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Japanese Society For Arrthythmia Surgery
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日本不整脈外科研究会 Top >> 治療方法 >> 外科手術 / 心房細動手術の歴史的な経緯
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不整脈とは
 
外科手術
 
心房細動手術の歴史的な経緯 Maze手術の開発から改良までの経緯について

兵庫医科大学 心臓血管外科 准教授 光野正孝

 
1.はじめに

心房細動とは、心房内に不規則な興奮が1分間に400回以上も生ずるために、心房はいわば「けいれん」したようになり、また心室の興奮(つまり脈拍)も全く不規則になってしまう不整脈です。この不整脈はすぐに死亡に直結するような危険な不整脈ではありませんが、(a)脈の規則性が全く無くなり、(b)心房の収縮が無くなるため、心臓の働きも若干低下し、(c)血栓ができやすくなり脳梗塞を生じる危険性が高まる、という短所を持っています。
古くは、心房細動は薬物治療の対象でしかありませんでしたが、1991年に米国のCox教授が心房細動に対する「Maze(メイズ)手術」を発表してからは、手術で治療可能な病気となってきました。ここでは、心房細動手術の開発の歴史的な経緯についてご説明することにします。

 
2.メイズ手術の開発の歴史
図1
 
図2
図3
 
図4
 

心房細動に対する理想的な手術とは、心房細動の欠点を取り去ること、すなわち(a)規則正しい脈拍を回復し、(b)心房収縮を回復し、(c)脳梗塞発症のリスクを無くす手術です。古くは1967年に房室ブロック作成術が発表されました。これは外科的に房室ブロックを作成し心室をペースメーカーで刺激することにより、(a)の規則正しい心拍は回復しますが、心房は心房細動のままであり、(b)(c)は解決されません。
その後1980年代になり、左房隔離術(1980; Wiliams, Cox, et al)、Corridor Operation<回廊手術>(1985; Giraudon et al)等の心房を隔離して細動を心房内に閉じこめる手術が考案されましたが、常に脳梗塞の危険性は残り、理想的な手術とは成り得ませんでした。

このような状況下で、長年不整脈外科の研究を行ってきていた米国セントルイスのワシントン大学のCox教授は「Maze手術」を考案しました。当時心房細動のメカニズムはまだよくわかっていませんでしたが、電気生理学的検査のデータからは、心房細動も多くのマクロリエントリー(電気的な興奮がある程度の大きさでぐるぐる回って回路を形成することです。)の集まりのように考えられました。(図1)
ただし、心房細動をマッピングしてそのリエントリー回路を同定してそれを切断することは不可能なため、心房細動がおこらなくなるようにする唯一の方法としては、心房内で考えられ得る全てのリエントリー回路を断ち切ることである、という結論に達し、Maze手術を考案しました。「Maze」とは英語で「迷路」のことであり、文字通り心房内に迷路を作ることにより、心房内の全ての箇所に伝導は伝わりますが、「リエントリー」となる回路は成立しなくなります。(図2,3) 16頭の犬による動物実験でその効果や影響を確認した上で、1987年9月に臨床例で初めてMaze手術を施行したところ手術は成功し、その後の計7例の成功結果をもとにして、1991年に論文で発表しました。当初Cox教授はMaze手術で心房細動は完全に治らなくても、使用薬剤の数を一種類でも減らせられればよいという考えで始めましたが、実際に行ってみると心房細動は消失し、多くの症例では抗不整脈剤も不要になることがわかり、自らその効果に驚嘆したと述べています。

その後1991年11月までに計32例に対してMaze手術を施行しましたが、この術式では心房細動は治るものの術後にペースメーカーを必要とする症例が極めて多く、その原因は洞結節動脈を切断するためと考えられました。そのため切開線の変更が検討され、Maze IIを経て、1992年4月からMaze III手術が行われるようになりました。
このMaze III手術は心房細動に対する効果は十分で、かつ術後に洞機能不全がおこる頻度は激減し、以後心房細動手術の基本術式として現在に至っています。(図4)

