中枢神経原発リンパ腫 PCNSL

PCNSL (primary central nervous system lymphoma)

大まかなことと症状

  • 脳のどこにでもできる悪性腫瘍で,脳腫瘍の3%くらいです
  • 悪性のBリンパ球が脳の中で勢いよく増えます
  • 60から80歳代の高齢者に多く発生します
  • 脳腫瘍の約3%とされていますが,発生率は増加の傾向にあります
  • 症状は知能低下(認知症)や麻痺などが多いです
  • 片方の目の視力が急に低下する眼内リンパ腫(ブドウ膜炎)は初発症状として多いものです,その後に脳に発生します
  • 亜急性,つまり数日から何週間単位で進行するものが多いです
  • 一度症状が出たら悪化するのは早いと考えなければなりません
  • 残念ながらいずれの治療法を選択しても再発率や死亡率は高いものです
  • 専門医はPCNSLと呼びます
  • 欧米では免疫力が落ちた患者さん(エイズなど)での脳のリンパ腫の発生が多いのですが,日本での頻度は極めて低いです

検査と診断は

  • 単純CTで腫瘍の部分が少しだけ高吸収値域を示す(白っぽくなる)のが特徴です
  • MRI検査でよりはっきりわかります
  • 造影剤を入れると均一に増強(真っ白になる)されて,周囲には脳の腫れ(脳浮腫)がみられます
  • できやすい場所は側脳室の周囲・大脳脳基底核・小脳など脳の深いところです
  • 脳の中に2個以上のリンパ腫が同時にできる多発例というのもしばしばあります
  • 脳ではない体のどこかに発生したリンパ腫が脳に転移したものかもしれません
  • 脳にだけできたのか,体のどこかに原発巣があるのかを区別するのはとてもむずいかしいです
  • 全身を調べるのにはガリウムシンチという検査が用いられます
  • ペット PETという検査もあるのですが限られた施設でしかできません
  • 骨を刺して検査する骨髄穿刺をして全身のリンパ球に異常がないか調べます
  • CTとMRIが終わってリンパ腫が疑われたら急いですぐに定位脳手術という方法でちょびっとだけ腫瘍をとります(生検術)
  • 脳原発のものはほとんどがnon-Hodgkinリンパ腫 (NHL)で,B 細胞性リンパ腫(大細胞型)が約80~90%を占めます
  • 組織学的には異型性の高いリンパ球の腫瘍細胞が,血管周囲に集まりさらに深く周囲の脳実質内に浸潤しています
  • ですから,手術でとりきれることはありませんし,開頭手術だけでは再発します
  • ステロイドという薬を使うと一時期に症状がよくなって,MRIをみると消えてしまうことがあります
  • しかし,その場合も数週から数ヶ月後に再発します
  • 病理組織を確認する手術の前にステロイドを使うと病気が判らなくなってしまうので,生検術の前に使用してはいけません

治療は

  • 進行が早いので治療はとても急がなければなりません
  • 開頭手術でたくさん腫瘍組織をとるのは意味がありません,時間を失うのと,摘出してもまたすぐに大きくなってしまうからです
  • そうしないと治らなかったり,治っても後遺症が大きくなります
  • 放射線療法(全脳照射)がもっとも有効で,腫瘍は消失して治ることがあります
  • しかし高齢者の脳に広く大量の放射線治療をすると脳の萎縮がきて何ヶ月か後には痴呆症(認知障害)になることが多いです
  • 薬物療法(化学療法,制がん剤)も有効なことが多いですが,30%くらいの高悪性度群のリンパ腫には効きません
  • 最初にできた場所とは違う脳の部分に再発することが多いです
  • 過去の生存期間は放射線治療だけを行なった場合で15か月前後でした
  • 最近の化学療法を加えた治療法ではもっと伸びて生存期間中央値は40ヶ月以上になっています
  • 明らかに生存率がよいのは50歳以下の若い患者さん,PS70%以上(自分のことはできる状態くらい)の患者さんです
  • 全脳照射を加える方が生存率は高いですし,現時点での標準治療では,MTX化学療法の後に全脳照射30グレイ/15分割です
  • 化学療法に全脳照射を加えるかどうかには議論があります
  • 全脳照射を避けるために大量化学療法の方法を変える,維持化学療法をするなどの方向性はありますが,結論は出ていません

