血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)シグナル阻害薬と大動脈解離が相関していることが示唆されました

国内の副作用データベースであるJADERを用いた解析の結果を論文として公表しました。この論文は2017年に公表したもので、ごく最近出版という訳ではありません。出版された際に著者には無料で見ることのできるリンクが提供されています。そのリンクは個人で楽しむ目的で使用するものと思っていましたが、Circulationのインストラクションを読んでいましたところ、自身のホームページにリンクを張ることが許可されている事が判明しました。ですので、個人ブログにそのリンクを張ります。
…Circulation誌のインストラクション Q&Aパート…
QCan I post my article on the Internet?
A—Corresponding authors will receive “toll-free” links to their published article. This URL can be placed on an author’s personal or institutional web site. Those who click on the link will be able to access the article as it published online in the AHA journal (with or without a subscription). Should coauthors or colleagues be interested in viewing the article for their own use, authors may provide them with the URL; a copy of the article may not be forwarded electronically.

<http://circ.ahajournals.org/content/135/8/815>
Yasuo Oshima, Tetsuya Tanimoto, Koichiro Yuji, Arinobu TojoAssociation Between Aortic Dissection and Systemic Exposure of Vascular Endothelial Growth Factor Pathway Inhibitors in the Japanese Adverse Drug Event Report Database 

https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.116.025144
Circulation. 2017;135:815-817Originally published February 21, 2017

白い議事録

厚生労働省審議会の白抜き

審議会の議事録は、だれがどんな発言をしたのか一言もらさず書き起こされています。厚生労働省のこの手の審議会でも機密情報等が黒塗りで出ることはあっても良いと思うのですが、リンク先の議事録は「失礼な言い方」があった部分が白抜きになっています。どんな失礼な言い方をされたのか,見てみたいです。実は石川委員(東京医歯大)の発言にはこの議事録上他の所にも白抜きがみられます。ずけずけと思ったことを口にして、考えを包み隠さず表現されているのではないかと思います。この引用ヶ所については私も、これまでの使用成績調査の例数設計は、とってつけたようなロジックが書かれていて、何をしたいのかわからないものがまかり通ってきたと思っています。feasibilityの関係から、結果的に精度の高い評価は難しくなるケースも少なくないのですが、それはそうとして、考え方、ロジックが出鱈目な書き方になっているものが少なくありません。そうした文書を作成する担当者らは、「内容は理解できなくても、規制当局が求めるような書類さえできていればよい」というような人間になっています。少なくともそちらは手当てをしておく必要があると考えています。よほどいかがわしい、良俗に反するような表現でない限り、石川委員の口から出たお言葉を見てみたかったです。そこには、あるべき姿と異なる点を指摘するような、本質的なことが隠されているような気がします。

MID-NETによる解析の様子

医薬品の業界で最近話題になることがあるキーワードに「MID-NET」という言葉があります。これは、簡単に説明するのは難しいのですが、医療情報データベースの様な物で、医薬品の安全性の評価に使用することが主眼の物で、データベース的に使うことができる仕組みというふうに理解しています。これを構築してきた方々が様々な資料を作成して公開したり、講演会を開いたりしてきたので、ずいぶん情報を得ることができましたが、これまで稼働しているイメージを見る機会がありませんでした。ご利用料金が4200万円とお高いので、おいそれと触る訳にはいかないですし、使い始めるまでどんなものかわからない。使ってみて「これは使い物にならない(自分の研究目的に沿わない)」と解った場合のダメージが非常に大きい、ということで、なかなか手が出せない代物です。

本日参加したデータサイエンティストの研究会で、稼働のイメージを演者の方が示され、その雰囲気だけの動画が公開されています。一応お断りしておきますと、この研究会では録音・録画を禁止していません。動画では音声が聞き取りにくく、何をしゃべっているか解りにくいかもしれませんが、よく聞くと日本語で説明しています。とりあえず、症例数を見て辺りを付ける程度の解析をデモンストレーションしています。じっさいには、この結果を元に対象症例のデータを施設から得るためのクエリを作成し、各施設に送って、施設側でデータ提供の可否を判断して、可であればデータを解析センターに送り返す、という長い手続きが待っています。その後、その集積されたデータから本解析に使用するデータを抽出して、解析用のデータセットを作成するという、ことになります。その入り口の部分の様子がデモンストレーションされています。

