転移性脳腫瘍 brain metastasis

身体のどこかにできたガンが,脳に転移した状態をいいます

大切なこと

  • ガン患者さんの40%に脳転移が生じます
  • 日本では年間,数万人がガンの脳転移を生じています
  • ですから,脳腫瘍の中でも最も頻度の高い腫瘍だといえます
  • 原発巣は,肺ガンが最も多くて,次いで乳癌です
  • 脳外科で転移性脳腫瘍を治療することは少なくなりました
  • 理由は,定位放射線治療の発達です
  • 脳外科で転移性能腫瘍が疑われて開頭手術をしようと提案された場合には,少し慎重に考えなければなりません,なぜ頭を開ける必要があるのか??
  • 全部の脳に放射線を当てる全脳照射は用いられなくなってきました

おおまかなこと

  • 原発巣(最初に癌ができた場所)としては,肺癌が約50%くらいで,次いで乳癌,胃癌,頭頸部癌,結腸癌,子宮癌の順となります
  • Her2陽性乳癌では30%くらいで脳転移が生じるなど分子診断で脳転移のリスクも解るようになってきました
  • 転移は脳のどの場所へも起こります
  • 原発巣になにも症状がなくても,脳転移が最初に症状を出すことがあります
  • 特に肺癌では,最初に脳の症状が出て,脳転移が見つかってから,原発巣を探してみると肺にガンがあったということがあります
  • 精度の高いMRI検査をすると,単発(一つだけの転移)よりも多発性のもののほうが多いです
  • 転移の場所としては,大脳の皮質と白質の境界部にできることが多いです
  • のう胞(水たまりの袋みたいなのもの)を伴うものを嚢胞性腫瘍といいますが、これは腺癌の転移に多いものです
  • 転移性脳腫瘍のまわりの脳には脳浮腫(脳のはれ)を生じることが多いですし,これが症状を出していることがあります
  • 癌細胞は周囲の脳組織に浸潤していますから手術だけで完全にとりきれるチャンスは少ないです
  • 病理所見では,脳の小血管周囲あるいはくも膜下腔に沿ったがん細胞の浸潤をみることが多いです
  • 特殊な転移として,癌性髄膜炎(髄膜がん腫症 leptomeningeal carcinomatosis:脳脊髄の至る所にがん細胞が広がる)というものがあります
  • これは,がん細胞が脳脊髄のくも膜下腔に広がって増殖するもので,水頭症を併発します
  • 乳癌などでは,治ったと思って10年くらい経った後に脳転移が生じて再発することもありますが,これは治すことができる再発ですからあきらめない

症状・経過

  • 転移性能腫瘍のできた場所に応じて,さまざまな局所神経症状が出ます
  • 麻痺,ふらつき,失語症,複視などなんでも起こります
  • もしく脳浮腫による頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状がでます
  • 症状は数週間の期間に進行する場合が多いです
  • てんかん発作(けいれん発作)で発症する例もあります
  • 嘔吐などが強くなって放置すれば脳ヘルニアを起こして意識障害が生じます
  • 腫瘍の内部で出血を起こして急激に症状が進行することもあります
  • 頭蓋底部に病変が存在すれば,複数の脳神経を侵して多発性脳神経麻痺を起こしてくることもあります
  • 髄膜がん腫症では,頭痛や嘔吐などの髄膜刺激症状を認めます
  • 特に歩行時のふらつきや強い頭痛で発症する小脳転移は脳ヘルニアを生じやすいので,放射線治療をしないで積極的に開頭手術した方がいいかもしれません
脳転移がなくても脳の症状があるとき

がん患者さんで,ゆっくり進行する変わった脳症状が出て,MRIで脳転移がみられない場合には,以下のような病態の可能性があります。それぞれ,特徴的なMRI所見がありますから診断はつきます。

  • 進行性多巣性白質脳症 PML
  • 傍腫瘍性症候群 paraneoplastic syndrome(亜急性小脳変性症 subacute cerebellar degeneration 辺縁系脳炎 limbic encephalitis)
  • 可逆性後頭葉白質脳症 posterior reversible encephalopathy syndrome (PRES):抗ガン剤の副作用

検査(脳病変のみに関して)