化学療法 (制がん剤治療)

  • 新しい治療の考え方は化学療法を主体にして治すことです
  • 化学療法は強いものを使うので専門施設(がん化学療法の専門家がいるところ)でしか行なえません
  • それから放射線治療を追加するかどうかには2015年時点でも意見が分かれています
  • 60歳以上には放射線治療による認知障害が強く出るので化学療法だけにするという考えもあります
  • MTX (メトトレキサート) の大量化学療法とその後での30グレイくらいの全脳照射を加えるという治療が生存率においてはよい成績をあげています
  • この治療だと平均的な生存期間(生存期間中央値)は3年以上になると報告されています
  • でも,この治療は一般の脳神経外科の施設では行なうことができません
  • リンパ腫の治療に慣れた脳外科ではできますが,全国的に見てもこの治療をできる脳外科病棟は少ないです
  • 脳のリンパ腫だと診断されたら血液腫瘍内科(白血病やリンパ腫を専門に治療する内科)に移していただくのもいい方法だと思います
  • 本来は脳外科ではなくて血液内科で治療する疾患ではないかとも私は考えています
  • 最近,CD20陽性のB細胞リンパ腫に対するリツキシマブ rituximab(商品名リツキサン)という抗体が化学療法と併用できるようになりました
  • 脳以外ではシクロフォスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロンを使うCHOP療法などに併用されています(R-CHOP)
  • 脳のリンパ腫に対してMTX大量化学療法とリツキシマブの併用 (R-MPV) の報告もあります
  • 髄液内への抗がん剤の注入は一般的ではありません
  • MTX大量化学療法の後で,血液幹細胞移植を用いた地固め化学療法や維持化学療法を行った方が再発率が低いとの報告が増えています

2015年日本で行われている臨床試験

照射前大量メトトレキサート療法+放射線治療と照射前大量メトトレキサート療法+テモゾロミド併用放射線治療+テモゾロミド維持療法とのランダム化比較試験(JCOG1114、PCNSL-TMZ-P3)

この試験は一般募集されています。試験参加医療機関を受診して希望すれば被験者になれます。現行のMTX化学療法と全脳照射に,更にテモゾロマイドという抗がん剤を加えるという試みです。

脳の悪性リンパ腫 (PCNSL) の写真集

CTスキャン

造影剤を使わないCTスキャンの写真です。左の大脳基底核というところにできたリンパ腫ですが腫瘍が卵形で,造影剤を使わないでもちょっと白っぽく移るのが大きな特徴です。腫瘍の周囲の脳は黒くなっていて,これは脳浮腫という脳のはれを示しています。これを見たらすぐに定位脳手術とうい方法で生検術(ちょっとだけ腫瘍をとる)をします。開頭手術で腫瘍をたくさんとることに意味はありません。

私はこの写真を見たら数日中には定位脳手術をします。そしてそれを病理で確認したらすぐに化学療法を開始します。患者さんが外来に初めて訪れてから,すぐに生検手術して,ステロイド治療あるいは化学療法開始までを手術後1週間くらいにした方がいいと考えています

MRI

これはMRIです。矢印の所を定位脳手術で取りました。病理の結果がリンパ腫と確定されましたから,化学療法をしてから放射線をあてたら,右側のMRIのように腫瘍は消えました。患者さんの症状は良くなって退院したのですがーー。

再発

左から,1回目の再発,2回目の再発,3回目の再発です。再発するたびになんとか治療はできるのですが,違った場所に再発してきてだんだん治療が効かなくなってくることが多いです。このような現象から,脳のリンパ腫は脳に発生するのではなくて,体のどこかに原発巣があるのではないかという考えもあります。もちろん、こんな再発をしないで治ってしまう患者さんも多いです。


