塞の危険があるので高繊維食は避ける
  • 下痢の場合には、繊維の多い食品刺激物を避ける(水溶性食物繊維[りんごや桃などの果物類、海草類、芋類、大根やキャベツなどの野菜類などに多く含まれ、市販のファイバーもある]は水分の多い便を固める作用があり、摂取してよい)
  • 嚥下機能に問題がある場合には、嚥下しやすい調理方法や食品を紹介する
  • 経腸栄養を行っている場合、経腸栄養剤の内容(食物繊維や乳糖の含有量、濃度、寒天製剤か、半固形か)や注入速度を確認し、必要であれば調整や変更を検討する など
  
23 本人の全身状態・排便障害の状況に応じた、運動に関する助言を行う。
  • 便秘の場合には、可能な範囲で運動リハビリを心がける
  • 下痢の場合には、安静にする   など
  
24 便秘の場合には、本人の状況に応じ、本人・家族のできる範囲での排便を促進するためのケア方法に関する助言を行う。
  • 食後の胃結腸反射に合わせて一定の時間に排便を試みる
  • 腹部マッサージ、腹腰背部の温罨法、指圧、肛門刺激の実施
  • 体位の工夫(座位の場合、前屈位で床に足が着き、かかとを少し上げると無理なく腹圧がかけられる。ベッド上排泄の場合、膝を立てて、足底をベッドに着け、頭部を挙上する)
  
25 必要に応じて、排便環境の整備に関する助言を行う。または、PT・OTへの相談を勧める。
  • トイレに近い居室への変更
  • 便座の改善(高さの調節、和式から洋式への変更)
  • 床上便器の工夫(軟らかいナイロン便器を使用するなど)
  • 手すりの設置
  • 段差の解消
  • プライバシーの保護   など
  

便失禁のケア

26 便失禁の場合には、以下の実施を検討し、適切であれば本人・家族に指導する。
  • 意識的に肛門を締めたり緩めたりする訓練
  • 上記の訓練を行っても効果がみられない場合や、薬物や疾患(外科的手術、神経障害、腸炎など)による影響が考えられる場合には、主治医専門医への相談を考慮し、適切ならば受診をすすめる
  • 本人に以下の指導を行う:お腹に力が入らないようにする、少し漏れても大丈夫なようにあてものを工夫する、リハビリパンツをはく
  
27 溢流性便失禁を繰り返す利用者には、原因となっている便秘を解消するためのケアを行い、予防に努める。また、直腸診により嵌入便がみとめられ、溢流性便失禁が疑われる場合には、主治医の許可を得て摘便や浣腸などで便塊を排出する。
28 機能性便失禁の場合には、状況に応じて以下の実施を検討し、適切であれば本人・家族とともに試みる。
  • 便意をうまく伝えられない場合には、排便の前後のサイン(怒りっぽくなる、歩き回る、など)をみつける
  • 本人の排便のパターンに合わせて定期的な排便誘導を行う
  • 訪問看護の時間に合わせて排便を促進するためのケアを行う
  • トイレの位置をわかりやすく表示する
  • 肛門に湯をかけるなどの工夫で排便習慣をつける
  • 着脱しやすい衣服の工夫
  • ポータブルトイレの使用   など
  
29 便失禁により保清が必要な場合には、本人のセルフケア能力や家族介護力に応じて、皮膚損傷をできるだけ起こさない方法を助言する。
  • 可能な限り排便ごとに洗浄を行う、ティッシュで拭く時にはこすらず、押し拭きする
  • 洗浄後に肛門清拭剤や皮膚保護剤を使用し、便の刺激から皮膚を保護する
  • 水様便や泥状便の吸収率が高いパッドを紹介する、オムツやパッドの組み合わせ方法を工夫する   など
  
30 頻回の便失禁、水様便により、肛門周囲の皮膚障害の危険性が極めて高い場合には、適切であれば、WOC看護認定看護師などに相談したり、活動性に応じて失禁用採便袋の使用を検討したりする。

家族への支援

31 排便ケア方法について本人・家族に指導する際には、以下のような点に配慮する。
  • 本人の身体状況、セルフケア能力、家族介護力に合わせた実施方法を考慮する
  • 実際に本人家族の目の前で実施しながら指導する
  • 本人家族と共に繰り返し実施し、本人家族が実施するのを確認する
  • 本人家族の理解度に合わせて、解剖生理学的な根拠や起こりうる合併症(皮膚障害や肛門出血など)とその予防のための注意点を説明する
  • ケアの効果を確認し、改善の兆しがみられた場合やケア方法が適切な場合には、できていることを伝え、賞賛、承認する
  
32 状況に応じ適切な排便に関連する介護用品が選択できるように、必要に応じて情報提供や助言を行う。
  • 排便用具やオムツに関する紹介情報提供
  • オムツの試供品の提供
  • 潤滑剤やお尻拭きなどの情報提供
  
33 医療費控除や市区町村のオムツ給付事業の対象となる利用者には、その制度の紹介をし、必要に応じて介護支援専門員に連絡を取り、制度が利用できるように調整する。

フォローアップ

34 排便ケア方法の統一と継続が図れるよう、本人・家族の同意を得て、スタッフ同士、他サービス業者(医師、薬剤師、PT、OT、デイサービス・ショートステイの職員、栄養士、ヘルパー、介護支援専門員)と連携し、必要な情報交換や排便ケア方法の指導を行う。
35 実施したケアについて、ケアの内容により期限を決めて評価し、必要に応じて介入計画を変更する。
36 排便状態の変化や排便ケアの効果を本人・家族にフィードバックすることにより、本人・家族が排便ケアへの取り組みを実感し、ケアへの意欲を保持できるように支援する。
37 排便ケアの効果、本人・家族の身体的・精神的負担感、満足感をアセスメントしながらさまざまな工夫を凝らし、本人・家族にとって最善の排便状態が得られるように援助する。

関連書籍

高齢者訪問看護の質指標

―ベストプラクティスを目指して―

日本看護協会出版社

ISBN-10: 4818013404

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