MID-NET稼働の様子

夾雑物の基準が新薬とジェネリック医薬品で異なる

夾雑物の基準が新薬とジェネリック医薬品で異なる

医薬品の品質の基準は新薬とジェネリック医薬品で同一でなかったのか

「日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会」(代表理事 武藤 正樹)が2018.11.7に発表した声明文によると、

http://u0u1.net/Njnu

化学合成される原薬中における有機不純物の管理に関しては、ICHQ3A ガイドラインが平成9 年4 月以後に製造承認申請された新有効成分含有医薬品に適用され、その後、ジェネリック医薬品への適用が推奨されてきた

とあります。新薬には「適用」で、ジェネリック医薬品は「適用が推奨」です。さらに、DNA 反応性(変異原性)不純物についてのガイドラインについて、新薬では準拠することが求められるのに対し、ジェネリック医薬品については

新薬にとどまらず、既存薬やジェネリック医薬品などにもより広く適用する方策を探ること

としています。「適用する方策を探る事、」つまり、現在は適用外だという事です。私は不勉強ながら、こうした基準が異なるとは認識していませんでした。

これは、2018年にとある降圧薬のジェネリック医薬品で発がん性物質「N-ニトロソジメチルアミン(NDMA)」の混入が発覚し、流通していた医薬品の回収が実施されたことを受けての声明文ですが、この声明文を読むと、新薬では満たすべきとされる基準を、ジェネリック医薬品は満たすことが求められていない事が解ります。新薬のほうは、平成9年4月以降に製造承認申請された新有効成分含有医薬品、で基準を満たすことが求められているという事です。概ねここ20年近い期間に市場に出てきた医薬品という事になりますから、「ごく最近の医薬品」ばかりではなさそうです。

ジェネリック医薬品を推奨する立場の安全性についての説明

ジェネリック医薬品について厚生労働省の作成した資料では、

先発医薬品と同一の有効成分を同一量含み、同一経路から投与する製剤で、効能・効果、用法・用量が原則的に同一であり、先発医薬品と同等の臨床効果・作用が得られる医薬品

の様に説明しています。安全性が同等だとは私には読めません。なぜならば、安全性の問題は夾雑物によって引き起こされる場合もあるからです。ですので有効成分が同一であることが、安全性の同一性を担保する根拠に必ずしもならなりません。つまり、ここで述べている「臨床効果・作用」は有効性に焦点を当てて述べていると理解できます。

一方、日本ジェネリック製薬協会のホームページではジェネリック医薬品の事を

新薬と同じ有効成分を同じ量含有し、効き目も安全性も同等なおくすりです。

の様に「安全性」も同等だと主張しています。厚生労働省の主張と温度差を感じます。「安全性」を同等だと主張する、根拠と言える部分は次の様に記述されています。

ジェネリック医薬品は、主に「規格及び試験方法」、「安定性試験」、「生物学的同等性試験」の項目で承認審査され、これらの内容が先発医薬品と同等であることを示すことによって、有効性・安全性に問題がないことが確認され承認されます。

これらの審査対象の項目は安全性に問題がないことを確認できるような試験でしょうか?夾雑物を含め「製剤として」ヒトでの安全性を確認できる試験とは考え難いです。

https://www.jga.gr.jp/index.html


2018年11月12日追記:発がん性物質に関する管理指標の設定についての通知が発出されました。

普門館

聖地、普門館を訪れました

普門館は長い間全日本吹奏楽コンクールの全国大会の会場になっていました。30-40年ほど前、中学生高校生だった私は、ここに来る事を目指して、日々練習を重ねていましたが、当時その夢が叶うことはありませんでした。その普門館が取り壊されることとなり、取り壊しに先立ちまして、この11月第一週に一般公開されていますので、やってきました。ここを訪れるのは、今回が初めてです。嬉しいことに楽器を持って行けば音を出してよいという事でしたので、少し吹いてきました。さらに、お土産に外壁のタイルを1枚いただきました。
反響板に思い思いの事を書くことができるようになっていました。現役時代ここにたどり着くことができなかったので、その思いを書くのも良いのかと思いましたが、書くところを見ている人がたくさんいたので、良い文章が思いつきませんでした。結局何も書かずに帰ってきました。
舞台裏にあるとされていたご本尊(観音様)は現在移動されていて、その写真が貼ってありました。