  • MRIは非常に小さな転移巣も発見することができます
  • 治療方針を決めるために正確な数を把握しようとするときにはMRIは絶対必要です
  • 特に重要なのが孤発転移(一つだけ)か多発転移(たくさんできてる)の区別です
  • MRIで転移性脳腫瘍は,低信号から高信号を示すものまでいろいろです
  • ガドリニウム造影剤で増強されてくっきり写ります
  • 数をはっきり数えたい時には倍量のガドリニウム造影剤を使います
  • 腫瘍中心壊死のためリング状に増強されると膠芽腫との鑑別が難しいことがあります
  • 周辺脳浮腫(腫瘍の周囲の脳が腫れている)が特徴です
  • シンチやペットPETを使って診断すると脳転移が見つかることも多いです
  • 癌の患者さんが急速に神経症状や頭痛・嘔吐などを生じたときにはまず脳転移を疑います
  • 逆に転移性脳腫瘍が先に診断されて原発巣の検査をすることも多いです
  • 髄膜がん腫症では水頭症がみられ,脳脊髄髄液の細胞診が必要です
  • 腫瘍の内部で脳出血することはめずらしくありません
典型的な転移性脳腫瘍(単発)のMRI

腺癌の左前頭葉転移です。左のガドリニウム造影剤を使った画像では腫瘍が白く写っています。腫瘍の内部が一部壊死しているので黒っぽく見えます。右はフレア画像です。腫瘍の周囲の脳が腫れて脳浮腫(白く滲むようなところ)を生じています。

開頭手術で摘出した半年後の画像です。腫瘍は再発していなくて,脳の腫れも引いています。転移が発見された時には,見当識障害などの左前頭葉症状が強かったし,摘出がとても簡単な場所だったので手術しました。線状皮膚切開・小開頭ですから1時間くらいの簡単な手術です。でも,この転移は26mmくらいでしたから,定位放射線治療も可能なものでした。この患者さんは幸いなことに半年で再発していませんが,開頭手術による摘出だけだと同じ場所からまた再発することもあり,それから定位放射線治療を加えなくてはならないこともあります。個々の判断は難しいのですが,基本的には開頭手術より定位放射線治療のほうがいいと考えて下さい。

治療:放射線治療

  • 脳転移の多くは定位分割放射線治療放射線外科治療(ラジオサージェリー)で治療できます
  • 治療成績も良いので,手術よりも放射線治療が優先されるようになってきました
  • 定位放射線治療には,リニアックメス,ガンマナイフ,ノバリス,サイバーナイフ,トモテラピーなどの装置が利用されます
  • 定位放射線治療ができない大きなものだけを脳外科で手術します
  • 転移性脳腫瘍の大きさが 2.5-3cmくらいが定位放射線治療の限界です
  • 放射線外科治療の入院は1日とか3日とかの短期間で済みますが,手術となると最低でも2週間くらいでしょう
  • 転移性脳腫瘍に対する定位放射線治療の成績は年々向上しています
  • 一回照射による放射線外科の腫瘍局所制御率は80%を越えます
  • 3個以内の多発転移例であれば放射線外科 SRS だけで寛解を得られることは多いです
  • 全脳照射は脳の全部に放射線を当てることをいいます
  • 多発転移(5個以上)の場合は,時には全脳照射が必要かもしれません
  • 4個以上の転移では全脳照射が標準治療でしたが,2017年はそうではありません
  • 全脳照射は広範囲分割照射(リニアックなど)を利用しますから,ガンマナイフやノバリスではできません
  • 全脳照射は生命予後の短い患者さんの入院を長期化させます
  • さらに正常脳に対する障害(認知症の発生)があるので,できれば全脳照射は避けます
  • でも,肺の小細胞癌 SCLCなどでは全脳照射しかしません(定位照射ではすぐに新しい脳転移がでてしまうため)

治療:脳神経外科での開頭手術

  • 2.5cm以上の大きな単発転移で,脳浮腫の軽減と脳圧を下げることを目的とします
  • 患者さんの状態が良好,かつ数カ月以上の生命予後が期待できれば,開頭手術による摘出術の適応となります
  • 多発であっても,手術と放射線治療の組み合わせで有意な生存期間を明らかに延長できると確信できれば摘出することもあります
  • 原発巣が不明で病理診断を得たい時,低侵襲であれば小さな病巣を摘出することがあります
  • しかし摘出術のみでの局所コントロールは不可能ですから,手術適応の決定はきわめて慎重でなければなりません