リンパ腫の増大が早い

これは別の古い例ですがリンパ腫の増大が早いことをお見せします。左側のはTHP-COPという化学療法をする前のものです。真ん中のは化学療法から4日目で,腫瘍は小さくなりました。でも,2コース目の化学療法の直前(4週間後)にもう一度MRIをしてみたらすごく大きくなっていました。化学療法は効いているのだか効いていないのだか判らないことになります。化学療法を行なうならとても強い薬剤を使わなければなりませんし急がなければなりません。


放射線治療
放射線治療

放射線治療をした古い例です。定位生検術の後で全部の脳に40グレイという線量を照射しました。左から2番目の写真で腫瘍は消えています。でも,6ヶ月後の3番目の写真では脳がやせてきています(脳萎縮)。患者さんの精神機能は著しく低下しました(いわゆる認知障害)。4番目の写真は治療後8ヶ月目のものですが,すでに左側に小さな再発が見られます。全部の脳にあてる放射線の量はできる限り少ない方がいいのです。


開頭手術で全部取ったといわれて紹介された例

開頭手術で全部取ったといわれて紹介された例です。でも右側の写真ではほんの少し残っているようです。この後で化学療法と放射線治療をしました。開頭手術をすると化学療法の開始の時期が遅れますし,それを待っている間にも再発してしますことがあります。また,手術でたくさんとっても治る確率が高くなる病気ではないので,開頭手術の利益はとても少ないと言えます。生検術といってほんの少しだけ腫瘍をつまんで病理診断するという手術だけが必要です。

血液幹細胞移植を用いる大量化学療法

Omuro A, et al.: R-MPV followed by high-dose chemotherapy with TBC and autologous stem-cell transplant for newly diagnosed primary CNS lymphoma. Blood 125: 1403-1410, 2015

Sloan-Ketteringからの報告です。リツキシマブ,メトトレキサート MTX (3.5g/m2),プロカルバジン,ビンクリスチンを用いるR-MPV併用化学療法が有効であった32人の患者さんが,地固め大量化学療法(チオテーパ,シクロフォスファミド,ブスルファン)と自己血液幹細胞移植を受けました(HDC-ASCT.)。年齢中央値57歳と若く,KPSは80と良好な母集団です。R-MPVの奏功割合は97%であり,26 (81%) 人の患者さんが HDC-ASCTを受けることができました。無増悪生存期間中央値 PFS と全生存期間中央値 OS は45ヶ月を越えました。2年PFSは79%,2年OSは81%でした。移植ができた患者さんではPSもOSも81%です。治療関連死は3例 (9%) でした。認知機能が保たれ神経毒性のない治療であると結論されています。米国では可能でも,日本においては治療関連死3例 9%は厳しい化学療法だと言えます。

メソトレキセート大量化学療法にリツキサンを加えた方が良い

Gregory G, et al.: Rituximab is associated with improved survival for aggressive B cell CNS lymphoma. Neuro Oncol 15: 1068-1073, 2013

オーストラリアの4つの大きな施設からの報告です。120例のB細胞脳リンパ腫の治療を分析すると,メソトレキセート大量化学療法にリツキサン rituximabを加えた例で生存期間が長かったとのことです。

重要な総説:脳リンパ腫の手術

外科手術の役割は確実な病理診断を得るために組織をとるということであり,定位脳手術で生検をするべき。開頭手術で腫瘍をたくさん取る (debulking) という手術のメリットは証明されていない。内照射という脳の内部から放射線をあてるような特殊な状況下では生検術以外の手術もあるかもしれない。
Liu B-L, et al.  Limited role of surgery in the management of primary central nervous system lymphoma (Review), Oncol Rep 22: 439-449, 2009