MRIC Vol.223 現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム

現場からの医療改革推進協議会第十三回シンポジウム

ご案内をいただきましたので、ここで紹介させていただきます。

日時:11月24日(土)、25日(日)
会場:一般社団法人日本建築学会 建築会館ホール

*このシンポジウムの聴講をご希望の場合は事前申し込みが必要です。
*参加登録はこちらからお願いします(Googleフォーム)
https://goo.gl/forms/fdSOC86QhqgVBv0p1

抄録から1題だけ紹介します。小野俊介先生らしい魅力的な文章です。

「2018」

近未来のディストピアを描いたジョージ・オーウェル『1984』に、ニュースピーク(newspeak)という言語が登場する。全体主義国家の支配者(党)が国民の語彙・思考を制限し、党のイデオロギーに反する思想を、つまりややこしいことを「考えられぬようにする」ための言語。だから語彙(言葉の意味)が毎年減っていく。ん? 何のことはない、今の医薬品業界で使われている言語がそれである
「バカなことを。グローバル開発、遺伝子・再生医療、ヘルステクノロジーアセスメント……語彙は爆発的に増えてるぞ」と業界人は反論するのだろう。そうですね、普段からテレカンしたりブレストしたりRWDのエビデンスをアジェンダにしてCMOへのアウトソーシングを考えたりしている皆さんだもの。ろくに意味のない略語の多用も、ニュースピークの特徴。
先日ある業界人が「AIに副作用を検出させようとすると、AIってバカだからホントに変な『副作用』を見つけちゃうのよね、アハハ」と大笑いしていた。かわいそうに。もちろんこの業界人が、である。「副作用」のまともな意味論的定義の試みに人類が一度も成功したことがないことを、理解できないらしい。定義に「因果関係」なる語を当然のように使っている時点で、人類はまだ北京原人レベルなのに。
グローバル化と称する植民地化がニュースピークで語られるのも、必然である。従来から業界人は、「薬が効く」という表現を(アリストテレス的本質のごとく)平然と使ってきた。薬って、「あなた」や「私」が存在しないことには効くも効かぬもないはずなのだが。ニュースピークで書かれた最近のガイドラインには、「国際共同試験では薬の評価の邪魔をしないような被験者を選ぶべき」という、正気の沙汰とは思えぬ趣旨の記述がある。
少し前のノーベル賞月間。テレビを見ていたら「速報! ノーベル物理学賞、日本人は受賞せず!」というテロップが。受賞者の業績をノーベル財団の人が解説してるのに、一切無視。興奮したアナウンサーが、「日本人ではありません!日本人ではありませんでしたぁ!」とわめき続ける。人類の知なんてものにはまったく興味がないらしい。
『1984』に一番近い島、ニポン。

 

 

医薬品副作用報告のアンダーレポーティング

Under-reporting of adverse drug reactions

アンダーレポーティングとは

市販後の副作用報告データベースを解析して、副作用を研究するにあたって、意識しておくべき問題の一つに、アンダーレポーティングがあります。医薬品を製造販売する企業は、その医薬品の副作用情報を知った際には、一定の基準に該当する場合には、設定された期限内に規制当局へ報告することが義務付けられています。(一定の基準とは、自社の医薬品と有害事象の間に因果関係がある、有害事象が重篤である、の2点です。このほかに、「噂(うわさ)」ではなく、副作用を起こしたとされる患者が実在すること、医療目的で使用された医薬品であること、国内で使用された医薬品であることなど周辺の手続き的なコンディションが若干あります。)これに対して、医療現場の主プレーヤーである医師には、「保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認めるとき(薬機法68条の10-2)」に限って当該副作用を報告するように義務付けられています。もちろん、治験や臨床研究で一定基準のものを、どこかへ報告するように定めた契約が存在する場合には、その契約に基づく義務が発生します。

企業で副作用の仕事をしていると、規制当局であるPMDAの査察の際に厳しくチェックされるため、知った副作用情報の報告漏れが無いようにと意識を働かせる動機があります。一方、医師は副作用報告について、発現したものを報告漏れだというような指摘を受ける機会はほとんどなく、実際に発現した副作用を、どこかへ報告するという、動機が働きません。どこへも報告されない副作用が、だれに知られることもなく埋もれてしまう、というようなことも十分想定されます。その、発現しているにもかかわらず、規制当局に報告されない副作用が一定程度存在することをアンダーレポーティングと言っています。