治療:化学療法(制がん剤)

  • 化学療法は原発巣の組織で決まりますから,脳外科ではしません
  • でも残念ながら,脳転移には制がん剤(化学療法)が効かないことが多いです
  • 化学療法や内分泌療法に感受性の癌に対しては,低線量放射線治療と組み合わせる治療がなされます
  • 腫瘍内科,腫瘍外科,放射線治療科,脳外科などのチーム医療で診ていただきましょう
  • できれば地域のがんセンターや癌をたくさん扱う病院へ行くべきです
  • 最低限でも放射線治療の設備が整っている病院で治療を受けましょう
  • 今は,癌をもった患者さんに脳転移が起こっても,治療をあきらめる時代ではありません
  • リンパ腫,胚細胞腫瘍,腎癌,乳癌の脳転移では化学療法が時に有効です
  • 化学療法は日進月歩ですから,それぞれの癌腫に詳しい専門医にも相談しましょう

脳の腫れを取る治療と緩和ケア

  • 原発巣や多臓器の状態が悪い患者さんの多発脳転移では,対症的治療として副腎皮質ステロイドやグリセロールを投与して脳浮腫を治療します
  • 有効性があると判断される治療法がない時には緩和ケア(緩和療法)のみをします

 

わかりにくい用語:定位放射線治療のSRSとSRTの違い
  • 放射線外科治療 SRS stereotactic radiosurgery とは,1回だけの照射で治療することで,ガンマナイフ治療が代表的なものですが他にもいろいろあります
  • 定位分割放射線治療 SRT stereotactic radiation therapyとは,2から10回くらいに分割して定位照射を行なうことで,fSRT fractionated stereotactic radiation therapy  定位分割照射ともいいます,サイバーナイフ,ノバリスなどで行います

 

局所照射(定位放射線治療)か全脳照射といわれたら

  • 多発転移であっても全脳照射を避けるのが標準的な考え方になってきたと言えます
  • しかし,脳転移が4個以上,あるいはそれ以上ある場合に,全脳照射という治療法を提案されることがあります
  • 肺の小細胞癌の転移など,MRIでは見えないような無数の脳転移が予測されるものには全脳照射を用います
  • 全脳照射は,脳の全体に大量の放射線をかける治療です
  • 通常は,40グレイを20回に分けてかけるか,30グレイを10回に分けて放射線治療をします
  • ですから,放射線障害が強く出ますが,個人差がとても大きいです
  • 数ヶ月後に認知障害になるかもしれないと考えておいた方がいいでしょう
  • 簡単にいえば,知能が落ちて,ひどい場合には自分のことがよくわからなくなることです
  • でも,この治療をしないと生き延びられない状態です
  • 全脳照射をしても認知機能が落ちるという科学的な証拠がないという放射線治療医の先生がいますがそれは誤りです

予後

  • 数個以内の脳転移ならコントロールできる可能性が高いです
  • 残念ながら治癒を期待することは難しいかもしれません
  • 脳転移が生じてしまった患者さんの生命予後(余命)は10-12ヶ月とされています
  • ですから脳転移の治療は基本的に寛解導入あるいは緩和療法となります
  • でも,乳がんや肺がんの多発脳転移でも,治ってしまって10年以上元気な人もいます
  • 脳転移を生じたがん患者さんの平均余命は半年くらいとされてきましたが,逆に今はたくさんの患者さんが脳転移から助かることがあるのであきらめてはいけません
  • 全体での生存期間中央値は6か月に満たないので,とても予後が悪いと明らかに予想される患者さんに対する脳神経外科での過度の積極的治療は避けられるべきです

定位放射線治療が有効だった実例(ここをクリックすると見えます)