解説:脳外科の先生は大きな腫瘍を見つけると開頭手術を勧めがちです。理由は,腫瘍を取ってみないと診断がつかないから治療方針が立たない。生検術だと病理診断を間違うことがあるからたくさん取るために開頭する。腫瘍が大きいから脳の腫れと圧迫をとるために緊急の開頭手術をしなければならない。これらの理由は多くの場合,本当ではありませんので安易に開頭手術を受けてはいけません。

重要な論文:MTXとリツキサンを使った化学療法

Shah GD, et al. Combined immunochemotherapy with reduced whole-brain radiotherapy for newly diagnosed primary CNS lymphoma. J Clin Oncol 25: 4730-4735, 2007

30人(年令中央値57歳)のリンパ腫の患者さんに,5コースから7コースのR-MPV (リツキシマブ,メトトレキサート,プロカルバジン,ビンクリスチン)化学療法が投与されました。7コースの化学療法の後では78%の患者さんで腫瘍が消えました。腫瘍の完全に消えた(CR)患者さんは23.4グレイの全脳照射を受けて,腫瘍が完全に消えなかった患者さんは45グレイの全脳照射を受けました。放射線治療のあとでさらに2コースの大量のシタラビンが投与されています。2年の全生存割合は67%で,無増悪生存割合は57%でした。MPV化学療法にリツキシマブを加えると,好中球減少が顕著になるとのことです。この23.4グレイの全脳照射は認知機能を落とさなかったそうです。

約6割の患者さんで治療後に再発などなくて2年が経過するという良好な結果です。MTXを基剤とした併用化学療法にリツキサンを加えると腫瘍が消失する割合(奏功率)が明らかに上がるようです。全部の脳にあてる放射線治療の量が後遺症としての認知障害(痴呆)を決めますから,この化学療法を使えば放射線の量を減らすことができるであろうと推定されています。日本では一般的にMTX大量化学療法の後は,30グレイの全脳照射ですからそれよりも少ないです。

重要な論文:MTXが効かない時,血液幹細胞救援を用いた化学療法

Soussain C, et al.: Intensive chemotherapy followed by hematopoietic stem-cell rescue for refractory and recurrent primary CNS lymphoma: Societe Francaise de Greffe de Moelle Osseuse-Therapie Cellulaire. J Clin Oncol 26: 2512-2518, 2008

MTX大量化学療法に抵抗性のリンパ腫患者さん43人(年令23-65歳)になされた治療です。まず,チオテーパとシタラビンを2コースの化学療法がされます。治療関連死が3人でした。20人(47%)の患者さんで治療効果がみられました。さらに27人の患者さんでは,チオテーパ,ブスルファン,シクロフォスファミドを使う大量化学療法と血液幹細胞救援が追加されました。この27人の患者さんの内の26人で腫瘍がいったんは消えました (complete remission)。 生存期間中央値は大量化学療法を受けれた患者さんで58.6ヶ月にもなり,2年生存率は69%です。

この結果は,血液幹細胞救援と大量化学療法が脳のリンパ腫にかなり有効であることを示してます。しかし,対象となった患者さんの年令の中央値が52歳であって,かなり若い患者さんでの成功例が多いと理解しなければなりません。脳のリンパ腫の発生年令はもっと高い所に平均値があります。MTX化学療法が効かない患者さんには用いる価値のある,けれどもきつい化学療法です。

大阪大学 平賀先生の有名な論文

Hiraga S, Arita N, Ohnishi T, et al.: Rapid infusion of high-dose methotrexate resulting in enhanced penetration into cerebrospinal fluid and intensified tumor response in primary central nervous system lymphomas. J Neurosurg 91: 221-230, 1999

古い文献です。メトトレキサート(MTX)という薬剤の大量療法とその後で30Gyの全脳照射をする治療法が書かれています。この論文の治療成績を確認するために,兵庫医大の有田憲生先生が全国共同研究をしました。