アンダーレポーティングは何が問題なのか

アンダーレポーティングがある事で、規制当局や製造販売元企業がリスクに気づくのに遅れる可能性があります。また、様々な集計の際にしばしば2つ以上の何かを比較します。例えばA薬とB薬を比較する時に、この2つの薬剤で同じ頻度でアンダーレポーティングが起きているという前提がないと厳密になりません。この前提が正しいかどうかを明らかにするのは難しいものです。

アンダーレポーティングは本当に存在するのか

感覚としては、起きた副作用がすべて規制当局に報告されているとことはないと思いますが、実際にそういう事が起きているというのが科学的に記述されているでしょうか。この点について、臨床現場の先生が有害事象を選んで報告していることを明らかにした英国及びアイルランドからの研究報告があります1,2

また、スロベニアで一次市中病院から四次紹介先病院までの入院カルテをレビューした報告によると、医薬品の副作用による入院を医師が認識していても、コーディングしてデータを登録して報告することはまれでした3

アンダーレポーティングの要因

副作用が起きたとして、全てが規制当局に集約される様な仕組みではないので、仕方ないというか。全てが報告されることを基準にして、それより低いから「アンダー」という発想が現実からかけ離れたことを想定しているというか。まぁ、医療関係者も忙しいし、報告自体よりその仕組みを理解するのが面倒だったりというのもあり。全体に違和感のある部分ではあるのですが要因を分析して見ないことには、次に繋がらないのでこの辺りも少し調べました。

ベネズエラでの研究グループは、医師が自発報告のシステムについての知識が乏しい事が示され、これがアンダーレポーティングの原因であるという仮説を主張しました4

スペインからの報告5では、

  1. ADR(S)であると診断することの困難さ
  2. 医師が多忙である事
  3. 薬物モニタリングシステムをどう使って報告するのか知られていない事
  4. 利益相反

がアンダーレポーティングの要因として提唱されました。スペインからのもう一つの報告6では

  1. 薬剤師の関心の低さ
  2. 薬剤師が多忙である事
  3. ADR(S)であると診断することの困難さ

がアンダーレポーティングの要因として提唱されました。

ちょっと寄り道

スペインの報告2の(1)を「関心の低さ」と訳しましたが、原文ではforgetfulnessでした。スペインでは薬剤師が(3)の判断をしているのかと少々驚きました。日本で調剤薬局の薬剤師から受ける報告では、「薬を使った」→「何か症状を訴えている」で、ほぼ何も考えず「副作用である」かのごとき報告がなされます。「副作用名」もほぼ「患者が訴える症状」あるいは、「診断根拠が希薄な病名」です。調剤薬局の薬剤師からの情報は処方箋に書かれた医薬品情報と患者さんとの会話でしか病状を把握できないことがほとんどで、基礎疾患や臨床検査値や治療の経過等の正確な情報が得られることはほとんどありません。その上、多くの場合処方した医師に対して、薬局薬剤師や企業が因果関係を問う事も難しいことが多く、薬局薬剤師の置かれた立場からすると、得られる情報が限定的なのもやむを得ないことです。結果として薬局経由の情報は症例評価には限界があります。

更なる取り組みに向けて

ドイツからの報告7で、メールにより1315名の医師にアンケートした結果によると、規制当局のシステムを使って報告するより、製薬企業を通して報告する方を好む医師が多かったということです。この報告によると、アンダーレポーティングを抑制するには、医師による自発報告を支援する事が提案されました。経済的インセンティブや教育活動によって、臨床家が副作用を報告する活動が改善することを報告した論文は複数あります8–12。副作用を疑ったら、規制当局に報告するという活動があることを知る患者は少なく、患者自身による副作用報告を提案する論文もあります13–15

ちょっと待った

インセンティブを厚くすると、その副作用も心配です。容易に想像できるのはそのインセンティブ(お金)目当てで、あまり大したことのない副作用を多数報告する臨床家や、最悪存在しない副作用を報告するものも現れるかもしれません。私としては報告を少々増やすことと引き換えに、これらのノイズを多く混入させることが解析上の困難を引き起こすことを懸念します。