定位放射線治療が有効でその後に放射線壊死という副作用が出た例を見れます。

乳癌の多発脳転移の例

2年前に乳癌を手術して化学療法を受けていた女性が頭痛とめまいを訴えました。MRIでは左の小脳に3cm以上の大きな脳転移(右側の写真)と,左の頭頂部に2cmくらいの脳転移がみつかりました。小脳転移は脳ヘルニアを生じて重篤な状態に陥ることが多いので開頭手術で摘出しました。残った頭頂部病巣(左側の写真)には放射線外科治療をする方法と,全脳照射をする選択肢がありますが,この患者さんの場合は全脳照射 30グレイ/10分割を行いました。
全脳照射3ヶ月後のMRIです。左の頭頂葉の転移巣は消失していますし,左の小脳転移は手術摘出できていて再発もありません。このように乳癌は,多発転移であっても比較的に制御しやすいものです。しかし,一度消えた病巣が再発したり,また新たなところに脳転移が生じるという可能性もあります。

髄膜がん腫症 leptomeningeal carcinomatosis, neoplastic meningitis

  • がん細胞が髄液の中に広がることです
  • 癌性髄膜炎ともいわれます
  • 脳と脊髄の表面にがん細胞が広範に広がって増殖します
  • 髄液吸収障害になって水頭症(頭の中に水がたまって頭痛や嘔吐をだす)になることが多いです
  • MRIをすると脳や脊髄の表面が薄くガドリニウム増強されます
  • 髄液細胞診(脳脊髄液を採取して検査する)ではがん細胞が髄液の中に浮いているのが証明されます
  • 全身状態が不良であったり,神経障害が重篤であったり,脳や脊髄に腫瘤病変が多発する場合には治療をしないで,緩和治療(best suportive care)だけしたほうがいいです
  • この場合の生命予後は2-3ヶ月のことが多いでしょう
  • 逆に,神経症状が軽く,他の臓器に重篤な転移がなく,全身的な治療が継続できている時には,全身的な化学療法を続けながら,全脳照射をしたり,髄液内化学療法(メソトレキセートの髄注)などを行うことがあります
  • 症状を出している脳脊髄の転移巣に局所照射を加えることもあります
  • 水頭症に対するシャント手術は滅多にしません,がん細胞が腹腔に転移してしまってより苦しい状態になることがあるからです
  • 長期留置型の外ドレナージという方法で髄液を排出することがあります
  • でも水頭症は頭痛や嘔吐で苦しいので,患者さんが望めば,脳室腹腔短絡術(シャント)を緩和治療として選択することがあります

肺小細胞癌の転移  multiple metastases of lung small cell cancer

左のMRIは,肺小細胞癌の患者さんに脳転移が無いか確かめるために撮影されたものです。転移はありませんでした。右側のMRIは,そのわずか3週間後に撮影したものです。数十個の脳転移がありました。肺小細胞癌では短期間の間に無数の脳転移を生じることがあります。かつては脳転移を予防するための予防的全脳照射という治療が行われていたくらいです。

いろいろな知識

放射線外科 SRSの後でまた再燃したり新たな脳転移ができたら

  • 新病変が前と違う場所ならまたSRSで治療できます
  • 同じ場所に再増大しても,更に加えてSRSで再照射できることもあります
  • 全脳照射を加えていなければ,多数の新たな転移が生じた場合には全脳照射をその時点で選択することができます
  • しかし,同じ場所に放射線治療を加えると放射線による脳壊死の可能性がかなり高くなります

Best Supportive Care BSC 緩和ケア

  • 癌の脳転移を治療して,延命をはかったり症状の改善をもとめる積極的な治療とは異なる考え方です。
  • 手術,放射線治療,化学療法の有効性が期待できなくなった時に,痛みや吐き気を軽減するとか,精神的な苦悩を緩和するとか,看取りと介護支援に重点を置くことを言います。
  • 患者さんの希望による場合,医師と患者さんの話し合いで選択する場合,医師から患者さんと家族にそれを勧める場合があります。
文献情報

