東海大学医学部内科学系 循環器内科 教授
東海大学医学部付属八王子病院 循環器センター長 小林義典 |
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不整脈に対する薬物治療は、ここ30年間で大きく様変わりした。
1970年代後半から、80年代にかけてはVaughan-Williams分類I群薬すなわちNaチャネル遮断薬の開発が盛んで、新たなI群薬が多数開発され、臨床に用いられるようになった。
その中でも特記すべきことはNaチャネル遮断作用の強いIc群薬が登場してきたことである。 しかしIc群薬を虚血性心疾患や心不全患者に長期間に渡って投与すると、催不整脈作用や陰性変力作用などの副作用のためにその予後を悪化させることが明らかとなり、その後I群薬に対する興味は急速に薄れていった。 1990年ころからは陰性変力作用を持たないIII群薬に開発の力が注がれるようになり、いくつかの純粋III群薬が世に出ることになる。 しかし、その抗不整脈効果は期待したほどのものではなく、またQT延長に伴うTorsades de points型多形性心室頻拍の出現が問題となり、やはりIII群新薬開発に対する情熱も次第に冷めていった。 時期を同じくしてカテーテル・アブレーションや植込み型除細動器(ICD)、心臓再同期療法(CRT)などの非薬物治療が台頭し、不整脈の種類や病態によっては非薬物療法が薬物療法よりも優れることが報告され、抗不整脈薬の位置付けが低くなってきた観は否めない。 2000年以降は抗不整脈薬以外の薬物治療、特に不整脈発生の流れの中でより上流の部分である基礎心疾患や神経体液性因子を修飾するUpstream治療が注目され、レニンーアンギオテンシン系阻害薬やスタチンなどの効果が注目されている。
これまでの報告では不整脈一次予防ではある程度の効果は期待できるが、二次予防においては他の治療法に対する若干の付加的効果を示すのみである。
このようの不整脈治療のオプションが拡大する中で、抗不整脈薬は心房細動や構造的心疾患に出現する重症心室性不整脈においては、依然として重要な役割を担っている。 また、抗不整脈薬単独ではなく、Upstream治療、非薬物治療と併用することにより、治療の安全性、有効性が高まることが期待されている(Hybrid治療)。
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表1 |
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表2 |
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古くからVaughan-Williams分類(表1)が用いられていたが、近年では、薬物のイオンチャネル、自律神経受容体に対する作用、心機能や心電図指標に対する効果を詳細に記載したSicilian-Gambit分類(表2)も用いられる。 |
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図2 |
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図1 |
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図3 |
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図4 |
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1.AFの患者さんを見たら、第一に抗凝固療法を行うか否かを考慮する。
AFに認められる心原性脳梗塞は重症化することが多く、是非とも回避すべき合併症といえる。 AFの血栓リスクはCHADS2スコア(C:心不全、H:高血圧、A:年齢75歳以上、D:糖尿病、以上が1点、S:脳梗塞、TIAの既往、2点)を用いて判定する。
2点以上はワーファリンが推奨されるが、1点でもワーファリンを投与すべきとの専門家の意見がある(図1)。 なお、以前のガイドラインで記載されていた軽リスクの症例におけるアスピリンの選択肢が、今回は削除された。
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2.抗不整脈薬治療
図2、図3にそれぞれ孤立性AF、器質的心疾患(肥大心、不全心、虚血心)に伴うAFに対する治療方略を示す。 基礎心疾患の無い孤立性AFでは特に発作性AFでI群薬を推奨しているが、持続性AFに対しては洞調律化を目的としてIII群薬が用いられる。 器質的心疾患を認める例では欧米と同様に、アミオダロン、ソタロールが主役を演じるが、さらにベプリジール(アプリンジン併用)が列記されていることが本邦ガイドラインの特徴である。 本方略のもう一つの特徴は、抗不整脈薬治療のみならず、Upstream治療、肺静脈隔離術、Ablate&Paceなどの他の治療法などへの移行、あるいは併用することを柔軟に考慮することを勧めている点である。
心房細動は病態、発生背景など多岐にわたるため、個別に症例にあった治療法を選択していくことが重要といえる。
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虚血性心疾患など低心機能例に出現する心室頻拍(VT)、心室細動(VF)は致死的不整脈であるが、これに対しては植込み型除細動器(ICD)が抗不整脈薬治療よりも予後改善効果が示すことが知られている。
しかし、ICDも万能ではなく、VT/VFストームでは死亡例も認められる。
また直流通電は患者に対して精神的苦痛をもたらすため、QOLが悪化する可能性がある。 ICDに抗不整脈薬を併用する付加的効果として以下のことが考えられる。
1)VT/VFによるICD適切作動、AFなどによる非適切作動の頻度が減少。これにより精神的QOLの向上、ICD電池寿命の延長をもたらす。
2)除細動閾値の改善
3)VT/VFストームの予防
4)抗頻拍ペーシングの有効率のアップ
虚血性心疾患、心筋症など低心機能例で最も汎用される薬剤はアミオダロンであるが、OPTIC試験によりアミオダロンとβ遮断薬の併用が、β遮断薬単独投与に比べて、ICD作動率を70%減少させることが示された(図4)。
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