患者自身の副作用報告については、医学的な判断の入った診断と言うよりは主観的な症状が中心になります。患者は副作用を経験したと思ったら、規制当局に報告するより、疑わしい医薬品を処方した医師に相談して、医学的判断を仰ぐので良いのではないでしょうか。忙しそうにしている医師にわざわざ報告するほどでもない、という副作用であれば、規制当局的にも必ずしも重要視しないような病態ではないかと思います。

現在の自発報告の状況は完璧とは程遠いものです。でも、これまでいくつかの薬害を乗り越えて、副作用報告の制度が洗練されてきた医療用医薬品に関しては、深刻なほど、新規の副作用の検出力が低いとも思えません。

実際にあった悪質なケース

医薬品関連の業者Aが、「副作用の収集業務を始めました。サンプルとしてこういう情報を入手しています」として、数件の副作用情報を製薬企業Bに提供しました。薬事法(現薬機法)に基づきますと、製造販売元企業Bが副作用情報を入手した際には規制当局に報告する義務が発生します。ですのでその情報も当局へ報告しました。企業Bも海外本社のグローバルカンパニーで、一定の基準に合致する副作用は、米国FDAや欧州EMAをはじめ各国の規制に従ってそれぞれの規制当局へ報告されました。

製薬企業は、入手した情報について、具体的で詳細な情報を確認に行くように、と規制当局より常々指導されています。当初業者Aより入手した情報に基づき、情報源とされる調剤薬局や卸業者さんへ企業Bの営業担当者がそれぞれ手分けして確認に行きました。すると、行った先では「そのような副作用情報を報告していない」「業者Aが何かないかとしつこく聞くので適当に作り話を言った」というようなケースばかりで、副作用症例が実在しないことが明らかになったのです。ねつ造情報でも、それらしいものを企業に送り付ければ、ビジネスになるというような安易な理解で参入しようとしていたとの結論に至りました。副作用報告の規制の細やかさを理解していれば、虚偽の情報を企業が裏を取らない訳にはいかない事は明白なのですが、その規制すら理解していないようです。

ねつ造情報に基づいて、各地の営業担当者が薬局や卸さんを訪れ、さらに、「そんな情報はない」と言うような話のかみ合わない不快な時間を過ごしました。訪問された方も、業者Aにしつこく副作用の情報を求められ、その後製造販売元のAから再度詳細情報を求められ、と無意味な問い合わせの対応に時間を取られました。企業Bでは日本をはじめ各国の規制当局には、副作用情報を報告した後、さらに、取り下げの手続きを行ったりと大変な無駄な業務を余儀なくされました。その時には業者Aが解りやすくねつ造していましたので、まもなくねつ造が確認できました。でも、情報源である医療関係者が虚偽の報告を(少額の)お金のために作り始めると、なかなか裏を取ることは難しそうです。

References

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世界初の報告

「初」の報告に価値がある?

日本の学会雑誌は「初」報告を主張させたい?

数年前日本血液学会の英文雑誌に原稿を投稿した際に、「世界初の所見でないので掲載に値しない」というようなコメントをするレビューワーがいました。同じ学会でレビューをしている先生とお話しする機会があって、この話題を出したところ、同誌では「世界初」を主張しないと掲載しないという編集方針、採否の判断基準があるというお話を伺いました。同じようなコメントをするレビューワーが日本リウマチ学会にもいました。当時投稿した内容は、先行する研究はあまりなく、海外で知られている状況が国内でも見られたというような報告でした。よく知られている所見であっても、定量的に詳細に記述したなどで科学的な価値がある場合もあろうかと思うのですが。

さて、その基準でいけば今年8月にJAMA oncology に掲載されました私の論文も、上記の様な基準をとっている国内の雑誌では不採択になりそうです。この論文で報告したのは、2系統の薬剤を同一患者に使用(時間的には同時でなくても)した際に、間質性肺炎が起きやすいという臨床的な所見でした。この所見は、国内の当該領域の先生方の間ではよく知られた所見でした。また、学会等でも注意して慎重に薬を使用するように呼び掛けているところでした。ただし、当時PubMedで調べた範囲では、集計して統計的な処理をして論述したものは、ありませんでした。

米国の学会は「初」の主張に慎重

海外の雑誌の投稿規定を見ていて、はたと気づいたことがあります。時々次のような記載があります。

Undocumented claims (eg, “firstedness,” “safe and effective”)

Please do not claim that yours is the first report. If such a claim is deemed necessary, authors should explain their reasoning in the cover letter and provide a detailed Appendix describing how they came to this conclusion. Describe search strategies, search terms, databases queried, and how far back these were checked. Also list textbooks and monographs that were searched to substantiate the claim. Similarly, the phrase “safe and effective” should be reserved for FDA-approved product labeling based on registered phase III trials. In other settings, the term should be avoided entirely. As an alternative, an example of acceptable terminology would be, “Our patients demonstrated positive responses and the treatment was well tolerated.”