10個の転移があってもSRS 放射線外科治療でよい

Jing Li , et al.: The Diminishing Role of Whole-Brain Radiation Therapy in the Treatment of Brain Metastases. JAMA Oncol, 2017
多発転移で全脳照射が応用されることは少なくなってきました。理由の一つに分子標的治療を含めた化学療法の発達があります。かつて化学療法剤は脳に届かないと考えられていましたが,MRIで見えないような微小転移は化学療法で抑制できるようになってきました。全脳照射の治療期間中に化学療法を中断すると,MRIでみえていない微小脳転移が大きくなったり新たな脳転移が生じます。ですから,脳転移の治療期間中にも化学療法を継続するために,SRSでは治療期間を短くする利点があります。10個までの脳転移をSRSで治療するという段階が終わり,さらに15個までをSRSで治療するという第3相試験が行われているそうです。

3個までの転移であれば SRS 放射線外科治療が良い

Brown PD, et al.: Effect of Radiosurgery Alone vs Radiosurgery With Whole Brain Radiation Therapy on Cognitive Function in Patients With 1 to 3 Brain Metastases: A Randomized Clinical Trial. JAMA 316:401-9, 2016
全脳照射や複数回局所分割照射では,脳転移は抑えられても認知機能低下が生じてしまいます。213名の患者さんが全脳照射とSRS(1回照射,放射線外科治療)で無作為に比較されました。照射後3ヶ月で,全脳照射の患者さんの91.7%で認知機能の低下が生じましたが,SRSでは63.5%でした。QOLもSRSの患者さんの方が優ります。全生存期間に有意な差がないので,脳転移が1個から3個までであればSRSで治療をするべきだと結論しています。

摘出術後の予防照射にも全脳照射は使わない

Post-operative stereotactic radiosurgery a new standard of care for patients with resected brain metastases. ASTRO 2016
手術摘出してもその部位からまた再発してしまうので,摘出腔 surgical cavity への放射線治療が必要です。かつては全脳照射が標準治療でしたが,これも定位照射へと変わりました。メイヨクリニックを中心とした無作為試験で,放射線外科治療のほうが治療後のQOLも認知機能も保たれることを明らかにしました。無増悪生存期間も全脳に劣りません。

海馬を避けて全脳照射 IMRT すると記憶力が守れる

Gondi V, et al.: Preservation of memory with conformal avoidance of the hippocampal neural stem-cell compartment during whole-brain radiotherapy for brain metastases (RTOG 0933): a phase II multi-institutional trial. J Clin Oncol 32: 3810-3816, 2015
113人の転移性脳腫瘍の患者さんが30グレイ/10分割の海馬を避けた全脳照射で治療され,治療4ヶ月後に42人で分析が可能でした。通常の全脳照射では,Hopkins Verbal Learning Test-DRで30%ほどの低下が生じるのですが,海馬を照射野から除いたIMRT全脳照射では7%の低下ですんだそうです。またQOLの低下は生じませんでした。海馬の神経細胞は放射線に対して脆弱ですからこの部分を避ける全脳照射で少しでも認知機能を守ろうという新たな方向性です。

開頭手術で摘出すると髄液播種を誘発するか

Ahn JH et al.: Risk for leptomeningeal seeding after resection for brain metastases: implication of tumor location with mode of resection. J Neurosurg 116: 984-993, 2012
韓国からの論文です。242人の転移性脳腫瘍の患者さんが手術を受けています。39人(16%)の患者さんが術後6ヶ月ほど(1-42ヶ月)で髄液播種(脳脊髄液の中に悪性腫瘍細胞がバラまかれている状態)を生じました。
腫瘍を一塊にして摘出した時より,腫瘍を細かく砕いて摘出した場合に髄液播種が多かったとのことです(4.08 hazard rasio, p<0.01)。CUSAという超音波吸引器(腫瘍破砕器)で転移性脳腫瘍を摘出すると髄液播種の確率が高くなります(2.64 hazard rasio, p<0.01)。髄液腔に接した場所にある転移性脳腫瘍を砕いて摘出すると髄液播種の確率が高くなりました。
「解説」結果は当たり前のことなのですが, 超音波吸引器で悪性腫瘍をバラバラに破砕しながら摘出すれば悪性腫瘍の細胞はそこら中にまき散らされて髄液播種するということです。それをしっかりとしたデータで発表したことに価値がある論文です。

