編集幹事を務めました雑誌「治療」(南山堂)の特集「健康格差対策」が出版されました。プライマリケア医を対象として、健康格差についての取り組み、臨床現場での対策の考え方、実際の活動、そして社会的に不利な集団に対する個別のケアのあり方について、国内で関連する活動を進められている第一人者のドクターの方々に執筆をお願いしてまとめたものです。
臨床現場での健康格差対策はまだ始まったばかりであり、今回の特集も試行錯誤しながらまとめたものです。ぜひ多くの方にお読みいただき、ご意見をいただければと思います。
オンライン書店等ではすでに売り切れいているようですので、医学専門書を扱っている書店でお早めにお求めください。
紹介ページ
http://www.nanzando.com/journals/chiryo/909901.php
以下抜粋:
今月の視点
弱者への対応だけが「健康格差対策」ではない
50代の男性,A氏は,自宅近くで倒れて救急車でやってきた.重い心臓弁膜症であった.過去のいざこざで家族と離縁し県営住宅で一人暮らし.栄養状態の改善後,手術実施.リハビリをして退院した.案の定,通院中断.心配していた矢先,地元新聞の「お悔やみ欄」で彼の名前を発見した.
A氏のような極端な事例でなくとも,慢性的な社会ストレスを抱えた人は,なかなか健康行動をとれず,通院の中断も多い.口酸っぱく健康指導をしても一向に聞き入れてくれないことも多い.多忙な外来で対応していくのは,正直,骨が折れる.
とはいえ,これでよいのか.自堕落な生活を送る人は自己責任であるから「しかたなし」として放置してよいのか.
「健康格差」という言葉がずいぶん浸透してきた.臨床家の関心もかなり高まってきた.2015年には,世界保健機関(WHO)によるInternational Network of Health Promoting Hospitals&Health Services(HPH)の日本支部が設立され,健康格差対策に向けた実践と研究を続けている.翌2016年にはプライマリ・ケア連合学会が「健康の社会的決定要因検討委員会」を立ち上げ,大変なスタートダッシュで活動を始めている(www.facebook.com/sdhxpc/).
本特集では,上記の委員会メンバーを中心に執筆者を集め,臨床現場において健康格差対策を進める際の考え方や国内外の動向,そして実践例を紹介する.社会的弱者を取り巻く現状や関連する制度を知っていただきたい.
弱者への対応だけが「健康格差対策」ではない.医療も社会保障も,基本的にはすべての人を包摂するものである.地域包括ケアしかり,医療機関も「まちづくり」に参画していく時代だ.健康格差というレンズを通して地域社会をのぞけば「健康なまちづくり」の進むべき道がみえてくるだろう.[編集幹事] 東京大学大学院医学系研究科 近藤尚己
特集の目次
■健康格差とその対策
健康格差とその対策の現状(坪谷 透,他)
健康格差対策と予防政策 ─海外から学ぶこと─(長嶺由衣子,他)
健康格差対策の進め方 ─医療機関でどう行動すべきか─(長谷田真帆,他)■医療現場での健康格差対策
医療機関における社会的弱者対策の現状と課題(亀田義人,他)
地域保健×医療で進める健康格差対策 ─CBPR の活用─(横林賢一)
地域保健×医療で進める健康格差対策(坪谷 透,他)
在宅医療と健康格差(小松裕和)
健康格差時代に求められるプライマリ・ケア医の育成(武田裕子,他)
無料低額診療・生活保護(高岡直子,他)■マイノリティ
子どもの貧困と健康(藤原武男)
LGBTと健康格差(孫 大輔)
ホームレス(森 亮太,他)
外国人と一緒に健康格差を埋めよう(沢田貴志)
障がい者(西村真紀,他)
災害と健康格差(長 純一)