“firstedness”を主張しないこと!Please do not claim that yours is the first report.

それが必要な場合は、【○○を調べたが同じ所見は記述されていなかった。】の書き方をすること。調べた範囲を明記して、「その範囲では報告がない」という事で、「世界初」を主張しているものに近い意味を持ちます。調べた範囲の外で、仮に先に報告があったとしても、嘘にはならない、という効果が得られそうです。

上記の記述を見ていると、安全性有効性の記述もお勧めの方法が書かれています。「この治療は安全で有効だ」と主張するのではなく「我々の患者で調べたところ、治療には耐えられて、反応も良かった」と。「有効で安全だ」という記載は、GCP治験でPIIIをやったものだけが主張できるとしています。これをわざわざ投稿規定に書きたい気持ちはよくわかります。いい加減な研究でこれを主張したら、何を信じていいか解らないくらい混乱を生じます。

つまり

こういう差を見てますと、日本の雑誌の方針はレビューワーがあまり丁寧に内容を吟味することのない、思考停止状態でもrejectの作業ができるような単純な方針を打ち出して、効率的に投稿原稿をさばくことに腐心している様に思えました。お忙しい中、レビューするのですからやむを得ず設定している基準なのかもしれません。

また、海外でもfirstednessを主張する科学者が少なくないからこそ、それを安易に主張するなという注意書きを投稿規定に入れる雑誌があるのでしょう。

厚生労働省の調査会で私の論文が使用されました

スタチンとフィブラートの併用原則禁忌解除へ

スタチンとフィブラートの併用は現在「原則禁忌」です。「原則禁忌」という言葉が禁忌かどうかよくわからない、あいまいなメッセージになりかねないという事で、添付文書の記載要領が変わり2019年をターゲットに「禁忌」あるいは「慎重投与」と言った別のメッセージに置き換える作業が進んでいます。そうした流れに加え、日本動脈硬化学会がこの2種類の系統の薬剤を併用することにはメリットがあり、一律にこの2種類の系統の薬剤を併用しないように制限するのを解除してほしいという趣旨の要望書を厚生労働省へ出していました。原則禁忌との判断に至ったきっかけとなった論文では、セリバスタチン(←市場からは撤退)とゲムフィブロジルを併用するで横紋筋融解症を発現するリスクが高まるとされていました。その後の解析によると、両薬剤を併用することで薬物動態が変化し、スタチンへ過剰に曝露してしまい、横紋筋融解のリスクが上昇したとされています。私が以前、横紋筋融解を解析した時にこの2種類の薬剤を併用することで転帰が死亡になるリスクが高まる訳ではない、とは思ってました。

この問題についての審議が2018年9月25日(火)に田中田村町ビル会議室で開催されました。その平成30年度第8回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の資料に、私の論文が紹介されていました。

紹介されたのは「取扱注意」の資料1-2の中で、PMDAがまとめた資料です。

この様な集計を論文としてまとめているのは、私の論文の1報だったという。他に同じような観点で集計した論文はないという事のようです!この腎障害患者を取り上げた部分集団についての解析はオリジナルの投稿時にはなく、投稿した際にレビューワーからの指示で、しぶしぶ、嫌々ながらやった部分です。嫌々ながらやった部分ではありますが、書かれているデータに間違いはないと思います。

規制当局は一旦設定した注意喚起を緩めたために、そのリスクの被害にあう人が出ることはぜひ避けたいと考えている様で、リスクについての注意喚起を解除することには一般に大変慎重です。そんな中、治療上のベネフィットを享受できるであろうヒトのために汗を流した方々の努力に拍手です。その過程でこの集計が何かの役に立ったのなら嬉しいところです。