放射線外科あるいは開頭摘出術の後で全脳照射を加える意義があるか

Kocher M, et al.: Adjuvant whole-brain radiotherapy versus observation after radiosurgery or surgical resection of one to three cerebral metastases: results of the EORTC 22952-26001 study. J Clin Oncol 29: 134-141, 2011
Soffieti R, et al.: A Europian organization for research and treatment of cancer phase Ⅲ trial of adjuvant whole-brain radiotherapy versus observation in patients with one to three brain metastases from solid tumors after surgical resection or radiotherapy: Quality-of-lice results. J Clin Oncol 31: 65-72, 2011
ヨーロッパ行われた大規模研究です。1個か2個か3個の転移性脳腫瘍が生じた全身状態の良い359人の患者さん(stable systemic disease or asymptomatic primary tumors and PS of 0 to 2)が治療を受けました。PS 2より状態が悪くなるまでの期間は,経過観察群で10ヶ月,全脳照射群で9.5ヶ月でした。全生存期間は,それぞれ10.7ヶ月と10.9ヶ月でした。しかし,転移巣の再燃あるいは新たな転移巣の発生は,全脳照射をしたほうが少なくなり,摘出術と放射線外科治療の場合に再治療の必要が増えます。また脳病変での死亡率は全脳照射をした方が低下します。全脳照射を行なうと身体機能は8週間で,認知機能は12ヶ月で有意に低下しました。
「解説」全脳照射を加えても生存期間は延びませんし,全脳照射をしない方が機能的自立が保てるとの結論です。少数の脳転移の場合で,外科摘出術か放射線外科治療でコントロールできると判断される場合には,全脳照射が標準治療ではなくなったと言える結論です。QOLを考えるなら全脳照射を行なわずに頻回のMRI検査で経過観察をするのも間違いではないとも述べられています。

放射線外科 SRS 後の全脳照射 WBRT は認知機能低下を招くか

Chang EL, et al.: Neurocognition in patients with brain metastases treated with radiosurgery or radiosurgery plus whole-brain irradiation: a randomised controlled trial. Lancet Oncol.10:1037-1044, 2009
3個以下の転移性脳腫瘍の患者さんでの臨床研究です。SRS 放射線外科に全脳照射を加えると,4ヶ月後に学習能力と記憶力が低下するとの結論です。1年後に脳病変が無い割合は,SRS単独では27%に対して,SRSと全脳照射では73% でした。結論として,SRS単独で治療して,MRIで慎重に経過観察をするべきできあるとしています。ここでは,脳病変の再発確率は高いけれども認知機能を守るために全脳照射は初期治療では避けるべきであるとの考えが述べられています。

全脳照射に放射線外科治療を加えることに意義があるか

Andrews DW, et al.: Whole brain radiation therapy with or without stereotactic radiosurgery boost for patients with one to three brain metastases: phase III results of the RTOG 9508 randomised trial. Lancet 363: 1665-1672, 2004
ヨーロッパの55施設で,1個か2個か3個の転移性脳腫瘍が生じた患者さんが全脳照射 WBRT で治療されました。164人は全脳照射のみ,167人はそれに定位放射線治療(1回照射の放射線外科)が加えられました。結果,1個だけ転移のあった患者さんでは全脳照射に放射線外科を加えた時に生存期間の延長がありました (6.5 vs 4.9 months, p=0.0393)。治療後6ヶ月の時点では,放射線外科を加えた患者さんの方がKPS(一般状態)が良かったとのことです。結論として,外科的に切除不能な1個だけの脳転移がある場合には全脳照射に放射線外科を加えるべきだとされました。2個か3個の場合は考えてみる。
「解説」1996年から2001年にかけてなされた大規模研究です。結論は納得なのですが,基本となるのが全例に全脳照射という選択肢から入っていることです。2013年時点ではこの前提となる全脳照射そのものが全例には受け入れられないかもしれません。

転移性脳腫瘍の手術と病理診断の意義

転移性脳腫瘍の摘出標本です。粘液産生もあり中分化型管状腺癌 tublar adenocarcinomaと診断されます。おそらく大腸癌からの転移ということは予想できますが,正確な臓器が解るわけではありません。かつては,病理診断をするために転移性脳腫瘍を生検することなどもありましたが,ペット PETなどの診断方法が発達した近年では,診断のための転移性脳腫瘍の手術がなされることはほとんどありません。



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