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3.摂食・嚥下障害へのケア

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以下に示すのは利用者と家族に対する自分自身の日頃の看護活動を振り返るチェック項目です。各項目について普段行っている看護活動内容に照らし合わせて次の4つのうち1つを選んで回答してください。(必ずできている:4, おおむねできている:3, あまりできていない:2,全くできていない:1)

摂食・嚥下障害へのケア質指標

[アセスメント]Ⅰ. 摂食・嚥下障害

1 訪問開始初期や栄養補給方法の変更時に、利用者および家族の「食べること(経口摂取)に対する考え、希望、困っていること」等に関する情報を収集し、アセスメントを行っている。
2 摂食・嚥下障害の疑いがあるかどうか、年齢や原因疾患に基づいて、先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期の摂食・嚥下障害の有無・程度に関してアセスメントを行っている。
3 摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、以下の摂食・嚥下に影響する要因に関してアセスメントを行っている。
  • 治療的要因:薬物の種類、経鼻栄養チューブ・気管切開の有無・カニューレの種類、非経口摂取の期間等
  • 精神・心理的要因:認知症レベル低下、うつ、神経症、喪失感、孤独感等
  • 環境要因:食事環境、食事中・食事後の姿勢、食事形態、スプーン等の食器の形態、食事介助方法等
  
4 摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、以下の内容を利用者および家族・介護者に問診して、摂食・嚥下障害の有無・程度に関してアセスメントを行っている。
  • 先行期の障害:意識レベル、睡眠状況、一口量、口に運ぶペース、認知力、注意力、半側空間無視、口に運ぶまでの協調運動
  • 準備期の障害:咀嚼力、唾液の分泌、口からの食物のこぼれ
  • 口腔期の障害:食後の口腔内の食物残渣、構音障害(発音しずらい・かつ舌が悪い)
  • 咽頭期の障害:嚥下困難感、咽頭違和感、鼻から食物の逆流、食物の残留感、湿性嗄声、むせ、むせる食品(液体・固体など)等
  • 食道期の障害:逆流、胸やけ、つかえ感、嘔気・嘔吐
  • 全体:食事時間の延長、特定の食物を避ける、嗜好の変化、摂取量の減少等
  
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    摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、以下の内容を経口摂取の場面から観察して、摂食・嚥下障害の有無・程度に関してアセスメントを行っている。
  • 先行期の障害:一口量、口に運ぶペース、半側空間無視、失行、失認、注意散漫、感情失禁、口に運ぶまでの協調運動等
  • 準備期の障害:咀嚼、口からの食物のこぼれ、舌・口腔周囲筋のジスキネジア(不随意運動)等
  • 口腔期の障害:食後の口腔内の食物残渣の有無と残留部位、舌・口腔周囲筋のジスキネジア等
  • 咽頭期の障害:なかなか飲み込めない、嚥下反射、咳・むせの有無、むせたときの食物形態・頸部と体幹の位置など
  • 食道期の障害:食事中・食後の体位等
  • 全体:覚醒レベル(元気がない)、所要時間、食事中の体位等
  
6 摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、以下の内容を入浴やシャワー浴後等水分摂取の援助をする際に情報収集し、摂食・嚥下障害の有無・程度に関してアセスメントを行っている
  • 先行期の障害:水分の認知
  • 準備期の障害:開口度、口からのこぼれ
  • 口腔期の障害:嚥下後の口腔内残留
  • 咽頭期の障害:飲み込み状況、嚥下後の声質の変化、咳・むせ等
  • 摂取・嚥下にかかる所要時間
  • 摂取時の体位、頸部の角度
  • 水分の粘稠度と飲み込みの円滑さ
  • 水分摂取量
  • 介護者の水分摂取の介助方法の必要性、一口量、口に運ぶペース、使用している食器
  
7 摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、準備期・口腔期・咽頭期の摂食・嚥下障害の有無・程度について、以下の口腔・咽頭の情報を収集しアセスメントを行っている。
  • 顔面対称性
  • 流涎(よだれ)の有無
  • 唾液の嚥下状態
  • 唾液を嚥下する時の誤嚥の有無
  • 発音の明瞭度
  
8 摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、先行期の障害の有無・程度について、以下の意識障害、高次機能障害に関する情報を収集しアセスメントを行っている。
  • 意識障害:Japan Coma Scale(JCS) Glasgow Coma Scale(GCS)
  • 失行(口顔面失行、嚥下失行等)
  • 失認(半側空間無視等)
  • 失語・構音障害
  • 感情失禁
  • 注意障害
  • 前頭葉症状
  