リンパ腫の論文:メトトレキサート(メソトレキセート)だけで認知機能障害は生じるか

Fliessbach K, et al. Neuropsychological outcome after chemotherapy for primary CNS lymphoma: a prospective study. Neurology 64: 1184-1188, 2005

MTXメトトレキサートを基剤とした化学療法だけで,放射線治療なしで治療を受けて,生存した23人の患者さんの認知機能(知能)と生存の質(QOL)を調査した研究です。前向き研究prospective studyです。治療後に22人の患者さんでは,認知機能は同じか治療前より改善していたとのことです。11人(43%)で軽度の認知機能障害があったのですが,これは治療の副作用というよりも腫瘍(リンパ腫)によって脳の機能が落ちていたためでした。19人(83%)が良い状態で生活していました(good QOL)。8人で脳の白質に異常がみられたのですが,これは認知機能の低下との関連はありませんでした。 MTXを基剤とした多剤併用化学療法のみで治療された場合には,顕著な認知機能障害は起こらないと結論されています。

確かに成人ではMTXの大量化学療法のみでは認知機能は落ちないのかもしれません。問題は,放射線治療とMTXの併用がなされた時ですが,この時は認知機能は落ちます。脳のリンパ腫を化学療法単独で治すことは難しいので,結局のところ放射線治療との併用がされることが多いのです。放射線治療を先にして,後でMTXを使うと白質脳症がより高度になります。


ここから下は,専門家向けです

中枢神経原発リンパ腫 PCNSLの定義

初発時に中枢神経系外(眼窩内を除く)にはリンパ腫病巣を認めない、かつ他臓器リンパ腫由来の転移性中枢神経リンパ腫は含まないとされるので,リンパ腫の既往歴がないこと,さらに全身検索を一応しないと診断はできない。60歳以上の高齢者が3分の2を占め,欧米とは異なり日本ではエイズに合併する例は稀である。ほとんどの例 (>95%) が非ホジキンリンパ腫 (non-Hodgkin lymphoma, NHL)でB細胞由来のびまん性大型B細胞リンパ腫 (diffuse large B-cell lymphoma)である。なぜPCNSLが中枢神経から外に転移することが稀なのかの理由は不明。

PCNSLの髄液内播種(髄膜播種,meningeal dissemination, CSF seeding)

PCNSLの髄膜播種 meningeal disseminationは,10%とも40%ともいわれる。PCNSLが再発しやすいのは髄液中にリンパ腫細が胞存在し,抗がん剤の静脈投与や全脳照射では髄液中に浮遊する腫瘍細胞を根絶できないためとする意見もある。しかし実際に,MRIで脊髄表面あるいは大脳脳溝に播種をみることは稀であり, その意味においては頻度はとても低いと言える。
髄液細胞診 CSF cytomorphologyでの偽陽性や偽陰性は多く,確実な診断は必ずしも容易ではない。偽陽性になる場合には,髄液中に反応性に出たリンパ球を悪性リンパ腫細胞と誤認することである。一方,偽陰性となる場合には,採取した髄液量が少なくて陽性にならないこと,細胞診の前にステロイドを使用してしまった場合(一時的にも腫瘍細胞が消失する)である。髄液から十分な細胞数が採取できて,多量のリンパ腫細胞が確認できた場合と,免疫組織染色やCDR3 PCRが可能であれば確診ができる。
診断の不確実性からしても,髄液播種が予後因子となるか否かに関しては議論がある。しかし,少なくとも治療開始前に,髄液細胞診と脊髄のMRIを行なう努力はすべきである。予防的に髄液内へMTXの注入をする治療プロトコールもあるが一般的ではない。脳室内にチューブ・リザーパーを留置するか腰椎穿刺を繰り返し行なわなければならいこと,髄膜炎併発の危険性,放射線治療と併用すれば白質脳症のリスクが高まるためである。

眼内リンパ腫の合併(intraocular lymphoma, IOL)

