中枢神経の特殊なリンパ腫 miscellaneous rare lymphomas of the CNS
脳神経にできるリンパ腫ですが,通常のPCNSLとはMRI画像も異なり,治療法も異なるものです
2021年 WHO 分類 Miscellaneous rare lymphomas of the CNS
- MALT lymphoma of the dura
- Other low-grade B-cell lymphoma of the CNS
- Anaplastic large cell lymphoma (ALK+/ALK-)
- T-cell and NK/T-cell lymphomas
眼内リンパ腫の合併(intraocular lymphoma, IOL)
- これは通常のlarge B-cell lymphomaです
- 片眼の比較的に急速な視力低下で発症し,ぶどう膜炎 uveitisと類似した症状であるので,ぶどう膜炎と診断されることが多いです
- 原発性眼内リンパ腫 PIOL primary intraocular lymphoma はPCNSLの一部分症として認知されているので,眼内リンパ腫があっても全身のリンパ腫とはせず,PCNSLと診断します
- ステロイド治療で寛解が得られることがあり,眼内生検手術をされていない場合には確定診断がつかないまま,ぶどう膜炎の既往として残るのみであるので,PCNSLの患者さんの病歴をとっていると,ぶどう膜炎と言われたというような訴えを聞くこともあります
- また脳病変と同時に進行することも多いし,合併頻度が高いのでPCNSLを疑う場合には眼科での検査も必要です
- 孤発性のPIOLならば眼内局所療法(制がん剤注入 intravitreal methotrexate,局所放射線治療 ocular radiotherapy)など特有の治療法があります
- 脳病変と合併する場合にはまずはPCNSLに準じた治療法をします
- Grimmらの眼内病変を合併した221例のPCNSLの報告では,眼内単独で再発が生じる場合は20%で,眼内病変への局所治療を加えた場合に局所制御率はよいが,全生存割合 OS は局所治療を加えない群との差がないとされています
硬膜のリンパ腫:MALT lymphoma of the dura モルト・リンパ腫
- 硬膜から発生するリンパ腫が知られています
- 成人女性に多い傾向があります,男性の5倍
- 浸潤性の髄膜腫やガンの硬膜転移と誤診されるような画像所見です
- 硬膜の肥厚 plaque のみが初見のこともあります
- 主として硬膜下に腫瘤形成します
- 周辺脳組織に浸潤して,脳浮腫所見を伴います
- MALTリンパ腫 (marginal zone lymphoma) がほとんどで,B細胞リンパ腫はまれです
- 脳のPCNSLよりは,比較的にゆっくり大きくなるリンパ腫です
- MIB-1 indexは5%以下が多いです,非定型髄膜腫 grade II より低いくらいです
- 腫瘍部分摘出/生検術と局所放射線治療だけで,5年無増悪生存割合が80%以上となる予後の良いリンパ腫です
- 放射線治療も低線量で治癒が期待できるという報告もあります
- 他の臓器での再発例はありますが,硬膜リンパ腫には無理な化学療法や全脳照射はしません
血管内リンパ腫 : IVL intravasclar large B-cell lymphoma
- リンパ腫細胞が血管の内部で増える血液腫瘍です
- IVLの患者さんの8割くらいに脳病変が生じます
- そのため,脳血管閉塞が生じて,脳梗塞で発症します
- 拡散強調画像 DWIで高信号となります
- 初発では脳梗塞と誤診されることがほとんどです
- もしくは浮腫性変化が強いもので,亜急性脳炎 subacute encephalopathyに類似します
- 一度収縮して治っても,また違った部位に再燃します
- 脳梗塞で入院して,また脳梗塞が再発したという経過をたどる患者さんが多いです
- 病理診断は,リンパ腫のいる血管を採取しないと確定に至りません
- ですから,生検術で証明できないことがあります
- 血管内に,large atypical B-cellsが増殖します
- 治療はPCNSLに準じるものです
- R-CHOP とMTX, cytarabine, prednisoloneの髄注,血管内ヘパリン投与の併用(血管閉塞予防)などの報告があります
皮膚病変で診断されていた患者さんの同時多発性脳病変
60代女性で,皮膚結節がB cell lymphoma (neoplastic angioendotheliosis)がありました。1年後に急性の認知機能障害と歩行障害がありMRIで発見されたものです。SPECT, PET検査では多発性虚血性病変です。生検手術でIVLの診断が得られました。
左は発症時,右はCHOP化学療法1コース後のT2強調画像です。化学療法で寛解しました。
リンパ腫様肉芽腫症 : LYG lymphomatoid granulomatosis
ALPD angiocentric lymphoproliferative disorder
- 滲む様にガドリニウム増強される病変です
- 周囲に脳浮腫を伴い,髄膜浸潤がみられ,mass effectを有する様な病変では内部に壊死像を伴います
- 単発のことが多いのですが,多発性脳病変となることもあります
- diffuse large B-cell lymphomaとされています
- 肺に最も多くて,次いで中枢神経,腎臓,皮膚,肝臓などに多発します
- 両側の肺に結節と浸潤像が見られます
- 血管中心性 angiocentric,血管破壊性 angiodestructive に異型細胞が浸潤します
- 免疫不全の患者さんに多いです
- 原因として,Epstein Bar virus感染が疑われています
- 予後が良いものと不良なものがあります
- 単発性のものでは自然寛解するものもあります
多発散在性病変例
50代男性,痙性四肢麻痺による歩行障害で発症しました。多数の散財性病変を呈するタイプです。
単発・再発例
既往に両肺野,皮膚病変があった50代女性が,右片麻痺と小脳失調で発症しました。確定診断のために生検手術をしました。
血管壁を破壊し,脳実質内に浸潤像が見られます。
左から順に,L26, UCHL-1, CD69-KP-1染色です。
脳幹部病変は局所照射で消失しましたが,2年後に右頭頂部に再発しました。
文献
- de la Fuente MI: Marginal zone dural lymphoma: the Memorial Sloan Kettering Cancer Center and University of Miami experiences. Leuk Lymphoma. 2017
- Grimm SA, et al.: Primary CNS lymphoma with intraocular ivolvement: International PCNSL Collaborative Group Report. Neurology 71, 2008
- Katzenstein AL, et al: Lymphomatoid granulomatosis: insights gained over 4 decades. Am J Surg Pathol. 2010
- Nizamutdinov D, et al.: Intravascular Lymphoma in the CNS: Options for Treatment. Curr Treat Options Neurol. 2017
- Puri DR: Low-dose and limited-volume radiotherapy alone for primary dural marginal zone lymphoma: treatment approach and review of published data. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2008