日本不整脈外科研究会
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Japanese Society For Arrthythmia Surgery
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jsas@med.kanazawa-u.ac.jp

 
治療方法
 
外科手術
日本医科大学 心臓血管外科 教授 新田隆
1.心室頻拍の治療

心室頻拍は早急に処置を施さなければ死に至る致死性不整脈です。
心室頻拍による心臓突然死を予防するには植込み型除細動器(ICD)が有効ですが、ICDが不整脈そのものを治療して心室頻拍の出現を防止するわけではないため、ICD植込み後も依然として心室頻拍が発生する危険があります。
頻回に心室頻拍が発生するとさらに不整脈が発生しやすい状態になり、心機能にも悪影響をもたらします。心室頻拍の頻回発作とICDの頻回作動からelectrical storm(24時間に3回以上の発作)を生じることもまれではありません。

 
2.どういう場合に心室頻拍の手術が必要になるか?

日本循環器学会による不整脈の非薬物治療ガイドラインの心室頻拍手術の適応の部分を表に示します。薬物療法もカテーテルアブレーションも植込み型除細動器も使用できない、あるいは無効の場合はもちろん手術の適応となりますが、上記のように頻回に心室頻拍が発生する場合や心筋梗塞などで心臓の収縮が低下している場合でも外科治療が検討されます。

頻回に心室頻拍が発生する場合には、まず薬物治療とカテーテルアブレーションが行なわれますが、それでも頻回に発作を繰り返す場合には外科手術が適応となります。
また、心筋梗塞に合併して左心室瘤や心機能低下を伴った心室頻拍では、左室形成術とともに心室頻拍に対する手術を行ないます。いずれの場合でも心臓突然死を予防するICDの役割は重要です。
心臓突然死を予防するICDと心室頻拍の発生を防止する外科手術とでは治療目的が異なり、
2者択一の選択ではなく互いに補完し合う治療法です。必要に応じて両治療法を組み合わせることが重要です。

 
3..心室頻拍手術の実際

術前あるいは術中の電気生理検査所見に基づいて心室頻拍の発生起源あるいは興奮旋回路に対して手術を行なうマップガイド手術と、マッピングを行なわずに肉眼的な所見に基づいて行う非マップガイド手術があります。いずれの手術後でも電気生理検査を行なって、心室頻拍や心室細動が誘発されるかどうかを検査します。多くの患者さんはすでに術前からICDが装着されていますが、装着されていない患者さんでも、この電気生理検査で心室細動などの不整脈が誘発される場合には、心臓突然死の予防を目的としてICDの植込みを行います。

 
a. 虚血性心室頻拍に対する手術

図1
図1
  心筋梗塞などの虚血性心室頻拍では多種類の心室頻拍が認められることが多いため、マッピングで同定される心室頻拍だけでなく不整脈発生の原因となっている部分を広く切除する必要があります。
そのために多くの場合、非マップガイド手術が行なわれます。白色線維化が認められる心内膜を広範に切除し、切除された心内膜と健常心筋との境界部を凍結凝固します。これにより心内膜切除により頻拍回路の器質(残存心筋)が切除され、さらに梗塞部が健常部から電気的に隔離され、心室頻拍に対する根治性が高まります。
左室瘤や壁運動異常による心機能低下を伴っている例では、心室頻拍手術とともに左室形成術を行ないます。Dor手術に準じた形成術では、梗塞搬痕と健常部との境界部に巾着縫合を置いて心室切開創を縫縮し、必要に応じてパッチを用いて閉鎖します(図1)。
左室前壁中隔の広範な壁運動異常には左室の生理的形態である楕円形を維持するようにパッチを用いて形成するSAVE (Septal anterior ventricular exclusion)手術あるいはパッチを使用しないoverlapping法を行ないます。

 

b. 非虚血性心室頻拍に対する手術

非虚血性心室頻拍では頻拍発生と維持の原因となる器質が限局的なことが多く、心室頻拍の種類も少ないことも多いことから、術前あるいは術中の電気生理検査に基づいて手術を行なうマップガイド手術が行なわれます。
マッピングによって同定される心室頻拍の最早期興奮部位などをターゲットとして凍結凝固を行ないます。肥大型心筋症に合併した心室頻拍の多くは異常自動能の亢進や心室壁内のリエントリーが発生機序として考えられていますが、心筋が厚いために心内膜あるいは心外膜からのカテーテルアブレーションを行なっても焼灼巣が頻拍起源に達せず、アブレーションが無効あるいは頻拍が再発する場合があり、外科治療の適応となります。 心室頻拍手術では、主に凍結凝固を用いたアブレーションを行ないます。各冷媒の沸点は、笑気ガス(N2O)では- 89.5 ℃、Argonガスでは- 185.7 ℃、液体窒素(N2)では- 195.8 ℃です。
笑気ガスを用いた2分間の凍結凝固を心拍動下で行なうと僅か2-3mmの深達度ですが、冷却心筋保護液を用いた心停止下では6mm以上の深達度が得られます。さらに心外膜と心内膜の両側から凍結凝固(図2)を行なうことで、肥大心筋でも全層性の凝固壊死巣が作成されます。凍結凝固を行なっても心筋の膠原線維束は保たれ、瘢痕も形成されません。また、弁や冠動静脈への影響もほとんどないことが分かっています。
図2
 