  • 片眼の比較的に急速な視力低下で発症し,ぶどう膜炎 uveitisと類似した症状であるので,ぶどう膜炎と診断されることが多いです
  • 原発性眼内リンパ腫 PIOL primary intraocular lymphoma はPCNSLの一部分症として認知されているので,眼内リンパ腫があっても全身のリンパ腫とはせず,PCNSLと診断します
  • ステロイド治療で寛解が得られることがあり,眼内生検手術をされていない場合には確定診断がつかないまま,ぶどう膜炎の既往として残るのみであるので,PCNSLの患者さんの病歴をとっていると,ぶどう膜炎と言われたというような訴えを聞くこともあります
  • また脳病変と同時に進行することも多いし,合併頻度が高いのでPCNSLを疑う場合には眼科での検査も必要です
  • 孤発性のPIOLならば眼内局所療法(制がん剤注入 intravitreal methotrexate,局所放射線治療 ocular radiotherapy)など特有の治療法があります
  • 脳病変と合併する場合にはまずはPCNSLに準じた治療法をします
  • Grimmらの眼内病変を合併した221例のPCNSLの報告では,眼内単独で再発が生じる場合は20%で,眼内病変への局所治療を加えた場合に局所制御率はよいが,全生存割合 OS は局所治療を加えない群との差がないとされています

Grimm SA, et al.: Primary CNS lymphoma with intraocular ivolvement: International PCNSL Collaborative Group Report. Neurology 71: 1355-1360, 2008

十分な診断と治療開始時期の遅れの間のジレンマ

診断価値の高い単純CTに始まり,MRI,増強MRI,脊髄MRI,定位生検術(凍結標本HE,免疫組織染色による確定診断),眼科診断,血液検査(LDH, IL2-R),,胸腹部増強CT,ガリウムシンチ,髄液細胞診, FDG-PET,血液内科での骨髄穿刺など必要な治療前検査をあげればきりがないのかもしれない。さらに加えて,生命予後が不良な悪性疾患であり,治療侵襲が高い化学療法を行なうので,患者さんと家族への病態説明と治療法選択のインフォームドコンセントには予想以上に時間をとられる。
しかし,PCNSLの病勢の悪化は時として極めて早いので,十分な検査を行うことと,患者さんの機能予後を守るということは,しばしば背反する。PCNSLを疑った場合に最も大切なことは,画像上で類似する膠芽腫や転移性脳腫瘍よりも,PCNSLの増大速度が速いことを念頭におくことである。膠芽腫と同様なタイムテーブルで検査と治療計画をしてはならない。
特に,脳幹部,視床,大脳基底核,脳梁,海馬などを侵すリンパ腫が,急速に症状を悪化させる場合には,それらの部位に不可逆的な脳組織破壊をもたらしていると想像した方がよいし,また事実,化学療法が奏効しても高次脳機能障害をはじめとする神経脱落症状を残すことが多い。
開頭腫瘍摘出術 (radical removal) もこの意味においては術後補助療法の開始を遅らせる要因となり,腫瘍摘出割合と予後が関連しないことを考えても,患者さんには何の利益ももたらさない有害な手段といえるかもしれない。PCNSLを疑った場合には,できれば即刻,CT or MRI guideの定位生検術をするべきであろうし,開頭としても低侵襲な小開頭によるopen biopsyがよい。
ステロイドはリンパ腫細胞に対してcytocidal effectが強い。病勢の進行が早いので症状悪化を食い止めようと,ステロイドを投与して時間稼ぎをしようとすれば,一時的にではあるが病巣の壊死を招き,生検術をしても確定病理診断できないという結果にもなる。

あえてあげれば,病理診断のための生検術(臨時あるいは緊急手術)をできる限り早い日程で決定すること,それと同時にPCNSLの仮定診断のもとに患者さん側への説明と化学療法の開始を準備しながら,必須の諸検査を間に立てていくことであろう。症状の増悪が早ければ生検術の直後からのステロイドの投与開始はやむを得ない。

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