多くの先進国で、近年健康格差の拡大が懸念されています。
本日、英国の学術誌Journal of Epidemiology and Community Healthより出版され論文で、福祉国家として最も長い歴史を持つスウェーデンの就労世代の男女でも、所得階層間の死亡率が90年台から上昇していることが示されました。
論文はこちら(無料で読めます):http://jech.bmj.com/content/early/2014/08/20/jech-2013-203619.full
スウェーデンでは、一定の許可のもとで、全国民の様々な統計情報を研究等の目的で使用することができます。今回、1990年から2004年までの間の住民票の情報や所得情報等を、30歳以上65歳未満の全国民について取得し、3年後の生存の有無の情報と結合することで、繰り返しの追跡調査、というデザインの分析を行いました。その結果、男性では90年代以降、緩やかに所得階層による死亡率の格差が拡大たことがわかりました。つまり、低所得の人と高所得の人それぞれが3年以内に死亡する確率の差が拡大したということです。特に低所得者の死亡リスクが上昇している傾向が観察されました。
さらに、女性では、男性以上に、特に1995年以降上昇のスピードが高まったことがわかりました。
同国では90年台前半に深刻な経済不況が起こり、社会保障制度や税制改革が行われ、経済弱者への保護施策に一定の減弱が起きたことが知られています。今回観察された結果は、そういった制度の影響によるかのうせいが考えられ、今後検証を進めていくことが必要と思われます。
女性のほうで顕著に格差が拡大していることに理由としては、スウェーデンの女性は約8割が公的機関で働ていることが関係している可能性が考えられます。公的機関の労働者は、民間企業の労働者よりも、そういった制度の影響を直接受けやすいからです。