4.術中マッピング

図3
図3
  不整脈手術は他の心臓手術と異なり“眼で見えない病変"に対して手術を行う点で特殊な手術です。
マッピングとは、心臓局所の電位を記録して心臓の電気的な興奮伝播過程を可視化する検査で、特に限局的な処置を行なう不整脈手術では不可欠な検査です。
手術中に心室頻拍を誘発して心臓表面の心電図を記録します。
マップガイド手術の効果は術前と術中の電気生理検査の精度に大きく左右されます。
マッピングには幾つかの方法があります。多極電極(図3)を用いた多点同時マッピング法は1心拍の期外収縮からでも興奮伝播図が作成可能で、興奮周期や旋回路が不安定な心室頻拍の解析には不可欠な手法です(図4)。Electro-anatomical (CARTO)マッピング(図5)は、局所電位の記録とともに電磁波を用いて電極先端の空間的位置を同時に測定することにより、心室頻拍の興奮伝播をコンピューター上に3次元表示される心室の表面上に描画します。

多点同時マッピング法と異なり心室頻拍が安定して持続する必要がありますが、興奮周期や旋回路が安定した心室頻拍では、CARTOマッピングにより空間的精度の高い興奮伝播の解析が可能となります。

図4
図4
 
図5
図5
 

表 心室頻拍の手術適応
(日本循環器学会 不整脈の非薬物治療ガイドラインより抜粋)
ClassⅠ:
1.器質的心疾患に伴う単形性持続性心室頻拍を有し,薬物療法,カテーテルアブレーション,植込み型除細動器が無効ないし使用できず,再現性をもって心室頻拍が誘発される場合
2.薬物療法が無効で,重篤な症状またはQOL の著しい低下を伴う特発性持続性心室頻拍で,カテーテルアブレーションが不成功あるいは再発した場合
ClassⅡa:
1.心筋梗塞に合併した単形性持続性心室頻拍で,心室瘤あるいは左室壁運動異常に起因する心不全や血栓塞栓症を伴う場合

 

脚注
図1. 心室頻拍に対するDor手術
A: 白色線維化した左室心内膜を全周性に健常部との境界に至るまで広汎に剥離、切除する。
B: 心内膜切除断端を-60℃、2分間凍結凝固する。自由壁側は心外膜側に凍結凝固が達することを確認する。乳頭筋などの左室内構造物に留意する。
C: 梗塞巣と健常部との境界部に3-0 Proleneで巾着縫合を置き、この境界部を縫縮する。
D: 縫縮した境界部を人工血管にてパッチ縫合閉鎖する。

図2. 非虚血性心室頻拍に対する凍結凝固
術中マッピングで同定された最早期部位の左室壁に小切開を置き、切開創から凍結プローブを挿入して心内膜からも凍結し、心外膜面からの凍結とともに全層性の凍結凝固巣を作製する。

図3. ネット型多極電極
ネットに合計64極の双極電極を装着して心室を包む。ネットの伸縮性によって、心拍動下でも電極のコンタクトが保たれる。

図4. 心室頻拍の左室心内膜マッピング
下壁梗塞に合併した心室頻拍で、左室瘤は合併していないため、左室切開を避ける目的で左心房から僧帽弁を通して左室内に電極を挿入して左室心内膜マッピングを行なった。
上段は心室頻拍の心電図で、中段左図は左室を右前方から観察した図で、右図は左前から観察した左室と右室の心内膜である。心室頻拍中の興奮時間を下段のカラーコードに従って表示してある。左室後壁中隔に最早期興奮部位(*)が見られる。

図5. Electro-anatomical (CARTO)マッピング
Location padを患者背面あるいは手術台の下に固定し、マッピングカテーテル(Navistar)を用いて心室表面から直接電位を記録する。多数カ所からの電位を記録中、心室頻拍が安定して持続することが必要であるが、多点同時マッピングと比べて高い空間解像度が得られる。

 
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