9 摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、準備期・口腔期・咽頭期の摂食・嚥下障害の有無・程度をアセスメントするために、以下の口腔内や脳神経系(三叉・顔面・舌咽・迷走・舌下神経)のフィジカルアセスメントを実施している。
  • 口腔内:歯、義歯の適合、歯肉の出血・腫脹、粘膜の炎症・潰瘍、食物残渣・汚れ、口腔内乾燥、唾液の分泌状態
  • 三叉神経:口唇、口腔粘膜の知覚、舌前2/3の知覚、咀嚼筋の運動
  • 顔面神経:頬筋、口唇の動き、唾液分泌、舌前2/3の味覚
  • 舌咽・迷走神経:嚥下反射、軟口蓋・喉頭・声帯の動き、舌後1/3の味覚・知覚、咽頭の知覚
  • 舌下神経:舌の動き
  
10 摂食・嚥下障害が疑われる利用者に対し、摂食のセルフケアレベルについて、以下の情報を収集しアセスメントを行っている。
  • 頸部の可動域、拘縮(後頸の有無)
  • 上肢の麻痺の有無・程度・可動域
  • 座位保持のレベルと持続時間
  • 自助具の使用の有無
  • 自力で食事を摂取するレベル(摂取量、疲労度など)
  

[アセスメント]Ⅱ. 摂食・嚥下訓練、栄養補給

11 摂食・嚥下障害のある利用者に対し、実施している基礎訓練・摂食訓練について、以下の情報を収集しアセスメントを行っている。
―基礎訓練―
  • 肩・頸部の運動
  • 下顎・頬・口唇・舌の運動
  • 構音訓練
  • アイスマッサージ   等
  
―摂食訓練―
  • 食事形態、頸部・体幹の角度による代償
  • 嚥下食の種類(調理方法)
  • 増粘剤(トロミ調整剤)の使用
  • 食事介助方法     等
  

[アセスメント]Ⅲ. リスク管理

12 利用者および家族・介護者が行っているリスク管理について、以下の情報を収集しアセスメントを行っている
  • 肺炎のリスク管理:体温測定、呼吸状態、喘鳴、痰の増加の観察
  • 低栄養のリスク管理:食事内容と食事摂取量の把握、体重減少(やせてきた)の観察
  • 脱水のリスク管理:水分摂取量の把握、尿量・尿回数、排便、皮膚の状態、腋下の乾燥状態の観察
  • むせた時の対応:しっかり咳をさせる、咳が止まるまで次の食事をしない
  • どのような時に経口摂取を中止し、どのような時に再開・継続しているか
  
13 利用者および家族・介護者の窒息・誤嚥など緊急時の対応について、以下の情報を収集しアセスメントを行っている。
  • 吸引器の準備、吸引の手技
  • 背部叩打の習得状況
  • ハイムリック法の習得状況
  • 窒息しやすい食品の知識等
  • 気道確保(呼吸状態の確認、体位)、緊急連絡先
  
14 気管切開をしている利用者に対し、家族・介護者が行っているカニューレ管理や吸引の方法について、以下の情報を収集しアセスメントを行っている
  • カフ圧
  • カニューレの固定
  • 気管口周辺の皮膚の手当て
  • 吸引圧
  • カテーテルの挿入長さ
  • 吸引時間、清潔操作等
  
15 誤嚥性肺炎のリスクを把握するために、以下の情報を収集してアセスメントを行っている。
  • 37.5℃以上の発熱
  • 前胸部・背部の呼吸音聴取
  • 経皮的酸素飽和度(90%未満は要注意)
  • 夜間の咳
  • 食事中・食後の咳・むせ
  • 痰の性状、量、食事による痰の増加と性状
  • 頸部の聴診(液体振動音や副雑音)
  
16 低栄養のリスクを把握するために、以下の情報を収集しアセスメントを行っている。
  • 平常時体重と比較して過去1ヶ月の体重減少が5%以上、あるいは過去6ヶ月の体重減少が10%以上
  • 血清アルブミン値:3.5g/dL以下、総蛋白値が6.0g/dL以下
  • 食事の内容、摂取量
  • 経静脈栄養・経腸栄養からのカロリー
  
17 脱水のリスクを把握するために、以下の情報を収集しアセスメントを行っている。
  • 口渇、脱力感などの自覚症状
  • 皮膚の弾力性・口腔粘膜・舌の乾燥状態、腋窩の乾燥状態
  • 精神・神経症状(反応が遅い、元気がなくなる等)
  • 発熱、頻脈等のバイタルサイン
  • 一日の水分摂取量、輸液量、胃瘻からの経腸栄養剤の注入量等
  • 尿量・尿回数
  • 便の性状
  • 痰の粘調度
  