ちなみにこの論文、Internal Medicine誌と言うインパクトファクター1.0弱という、低インパクトジャーナルに掲載されながら、被引用回数42と言うそのジャーナルの中ではナカナカの人気の記事です。(タダでダウンロードできるので、検索で引っかかったものの中でとりあえず気楽に読んで引用していると言うのかもしれませんが)

観察研究は臨床研究法の対象外

アップデートを別ページに掲載しました

臨床研究法

臨床研究法関連で気になる話題を書いてみました。

観察研究は臨床研究法の対象外

このホームページのobservation islandの名前の通り「観察研究」が興味の対象です。私個人は、自分自身でデータを生成できるようなフィールドを持っていないので、他の方々が生成したデータを二次利用する観察研究しか考えていません。ですので、観察研究がどう縛られるかが私の興味の対象です。という訳で、適応除外になっていることが確認できましたので十分です。これまで通りで、法に基づいた新たな手順は発生しませぬ。あとは、気の向くまま認(したた)めました…

 


当初記事を書いた「臨床研究法の概要」の部分はリンク切れになってしまいました。いたちごっこのようにどんどん変わるので上でリンク切れの場合は,代わりのリンクで-

臨床研究法適応除外.PNG

現場の先生方は困っている

職責上知ったことを具体的に書くのは難しいのですが、上記の適用除外範囲があることを知った先生方が、何とか除外範囲に持ってこれないかという観点で模索しているようです。それも様々なアプローチがあって、明らかに脱法的なアプローチであって、その本当のねらいも研究とは別のところにあるのではないのか?というようなものもあります。一方、普通に診療していて、診療上は必ずしも必須ではないけど採血程度の軽微な侵襲の検査してみたい、というような検査項目を追加するような場合にIRB通すための手続きや同意取得が煩雑になるというのを恐れているような向きもあります。(後者は観察研究的に扱うような判断ができるようですが、個別の判断は必要でしょう)

・ A薬を使用した患者のデータを収集する観察研究と、同じくB薬を使用した観察研究を並行して実施する。この2薬の治療対象疾患は同一で、患者をA薬あるいはB薬どちらで治療するかは、院内の決め事として(研究の外で)コインを投げて表か裏かで決める。

→ 合わせて評価するのなら、ランダム化比較試験(法規制の対象)になるような

・ 上のスライド2番目の囲みの、「治験」の次の項、いわゆるGPSPの枠組みで実施する。

→ GPSPだと事前に役人が見ることになるので、いい加減な提案は時間の無駄なんですけど

役所へも問い合わせが絶えないのでしょうか、Q&Aが多く発出されています。


  • 次の明らかにダメなやつを聞くようなQとか臨床研究に関わる基礎的な一般知識が明らかに不足している人がQを出しています。臨床研究をしたい側の関係者であれば、厚生労働省の役人にそんなこと聞かずに、自分で教科書でも読んでお勉強していただきたいやつです。答えもそっけないです。
問2-7 患者のために最も適切な医療を提供した後にその治療法を比較するのではなく、 あらかじめ研究のために医薬品の投与等の有無、頻度又は用量などを割り付けし て治療法を比較する研究は、いわゆる「観察研究」に該当するか。

(答) 該当しない(法の対象となる臨床研究に該当する。)。


  • 次のヤツとかは、聞いている観点が微妙ですね。工学部教授の医師だとして診療にかかるのか。

問53 工学部で開発した未認証の医療機器を用いて法に規定する臨床研究を実施する場 合、例えば、当該工学部の教授が研究責任医師となることができるか。

(答)法における臨床研究は、医行為を伴うことを前提としており、また、対象者の安全 性の確保の観点から、通常の診療の基盤の上に成立するものである。このため、臨床 研究に係る業務を統括する医師又は歯科医師を「研究責任医師」として配置すること とし、規則等により、その責務や業務内容等を明確化したところである。このような 経緯等を踏まえると、法の対象となる臨床研究においては、医師又は歯科医師を研究 責任医師として配置し、一定の責務等を担っていただく必要がある。

他方で、研究責任医師以外に臨床研究を総括する者を配置することは制限されるも のではないため、そのような総括する者を配置する場合には、実施計画の様式(規則 様式第一)の1(3)「研究代表医師・研究責任医師以外の研究を総括する者」の項目 に当該者の情報を記載し、総括する者として明確化されたい。


  • 私としては、次が一番面白かったです。

 

 

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