Cox教授自身のMaze手術の成績は13年間306例の症例が1999年に発表されていますが、手術死亡が3.3%で、265例の長期follow-up(平均3.7±2.9年)において、100%で洞調律が維持され、そのうち95%は抗不整脈剤も不要であり、また術後遠隔期の脳梗塞発症は1例(0.3%)のみという素晴らしい成績となっています。

 
3.数々の改良手術の開発

Cox教授によるMaze手術は心房細動がおこらなくするという目的においてはgold standardとなる手術でしたが、多くの切開・縫合を必要とし、そのための手術侵襲や心機能に対する影響等の問題もあり、その後多くの改良手術が考えられました。

 
(1) 心房機能温存を目的とした改良
図5
Maze手術の切開線はまず「迷路」を心房内に作ることのみを主眼において考えられたため、心房壁を栄養する血流が考慮されていなかったり、心房内の伝導遅延がおこり心房の収縮様式が不均等でありました。

これらの欠点を改良し、かつ「可能性のある全てのリエントリー回路を断ち切る」というMaze手術の基本概念を全く損なわない新しい切開線を考えたのが「radial手術」です。「radilal」とは「放射状」の意味で、一筆書きの「迷路」ではなくて洞結節からでた興奮刺激が放射状に広がるように設計されています。Radial手術術後の心房収縮はMaze手術より良好であり、かつ心房細動停止効果は同等となっています。(図5)
一方、Maze手術では両心耳を切断しますが、心耳は心房機能に重要な役割を呈しています。これに注目したものが「両心耳温存Maze手術」です。この手術はMaze手術の一部の切開線を省き、かつ両心耳も切断しない術式であり、術後の心機能は良好で、かつ心房細動停止効果もMazeと同等になっています。

 
(2)心房切開線の簡略化による改良
Maze手術の基本概念は前述のように「心房で考えられ得る全てのリエントリー回路を断ち切ること。」で、それにより良好な手術成績を示しましたが、果たしてこれらの切開線が全て必要であるかどうかはまだわかっておりません。
図6

例えば僧帽弁膜症等に合併する心房細動では、左房のみが心房細動に関与している可能性があるという仮説に基づいて、左房のみに切開線をおいたものが「左房Maze」手術で、手術は症例を選べばかなりの成績をあげています。 また最近では、左房側には「左房Maze」を行い、右房側は心房粗動に対するカテーテルアブレーションのlineに基づいた切開線をおく「ハイブリッド手術」も行われています。(図6)

 
(3)各種デバイスの使用による簡略・低侵襲化
図7
Maze手術は切開・縫合をくりかえすもので、心停止時間は長くなり、また術後の出血性合併症も多くなるという短所をもつため、なかなか一般の心臓外科医に広まる手術とは成り得ませんでしたが、その後「切開・縫合」にかわる手段・デバイスが考えられました。

最初に注目されたのは「冷凍凝固」です。冷凍凝固は心房筋を冷凍し、細胞の物理的な構築(強度)は保ったままで電気的に断絶させる方法で、Maze手術でも、切開ができない弁輪部に限って使われていましたが、これを長い切開線のかわりに使ったのが「小坂井式冷凍凝固多用Maze手術」です。我が国では1992年よりこの術式が始まりMaze IIIと同じくらい広まりましたが、一箇所に2分かかる冷凍凝固を長い切開線のかわりに使うため、心停止時間を短縮し侵襲をへらすというところまではいきませんでした。

2000年代になり、切開・縫合のかわりとなり、心房壁を電気的に隔絶する様々なデバイスが開発され、臨床の場で使えるようになりました。その中でも高周波(RF)を用いる双極のデバイスは、それまでの他のデバイスの欠点を補い、かつ短時間に確実に切断ラインを作成できるということで、広く広まりました。Cox教授の後継者であるワシントン大学のDamiano教授はこのデバイスを使ってMaze IIIの切開線を代用したものをMaze IVとして発表しており、現在高周波デバイスを用いた心房細動手術の基本となっています。(図7)

これらのデバイスの開発によって、心房細動手術は普通の心臓外科医でも躊躇することなくできる手術となり、全世界的に広まり、現在に至っています。
今後はさらに低侵襲な手術や症例に応じて切開線を省略した手術等が開発されるものと思われます。

 
 
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