[介 入] Ⅰ.摂食・嚥下障害に対する基礎訓練・摂食訓練

18 摂食・嚥下障害が疑われる場合、主治医、利用者および家族、在宅療養で関わっている医療専門職が話し合い、栄養補給の方法、訓練目標、訓練内容について相談している
19 摂食・嚥下障害が疑われ、薬物、経鼻栄養チューブ、気管切開カニューレの種類等の治療的要因が影響していると考えられた場合、介入内容は主治医と相談し、調整している。
20 摂食・嚥下障害が疑われる場合、摂食・嚥下に集中できる環境(テレビやラジオ等を消して落ち着いた環境にする)で食事をすることを利用者および家族・介護者に指導している。
21 摂食・嚥下障害が疑われる場合、医師の指示に従って食事の姿勢について利用者および家族・介護者に指導している。
  • 食卓で食事をする場合、体幹が90度で固定でき、お膳をみると食事内容が確認できるとともに頸部を軽く前屈した姿勢となり、股関節・膝関節が90度に屈曲し、足底が床に接するようにテーブルと椅子の高さを調整する。円背や背筋・腹筋力低下の場合、クッション等で姿勢を調整する
  • ベッド上で食事をする場合、30~60度程度ヘッドアップによるリクライニング位にして頸部を前屈できるように枕(バスタオル)で調整する。可能であれば、ずり落ち防止のため体幹保持、フットアップする
  • 側臥位の場合は、健側を下にして、頸部を患側に回旋させる。
  • 飲み込みが悪い場合、頸部を患側に回旋させて、あるいは飲み込み時回旋させる
  
22 摂食・嚥下障害が疑われる場合、医師の指示に従って食事形態、調理方法、増粘剤(トロミ調整剤)の使用方法について利用者および家族・介護者に指導している。原則として以下を踏まえる。
  • 先行期の障害:口腔内で遊び食べをしている場合に、低粘度の液体
  • 準備期の嚥下障害 : 咀嚼しやすい形状(やわらかい半固形物、軟菜食、一口大
  • 口腔期の嚥下障害 : やわらかい半固形物(軟菜食)、低粘度の液体
  • 咽頭期の嚥下障害 : ゼリー、ピューレ、ペースト、やや高粘度の液体
  • 増粘剤(とろみ調整剤)を用いる際は、常に適切な粘度となるように同じカップ・スプーンで、仕上がる時間を待つようする。(形状を均一に
  • 経済性を考慮した食品の紹介や食品の工夫
  
23 摂食のセルフケアが低下している場合、利用者および家族・介護者に経口摂取の方法や介助方法(スプーンの形状、介助する位置、視線、スプーンの運び方、口に運ぶペースなど)、自助具(スプーン、コップ、皿など)の使用を指導している。
  • スプーンは、小さく、薄く、平たいものを使用する
  • 一口量は、ティースプーン1杯程度にする
  • 口の位置より下から、また健側からスプーンで運び口に入れる
  • 一口ずつ飲み込んだことを確認した後に、次のスプーンを運ぶ(患者のペースに合わせて行う)
  • 疲労がみえ、飲み込み時間が遅くなったら中止する
  • 介助者は座位で安定した姿勢をとり、視線を合わせ介助する
  • 向かせたい方向から声掛けし介助する。
  
24 先行期の摂食・嚥下障害として食事動作のペーシングに問題がある場合、手を添えることによるペーシングの調整や摂食用具・容器の調整を実施するとともに、家族に指導している。
25 準備期・口腔期の摂食・嚥下障害が疑われる場合、食前に嚥下体操(頸部・肩・頬・口唇・舌の運動、構音訓練)を行うことを利用者および家族・介護者に指導している。
26 口腔期の嚥下障害があり(食物の送り込みができにくい)、咽頭期に嚥下障害がない場合、舌の健側奥に食べ物を置くことやコップ等の工夫を利用者および家族・介護者に指導している
27 咽頭期の嚥下障害である嚥下反射の減弱・消失(なかなか飲みこめない)や食事中にむせることがある場合、食前に前口蓋弓などの嚥下反射誘発部位にアイスマッサージすることを利用者および家族・介護者に指導している
28 咽頭期の嚥下障害である咽頭クリアランスの低下(食事中・食後に声が変わる、頸部聴診により液体振動音が聴診できる等)や食事中や食後にむせることがある場合、医師の指示に従って嚥下後に空嚥下・複数回嚥下・交互嚥下、頸部を患側に回旋して嚥下するなどを利用者および家族・介護者に指導している
29 食道期の嚥下障害である胃食道逆流・胸やけがある場合、食事中・食後に上体を起こすように利用者および家族・介護者に指導している。
30 食事中にむせが起こった場合、しっかりと咳をさせ、ゆっくりとした呼吸を促し、咳が止まるまで次の食事をしないように利用者および家族・介護者指導している。
31 摂食・嚥下障害がある場合、基礎訓練(肩・頸部、下顎・頬・口唇・舌の運動、構音訓練、アイスマッサージ等)・摂食訓練(食物形態、頸部・体幹の角度による代償)について生活のリズムや実施可能な時間帯を調整して実施できるように利用者および家族・介護者に指導している

