景気動向と健康格差

不景気になると、学歴や所得・資産、職業といった社会経済面で弱い立場にある人たちの健康が脅かされる可能性が高まります。実際、不景気中には健康格差が広がることが諸外国から報告されています。しかし、日本では少し状況が違う可能背があることが、私たちの研究からわかりつつあります。

解説「景気動向と健康」

これまでの研究成果

  • 「バブル崩壊」で不健康になったのは所得や職業階層が中程度からやや高めの男女だった。1997年に最も深刻な事態となった「平成不況」前半期前後の、厚生労働省による統計調査「国民生活基礎調査」のうち、生産年齢の男女の全国データを分析、時間比較しました。その結果、所得や職業階層が中からやや高い層の男女の健康状態(健康度の自己評価)が、不景気後統計的に有意に悪化した結果、見かけ上は健康の社会経済状況格差が縮まった、という結果が得られました。(文献
  • 不景気と関連して、過労死や自殺が社会問題化していることについて英国の医学雑誌に寄稿しました(文献
  • 「失われた20年」の間に、健康格差が逆転32:どうも日本では、バブル崩壊によって必ずしも健康格差が広がったわけではないらしい、という私たちの以前の研究成果を受けて、1980年以降の5年ごとの30歳際から60歳未満のまでの働き盛り世代のなかで、亡くなられた方々全員のデータをまとめ、生前の職業との関係を見てみました。その結果、1980年代までは、諸外国と同じように肉体労働などの人々の死亡率が、死因にかかわらず最も高く、専門職や管理職の死亡は少ないという結果でした。ところが、不景気が深刻化した1990年代後半でその傾向が逆転し、2005年のデータでは管理職の死亡率が最も高い、という結果が出ました。
    この研究結果は掲載された英国医師会雑誌(BMJ)からプレスリリースされ、日本(読売新聞・朝日新聞など)をはじめ、世界各国のメディアで取り上げられました。関連する総説(文献

解説:景気動向と健康

2012年7月に全部改訂された国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針「健康日本21(第二次)」では、「健康寿命の延伸」に加え、「健康格差の縮小」が基本方針に加えられました。健康格差対策には、まず地域の生活状況や健康状況を正確に評価し、健康格差の全体的な大きさや、特に健康状態悪かったり、健康リスクが高かったりする地域を明らかにすることが必要です。(文献

関連文献リスト

  • Kondo N. Deteriorated perceived health among middle-class male non-manual workers due to an economic recession and increasing income inequality in Japan: analysis for 1986-2001. Journal of Takemi Fellows in International Health 2007;1(1):29-37.
  • Kondo N, Oh J. Suicide and karoshi (death from overwork) during the recent economic crises in Japan: the impacts, mechanisms and political responses. Journal of Epidemiology and Community Health 2010;64::649-650.
    URL: BMJ
  • 和田耕治, 近藤尚己. わが国の男性における働き世代の職業と死亡~専門・技術職の健康を守れ~. 安全と健康 2012;13(4):60-64.