[介 入] Ⅱ.リスク管理

32 水分・食物・唾液を誤嚥する利用者に、窒息・誤嚥性肺炎・低栄養・脱水のリスクのいずれかがある場合、主治医に連絡をとり情報提供し、指示を得ている。
33 全身状態が不安定、発熱、意識レベルJCSⅡ・Ⅲ桁、十分な咳ができない、唾液が飲めない、口腔内のひどい汚染がある場合、摂食訓練を行わない(食べて良い時と良くない時の見合わせを含む)ことを利用者および家族・介護者に指導している
34 窒息リスクがある場合、家族・介護者が誤嚥・窒息時の緊急対応ができるように背部叩打法、ハイムリック法、吸引器の準備や吸引方法等を指導している。
35 誤嚥性肺炎のリスクがある場合、以下の内容を利用者および家族・介護者に指導している
  • 呼吸機能の予備力を高めるために呼吸訓練(腹式呼吸、口すぼめ呼吸)、咳嗽訓練、発声訓練
  • 嚥下障害に応じた誤嚥しない体位:30~60度程度ヘッドアップによるリクライニング位にして頸部を前屈させる。側臥位の場合は、健側を下にして頸部を患側に回旋させる。飲み込みが悪い場合、頸部を患側に回旋させて、あるいは飲み込み時回旋させる。
  • 歯の状況に応じた用具を使用した口腔ケアの方法:舌苔には舌ブラシ、歯肉・粘膜にはスポンジブラシ、歯牙には歯ブラシを用いる。
  
36 気管切開をしている場合、カニューレの管理・吸引の方法を利用者および家族・介護者に指導している。
37 通常の摂食方法で誤嚥する(機会誤嚥)嚥下障害のある利用者に、低栄養のリスクがある場合、栄養所要量を増加させるために、以下の内容を利用者および家族・介護者に指導・紹介している
  • 栄養価の高い食品を嚥下しやすい形態に調理する
  • 嚥下障害に応じた食物形態になるように増粘剤(トロミ調整剤)を用いる
  • 少量で栄養価の高い補助食品を紹介する等
  
38 通常の摂食方法で誤嚥する(機会誤嚥)嚥下障害のある利用者に、脱水のリスクがある場合、水分摂取量を増加させるために、以下の内容を利用者および家族・介護者に指導している。
  • 増粘剤(トロミ調整剤)を用いて指示された粘度に調節した水分を食間に摂取する
  • 経腸栄養(経鼻栄養療法・胃瘻)を併用している場合、不足している水分量を注入する
  

フォローアップ

39 定期的に、摂食・嚥下障害の程度と実施している基礎訓練・摂食訓練を評価し、状況に応じて目標や介入計画を変更している。
40 定期的に、窒息・誤嚥性肺炎・低栄養・脱水のリスクとそのケアについて評価し、状況に応じて目標や介入計画を変更している。
41 摂食・嚥下障害がある場合、利用者が利用している他のサービスの職員に、以下の事柄を連絡するともに、必要に応じて指導している
  • 口腔ケア、必要な基礎訓練の方法
  • 摂食条件(摂食時・摂食後の体位、食物形態等)
  • 嚥下食の調理方法、食事介助の方法(一口量、ペーシング、嚥下の確認、摂食時・摂食後の体位
  
42 摂食・嚥下障害がある場合、利用者本人・家族以外に摂食・嚥下に関する専門医、訪問リハビリテーション(理学療法士・作業療法士)、歯科医、歯科衛生士、管理栄養士等の他職種とチームで取り組める体制づくりができるように働きかける。

関連書籍

高齢者訪問看護の質指標

―ベストプラクティスを目指して―

日本看護協会出版社

ISBN-10: 4818013404

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